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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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第50話 あの日の真実

「レオンは、ゼノアに取り込まれた」


 その言葉のあと。


 部屋から。


 音が消えた。


「……」


 シルヴァは。


 何も言わない。


 聞こえなかったわけじゃない。


 意味が。


 分からなかったわけでもない。


 ただ。


 頭の中で。


 言葉だけが。


 何度も繰り返されていた。


 取り込まれた。


 レオンが。


 ゼノアに。


「……どういう」


 ようやく。


 声が出る。


「意味?」


 ミルスは。


 シルヴァから目を逸らさなかった。


「そのままよ」


「あなたを逃がしたあと」


「レオンは」


「ゼノアに敗れた」


 一拍。


「そして」


「奴の中へ取り込まれた」


 シルヴァの指が。


 ゆっくり。


 握られる。


「……食われたってこと?」


「少し違う」


 ミルス。


「肉体だけを」


「喰われたわけじゃない」


「身体も」


「オーラも」


「恩寵も」


「存在そのものを」


「ゼノアの中へ呑み込まれた」


 ティナの顔が。


 強張る。


「光の恩寵まで……?」


「ええ」


 ミルスが。


 静かに答えた。


「少なくとも」


「あの時は」


 ◇


 二年前。


 魔大陸ノクティス。


 崩れた黒い大地。


 空には。


 巨大な亀裂のような雲。


 地上。


 無数の斬撃跡。


 炎。


 雷。


 光。


 すでに。


 戦場と呼べる形すら。


 残っていなかった。


 その中心。


 ゼノア。


 そして。


 その前に立つ。


 レオン。


『シルヴァ!!』


 白金の光。


 少年の身体を。


 包み込む。


『レオン!』


 シルヴァが。


 手を伸ばす。


 でも。


 届かない。


『待って!』


『レオン!!』


 レオンは。


 振り返らなかった。


 ただ。


 片手だけを。


 軽く上げた。


 まるで。


 いつもの旅の途中。


『先行ってろ』


 そう言う時みたいに。


 そして。


 シルヴァが。


 光の中へ。


 消えた。


 ◇


「……」


 現在。


 シルヴァの目が。


 僅かに揺れる。


「そのあと」


 ミルスが続ける。


「レオンは」


「もう一度」


「ゼノアへ向かった」


 ◇


『……』


 ミルスは。


 地面に膝をついていた。


 左腕。


 動かない。


 オーラも。


 ほとんど残っていない。


 少し離れた場所。


 ディーン。


 剣を杖代わりに。


 かろうじて立っている。


 身体には。


 いくつもの傷。


『……シルヴァは』


 ディーンが。


 息を切らしながら。


 呟く。


『消えた』


 ミルス。


『レオンが飛ばした』


『どこへ』


『分からない』


『生きてるのか』


『分からない』


 ディーンが。


 奥歯を噛む。


 そして。


 二人。


 前を見る。


 レオン。


 一人。


 ゼノアの前。


『あの馬鹿……』


 ディーンが。


 立ち上がろうとする。


 ミルス。


『待って』


『待てるか』


『今行っても死ぬ』


『じゃあ見てろって?』


『違う』


 ミルスも。


 立とうとする。


 足が震える。


『動けるようにする』


『数秒でいい』


『無茶すんな』


『今さらでしょう』


 手。


 術式。


 残ったオーラを。


 無理やり。


 組み上げる。


 一方。


 レオン。


 剣を構える。


 金色の髪。


 血で汚れている。


 左肩。


 深い傷。


 呼吸も荒い。


 なのに。


 ゼノアへ。


 笑った。


『……しつこいな』


 ゼノアの声。


 低い。


 冷たい。


『貴様は』


『何度立つ』


 レオンが。


 剣を肩へ乗せる。


『倒れるの苦手なんだよ』


『……』


『昔から』


『寝起きも悪いし』


 ゼノアの目が。


 僅かに細くなる。


『くだらぬ』


『よく言われる』


 白金の光。


 レオンの身体を包む。


 だが。


 弱い。


 明らかに。


 限界。


 ゼノア。


 片手を上げる。


 黒い力。


 空間そのものが。


 沈む。


『レオン!!』


 ディーンの声。


 レオンが。


 一瞬。


 後ろを見る。


 ミルス。


 ディーン。


 二人。


 そして。


 シルヴァが。


 さっきまでいた場所。


 誰もいない。


 それを見て。


 少しだけ。


 安心したように。


 笑った。


『あとは頼む』


 ディーン。


『ふざけんな!!』


 レオン。


『聞こえない』


『聞こえてんだろ!!』


『じゃ』


 一拍。


『またな』


 そして。


 踏み込んだ。


 ◇


 白金。


 黒。


 二つの光が。


 正面から衝突する。


 大地が。


 砕ける。


 レオンの剣が。


 ゼノアの胸元へ。


 迫る。


 だが。


 止まる。


『……っ』


 剣先。


 あと。


 僅か。


 黒い力が。


 レオンの腕へ。


 巻きついていた。


 一本。


 二本。


 無数。


『終わりだ』


 ゼノア。


 黒い力が。


 レオンの全身へ。


 絡む。


 レオンが。


 剣を振る。


 白金の光が。


 何本も。


 黒を切る。


 だが。


 切っても。


 切っても。


 増える。


『レオン!』


 ミルスが。


 術式を放つ。


 紫の光。


 ゼノアへ。


 だが。


 黒い壁。


 届かない。


 ディーン。


 雷。


『どけえええ!!』


 雷撃。


 黒へ。


 爆発。


 だが。


 その向こう。


 レオンの身体が。


 少しずつ。


 黒に沈んでいく。


『……』


 レオンは。


 最後まで。


 暴れていた。


 腕。


 剣。


 光。


 脚。


 何度も。


 抜けようとする。


 それでも。


 ゼノアの力は。


 桁が違った。


 胸。


 肩。


 首。


 そして。


 顔。


 最後。


 レオンの片目だけが。


 黒の外に残る。


 ミルスと。


 目が合う。


『……』


 何か。


 言った。


 でも。


 聞こえなかった。


 そして。


 レオンは。


 完全に。


 消えた。


 ゼノアの中へ。


 ◇


「……」


 シルヴァは。


 俯いていた。


 ティナも。


 何も言えない。


 クジャは。


 静かに。


 シルヴァを見る。


「その時」


 ミルスが続ける。


「私は」


「レオンが死んだと思った」


 シルヴァが。


 ゆっくり顔を上げる。


「……思った?」


「ええ」


「取り込まれた人間が」


「その中で生きていられるなんて」


「普通は考えない」


「オーラも」


「肉体も」


「魂すら」


「ゼノアの力へ溶かされる」


「だから」


「終わったと思った」


「……」


 シルヴァ。


「ディーンは?」


「生きてた」


「私も」


「でも」


「戦える状態じゃなかった」


 ◇


 二年前。


 レオンを取り込んだ。


 ゼノア。


 黒い力が。


 さらに膨れ上がる。


 ミルスの顔から。


 血の気が引いた。


『……まずい』


 ディーン。


『何が』


『光まで』


『取り込んだ』


 ゼノアの身体。


 胸部。


 白金の光。


 一瞬。


 浮かぶ。


 でも。


 すぐに。


 黒へ沈む。


 ゼノアが。


 ゆっくり。


 自分の手を見る。


『……これが』


 一拍。


『神の残滓か』


 声に。


 ほんの少し。


 愉悦。


 ディーンが。


 剣を握る。


『まだ』


 ミルス。


『無理』


『離せ』


『今行ったら本当に死ぬ!』


『もう全員死んでんだろ!!』


 ディーンの声が。


 戦場へ響く。


 ミルスが。


 言葉を失う。


 ディーン。


『レオンも』


『シルヴァも』


『……』


『こんなんで』


『逃げろってか』


 ミルスは。


 数秒。


 黙った。


 そして。


 ディーンの胸元を。


 掴む。


『逃げる』


『……』


『生きる』


『今は』


『それしかない』


『ミルス』


『レオンが』


『あとは頼むって言った』


『だから』


 一拍。


『生きる』


 ディーンの顔が。


 歪む。


『……くそ』


 その時。


 ゼノアが。


 二人を見る。


 ただ。


 視線を向けただけ。


 空気が。


 凍る。


『逃げるぞ』


 ディーン。


『ええ』


 二人が。


 動こうとした。


 その瞬間だった。


 どくん。


 ゼノアの身体が。


 大きく。


 揺れた。


『……?』


 ミルスが。


 止まる。


 ゼノアも。


 止まる。


 胸。


 白金。


 一瞬。


『……』


 ゼノアの表情が。


 初めて。


 明確に歪んだ。


『何をした』


 誰に言ったのか。


 分からなかった。


 でも。


 ミルスには。


 聞こえた。


 ゼノアの中。


 何かが。


 暴れている。


 ◇


「……レオン?」


 現在。


 シルヴァが。


 小さく呟く。


 ミルス。


「ええ」


「後からなら」


「そうだったと分かる」


「でも」


「あの時の私は」


「確信できなかった」


 ティナ。


「取り込まれたあとも」


「レオンは……」


「生きていた?」


 ミルス。


「少なくとも」


「意識は残っていた」


「どれくらいの時間かは」


「分からない」


「数秒だったか」


「もっと長かったのか」


「ゼノアの中では」


「私たちと同じように」


「時間が流れていたのか」


「それすら」


「分からない」


 シルヴァ。


「でも」


「何かした」


「ええ」


「何を?」


 ミルスは。


 少しだけ。


 間を置いた。


「それを話すには」


「まず」


「光の恩寵について」


「話さないといけない」


 ティナの身体が。


 ほんの僅かに。


 反応する。


 本人も。


 気づかないほど。


 小さく。


 胸の奥が。


 熱を持つ。


 シルヴァ。


「光?」


「レオンの?」


「そう」


 ミルスが。


 頷く。


「私たちは」


「ずっと」


「レオンの光を」


「強化や攻撃」


「防御に使う力だと思ってた」


「本人も」


「そう思ってたはず」


 シルヴァ。


「違った?」


「違った」


 一拍。


「もっと正確に言えば」


「それは」


「光ができることの」


「表面だった」


 クジャ。


「本当の力?」


「ええ」


 ミルスのピンクの瞳が。


 静かに細くなる。


「レオンは」


「ゼノアの中へ取り込まれて」


「初めて」


「その本質へ触れた」


 シルヴァ。


「……本質」


「そう」


「光の恩寵が」


「本当にできること」


 ミルスは。


 テーブルの上。


 二つ並んでいた。


 焼き菓子を。


 指先で。


 少し離した。


「一つのものを」


「分ける」


「繋がっているものを」


「切り離す」


「混ざったものを」


「別々にする」


 ティナの瞳が。


 僅かに見開かれる。


 ミルス。


「レオンが」


「最後に見つけた」


「光の本質」


 一拍。


「《分離》」


 シルヴァは。


 その言葉を。


 静かに聞いた。


「……それで」


 ミルス。


「ええ」


「レオンは」


「ゼノアの中で」


「それを使った」


 シルヴァの身体が。


 前へ出る。


「何を」


「分けた?」


 ミルスは。


 すぐには答えない。


 右手。


 拳を作る。


「当時のゼノアには」


「一つの」


「巨大な魔王核があった」


「奴の力」


「存在」


「再生」


「すべての中心」


 拳が。


 ゆっくり。


 開かれる。


 五本の指。


 そして。


 もう片方の手。


 一つ。


「レオンは」


「それを」


 一拍。


「六つに分けた」


 シルヴァの目が。


 大きく開かれた。


 ティナも。


 クジャも。


 息を止める。


 ミルスの声だけが。


 静かな部屋へ。


 落ちる。


「魔王ゼノアの核は」


「あの日」


「一つではなくなった」


 窓の外。


 創都リメア。


 夜の灯り。


 その遥か向こう。


 魔大陸の闇。


 ミルスは。


 続けた。


「そして」


「その六つのうち」


 一拍。


 自分の胸へ。


 手を置く。


「一つが、私の中にある」

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