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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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48/82

第48話 ミルス

 扉を。


 ゆっくり開く。


 その向こうには。


 想像していたよりも。


 ずっと普通の部屋があった。


 高い天井。


 壁一面に並ぶ本棚。


 積み上げられた資料。


 机の上には。


 開きっぱなしの本と。


 用途の分からない器具。


 透明な容器の中で。


 淡い光を放つ小さな結晶。


 窓際には。


 飲みかけのカップ。


「……」


 シルヴァは。


 入口で止まった。


 創都リメア。


 あれだけ巨大な街を。


 ほとんど一人で作ったという。


 今や。


 人間とは比較にならない力を持つ存在。


 だから。


 もっと。


 違うものを想像していた。


 巨大な玉座。


 暗い部屋。


 魔王らしい何か。


 でも。


 ここは。


 どちらかと言えば。


 研究室。


 昔。


 旅の途中でミルスが借りていた部屋と。


 どこか。


 似ている。


 そして。


 その一番奥。


 大きな窓の前に。


 一人の女性が立っていた。


「……」


 後ろ姿。


 細身。


 長い髪。


 黒と濃紫を基調とした。


 落ち着いた魔導士服。


 肩。


 立ち方。


 何気なく。


 片手で本を持つ癖。


 シルヴァの目が。


 少しずつ。


 見開かれる。


 でも。


 一つだけ。


 記憶と。


 決定的に違う。


「……ピンク?」


 思わず。


 口から出た。


 ティナが。


「そこ!?」


 小声で突っ込む。


 女性が。


 ゆっくり。


 振り返った。


 長い髪が揺れる。


 鮮やかすぎない。


 少し青みを帯びた。


 ローズピンク。


 そして。


 その瞳も。


 同じ色。


 ピンク。


 シルヴァの知っている。


 暗い髪。


 落ち着いた瞳。


 その面影は。


 確かにある。


 でも。


 明らかに。


 違う。


「……」


 シルヴァは。


 何も言えなくなった。


 女性も。


 シルヴァを見ている。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 そして。


 その口元が。


 ほんの少し。


 緩んだ。


「久しぶり」


 一拍。


「シルヴァ」


 声。


 話し方。


 目を細める癖。


 全部。


 知っている。


「……」


 シルヴァの喉が。


 僅かに動く。


「ミルス……?」


「誰に見えるのよ」


「いや」


「ミルスなんだけど」


「うん」


「……髪」


「そこからなの?」


「だって」


 シルヴァが。


 一歩。


 部屋へ入る。


「髪ピンクだし」


「目もピンクだし」


「二年前と全然違う」


 ミルスが。


 自分の髪を一房。


 指ですくう。


「ああ」


「これ?」


「これ?じゃないよ」


「何があったの?」


「色々」


「雑!」


 ミルスが。


 少し笑った。


「魔王核の影響よ」


 シルヴァの表情が。


 一瞬だけ変わる。


「……魔王核」


「ええ」


 ミルスは。


 軽く髪を離す。


「身体へ馴染むにつれて」


「少しずつ変わったの」


「髪も」


「目も」


 シルヴァは。


 じっと見る。


「痛くない?」


「色が変わるだけで痛かったら困るでしょう」


「じゃあ大丈夫?」


「今のところはね」


「そっか」


 その答えを聞いて。


 シルヴァの肩から。


 少しだけ。


 力が抜けた。


 そして。


 改めて。


 ミルスを見る。


 外見は変わった。


 でも。


 間違いなく。


 そこにいる。


 生きている。


「……本当に」


 声が。


 少しだけ。


 掠れた。


「生きてたんだ」


 ミルスの表情から。


 からかうような笑みが消える。


「ええ」


「……」


「生きてるわ」


 シルヴァが。


 また一歩。


 近づく。


 でも。


 そこで。


 止まった。


 何をすればいいのか。


 分からない。


 抱きつくのか。


 笑うのか。


 怒るのか。


 聞きたいことなら。


 何十個もある。


 なのに。


 顔を見た瞬間。


 全部。


 どこかへ飛んだ。


「俺」


「もっと」


「色々言うつもりだった」


「でしょうね」


「二年間」


「ずっと」


「もし生きてたらって」


「考えたこともあって」


「うん」


「でも」


 シルヴァが。


 困ったように。


 少し笑う。


「何も出てこない」


 ミルスは。


 しばらく。


 そんなシルヴァを見た。


 そして。


 静かに言った。


「それでいいんじゃない?」


「いいの?」


「顔を見れば」


「だいたい分かるもの」


「何が?」


「嬉しいんでしょう」


「……」


 シルヴァが。


 目を逸らす。


「まあ」


「うん」


「……かなり」


 ミルスが。


 笑った。


「私もよ」


 シルヴァが。


 顔を上げる。


「え?」


「私も」


 一拍。


「あなたが生きてて」


「かなり嬉しい」


「……」


 二年前。


 最後の戦場。


 突然。


 光に呑まれて。


 シルヴァが消えた。


 その先を。


 ミルスも知らなかった。


「レオンが」


「あなたを逃がしたところまでは分かった」


「でも」


「どこへ飛ばされたのか」


「生きているのか」


「私には確認できなかった」


「……」


「だから」


 ミルスのピンクの瞳が。


 少しだけ。


 柔らかくなる。


「死んだ可能性も」


「考えてた」


 シルヴァは。


 何も言わない。


「後になって」


「アステラに」


「白い髪の風使いがいるって話を聞いた」


「……俺?」


「多分ね」


「もっと早く分からなかったの?」


「二年前のあなた」


「ほとんど人前で風を使わなかったでしょう」


「あ」


「それに」


「大陸中に」


「白い髪の子供が一人しかいないわけじゃない」


「確かに」


 ティナが。


 後ろから。


 小さく言う。


「そこで納得するのね」


 シルヴァが。


 ようやく。


 後ろを振り返る。


「あ」


 ティナ。


「……何?」


「二人いた」


「今気づいたの!?」


「忘れてた」


「ひどい!」


 クジャ。


「感動の再会」


「邪魔しないであげた」


「クジャは優しい」


「ティナも黙ってたでしょ」


「私は……!」


 ティナが。


 言葉に詰まる。


 ミルスが。


 三人を見る。


「……」


 少し。


 不思議そうに。


 そして。


 シルヴァへ戻す。


「本当に」


「変わったわね」


 シルヴァ。


「やっぱり?」


「ええ」


「さっきギラルーンにも――」


「いえ」


 ミルスが。


 少し目を細める。


「見た目じゃなくて」


「そっち?」


「前のあなたなら」


「今みたいな顔」


「あまりしなかった」


「どんな顔?」


「楽しそうな顔」


「……」


 シルヴァ自身は。


 分かっていないらしい。


 ティナが。


「それは分かります」


「ティナ?」


 クジャ。


「前よりうるさい」


「クジャ?」


 ミルスが。


 小さく笑う。


「そうね」


「ずっとうるさくなった」


「待って」


「二年前よりうるさいって」


「成長なの?」


「褒めてるのよ」


「絶対褒めてない」


「褒めてる」


「顔が楽しそうだけど」


「気のせい」


 シルヴァが。


 少し不満そうにする。


 その姿を。


 ミルスは。


 もう一度。


 静かに見る。


 二年前。


 十四歳。


 檻から出たばかりで。


 何をするにも。


 まず周囲を窺っていた少年。


 誰かから何かを与えられるたび。


 受け取っていいのか。


 迷っていた少年。


 今は。


 普通に笑っている。


 普通に文句を言っている。


 そして。


 隣には。


 二人いる。


「……よかった」


 小さすぎて。


 シルヴァには。


 聞こえなかった。


 ◇


 ミルスの視線が。


 ティナへ向く。


「久しぶりね」


 ティナが。


 少しだけ。


 姿勢を正した。


「……はい」


「お久しぶりです」


「硬い」


「だって」


「二年前ぶりですし」


「私、そんなに怖かった?」


 ティナが。


 少し考える。


「最初は」


「正直」


「ちょっと」


「……」


 ミルス。


「どうして?」


「何でも分かってるみたいな顔してたので」


「失礼ね」


 シルヴァ。


「分かる」


「シルヴァまで?」


「昔」


『シルヴァ、今隠し事してるでしょう』


「って」


「すぐ言われた」


「実際してたでしょう」


「してた」


「じゃあ当たってるじゃない」


 ティナが。


 思わず笑う。


「全然変わってないですね」


「あなたも」


 ミルスが。


 ティナをじっと見る。


「……」


 ティナ。


「何ですか?」


「大きくなったわね」


「二年経ってますから」


「そういう意味じゃ――」


「どこ見て言いました?」


 ミルス。


「身長」


「今、絶対違いましたよね!?」


 シルヴァ。


「何の話?」


「あなたは知らなくていい!」


「なんで!?」


 クジャは。


 静かに。


 ミルスを見ている。


 その視線に。


 ミルスが気づいた。


「そして」


「あなたがクジャね」


「うん」


「クジャ・ローズ」


「初めまして」


「初めまして」


 ミルスが。


 穏やかに笑う。


「ギラルーンから」


「少し聞いてる」


「何を?」


「カードを使うこと」


「右眼のこと」


「小さいこと」


「最後いらない」


 シルヴァが吹き出す。


「ギラルーン言ったの?」


 扉の外。


「申し上げておりません」


 三人が。


 一斉に振り返る。


「いたの!?」


 ギラルーンが。


 扉の外から。


 普通に顔を出す。


「護衛でございますので」


「ずっと?」


「ええ」


 シルヴァ。


「怖」


「恐縮です」


「褒めてない」


「存じております」


 クジャが。


 自分の頭を指す。


「じゃあ」


「小さいのはミルス?」


「見れば分かるわ」


「ミルスも敵」


「初対面で?」


 ティナ。


「クジャ、そこは怒っていい」


「怒ってる」


「顔に出ない!」


 ◇


 だが。


 そんな会話の途中。


 クジャの表情が。


 僅かに変わった。


「……」


 右眼。


 眼帯の奥。


 ずき。


「クジャ?」


 ティナが。


 すぐ気づく。


「痛い?」


「少し」


 ミルスの目が。


 クジャの眼帯へ向く。


「私を見てから?」


「うん」


「……」


 ミルスの雰囲気が。


 少しだけ変わった。


「その眼」


「見せてもらってもいい?」


 ティナの顔から。


 笑みが消える。


「何か分かるんですか?」


「まだ分からない」


「だから見たいの」


 一拍。


「でも」


「嫌ならいいわ」


 クジャは。


 数秒。


 ミルスを見る。


「少しだけ」


 眼帯へ。


 指をかける。


「クジャ」


 シルヴァが。


 すぐ言う。


「痛くなったら閉じて」


「分かってる」


 眼帯を。


 僅かに持ち上げる。


 右眼。


 開く。


 ――瞬間。


「……っ!」


 視界が。


 変わった。


 ミルス。


 人間の身体。


 その内側。


 オーラ。


 複雑な。


 幾重にも折り重なった。


 術式のような流れ。


 そこまでは。


 まだ。


 理解できる。


 でも。


 さらに奥。


「……」


 クジャの右眼が。


 大きく開く。


 巨大な。


 異質な力。


 黒。


 赤。


 紫。


 そんな色では。


 表現しきれない。


 濃密な何かが。


 ミルスの身体の中心へ。


 深く。


 絡みついている。


 まるで。


 人間の身体の中に。


 巨大な心臓を。


 もう一つ。


 押し込んだような。


「……何」


 脈打つ。


 どくん。


 瞬間。


 右眼に。


 激痛。


「っ……!」


「クジャ!」


 ティナが。


 肩を支える。


 眼帯が。


 すぐに戻される。


「大丈夫?」


「うん」


「絶対大丈夫じゃない!」


「ちょっと痛い」


 シルヴァも。


 しゃがみ込んで。


 クジャを見る。


「見すぎた?」


「少し」


「何が見えた?」


 クジャは。


 ミルスを見る。


 今度は。


 左眼だけで。


「……大きい」


 ミルス。


「何が?」


「力」


 一拍。


「オーラと違う」


 クジャが。


 ミルスの胸元を。


 指差す。


「中に」


「すごく大きい何かがある」


「……」


「街で見た力も」


「多分」


「ここから出てる」


 部屋が。


 静かになる。


 シルヴァの目が。


 ミルスへ向く。


「それが」


「魔王核?」


 ミルスは。


 少しだけ驚いたように。


 クジャを見る。


 それから。


 頷く。


「ええ」


「少なくとも」


「あなたが見た大きな力は」


「そうだと思う」


 クジャ。


「魔王核」


「……」


 右眼の奥。


 また。


 あの。


 大きな黒い眼。


 暗い部屋。


 子供たち。


 一瞬。


 浮かぶ。


「クジャ?」


 ティナ。


「何でもない」


 クジャは。


 首を振る。


 ミルスは。


 その反応を見逃さなかった。


 しかし。


 今は。


 何も聞かなかった。


「眼についても」


「後で調べましょう」


 クジャ。


「分かる?」


「分からない」


「でも」


 一拍。


「分からないなら」


「調べればいい」


 クジャが。


 少しだけ。


 ミルスを見る。


「……うん」


 シルヴァが。


 横で。


 小さく笑う。


「ミルスっぽい」


「何が?」


「それ」


「分かんないなら調べるって」


「他にどうするのよ」


「そうなんだけど」


 ◇


 ミルスが。


 机の上に積んでいた資料を。


 端へ寄せる。


「とりあえず」


「座りましょう」


「話したいこと」


「山ほどあるでしょう」


「ある」


 シルヴァ。


 即答。


「いっぱい」


「でしょうね」


 ギラルーンが。


 部屋へ入り。


 四人分の椅子を用意する。


「お茶をお持ちいたしましょうか」


 ミルス。


「お願い」


「承知いたしました」


 シルヴァ。


「お菓子も」


 ティナ。


「シルヴァ!」


「何?」


「さっき食べたでしょ!」


「歩いた」


「一時間くらい!」


 ミルス。


「何かあるでしょう」


 ギラルーン。


「ございます」


 ティナ。


「甘やかさないでください!」


 シルヴァ。


「ミルスのところ来てまで怒られた」


 クジャ。


「いつも」


「そうだけど」


 数分後。


 テーブルには。


 茶。


 焼き菓子。


 小さな果物。


 シルヴァが。


 焼き菓子を一つ。


 早速取る。


 ミルスが。


 それを見る。


「食べる量」


「変わってないのね」


「成長期だから」


「二年前も言ってた」


「まだ成長期」


「便利ね」


 ティナ。


「私もそう思います」


「ティナどっちの味方?」


「食費を払う側」


「今払ってないじゃん」


「そういう話じゃない!」


 ミルスは。


 少し笑った。


「……本当に」


「仲良くなったのね」


 三人。


 少し。


 静かになる。


 シルヴァが。


 ティナを見る。


 クジャを見る。


「まあ」


「うん」


「多分」


 ティナ。


「そこは普通に認めなさいよ」


「仲良いよ」


「急に素直」


 クジャ。


「気持ち悪い」


「なんで!?」


 また。


 笑う。


 ミルスは。


 そのやり取りを見て。


 少しだけ。


 昔を思い出していた。


 レオン。


 ディーン。


 シルヴァ。


 そして。


 自分。


 旅の途中。


 食事。


 喧嘩。


 どうでもいい話。


 もう。


 戻らない時間。


 でも。


 シルヴァには。


 新しい時間が。


 ちゃんと。


 続いている。


「……」


 それを見られただけでも。


 呼んだ意味は。


 あったのかもしれない。


 ◇


「それで」


 ミルスが。


 茶へ口をつける。


「あなた」


「二年間どうしてたの?」


「俺?」


「そう」


「私」


「ほとんど知らないのよ」


「ギラルーンから」


「最近のことは聞いてるけど」


「全部じゃない」


 シルヴァは。


 少し考える。


「最初」


「キャラバンに拾われた」


「キャラバン?」


「うん」


「ロイドたち」


「俺」


「飛ばされたあと」


「何日か歩いて」


「途中で倒れたみたいで」


「気づいたら」


「馬車の中だった」


 ミルスの目が。


 僅かに細くなる。


「怪我は?」


「結構ひどかったらしい」


「らしい?」


「覚えてない」


「……」


「起きたら」


「ドランに怒られた」


「なぜ?」


「起きてすぐ外出ようとしたから」


 ティナ。


「今と同じ」


「そこまで同じ?」


「同じ」


 クジャ。


「同じ」


「二対一」


 ミルスが。


 小さく笑う。


「それから?」


「二年」


「一緒に旅した」


「護衛したり」


「荷物運んだり」


「ミアとルカの相手したり」


「飯作ったり」


 ティナ。


「作れたの?」


「焼くくらい」


「それ料理って言う?」


「食べれた」


「基準低い!」


 ミルス。


「少しは覚えた?」


「何を?」


「料理」


「肉は黒くなる前に止める」


「……成長したわね」


「ほんと?」


「最低限」


「褒められた」


「多分違う」


 クジャ。


 それから。


 シルヴァは。


 話した。


 東方まで来たこと。


 ティナと再会したこと。


 ガルゼムと戦ったこと。


 王都へ向かったこと。


 クジャと出会ったこと。


 ディーンに再会したこと。


 王都で戦ったこと。


 アルセリアへ戻ったこと。


 父に会ったこと。


 母の墓へ行ったこと。


 ガルドと話したこと。


 ヴァイラを倒したこと。


 そして。


 ミルスが生きているかもしれないと知って。


 ここまで来たこと。


 ミルスは。


 ほとんど。


 途中で口を挟まなかった。


 ただ。


 聞いていた。


「……それで」


 シルヴァ。


「ネレイスで」


「ギラルーンが出てきた」


「迎えに参りました」


 扉の外。


 ギラルーン。


 シルヴァ。


「分かってる」


「念のため」


「出てこなくていいよ!」


 ミルスが笑う。


「大体分かった」


「……どう?」


「どうって?」


「俺の二年」


「採点するの?」


「しないわよ」


 ミルスは。


 少し考えて。


「よく生きたわね」


「……」


 シルヴァの笑みが。


 少しだけ。


 止まる。


「それだけ?」


「それ以上」


「何が必要?」


「……」


「あなたが」


「二年前のままじゃなくて」


「ちゃんと二年分」


「生きてここに来た」


 一拍。


「それで十分」


 シルヴァは。


 少しだけ。


 目を伏せる。


「そっか」


「うん」


 そして。


 また。


 焼き菓子を一つ取った。


 ティナ。


「今いい雰囲気だったのに!」


「お腹空いた」


「壊さないで!」


 ミルス。


「それも含めて成長でしょう」


「絶対違います!」


 ◇


 窓の外。


 リメアの空が。


 少しずつ。


 夕暮れに染まっていく。


 人工の灯りが。


 一つ。


 また一つ。


 街へ灯り始める。


 会話が。


 一度。


 途切れた。


 シルヴァが。


 カップを置く。


「……ミルス」


「うん」


 声が。


 さっきまでと。


 少し違う。


 ミルスにも。


 すぐ分かった。


「俺」


「聞きたいことがある」


「知ってる」


「二年前のこと」


 ティナも。


 クジャも。


 静かになる。


「レオンが」


「俺を飛ばしたあと」


「何があったのか」


「レオンは」


「最後に何をしたのか」


「……」


「それから」


 シルヴァが。


 ミルスを見る。


 ピンクの髪。


 ピンクの瞳。


 その中に。


 今も残る。


 昔の仲間の顔。


「お前が」


「どうしてこうなったのか」


 ミルスは。


 静かに頷いた。


「全部」


「話すわ」


「……うん」


「でも」


 シルヴァが。


 続ける。


「その前に」


「もう一個」


 ミルス。


「何?」


 シルヴァの目が。


 鋭くなる。


「王都で」


 一拍。


「俺と戦った奴」


 ティナの表情も。


 変わる。


 クジャも。


 ミルスを見る。


「俺と同じ顔して」


「俺と同じ剣使って」


「俺の動きを」


「全部知ってた」


「……」


 ミルスは。


 否定しない。


 シルヴァ。


「あいつを作ったの」


「お前だろ」


 一拍。


「ええ」


 即答。


 シルヴァの眉が。


 寄る。


「……やっぱり」


「うん」


「何のために」


 ミルスは。


 答えない。


 数秒。


 シルヴァを見る。


 二年前とは。


 違うシルヴァを。


 ティナと。


 クジャと。


 ここまで来た。


 今のシルヴァを。


 そして。


 ほんの少し。


 口元を緩めた。


「……届かなかった?」


 シルヴァ。


「……は?」


 ティナ。


「え?」


 クジャ。


「何が?」


 ミルスだけが。


 静かに。


 笑っていた。


 創都リメアの灯りが。


 窓の向こうで。


 夜へ溶け始めていた。

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