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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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45/81

第45話 迎え

 翌朝。


 ネレイスの空は、薄い雲に覆われていた。


 海から吹く風は昨日より強く。


 港に吊られた古い旗が。


 ばたばたと音を立てている。


「……眠い」


 宿を出たシルヴァが。


 大きな欠伸をした。


 ティナが横を見る。


「昨日あれだけ早く寝たのに?」


「知らない場所だとあんまり寝れない」


「昨日まで普通に寝てたでしょ」


「昨日は昨日」


「便利ね、その理屈」


 クジャは。


 二人の少し前を歩いている。


 新しく買ったカードを一枚。


 指の上で回しながら。


「今日来る」


 突然。


 そう言った。


 シルヴァが顔を上げる。


「昨日見てた人?」


「うん」


「なんで分かるの?」


「勘」


 ティナが眉を寄せる。


「クジャの勘って最近ちょっと怖いのよね」


「当たる」


「だから怖いの」


 シルヴァが。


 港の方を見る。


「じゃあ探しに行こう」


「結局探すのね」


「待ってても暇だし」


「まあ、それはそうだけど」


 三人は。


 昨日と同じく。


 ネレイス港へ向かった。


 ◇


 午前。


 昨日見つけた古い船渠。


 埃の中に残る足跡。


 使われた形跡のあるロープ。


 壁に残る古い航路図。


 どれも。


 昨日と変わらない。


「……何も増えてない」


 ティナがしゃがみ込む。


「誰か来た跡もないわね」


 シルヴァは。


 船渠の縁へ座り。


 水面を見る。


「昨日の人」


「ここ使ってると思ったんだけどな」


「使ってるとは限らない」


 クジャ。


「じゃあ何の跡?」


「別の人」


「なるほど」


「納得早すぎない?」


 ティナが立ち上がった。


「とにかく」


「昨日まだ調べてない場所もある」


「港の西側」


「灯台の方まで行ってみましょう」


「了解」


 三人は。


 再び歩き出した。


 ◇


 ネレイス西端。


 港の中心から離れるほど。


 人影は少なくなっていった。


 大きな倉庫。


 錆びた荷車。


 使われなくなった桟橋。


 海鳥の声。


 そして。


 古い石造りの灯台。


「……静か」


 シルヴァが言った。


「静かすぎる」


 ティナは。


 すでに少し警戒している。


「昨日見られてたのも」


「この辺りだったんでしょ?」


「うん」


 クジャが答える。


 そして。


 足を止める。


「いる」


 シルヴァの目が細くなる。


「どこ?」


 クジャは。


 顔を上げる。


「上」


 三人が。


 同時に灯台を見る。


 最上部。


 風に吹かれる。


 一人の男。


 長い髪。


 細身の身体。


 黒を基調とした整った服。


「……」


 シルヴァの表情が変わった。


「やっぱり」


 ティナが剣へ手を伸ばす。


「ギラルーン……!」


 王都レグナ。


 闘技場。


 シルヴァが。


 一度も剣を届かせられなかった男。


 その男が。


 今。


 灯台の上から三人を見下ろしていた。


 そして。


 シルヴァと目が合った。


 僅かに。


 笑う。


「待て!」


 シルヴァが走り出す。


「シルヴァ!」


 ティナも追う。


 クジャも。


 だが。


 灯台へ駆け込む直前。


「そちらではございません」


 背後。


 三人が振り返る。


「……え?」


 十メートルほど後ろ。


 いつの間にか。


 ギラルーンが立っていた。


 灯台の上には。


 もう誰もいない。


 シルヴァが。


 呆然と見る。


「いつ降りたの?」


「つい先ほど」


「見えなかった」


「それは何よりです」


「褒めてない」


 ティナは。


 すでに剣を抜いている。


「動かないで」


「承知いたしました」


 ギラルーンは。


 素直に両手を少し開いた。


 クジャも。


 指の間へカードを挟む。


 シルヴァだけが。


 剣へ手を置いたまま。


 ギラルーンを見る。


「昨日から」


「俺たち見てた?」


「はい」


 即答。


「なんで」


「確認のためでございます」


「何を?」


「皆様が」


「無事にネレイスへ到着されたことを」


 ティナの目が鋭くなる。


「誰に頼まれたの」


 ギラルーンは。


 少しだけ。


 姿勢を正した。


「その件について」


「ご説明するために参りました」


「その前に」


 ティナが。


 一歩前へ出る。


「王都で何したか忘れてないでしょうね」


「もちろん」


「シルヴァを殺そうとしてた」


「はい」


「……認めるの?」


「事実ですので」


 ティナが。


 一瞬。


 言葉を失った。


 シルヴァも横から。


「そこはちょっと否定するところじゃない?」


「否定すれば」


「信用していただけますか?」


「……無理」


「では同じことかと」


「正論っぽく言うのやめて」


 クジャは。


 ギラルーンを見たまま言う。


「でも」


「今は殺す気ない」


 ギラルーンの視線が。


 クジャへ向く。


「ええ」


「本日は戦闘のために来たわけではございません」


 シルヴァ。


「じゃあ何しに来たの」


 海風が吹く。


 ギラルーンの長い髪が揺れる。


 そして。


 穏やかな声。


「迎えに参りました」


 三人。


 沈黙。


「……誰が?」


 シルヴァが訊いた。


 一拍。


「ミルス様が」


 シルヴァの表情から。


 完全に笑みが消えた。


「……」


 波。


 風。


 海鳥。


 その音だけが残る。


 シルヴァが。


 一歩。


 前へ出る。


「今」


「何て言った」


「ミルス様が」


「皆様をお呼びでございます」


「……生きてるの?」


「はい」


 ギラルーンの答えは。


 迷いがなかった。


 シルヴァの指が。


 剣の柄から離れる。


「本当に?」


「ええ」


「間違いなく」


「ミルス様は生きておられます」


 今まで。


 何度も。


 その可能性を聞いた。


 ディーンから。


 ガルドから。


 ヴァイラの記録から。


 それでも全部。


 可能性だった。


 生きているかもしれない。


 だった。


 今。


 初めて。


 ミルスと行動を共にしている人間が。


 はっきり言った。


「……そっか」


 シルヴァが。


 小さく息を吐いた。


 ティナは。


 その横顔を見る。


 嬉しい。


 でも。


 それだけではない。


 怖さも。


 戸惑いも。


 全部混ざっている。


 そんな顔。


 だが。


 ティナはまだ剣を下ろさなかった。


「待って」


 ギラルーンを見る。


「だからって」


「あなたについて行けって?」


「はい」


「信用できない」


「結構でございます」


「え?」


「私を信用していただく必要はございません」


 ギラルーンは。


 淡々と言う。


「ミルス様へ会いたいのであれば」


「私と来ていただく」


「それだけです」


 クジャが訊く。


「どこにいる?」


「ノクティス」


 シルヴァの目が。


 少しだけ動く。


「……やっぱり」


「はい」


 ティナ。


「でも」


「船がない」


「昨日一日探したけど」


「ノクティスへ行く船なんて一隻も――」


「船ではございません」


 ティナが止まった。


「……え?」


 シルヴァ。


「泳ぐ?」


「違います」


「よかった」


「本気で言ってたの?」


「半分」


「半分もあったの!?」


 ギラルーンは。


 少しだけ笑った。


「移動手段は」


「ミルス様がご用意しております」


 シルヴァが。


 嫌なほど自然に納得する。


「……ミルスが作った?」


「ええ」


「何を?」


「ご覧になった方が早いかと」


 ギラルーンが。


 ネレイスの外れ。


 さらに西。


 海岸沿いの崖を指す。


「日没後」


「こちらまでお越しください」


「今じゃダメ?」


 シルヴァ。


「目立ちます」


「何が?」


「移動手段が」


「……そんな大きいの?」


「それなりに」


 ティナが。


 警戒を解かないまま訊く。


「どうして夜なの?」


「ネレイスには」


「魔王軍の監視も入っております」


 三人の表情が変わる。


「ここにも?」


 シルヴァ。


「ええ」


「大規模な部隊ではありません」


「ですが」


「誰がノクティスへ渡ろうとしているのか」


「定期的に確認しております」


 ティナ。


「私たちも見られてる?」


「可能性はございます」


「だったら」


「あなたがこうやって会いに来る方が危なくない?」


「ですので」


 ギラルーンが。


 一歩。


 横へ動く。


「長居はいたしません」


 シルヴァが。


 すぐに目で追う。


 クジャも。


 力の流れを見るように。


 じっと。


 その足元を見た。


「ギラルーン」


 シルヴァが呼ぶ。


「はい」


「一つだけ」


「どうぞ」


「ミルス」


 一瞬。


 言葉が止まる。


「……元気?」


 ギラルーンの表情が。


 ほんの僅かに。


 柔らかくなる。


「ええ」


「お元気でございます」


「少なくとも」


「あなたに会う準備をされる程度には」


 シルヴァが。


 少しだけ。


 笑った。


「そっか」


「じゃあ行く」


 ティナ。


「早い!」


「でも行くでしょ?」


「行くけど!」


 クジャ。


「私も」


「分かってるわよ!」


 ギラルーンは。


 三人を順番に見る。


「では」


「日没後に」


「必要な荷物だけお持ちください」


 シルヴァ。


「どれくらいで着く?」


「順調であれば」


「今夜中にはノクティスへ入ります」


 三人。


「……今夜?」


 ティナ。


「船じゃないとはいえ」


「そんなに早く?」


「ええ」


 ギラルーン。


「ミルス様の作品ですので」


 シルヴァ。


「なんかそれだけで納得できるのずるいな」


 ギラルーンが。


 一礼する。


「では」


「後ほど」


 次の瞬間。


 男が。


 一歩。


 後ろへ下がる。


 そして。


 消えた。


「……」


 シルヴァが周囲を見る。


「また」


 クジャは。


 地面を見る。


「やっぱり」


「変」


「何が?」


 クジャは。


 さっきまでギラルーンが立っていた場所。


 そして。


 少し離れた場所。


 交互に見る。


「力の跡が」


「途中にない」


 ティナ。


「瞬間移動?」


「分からない」


 クジャ。


「でも」


「ただ速いだけじゃない」


 シルヴァの目が。


 少しだけ。


 楽しそうになる。


「今度聞こう」


 ティナ。


「戦い方を?」


「うん」


「ミルスに会う前からそれ!?」


「気になるじゃん」


「あなた本当に……」


 ◇


 昼。


 宿。


 三人の部屋には。


 荷物が散乱していた。


「必要最低限!」


 ティナが。


 旅袋を持ち上げる。


「シルヴァ」


「何持ってくの?」


「剣」


「着替え」


「食べ物」


「終わり」


「薬!」


「あ」


「水!」


「あ」


「包帯!」


「あ」


「あなた一人だったらどうするつもりだったの!?」


「現地調達?」


「ノクティスで!?」


 クジャは。


 横で。


 淡々と荷物をまとめている。


 古いカード。


 新しい予備。


 着替え。


 小さな保存食。


 水。


 必要最低限。


 シルヴァが見る。


「クジャ早い」


「準備してた」


「いつ?」


「昨日」


 ティナ。


「見習いなさい」


「俺も昨日準備したよ」


「その結果、水忘れてるでしょ!」


「今入れたから大丈夫」


「そういう問題じゃない!」


 しばらく。


 荷造り。


 途中。


 シルヴァの手が止まる。


 黒い旅袋。


 剣。


 マント。


 その先。


 夜。


 海。


 ノクティス。


「……」


 ティナが。


 気づいた。


「緊張してる?」


「ちょっと」


 珍しく。


 素直な答え。


「ミルス?」


「うん」


 一拍。


「それと」


「ノクティス」


 ティナは。


 何も言わず。


 シルヴァの隣へ座った。


「二年ぶり?」


「うん」


「あの日以来?」


「うん」


 クジャも。


 荷物を閉じ。


 シルヴァを見る。


「怖い?」


 シルヴァは。


 少し考え。


「怖い」


 答えた。


「でも」


「行きたい」


 ティナ。


「なら行きましょう」


「三人で」


 シルヴァが。


 二人を見る。


「……うん」


 クジャ。


「私も」


「聞きたいことある」


「眼?」


 ティナ。


「それも」


「昔のことも」


 シルヴァが。


 少し笑う。


「じゃあ」


「ミルス大変だね」


「質問三人分」


 ティナ。


「あなたが九割でしょ」


「そんなある?」


「ある」


 クジャ。


「ある」


「二対一多くない?」


 ◇


 日没。


 ネレイス西端。


 三人は。


 ギラルーンに指定された場所へ向かっていた。


 港からも。


 街からも。


 かなり離れている。


 古い海岸道。


 片側は崖。


 反対側は海。


「……本当にこっち?」


 ティナが。


 地図を見る。


「道なくなってるけど」


「印はこの先」


 シルヴァ。


「クジャ」


「何かいる?」


 クジャが。


 周囲を見る。


「ギラルーンはいる」


「どこ?」


「先」


 やがて。


 崖の奥。


 少し開けた場所。


 そこに。


 ギラルーンが立っていた。


「お待ちしておりました」


「ちゃんと来たよ」


 シルヴァ。


「存じております」


「見てた?」


「少々」


 ティナ。


「本当に怖いんだけど」


「申し訳ございません」


「多分反省してない」


 クジャ。


「鋭いですね」


 シルヴァが。


 周囲を見る。


 海。


 崖。


 空。


 それだけ。


「で」


「乗り物は?」


「こちらです」


 ギラルーンが。


 何もない空間を示す。


 三人。


「……」


 ティナ。


「何もないけど」


 ギラルーン。


「ございますよ」


 シルヴァ。


「どこ?」


 その時。


 クジャが。


 ゆっくり。


 顔を上げた。


「……上」


 シルヴァとティナも。


 見上げる。


 夜になり始めた空。


 薄い雲。


 星。


 何もない。


 シルヴァ。


「何か見える?」


 クジャ。


「見えない」


「でも」


 右手が。


 眼帯へ触れる。


「いる」


「空に」


 クジャが。


 ほんの少しだけ。


 右眼を開く。


「……っ」


 視界。


 空。


 そこに。


 不自然な力の流れ。


 巨大な輪郭。


 何もないように見える場所を。


 覆っている。


「大きい」


 クジャが呟く。


 ギラルーンが。


 少しだけ感心したように。


「やはり」


「その眼には見えますか」


 ティナ。


「何が?」


「すぐに」


 ギラルーンが。


 片手を上げる。


 指を鳴らした。


 ――パチン。


 次の瞬間。


 夜空が。


 揺れた。


「……え」


 星の位置が。


 歪む。


 空が。


 水面のように波打つ。


 そして。


 そこに。


 何もなかったはずの空間から。


 巨大な影が。


 ゆっくり。


 姿を現した。


「……うわ」


 シルヴァが。


 思わず声を漏らす。


 黒銀色の船体。


 全長は。


 大型の馬車を数台並べたほど。


 船に似ている。


 だが。


 帆はない。


 下部には。


 淡い紫色の光を放つ複数の環。


 左右から伸びる。


 薄い板状の構造体。


 翼とも。


 船の舵とも違う。


 音は。


 ほとんどない。


 巨大な物体が。


 空中に。


 静かに浮いている。


 ティナが。


 目を見開く。


「……飛んでる」


「はい」


 ギラルーン。


「ミルス様がお作りになった」


「隠密用の飛行艇でございます」


 シルヴァは。


 しばらく。


 飛行艇を見上げていた。


「……本当に」


 口元が。


 少しだけ笑う。


「何でも作るな」


「最近では」


「随分と器用になられましたので」


「二年前はこんなの作れなかったよ」


「二年は長いものでございます」


 飛行艇から。


 一条の淡い光。


 崖の上へ伸びる。


 光の中に。


 透明な階段のようなものが形成される。


 シルヴァ。


「これ乗るの?」


「はい」


 ティナ。


「落ちない?」


「通常は」


 三人。


「通常は?」


 ギラルーン。


「冗談です」


 ティナ。


「あなたの冗談分かりづらい!」


 クジャが。


 先に一歩。


 光の階段へ乗る。


「大丈夫」


 シルヴァ。


「クジャ早い」


「面白そう」


「珍しい」


「飛ぶの初めて」


 シルヴァも。


 一歩。


 足を乗せる。


 少しだけ沈む。


 だが。


 確かに硬い。


「すご」


 ティナも。


 恐る恐る。


 後へ続く。


「これ」


「本当にオーラなの?」


 ギラルーン。


「ミルス様の《創造》による構造物です」


「外部での稼働には」


「少々問題もございますが」


 シルヴァが振り返る。


「問題?」


「長く使えば」


「ミルス様の力の痕跡が残ります」


「痕跡?」


「ええ」


「魔王軍に」


「居場所を探る材料を与える可能性がございます」


 ティナの表情が変わる。


「じゃあ」


「これを使うのも危険なんじゃ」


「危険です」


「……」


「ですので」


 ギラルーン。


「必要な時にしか使用いたしません」


 シルヴァ。


「今日は必要?」


 ギラルーンが。


 僅かに笑う。


「ミルス様が」


「あなた方をお呼びになりましたので」


 シルヴァは。


 一瞬。


 何も言えなかった。


 そして。


 飛行艇へ乗り込む。


 ◇


 内部は。


 思っていたより静かだった。


 黒銀の壁。


 淡い光。


 窓。


 操縦席らしき場所はある。


 だが。


 誰もいない。


「誰が動かすの?」


 ティナ。


「艇自身です」


 三人。


「……艇?」


「はい」


「簡単な指示でございましたら」


「自律して判断いたします」


 シルヴァ。


「生きてる?」


「厳密には違います」


「でも」


 クジャが。


 壁へ触れる。


「少し似てる」


 ギラルーン。


「創造された人工機構です」


「ミルス様の都市には」


「似たものが多数ございます」


 シルヴァが。


 振り返る。


「都市?」


 ギラルーン。


「到着されれば」


「お分かりになります」


「教えてくれないんだ」


「楽しみは」


「残しておいた方がよろしいかと」


 艇内。


 低い振動。


 窓の外。


 崖が。


 少しずつ下がっていく。


 ティナが。


 慌てて窓へ。


「浮いた……!」


 クジャも見る。


 シルヴァは。


 窓際へ立った。


 ネレイス。


 港の灯り。


 街。


 海。


 全部。


 ゆっくり。


 小さくなっていく。


 飛行艇が。


 高度を上げる。


 そして。


 再び。


 船体の輪郭が。


 夜空へ溶け始めた。


 外から見れば。


 そこには。


 ほとんど何もない。


「これ」


「外から見えないの?」


 シルヴァ。


「完全ではございません」


 ギラルーン。


「遠距離からの視認」


「魔力探知」


「音」


「その多くを誤魔化しております」


「ただし」


「近づかれれば」


「当然見破られる可能性はございます」


 クジャ。


「私には見えた」


「ええ」


「普通ではないものを見抜く眼」


「実に興味深い」


 クジャの左眼が。


 少し細くなる。


「見ないで」


「失礼いたしました」


 ティナ。


「クジャの眼について知ってる?」


「いいえ」


「ミルスなら?」


「それは」


 ギラルーンが。


 少しだけ考える。


「ご本人へお尋ねください」


 シルヴァ。


「そればっかり」


「私がお答えするより」


「正確でしょうから」


 飛行艇が。


 海へ出る。


 ネレイスの灯りが。


 背後へ。


 アステラ大陸が。


 少しずつ遠ざかっていく。


 前。


 暗い海。


 その向こう。


 二年前。


 自分が全てを失った場所。


 魔大陸ノクティス。


 シルヴァは。


 窓の前で。


 黙っていた。


 ティナが。


 その隣へ来る。


 反対側。


 クジャも。


 三人。


 並ぶ。


「シルヴァ」


 ティナが呼ぶ。


「うん」


「大丈夫?」


 シルヴァは。


 すぐには答えない。


 遠く。


 暗い水平線を見る。


「……怖い」


「うん」


「でも」


 一拍。


 青い瞳が。


 真っ直ぐ前を見る。


「今度は」


「自分で戻る」


 二年前。


 白金の光に包まれ。


 何も分からないまま。


 この大陸から飛ばされた。


 今度は違う。


 自分で選んだ。


 自分の足で。


 仲間と一緒に。


「ミルスに会う」


 シルヴァが言う。


「全部聞く」


 ティナ。


「うん」


 クジャ。


「私も」


 三人の前。


 水平線の向こう。


 雷雲の隙間。


 ほんの僅かに。


 黒い大地の影が見えた。


 ギラルーンが。


 その背後から。


 静かに告げる。


「お帰りなさいませ」


 一拍。


「魔大陸ノクティスへ」


 シルヴァの青い瞳に。


 黒い大陸が。


 映った。

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