第35話 五人
大聖堂地下。
地脈の亀裂。
ガルドによる応急封印が。
茶金色の光を放っている。
その前。
五人。
シルヴァ。
ティナ。
クジャ。
ディーン。
ガルド。
対する。
第二軍団長ヴァイラ。
《魔装》。
黒い二本角。
全身を這う黒赤い脈。
異形化した右腕。
その力は。
まだ。
通常状態を遥かに上回っている。
だが。
「減ってる」
クジャが言った。
右眼。
ヴァイラの胸を見る。
「さっきより」
「かなり」
ヴァイラは。
否定しない。
「《魔装》は永続する力ではない」
「教えていいの?」
シルヴァが聞く。
「見抜かれている以上」
「隠す意味はない」
「律儀」
「シルヴァ」
ティナが睨む。
「集中」
「はい」
ヴァイラが。
長槍を上げる。
「だが」
黒赤い脈。
再び。
強く輝く。
「切れるまで待てると思うな」
――消えた。
「!」
「左!」
クジャ。
ガルドの横。
ヴァイラ。
黒い右腕。
ガルドへ。
「《封壁》!」
ガルド。
聖杖。
地面。
石壁。
隆起。
ドォン!!
拳。
激突。
壁が。
一撃で砕ける。
「っ……!」
だが。
その一瞬。
「ディーン!」
「おう!」
雷。
横。
《迅雷》。
剣。
ヴァイラの右腕。
斬る。
バヂィッ!!
「――」
黒い装甲。
浅く裂れる。
ヴァイラ。
左手。
ディーンを掴もうとする。
「触るな!」
ティナ。
《構装》。
白い杭。
二人の間。
ヴァイラの腕を押し上げる。
「シルヴァ!」
「行く!」
風。
真正面。
剣。
ヴァイラ。
長槍。
受ける。
ガキィン!!
「……!」
シルヴァ。
押される。
身体は。
もう。
限界に近い。
「重……っ」
「下がれ!」
ディーン。
雷剣。
割り込む。
二人。
同時。
ヴァイラを押し返す。
「…………」
ヴァイラの赤黒い瞳が。
二人を見る。
「元勇者一行」
「そして」
「その弟子か」
「弟子じゃない」
シルヴァが言う。
「弟子だ」
ディーンが即答した。
「今否定するところ?」
「事実だろ」
ヴァイラが。
槍を振る。
「余裕があるな」
「ない!」
シルヴァとディーン。
同時に飛ぶ。
◇
黒い槍。
床。
――コン。
《侵脈》。
無数。
四方へ。
「来る!」
クジャ。
右眼。
「床三本!」
「壁二本!」
「天井も!」
ガルドが。
聖杖を。
両手で握る。
「全部止める」
茶金色。
地面。
「《封脈》!」
黒い線。
一斉に。
止まる。
「……!」
ヴァイラの目が。
僅かに動く。
「相性が悪いな」
「今頃気づいたか」
ガルド。
聖杖。
前。
「お前の力は」
「大地を侵す」
「なら」
地面。
茶金色。
黒い脈を。
一本ずつ。
縫い止める。
「侵せぬよう」
「封じればいい」
「単純だな」
「単純だから強い」
シルヴァが言った。
ガルドが見る。
「珍しく分かっているな」
「褒めた?」
「違う」
「やっぱ嫌い」
「今やる会話か!」
ティナが怒鳴った。
◇
ヴァイラ。
槍。
地面から離す。
「なら」
「大地を使わなければいい」
一瞬。
跳ぶ。
「!」
ティナが上を見る。
ヴァイラ。
空中。
槍。
投げる。
「シルヴァ!」
「分かってる!」
風。
槍。
軌道。
逸らす。
だが。
ヴァイラ自身が。
その槍を追っている。
「何――」
空中で。
柄を掴む。
回転。
そのまま。
ティナへ。
「――っ!」
《構装》。
盾。
ガァン!!
「ぐっ!」
一撃。
盾。
砕ける。
ティナ。
吹き飛ぶ。
「ティナ!」
シルヴァが。
動く。
それを。
ヴァイラは見ていた。
着地。
シルヴァ。
横。
右手。
伸びる。
「――!」
掴まれる。
胸元。
黒い脈。
シルヴァの身体へ。
「シルヴァ!!」
「っ……!」
黒。
胸から。
首。
右腕。
侵入。
オーラ。
乱れる。
風。
消える。
「……動かな」
「離れろ!」
ディーン。
《雷閃》。
ヴァイラ。
シルヴァを。
盾のように。
引く。
「っ!」
ディーン。
剣を止める。
「甘い」
ヴァイラ。
槍の柄。
ディーンの顎。
ドン!
「ぐっ!」
ディーン。
後退。
「シルヴァ!」
クジャの右眼。
黒い脈。
身体の中。
「胸!」
「右肩!」
「首に行く!」
「見えても」
シルヴァ。
苦しそうに笑う。
「自分じゃどうしようもない!」
「分かってる!」
クジャ。
カード。
♣8。
ヴァイラの腕へ。
拘束。
「……!」
ほんの一瞬。
緩む。
「ティナ!」
「はい!」
白い槍。
《構装》。
ヴァイラの右腕。
横から。
叩く。
「離して!」
ガン!!
シルヴァ。
解放。
床。
転がる。
「ディーン!」
「分かってる!」
シルヴァの胸。
手。
置く。
「ちょっと待って」
「待てねえ!」
雷。
バヂィィッ!!
「ぐあああっ!!」
シルヴァ。
身体。
跳ねる。
黒い脈。
散る。
「……!」
呼吸。
戻る。
「痛……」
「生きてる」
「もっと優しくできない?」
「次から敵に頼め」
◇
ヴァイラの右腕。
黒い脈。
揺らぐ。
クジャが。
そこを見る。
「……今」
「何?」
ティナが聞く。
「シルヴァに入れた時」
「減った」
「何が?」
「魔王の力」
ディーンの目が。
変わる。
「生体に侵入するほど」
「消耗がでかいのか」
「多分」
「また多分」
ティナ。
「でも」
クジャが。
ヴァイラを見る。
「右腕」
「かなり薄くなった」
ヴァイラ。
黙っている。
シルヴァが。
息を整える。
「当たり?」
「敵に聞くな」
ディーンが言った。
「顔見りゃ分かる」
ヴァイラの右腕。
黒い装甲。
一部。
剥がれ始めている。
「…………」
ヴァイラが。
四人を見る。
そして。
ガルド。
「五人」
「何?」
「個々なら」
長槍。
握り直す。
「対処できる」
「…………」
「だが」
視線。
クジャ。
「見抜く眼」
ディーン。
「経路を切る雷」
ティナ。
「戦場を作る構装」
ガルド。
「侵入を止める大地」
最後。
シルヴァ。
「そして」
「前へ出続ける風」
シルヴァが。
少し笑う。
「褒めてる?」
「評価している」
「同じじゃない?」
「違う」
「そっか」
◇
ヴァイラ。
長槍。
構える。
「なら」
黒赤い力。
残り。
一気に。
放出。
「まとめて」
地下。
震える。
「潰す」
「来る!」
クジャ。
叫ぶ。
ヴァイラ。
槍。
地面へ。
――ドン!!
《侵脈》。
今までと。
規模が違う。
床。
壁。
天井。
全方向。
黒い脈。
一斉。
「ガルド!」
「分かっている!」
聖杖。
茶金色。
衝突。
――ズズズズズ!!
「っ……!」
ガルドの足。
押される。
黒い脈。
封印を。
食い破ろうとする。
「ディーン!」
「全部は無理だ!」
「見えるところだけ!」
クジャ。
「右壁!」
《雷閃》。
切断。
「床、シルヴァの後ろ!」
シルヴァ。
風刃。
黒い経路。
石ごと。
断つ。
「天井!」
ティナ。
《構装》。
白い壁。
脈。
進路を変える。
「……!」
ヴァイラの目が。
僅かに開く。
自分の《侵脈》が。
一つずつ。
潰されていく。
「今!」
クジャが叫ぶ。
「胸!」
ヴァイラの。
魔王の力。
全身へ散った。
その分。
胸。
守りが。
薄い。
「シルヴァ!」
ティナ。
両手。
前。
《構装》。
足場。
一つ。
二つ。
三つ。
一直線。
「行って!」
「うん!」
シルヴァ。
走る。
一歩。
二歩。
三歩。
風。
限界。
身体。
痛い。
それでも。
止まらない。
ヴァイラ。
長槍。
戻す。
「させるか」
「ディーン!」
「遅え!」
雷。
ヴァイラの槍。
横から。
剣。
激突。
「――!」
ディーン。
押される。
だが。
離さない。
「シルヴァ!」
「分かってる!」
ヴァイラ。
右腕。
シルヴァへ。
黒い脈。
「右!」
クジャ。
シルヴァ。
身体を捻る。
右手。
頬。
掠める。
少し。
黒い脈。
入る。
「っ!」
でも。
止まらない。
「シルヴァ!」
ティナの声。
「前だけ!」
「――うん!」
風。
全部。
剣へ。
ヴァイラの胸。
「《点穿》――!」
剣先。
突き刺さる。
だが。
浅い。
「足りない」
ヴァイラが言う。
「知ってる!」
シルヴァ。
さらに。
風。
押し込む。
「だから!」
背後。
ガルド。
聖杖。
床。
「《封印》!」
ヴァイラの足元。
茶金色。
両脚。
大地へ。
縫い止める。
「――!」
ヴァイラ。
動けない。
「今だ!」
ディーン。
雷。
剣ではなく。
シルヴァの剣へ。
「乗せろ!」
「え?」
「いいから行け!」
バヂィィッ!!
雷。
シルヴァの剣。
風と。
重なる。
「うわっ!」
「耐えろ!」
「無茶言う!」
ティナ。
《構装》。
シルヴァの背中。
押すように。
白い壁。
「私も!」
「ちょっ――!」
ドン!!
後ろから。
加速。
クジャ。
右眼。
ヴァイラの胸。
一点。
「そこ!」
「シルヴァ!」
「もう!」
剣。
握る。
「分かった!!」
風。
雷。
構装。
大地。
そして。
クジャの眼。
五人。
一つ。
「――はぁぁぁぁぁっ!!」
剣。
ヴァイラの胸。
貫いた。
――ドン!!
風。
地下。
吹き抜ける。
「……!」
ヴァイラの赤黒い瞳。
大きく。
開く。
黒い角。
亀裂。
パキ。
一つ。
砕ける。
黒赤い脈。
一斉に。
消えていく。
「《魔装》が……」
ティナが呟く。
ヴァイラの右腕。
元へ。
戻る。
瞳。
赤。
通常。
「…………」
シルヴァ。
剣。
ヴァイラの胸から。
引き抜く。
血。
ヴァイラ。
一歩。
後ろ。
二歩。
膝。
つく。
長槍。
床へ。
落ちた。
◇
「……終わった?」
シルヴァが聞く。
「油断するな」
ディーン。
剣。
まだ。
下げない。
ヴァイラは。
膝をついたまま。
自分の胸を見る。
深い。
致命傷。
「…………」
それでも。
表情。
大きくは変わらない。
「なるほど」
シルヴァが。
警戒しながら聞く。
「何」
「風」
「光」
「大地」
「元勇者一行」
「未知の眼」
ヴァイラが。
ゆっくり。
顔を上げる。
「それだけではない」
「…………」
「互いの不足を」
「補う」
血。
口元。
「人間は」
「そこまで」
「計算に入れねばならないか」
ディーンが。
少し顔をしかめる。
「最後まで仕事かよ」
「軍団長だからな」
ヴァイラ。
答える。
「……そう」
シルヴァが。
ヴァイラを見る。
「じゃあ」
「調査結果は?」
数秒。
静寂。
ヴァイラが。
僅かに。
笑った。
初めて。
戦闘でも。
挑発でもない。
小さな笑み。
「この大陸は」
血を吐く。
「想定より」
一度。
息。
「高くつく」
身体。
傾く。
シルヴァが。
反射的に。
一歩出る。
だが。
止まった。
ヴァイラ。
床へ。
倒れる。
「…………」
黒い長槍。
静か。
《侵脈》。
消える。
第二軍団長。
ヴァイラ。
動かなくなった。
◇
少し。
誰も。
喋らなかった。
最初に。
口を開いたのは。
シルヴァ。
「……強かった」
「見りゃ分かる」
ディーンが言う。
「一人で挑むからそうなるのよ!」
ティナが。
シルヴァを見る。
改めて。
ぼろぼろ。
血。
傷。
「ちょっと」
「何?」
「立って」
「立ってる」
シルヴァ。
一歩。
ふら。
「立ってない!」
ティナが。
咄嗟に。
支える。
「重っ……」
シルヴァが呟く。
「誰が重いのよ!?」
「俺」
「……」
「今俺の体重が」
「分かってるわよ!」
クジャが。
横から。
「ティナ嬉しそう」
「どこが!?」
「シルヴァ抱えてる」
「支えてるだけ!」
シルヴァ。
「俺歩けるよ」
「黙って!」
「はい」
ディーンが。
笑う。
「本当に変わったな」
「何が?」
「色々だ」
◇
「喜ぶのは」
ガルド。
聖杖。
地面。
「まだ早い」
四人が。
振り返る。
最深部。
封印。
赤黒い光。
まだ。
完全には。
消えていない。
「応急封印に過ぎん」
ガルドが言う。
「ヴァイラの《侵脈》によって」
「地下術式の一部が損傷している」
ティナが聞く。
「直せるんですか?」
「ああ」
「だが」
「時間がいる」
ガルドが。
ヴァイラの亡骸を見る。
「そして」
「地上もだ」
「…………」
第二軍団。
軍団長。
部隊長三名。
全て。
失った。
だが。
まだ。
兵。
魔物。
戦闘は。
完全には終わっていない。
ディーンが。
剣を肩へ。
「じゃあ上片付けるか」
「俺も」
シルヴァが言う。
「お前は休め」
「動ける」
「動けねえ」
「動ける」
ティナが。
シルヴァの脇腹を。
軽く押した。
「いっっっ……!」
「はい、休む」
「今わざと押した?」
「休む」
「…………」
「返事」
「休みます」
クジャが。
頷く。
「ティナ強い」
「ヴァイラより?」
「別方向」
「どういう意味!?」
◇
ガルドが。
シルヴァを見る。
「シルヴァ」
「何」
「よく戻った」
「…………」
「聖都へ」
一瞬。
シルヴァの表情。
止まる。
「それ」
「今言う?」
「ああ」
「もっといい時あったでしょ」
「今言いたくなった」
「…………」
シルヴァ。
少し。
笑う。
「そっか」
ガルドも。
それ以上は。
言わなかった。
まだ。
何も。
終わっていない。
過去も。
この街との関係も。
簡単には。
変わらない。
それでも。
シルヴァは。
もう。
この地下に。
一人ではなかった。




