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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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47/79

第47話 創都リメア

 眼下。


 巨大な都市が広がっていた。


 荒れ果てた山岳地帯の中に。


 まるで。


 最初からそこだけ。


 別の世界だったかのように。


「……」


 シルヴァは。


 しばらく。


 何も言えなかった。


 街。


 という言葉では。


 少し足りない。


 山の谷間を丸ごと使って。


 何層にも建物が並んでいる。


 高い塔。


 黒と白を基調とした石造りの建物。


 細い水路。


 そこを流れる透明な水。


 橋。


 広場。


 階段。


 遠くでは。


 巨大な歯車のようなものが。


 ゆっくり回っている。


 建物の間には。


 淡い青白い灯り。


 空には。


 鳥のようなものまで飛んでいた。


「……これ」


 ティナが。


 ようやく声を出す。


「本当に」


「ノクティス?」


「はい」


 ギラルーンが答えた。


「間違いなく」


「魔大陸ノクティスでございます」


 シルヴァが。


 街を見る。


「でも」


「さっきまで何もなかった」


「そのように見えるよう」


「作られておりますので」


「全部」


 クジャが。


 小さく呟く。


「隠してる」


「ええ」


 ギラルーン。


「外部からは」


「この場所一帯が」


「ただの岩山と荒野にしか見えません」


「視覚」


「気配」


「オーラ」


「移動経路」


「可能な限り」


「誤認させるよう構築されております」


 ティナ。


「可能な限り?」


「完全ではございません」


 ギラルーンが。


 クジャを見る。


「現に」


「見抜かれましたので」


 クジャは。


 少しだけ。


 右眼の眼帯へ触れる。


「全部は見えてない」


「膜みたいなのだけ」


「十分でございます」


 シルヴァ。


「普通の人なら?」


「辿り着くのは」


「ほぼ不可能でしょう」


「偶然ここまで来ても」


「同じ道を何度も歩かされる」


「気づけば」


「来た方向へ戻っている」


「……」


 ティナが。


 後ろを見る。


 さっきまで。


 自分たちが通ってきたはずの岩壁。


 もう。


 普通の景色にしか見えない。


「気持ち悪いわね……」


「ミルス様も」


「同じ感想をお持ちでした」


 シルヴァが振り返る。


「また?」


「はい」


「ご自身で作られた後」


『ちょっとやりすぎたかしら』


「と」


「言っておられました」


 シルヴァが。


 笑った。


「やっぱりミルスだ」


 その声には。


 さっきまでより。


 少しだけ。


 懐かしさが混じっていた。


 ◇


 四人は。


 山の上から。


 都市へ続く長い階段を降りていく。


 近づくほど。


 リメアの異様さが。


 よく分かった。


 最初にすれ違ったのは。


 二人の兵士。


 黒銀色の軽装鎧。


 槍。


 無表情。


 動きに。


 無駄がない。


 兵士は。


 ギラルーンを見ると。


 同時に立ち止まった。


「帰還を確認」


「来訪者三名」


「登録外個体」


 ティナの眉が。


 ぴくっと動く。


「登録外……?」


 ギラルーン。


「問題ございません」


「ミルス様のお客様です」


「確認」


 兵士たちは。


 三人を一度見る。


「通行許可」


「……」


 そのまま。


 二人。


 歩き去った。


 シルヴァが。


 後ろ姿を見る。


「なんか」


「変じゃない?」


「何が?」


 ティナ。


「喋り方」


 クジャ。


「動きも」


「二人同時」


 ギラルーンが。


 平然と答えた。


「あれは」


「ミルス様がお作りになった警備兵です」


 三人。


 止まる。


「……作った?」


 シルヴァ。


「はい」


「人を?」


「人間ではございません」


「見た目を人型へ寄せた」


「人工生命でございます」


「……」


 ティナが。


 もう一度。


 遠ざかる兵士を見る。


「生きてるの?」


「定義によります」


「難しい返ししないで」


「失礼」


 クジャが。


 少しだけ。


 興味深そうに見る。


「オーラない」


 ギラルーン。


「正確には」


「通常の生物と同じ形ではございません」


「内部に」


「ミルス様が構築した力の循環機構があります」


 クジャ。


「だから」


「変な流れ」


「見えるのか」


 シルヴァ。


「右眼使ってないのに?」


「少しなら」


「普通の目でも」


「違和感ある」


 ギラルーンが。


 わずかに笑う。


「やはり」


「よく見ておられますね」


 ティナ。


「だから」


「クジャの眼をじろじろ見ない」


「失礼いたしました」


 クジャ。


「ティナ」


「何?」


「保護者」


「違う!」


 シルヴァが。


 笑う。


「今のはちょっと――」


「シルヴァ」


「何も言ってません」


 ◇


 都市内部。


 三人は。


 歩けば歩くほど。


 妙な感覚に襲われていた。


 整っている。


 綺麗。


 安全そう。


 なのに。


 普通の街とは。


 何かが違う。


 市場らしい場所。


 品物が並んでいる。


 果物。


 乾燥肉。


 布。


 薬。


 しかし。


 店主らしき者のほとんどが。


 さっきの兵士と同じ。


 どこか。


 動きが整いすぎている。


「……人」


 ティナが。


 小声で聞く。


「どれくらいいるの?」


「本物の?」


「その言い方もどうなの……」


 ギラルーンは。


 少し考える。


「少数でございます」


「この都市は」


「避難民を集めた街ではありません」


「基本的には」


「ミルス様が」


「研究と生活」


「防衛」


「そして」


「自身の力を管理するために作られた場所です」


 シルヴァ。


「じゃあ」


「ここにいるの」


「ほとんどミルスが作った?」


「はい」


 三人。


 周囲を見る。


 建物。


 兵士。


 店。


 照明。


 動物。


 水路。


 街路樹。


「……」


 シルヴァ。


「これ全部?」


「ほぼ」


「……全部?」


「ほぼ」


「ほぼって」


「どのくらい?」


「説明が難しいですね」


 ギラルーンが。


 空を見る。


 そこを。


 一羽の青白い鳥が飛んでいる。


「あの鳥」


「人工生命です」


 次。


 街路樹。


「あちらの樹木」


「人工です」


 シルヴァ。


「木も?」


「はい」


 噴水。


「水の循環機構」


「人工」


 建物。


「人工」


 橋。


「人工」


 ティナ。


「……じゃあ」


「自然なの何?」


 ギラルーン。


「地面」


 三人。


「……」


「一部は」


「元からございます」


 シルヴァ。


「一部なんだ」


「一部です」


 クジャが。


 道端の小さな花を見る。


「これも?」


「それは」


 ギラルーンが。


 一度。


 足を止める。


「おそらく」


「自然ですね」


 クジャ。


「おそらく」


「ミルス様が」


「どこまで手を加えられたか」


「私もすべて把握しておりませんので」


 ティナが。


 額へ手を当てる。


「規模おかしくない?」


「ええ」


 ギラルーンは。


 あっさり頷いた。


「私もそう思います」


 シルヴァ。


「そこは否定しないんだ」


「する理由がございません」


 ◇


 広場。


 中央には。


 大きな水盤。


 淡い青い水。


 その周囲。


 人型の人工生命たちが。


 荷物を運んでいる。


 シルヴァは。


 一人の少女の姿をした人工生命を見る。


 年齢で言えば。


 十歳くらい。


 小さな籠を持っている。


「……」


 少女が。


 シルヴァを見る。


「こんにちは」


「え」


 シルヴァ。


「こんにちは」


 少女。


「来訪者?」


「うん」


「外から来た」


「外」


 少女は。


 少しだけ。


 首を傾げる。


「危険?」


「多分」


 ティナ。


「多分じゃないでしょ」


 少女は。


 何か考えるように。


 シルヴァを見る。


「ミルス様のお客様?」


「そうらしい」


「なら」


 少女が。


 小さく笑った。


「歓迎」


 そして。


 歩いていった。


 シルヴァが。


 その背中を見る。


「……笑うんだ」


「ええ」


 ギラルーン。


「単純な命令だけで動く個体もおりますが」


「生活区域の個体は」


「ある程度」


「自律判断を行います」


 ティナ。


「感情も?」


「感情に似た反応は」


「ございます」


「似た……」


 クジャが。


 少女を見る。


「本人は」


「自分が作られたって知ってる?」


 ギラルーンの顔から。


 ほんの少しだけ。


 笑みが消える。


「ええ」


「知っております」


 クジャ。


「嫌じゃないのかな」


「個体によります」


「……」


「ミルス様も」


「その問題については」


「よく考えておられます」


 シルヴァが。


 ギラルーンを見る。


「考える?」


「自分が作ったものを」


「どこまで」


「ただの道具として扱っていいのか」


 一拍。


「ということです」


 シルヴァは。


 少女の姿を見た。


 もう。


 人混みの向こう。


 見えなくなっている。


「……ミルスっぽい」


 ギラルーンが。


 僅かに笑う。


「私も」


「そう思います」


 ◇


「ところで」


 しばらく歩いて。


 シルヴァが。


 突然言った。


「お腹空いた」


 ティナ。


「このタイミングで?」


「飛行艇で何も食べてない」


「出る前に食べたでしょ」


「結構前」


 クジャ。


「私も」


「クジャまで……」


 ギラルーンが。


「でしたら」


「少し寄って参りましょう」


 シルヴァ。


「いいの?」


「到着の報告は」


「既に届いております」


「急ぐ必要はございません」


 ティナが。


 一瞬。


 ギラルーンを見る。


「ミルスは」


「待ってるんじゃないの?」


「待っておられます」


「じゃあ急いだ方が」


「ミルス様から」


『腹を空かせたまま連れてこないで』


「と」


「命じられております」


 シルヴァ。


「……」


 ティナ。


「……」


 クジャ。


「優しい」


 シルヴァが。


 少しだけ。


 下を向いた。


「そういうとこ」


「変わってないんだ」


 ◇


 案内されたのは。


 街の一角にある。


 小さな食堂だった。


 と言っても。


 店主も。


 料理人も。


 人工生命。


「何を召し上がりますか」


 店主が。


 平坦な声で聞く。


 シルヴァ。


「おすすめ」


「本日の煮込み」


「じゃあそれ」


 クジャ。


「同じ」


 ティナ。


「私も」


 数分後。


 三人の前。


 湯気の立つ皿。


 肉。


 野菜。


 香草。


 パン。


 シルヴァが。


 一口。


「……」


 ティナ。


「どう?」


「おいしい」


 クジャも。


 一口。


「おいしい」


 ティナ。


「本当に?」


 食べる。


「……普通においしい」


 シルヴァが。


 ギラルーンを見る。


「これもミルス?」


「基本となる調理法は」


「ミルス様が設定されました」


「料理まで?」


「元々」


「お得意でしたので」


 シルヴァの動きが。


 一瞬。


 止まる。


 昔。


 勇者一行。


 野営。


『シルヴァ、それまだ焼けてない』


『食べれるよ』


『腹壊しても治さないわよ』


『ミルス回復魔法使えないじゃん』


『だから言ってるの』


「……」


 ティナが。


 気づく。


「思い出した?」


「ちょっと」


「昔?」


「うん」


 シルヴァが。


 もう一口。


「ミルス」


「よくご飯作ってくれた」


 クジャ。


「お母さん?」


「本人に言ったら怒るよ」


「なんで」


「十八歳だったし」


 ティナ。


「今でも二十くらいでしょ」


 シルヴァ。


「そう考えると」


「すごいな」


「何が?」


「レオンとディーンと俺のご飯」


「作ってた」


 ティナ。


「確かに大変そう」


 クジャ。


「シルヴァいっぱい食べそう」


「食べる」


「自覚あるんだ」


 ギラルーンは。


 少し離れた席。


 静かに茶を飲んでいる。


 シルヴァが。


 ちらっと見る。


「ギラルーン」


「はい」


「ミルスとは」


「ずっと一緒?」


「おおよそ二年ほど」


 シルヴァのスプーンが。


 止まる。


「二年」


「はい」


「……俺より長いじゃん」


 ギラルーン。


「比較するところでしょうか」


「分かんない」


 クジャ。


「妬いてる?」


 シルヴァ。


「違うよ」


 ティナが。


 ぴくっと反応する。


 クジャが。


 そっちを見る。


「ティナ」


「何」


「今ちょっと安心した?」


「してない!」


 シルヴァ。


「何に?」


「シルヴァは食べてて!」


「なんで!?」


 ギラルーンが。


 静かに茶を飲む。


「賑やかでございますね」


「他人事みたいに言わないで!」


 ◇


 食事を終え。


 再び。


 都市中央へ向かう。


 近づくほど。


 中央塔の大きさが。


 異常に見えてくる。


 黒と白。


 二色の巨大な塔。


 表面には。


 複雑な線。


 幾何学模様。


 時折。


 紫色の光が。


 脈を打つように流れる。


 クジャが。


 足を止めた。


「……」


「クジャ?」


 シルヴァ。


「どうした?」


「この街」


「全部」


 一拍。


「つながってる」


 ギラルーンが。


 振り返る。


「お気づきになりましたか」


 ティナ。


「どういうこと?」


 クジャ。


「建物」


「水」


「灯り」


「兵士」


「鳥」


「全部」


 中央塔を見る。


「ここに」


「流れてる」


 ギラルーン。


「その通りでございます」


「リメアの大部分は」


「中央塔を介して」


「力を供給されております」


 シルヴァ。


「誰の?」


 ギラルーンは。


 答える。


「ミルス様です」


 ティナ。


「一人で?」


「はい」


 シルヴァが。


 都市を見る。


 改めて。


 広い。


 広すぎる。


「……大丈夫なの?」


「何がでしょう」


「こんなに」


「ずっと力使って」


「ミルス」


「疲れない?」


 ギラルーンは。


 数秒。


 シルヴァを見る。


「疲れます」


 シルヴァの顔が。


 少し変わる。


「やっぱり」


「ただ」


「現在のミルス様には」


「これを維持できるだけの力がございます」


「……」


「以前とは」


「比べものにならないほど」


 クジャの右眼。


 眼帯の奥。


 ずきん。


「……っ」


 今度は。


 少し強い。


「クジャ?」


 ティナが。


 すぐに気づく。


 クジャは。


 中央塔を見る。


「いる」


「何が?」


 クジャの手が。


 眼帯へ。


 伸びる。


「ミルス」


 ギラルーン。


「無理に開かれない方が」


「よろしいかと」


 クジャが。


 止まる。


「分かる?」


「その眼については」


「詳しく存じません」


「ですが」


「この距離で中央塔を見続けるのは」


「お勧めいたしません」


 シルヴァ。


「なんで?」


 ギラルーンの視線が。


 中央塔へ。


「ミルス様の中には」


「現在」


「非常に強い力がございます」


「クジャ様の眼が」


「それを見ようとしているのであれば」


「負担も大きいでしょう」


 ティナが。


 クジャの手を。


 眼帯から下ろす。


「開かなくていい」


「……うん」


 クジャは。


 素直に頷いた。


 それでも。


 感じる。


 塔の上。


 いや。


 もっと奥。


 人間とは違う。


 何か。


 巨大なもの。


 けれど。


 完全に知らない感覚でもない。


「……」


 胸の奥。


 嫌なざわつき。


 右眼。


 そして。


 また。


 一瞬だけ。


 黒い眼の記憶。


 クジャは。


 首を振った。


「大丈夫?」


 シルヴァ。


「うん」


「無理しないで」


「分かってる」


 ◇


 中央塔。


 入口。


 二体の人工兵が。


 同時に扉を開く。


 内部。


 高い天井。


 巨大な吹き抜け。


 壁沿いに。


 幾重もの階段。


 空中を。


 淡い紫色の光球が漂っている。


「……広」


 シルヴァの声が。


 反響する。


「ミルス」


「一人でここ使ってるの?」


「一人ではございません」


 ギラルーン。


「研究用の人工生命」


「管理個体」


「私」


「その他」


「必要な者がおります」


 ティナ。


「それでも広すぎる」


「私も」


「そう申し上げたことがございます」


 シルヴァ。


「ミルス何て?」


 ギラルーン。


『余ったから』


「と」


 三人。


「……」


 シルヴァ。


「力?」


「資材?」


「空間でしょうか」


「私にも」


「分かりませんでした」


 クジャ。


「やっぱり変な人」


 シルヴァ。


「変だけど」


「すごい人」


「知ってる」


 ティナが。


 少しだけ。


 シルヴァを見る。


 声が。


 楽しそうになっている。


 さっきまで。


 緊張していたのに。


 ミルスの話をするたび。


 十四歳の頃へ。


 少しだけ。


 戻っているみたいだった。


「こちらです」


 ギラルーンが。


 塔中央の。


 大きな円形の床へ乗る。


 三人も続く。


「何これ?」


 シルヴァ。


「昇降床です」


「しょうこう?」


「上へ参ります」


 次の瞬間。


 床が。


 音もなく浮いた。


「え」


 ティナ。


「ちょっ――」


 ぐん。


 三人の身体が。


 一瞬沈む。


「うわ!」


 シルヴァが。


 少し楽しそう。


「速い!」


「シルヴァ動かないで!」


「大丈夫だよ!」


「柵ないでしょ!」


 クジャ。


 下を見る。


「高い」


 ティナ。


「クジャも覗かない!」


「大丈夫」


「二人とも!」


 ギラルーンだけが。


 平然と立っている。


「賑やかで何よりです」


「だから他人事みたいに!」


 床は。


 何層もの階を通り過ぎる。


 研究室。


 人工生命の製造区画。


 武器。


 巨大な植物。


 一瞬しか見えない。


「今の何!?」


 シルヴァ。


「後ほど」


 ギラルーン。


「見せて」


「ミルス様の許可が出れば」


「ケチ」


「私の所有物ではございませんので」


 そして。


 最上層近く。


 昇降床が。


 静かに止まった。


 正面。


 長い廊下。


 人はいない。


 今までとは違い。


 妙に。


 静か。


 シルヴァの表情から。


 少しずつ。


 笑みが消える。


 歩く。


 一歩。


 一歩。


 足音。


 心臓。


 少し。


 速い。


 ティナも。


 何も言わない。


 クジャも。


 静か。


 ギラルーンが。


 廊下の一番奥。


 一枚の扉の前で。


 止まった。


「こちらです」


 シルヴァの足も。


 止まる。


 扉。


 その向こう。


 二年間。


 死んだと思っていた。


 仲間。


 ミルス。


「……」


 手が。


 少しだけ。


 握られる。


 ギラルーンが。


 扉へ手を伸ばす。


 だが。


 途中で止めた。


「シルヴァ様」


「何?」


「ご自身で」


「開けられますか」


「……」


 シルヴァは。


 扉を見る。


 そして。


 一歩。


 前へ。


「うん」


 取っ手へ。


 手を伸ばす。


 触れる。


 冷たい。


 ティナ。


 クジャ。


 二人が。


 後ろにいる。


 シルヴァは。


 一度だけ。


 息を吸った。


 そして。


 扉を。


 ゆっくり。


 開いた。

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