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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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37/81

第37話 届いた報告

 魔大陸ノクティス。


 遥か東。


 黒い城。


 窓の外には。


 赤黒い雲が。


 低く垂れ込めていた。


 その最深部。


 巨大な玉座。


「…………」


 一人の男が。


 目を閉じている。


 長い黒髪。


 人の形をしていながら。


 その周囲だけ。


 空気が重い。


 第一魔王。


 その胸元。


 突然。


 黒い光が。


 小さく。


 灯った。


 ――ドクン。


「……」


 瞼が。


 開く。


 赤い瞳。


 次の瞬間。


 流れ込む。


     ◇


 東方。


 破壊された防衛拠点。


 白銀の髪。


 風。


     ◇


 王都レグナ。


 白金の光を纏う少女。


     ◇


 学術都市エルネア。


 右眼を開く。


 眼帯の少女。


     ◇


 雷。


 黒衣の剣士。


     ◇


 聖都アルセリア。


 大地の恩寵。


 地下封印。


 地脈の亀裂。


     ◇


 そして。


 ヴァイラ。


 最後の戦い。


 風。


 雷。


 《構装》。


 大地。


 特殊な眼。


 五つの力が。


 一つへ重なる。


 胸。


 剣。


 貫通。


『この大陸は――』


『想定より、高くつく』


     ◇


 映像。


 音。


 感覚。


 そして。


 ヴァイラ自身が得た。


 判断。


 推測。


 戦力評価。


 全て。


 第一魔王へ。


 流れ込んでいく。


「…………」


 黒い光が。


 消えた。


 玉座の脇。


 一体の魔族が。


 跪いている。


「第二軍団との連絡が」


「途絶えました」


「知っている」


「……?」


「ヴァイラは死んだ」


 魔族が。


 顔を上げる。


「軍団長が……?」


「ああ」


 第一魔王の声に。


 怒りはない。


「だが」


「役目は果たした」


 右手を。


 ゆっくり開く。


「《魔装》は」


「ただ力を与えるためのものではない」


「我が力を預けた時点で」


「軍団長と私は」


「僅かに繋がっている」


「では……」


「ヴァイラが見たもの」


「知ったもの」


「戦ったもの」


「死の直前まで」


 赤い瞳。


 細くなる。


「全て届いている」


 魔族が。


 息を呑む。


「風の恩寵」


「シルヴァ・ライズ」


「光の後継者と思われる少女」


「大地を預かる最高司祭」


「元勇者一行の雷剣士」


 そして。


 一瞬。


 止まる。


「……眼帯の娘」


「その者が何か?」


「いや」


 第一魔王は。


 何も答えない。


 だが。


 あの右眼を通して。


 ヴァイラが感じた。


 妙な違和感。


 オーラでもない。


 恩寵でもない。


 そして。


 完全な他人の力とも。


 思えない。


「面白い」


「……?」


「アステラは」


 第一魔王が。


 僅かに笑う。


「まだ」


「思ったより」


「多くを残しているらしい」


     ◇


「第二軍団の再編を?」


 跪く魔族が聞いた。


「急ぐ必要はない」


「しかし軍団長を失いました」


「ヴァイラ一人の死と」


「得た情報」


 第一魔王。


 即答。


「比べるものではない」


「…………」


「次に攻める時は」


 指。


 玉座の肘掛け。


 軽く叩く。


「もう」


「知らない相手ではない」


 コツ。


 コツ。


「風は空へ逃げる」


「雷は接触に強い」


「構装は戦場そのものを作る」


「大地は侵入系統の天敵」


「眼は」


 少し。


 間。


「力の構造を見る」


 その全てを。


 もう。


 知っている。


「ヴァイラの敗北は」


「次の勝利に使う」


 第一魔王の目が。


 暗闇の中で。


 赤く光った。


     ◇


 翌朝。


 聖都アルセリア。


 ゲイルの家。


「…………」


 シルヴァが。


 目を開けた。


「痛い」


 最初の一言。


 胸。


 肩。


 脇腹。


 全部。


 痛い。


「……昨日より痛い」


 起き上がろうとする。


「っっ……」


 やめる。


「寝よ」


 コンコン。


「起きてる?」


 ティナ。


「今寝るところ」


「起きてるじゃない」


 扉。


 開く。


 ティナ。


 その後ろ。


 クジャ。


「おはよう」


「おはよう」


 クジャの手。


 パン。


「それ俺の?」


「私の」


「朝から?」


「うん」


「元気だね」


 ティナが。


 シルヴァの横へ。


「熱は?」


「ない」


 額。


 手。


 触れる。


「…………」


 シルヴァ。


 ティナを見る。


「何」


「近い」


「昨日の仕返し?」


「違う!」


 ティナ。


 すぐ離れる。


 クジャが。


 パンを食べながら。


「顔赤い」


「朝だから!」


「関係ある?」


「ある!」


「ないと思う」


「クジャ!」


     ◇


 朝食。


 ゲイルが。


 スープ。


 パン。


 卵。


 並べる。


「今日は大聖堂へ行くんだろう」


「うん」


 シルヴァ。


 片手。


 パン。


「本当に行くのか」


「ディーンが待ってる」


「医務室の人間には?」


「安静って言われた」


「なら安静にしろ」


「大聖堂まで歩くだけ」


 ティナが言う。


「私が見張ります」


「頼む」


「父さんとティナが仲良くなってる」


「あなたが言うこと聞かないからよ」


 クジャ。


「共同戦線」


「何それ」


     ◇


 大聖堂。


 昨日の戦闘跡は。


 まだ。


 至る所に残っている。


 割れた石床。


 欠けた柱。


 運び出される瓦礫。


 修復を始める人々。


「……結構壊れたね」


 シルヴァが言った。


「誰の戦闘?」


 クジャ。


「半分くらい俺かも」


「反省して」


「敵が」


「反省して」


「はい」


 ティナが。


 少し笑った。


     ◇


 地下資料室。


 扉。


 開く。


「遅え」


 ディーン。


 机。


 座っている。


「安静にしてた」


「珍しい」


「皆それ言う」


 ガルドも。


 奥。


 大量の書類。


 確認している。


「座れ」


「ガルドまで」


「昨日死にかけた人間が立つな」


「はい」


 シルヴァ。


 素直に椅子。


「……」


 ガルドが。


 僅かに見る。


「何?」


「本当に素直だな」


「もういいって」


     ◇


「ヴァイラの持ち物を調べた」


 ディーンが。


 黒い記録帳を。


 机へ置く。


「かなり面白えもんが出た」


「俺の悪口?」


「それもある」


「あるの?」


「危険度評価だ」


「悪口じゃん」


「違う」


 ティナが記録帳を覗く。


「何が書いてあるんですか?」


「アステラ各地の戦力」


「道路」


「補給路」


「都市」


「軍隊」


「恩寵」


「強いオーラ使い」


「全部だ」


 クジャが言う。


「戦争の準備」


「ああ」


 ディーン。


 ページ。


 めくる。


「ただ」


「俺たちにとって重要なのは」


「こっちだ」


 一枚。


 止める。


 シルヴァ。


 文字。


 見る。


 目。


 止まる。


 《旧勇者一行生存者に関する再調査》


「…………」


 ディーン。


 指。


 一人。


「俺」


 次。


「シルヴァ」


 そして。


 もう一つ。


 ミルス。


「…………」


 シルヴァ。


 身を乗り出す。


「何て?」


「読め」


「…………」


 その下。


 ヴァイラの記録。


 生存可能性――極めて高。


「……!」


 ティナが。


 シルヴァを見る。


「ミルスさん」


「生きてる……?」


 シルヴァの声。


 小さい。


「可能性は高い」


 ディーンが答える。


「少なくとも」


「魔王軍もそう判断してた」


「どこにいる?」


「そこが問題だ」


 ページ。


 さらに。


 下。


 ノクティス。


 複数の情報。


 異常な魔物。


 存在しないはずの生物。


 突然現れた建造物。


 人間に近い姿の。


 正体不明の女。


「これ」


 ティナが聞く。


「全部同じ場所?」


「周辺地域は近い」


 ディーンが答える。


「ただし」


「ミルス本人だと断定はされてねえ」


 シルヴァは。


 記録から。


 目を離さない。


「でも」


「生きてる可能性は高い」


「ああ」


「…………」


 少し。


 笑う。


「よかった」


 ディーンが。


 その顔を見る。


「まだ喜ぶのは早えぞ」


「分かってる」


「何が起きてるか」


「分からねえ」


「うん」


「昔のミルスと同じ状態とも限らない」


「……うん」


 それでも。


 シルヴァは。


 もう一度。


 名前を見る。


 ミルス。


「死んでるって決まってるより」


「いい」


 ディーンは。


 何も言わなかった。


     ◇


 ガルドが。


 別の紙を。


 机へ置く。


「もう一つ」


「何?」


「ヴァイラの報告形式だ」


「報告?」


「ああ」


「記録帳の一部に」


「送信済みを示す符号がある」


 ティナが。


 顔を上げる。


「誰に?」


「恐らく」


 ガルド。


 少し。


 間を置く。


「第一魔王」


 シルヴァの表情。


 変わる。


「ヴァイラが言ってた」


「《魔装》は第一魔王から預けられた力だって」


「私も気になっていた」


 ガルドが答える。


「そして」


「ヴァイラが死んだ直後」


「地下に残っていた魔王由来の力が」


「一瞬」


「ノクティス方向へ消えた」


 クジャの右眼。


 眼帯の下。


 僅かに。


 疼く。


「戻った?」


 全員。


 クジャを見る。


「多分」


「また多分?」


 シルヴァ。


「でも」


 クジャが。


 胸元を指す。


「ヴァイラの中にあった」


「ヴァイラじゃない力」


「死んだ時」


「消えた」


「ただ消滅した感じじゃなかった」


 ディーンの表情が。


 険しくなる。


「持ち主に帰った」


「……かも」


「つまり」


 ティナが言う。


「今回」


「ヴァイラが調べたこと」


「私たちの能力も」


「戦い方も」


「全部」


 ディーン。


「あっちに伝わったと思った方がいい」


 沈黙。


「…………」


 シルヴァが。


 口を開く。


「じゃあ」


「次会った時」


「同じやり方は通じない?」


「その可能性が高い」


「面倒」


 クジャ。


「だね」


「お前ら軽いな」


 ディーンが呆れる。


 シルヴァ。


 少しだけ。


 笑う。


「でも」


「向こうが俺たちのこと知ったなら」


「俺たちも」


 ヴァイラの記録帳。


 指。


「向こうのこと」


「もっと知ればいい」


 ガルドが。


 シルヴァを見る。


「そのために」


「アルセリアへ来たのだろう」


「うん」


     ◇


 ガルド。


 立つ。


「なら」


「見せるべきものがある」


「何?」


「五大恩寵について」


 部屋。


 奥。


 巨大な書架。


 さらに。


 その裏。


「現存する」


「最古の記録だ」


 ティナの目が。


 大きくなる。


「光についても?」


「ああ」


「風も?」


「ある」


 シルヴァ。


 すぐ立とうとする。


「行こう」


「座れ」


「でも」


「逃げん」


「…………」


「明日だ」


「また明日?」


「お前はまず治せ」


 シルヴァ。


 不満。


「ミルスの記録も?」


「整理しておく」


 ディーンが言う。


「逃げねえって言ったろ」


「……うん」


「だから今日は」


 ティナ。


 シルヴァの肩を押す。


「帰る」


「まだ昼」


「帰る」


「甘いもの」


「…………」


 ティナが。


 一瞬。


 黙る。


「一個だけ」


「やった」


 クジャ。


「妬く?」


「何に!?」


「シルヴァと甘いもの」


「もう意味分かんない!」


     ◇


 ノクティス。


 黒い城。


 第一魔王は。


 一人。


 地図を見ていた。


 アステラ。


 聖都アルセリア。


 そして。


 そこから。


 西北。


 海。


「…………」


 ヴァイラの記憶。


 ミルス。


 旧勇者一行。


 シルヴァ。


 その目的。


 繋がる。


「来るか」


 赤い瞳が。


 細くなる。


 ノクティスへ。


「シルヴァ・ライズ」


 今度は。


 第一魔王も。


 彼の名を。


 知っていた。

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