第34話 魔装
大聖堂地下。
空気が。
変わった。
「…………」
シルヴァたち四人が。
同時に。
息を呑む。
ヴァイラ。
額から伸びた二本の黒角。
首から頬。
両腕へ。
黒赤い脈が浮かび上がっている。
右腕は。
皮膚そのものが硬質化したように黒く染まり。
握られた長槍にも。
脈が絡みついていた。
何より。
「……でかくなってない?」
シルヴァが呟く。
体格は。
ほとんど変わっていない。
それでも。
存在そのものが。
大きく見える。
「魔王の力……」
クジャの右眼が。
ヴァイラを見つめる。
「ヴァイラのオーラと」
「別の力が混ざってる」
ヴァイラが答えた。
「正確には」
「預けられている」
「第一魔王より」
「軍団長にのみ許された力だ」
ディーンの表情が険しくなる。
「部隊長どもにはなかった理由はそれか」
「ああ」
「どれくらい持つ」
「教えると思うか」
「だよな」
ディーン。
剣へ雷を纏わせる。
「なら」
「切れるまでぶっ叩く」
ヴァイラが。
一歩。
踏み出した。
「その前に」
消える。
「――!」
ディーンの目が見開く。
目の前。
長槍。
「終わる」
ガァン!!
「ぐっ!」
ディーン。
剣で受ける。
だが。
身体ごと。
吹き飛ばされた。
「ディーン!」
「前!」
クジャが叫ぶ。
シルヴァ。
振り向く。
遅い。
ヴァイラの拳。
腹。
「――っ!」
ドン!!
シルヴァの身体が折れる。
さらに。
右手。
シルヴァの左腕を掴んだ。
「離せ!」
風。
爆発。
ヴァイラが。
手を離す。
シルヴァ。
ティナの横まで。
滑る。
「シルヴァ!」
「大丈――」
言葉が。
止まる。
「……え?」
左腕。
黒い線。
皮膚の下。
手首から。
肘へ。
ゆっくり。
這い上がっている。
「何これ」
「シルヴァ、動かさないで!」
クジャが叫ぶ。
右眼。
見える。
黒い《侵脈》が。
シルヴァの身体。
オーラの流れへ。
入り込んでいる。
「中にいる」
「中?」
「黒いの」
「身体の中」
ティナが顔色を変える。
「今まで人間には入れないんじゃなかったの!?」
「通常はな」
ヴァイラ。
黒い腕を。
ゆっくり握る。
「《魔装》中は違う」
シルヴァの左手。
震える。
指。
動かない。
「……力入らない」
「《侵脈》によって」
ヴァイラが言う。
「筋肉」
「神経」
「オーラの循環」
「それらへ直接干渉できる」
ティナの顔が。
引きつる。
「それ反則じゃない?」
「敵に規則を求めるな」
「最近そればっかり!」
◇
「シルヴァ!」
クジャが指差す。
「肘の内側!」
「ここ?」
「もう少し上!」
「見えない!」
「私には見える!」
その時。
青白い雷。
「歯ぁ食いしばれ!」
「え?」
ディーンが。
シルヴァの左腕を掴む。
「ちょ――」
バヂィッ!!
「いっっった!!」
電撃。
左腕。
走る。
同時に。
黒い《侵脈》が。
弾けた。
「消えた!」
クジャが言う。
「本当!?」
シルヴァ。
左手。
握る。
開く。
「動く!」
「オーラの流れへ混じってるだけなら」
ディーンが答える。
「外から強引に乱せば追い出せる」
「先に言って!」
「時間なかった!」
「痛かった!」
「生きてんだから我慢しろ!」
ヴァイラが。
その様子を見る。
「雷で排除するか」
「…………」
ディーンの眉が寄る。
「また調べてやがる」
「当然だ」
◇
「クジャ」
ティナが言う。
「侵入する瞬間は見える?」
「見える」
「なら教えて」
「うん」
「ディーンさん」
「ああ」
「入ったらすぐ雷で」
「任せろ」
「シルヴァ」
「何?」
ティナが。
白い光を出す。
《構装》。
床ではなく。
空中。
複数の足場。
「できるだけ」
「ヴァイラと直接触れない」
「…………」
「何その顔」
「難しそう」
「やるの!」
「分かった」
ヴァイラが。
長槍を構える。
「対策は早い」
「だが」
黒い脈。
全身。
脈動。
「足りない」
◇
ヴァイラ。
突進。
「右!」
クジャ。
シルヴァ。
空中足場。
踏む。
《風脚》。
横。
槍を回避。
「ティナ!」
「はい!」
新しい足場。
シルヴァの前。
踏む。
方向転換。
「《風刃》!」
至近距離。
ヴァイラ。
槍で弾く。
その横。
「《雷閃》!」
ディーン。
青白い斬撃。
ヴァイラの脇腹。
命中。
「……!」
血。
だが。
浅い。
「硬くなってる!」
ディーンが舌打ちする。
「次!」
クジャ。
右眼。
「床から来る!」
黒い《侵脈》。
ティナ。
《構装》。
四人の足元へ。
白い足場。
「上!」
全員。
石床から。
離れる。
直後。
バギィィン!!
地下の床が。
一斉に隆起。
「このまま!」
ティナが。
足場を連続生成。
シルヴァ。
ディーン。
二方向。
ヴァイラへ。
「――!」
シルヴァ。
剣。
ディーン。
雷剣。
同時。
ヴァイラ。
長槍。
シルヴァを受ける。
右腕。
ディーンの剣を。
直接。
掴んだ。
「何!?」
黒い硬質化した手。
刃。
止める。
ディーンの剣から。
雷。
流れる。
バヂィィッ!!
「…………」
ヴァイラの腕。
焦げる。
だが。
離さない。
「耐えんのかよ!」
「《魔装》は」
ヴァイラが言う。
「身体能力そのものも上がる」
拳。
ディーンの胸。
ドン!!
「がっ!」
吹き飛ぶ。
「ディーンさん!」
ティナ。
《構装》。
壁。
受け止める。
その隙。
ヴァイラ。
シルヴァへ。
「――!」
槍。
一閃。
シルヴァ。
剣で受ける。
ガァン!!
腕。
限界。
剣。
弾かれる。
「っ!」
長槍。
返す。
シルヴァの胸。
ザシュッ!!
「――!」
血。
シルヴァの身体。
後退。
「シルヴァ!!」
◇
ティナが。
駆ける。
「離れて!」
白い光。
《構装》。
巨大な盾。
ヴァイラとの間。
展開。
ヴァイラ。
槍。
突く。
――バギィン!!
一撃。
盾。
砕けた。
「……嘘」
その破片の向こう。
ヴァイラ。
迫る。
ティナ。
剣。
構える。
「下がれ!」
ディーン。
雷。
ヴァイラ。
振り向く。
その間に。
ティナが。
シルヴァを引く。
「大丈夫!?」
「……結構痛い」
「見れば分かる!」
胸。
深くはない。
だが。
血が多い。
「クジャ!」
「♥4」
カード。
淡い光。
傷。
出血。
抑える。
「これ以上は無理」
「十分」
シルヴァが。
息を整える。
「ありがと」
「あと」
クジャが言う。
「ヴァイラ」
「何?」
「魔装」
右眼。
じっと。
黒赤い力を見る。
「ずっと同じじゃない」
ディーンが反応する。
「どういう意味だ」
「減ってる」
「…………」
「少しずつ」
クジャが。
ヴァイラの胸を見る。
「身体の中にある」
「別の力」
「使うたびに減ってる」
シルヴァの目が。
変わる。
「時間制限?」
「多分」
「なら」
ディーンが剣を構える。
「耐えりゃ勝ちか」
「違う」
シルヴァが言った。
「何?」
「ガルドが持たない」
◇
奥。
「ぐっ……!」
ガルド。
聖杖。
地脈の亀裂。
赤黒い瘴気。
押さえ続けている。
腕。
震えている。
封印陣。
一部。
亀裂。
「…………」
ヴァイラも。
そちらを見る。
「正解だ」
「お前」
ティナが睨む。
「最初から」
「時間が経てばこっちが困るって分かってるのね」
「ああ」
「最低」
「評価は自由だ」
ヴァイラが。
地脈を見る。
「《魔装》が切れる前に」
「封印が崩れる」
「それで十分だ」
「させない」
シルヴァ。
前へ。
ディーンが止める。
「待て」
「でも」
「その身体で一人で行くな」
「…………」
「今度こそ」
ディーン。
横へ。
「全員でやる」
ティナ。
反対側。
「私も」
クジャも。
眼帯を外したまま。
「見る」
「……うん」
シルヴァ。
剣。
構える。
◇
「クジャ」
ディーンが言う。
「一番濃い場所は」
「右腕」
「次」
「胸」
「魔王の力が集まってる」
「ティナ」
「はい」
「右腕を使わせるな」
「分かりました」
「シルヴァ」
「本人?」
「ああ」
「了解」
ヴァイラが。
四人を見る。
「作戦は決まったか」
シルヴァ。
少し笑う。
「うん」
「今度は」
「ちゃんと面倒だよ」
「そうか」
ヴァイラ。
槍。
持ち上げる。
「来い」
◇
ティナ。
最初。
《構装》。
白い壁。
三枚。
ヴァイラの右側へ。
連続。
「邪魔だ」
右腕。
黒い拳。
一枚。
破壊。
二枚目。
破壊。
三枚目――
「今!」
クジャ。
♣8。
右腕。
拘束。
「!」
僅か。
止まる。
「ディーン!」
「おう!」
《迅雷》。
雷。
右腕。
「《雷閃》!」
バヂィィィン!!
黒い装甲。
裂ける。
「――っ」
ヴァイラ。
初めて。
顔を歪めた。
「シルヴァ!」
ティナ。
《構装》。
足場。
一直線。
シルヴァ。
走る。
一歩。
二歩。
風。
加速。
ヴァイラ。
左手で。
槍を振る。
「下!」
クジャ。
シルヴァ。
姿勢。
落とす。
槍。
頭上。
「《点穿》!」
剣先。
ヴァイラの胸。
黒赤い脈が。
一番集まる場所。
突き刺さる。
「――!」
風。
爆発。
ドン!!
ヴァイラの身体。
初めて。
大きく。
後方へ吹き飛んだ。
壁。
激突。
――ドガァン!!
「……!」
ティナ。
息。
止める。
「入った……!」
ディーン。
油断しない。
「まだだ」
瓦礫。
崩れる。
「…………」
黒い長槍。
床。
突き刺さる。
その横。
ヴァイラが。
立っていた。
胸。
血。
右腕。
深い斬傷。
黒赤い脈。
明らかに。
弱くなっている。
だが。
「悪くない」
赤黒い瞳。
まだ。
消えていない。
「四人なら」
ヴァイラが言った。
「確かに」
「脅威だ」
シルヴァが。
剣を握る。
「今さら?」
「評価を更新した」
「仕事熱心」
「シルヴァ」
ティナが言う。
「喋ってる場合じゃない」
「はい」
◇
その時。
――ゴン。
奥。
大地が。
強く。
鳴った。
「……?」
ガルド。
両手。
聖杖。
地脈の亀裂。
「もう」
茶金色。
急激に。
濃くなる。
「好き勝手は」
亀裂。
左右。
大地。
閉じていく。
「させん」
赤黒い瘴気。
押し戻される。
「ガルド!」
シルヴァが見る。
「前を見ろ!」
「それ好きだね!」
「集中しろ!」
ガルド。
聖杖。
最後。
地面へ。
叩き込む。
「《封印》!」
――ズン!!
地脈の亀裂。
茶金色の紋様。
重なる。
瘴気。
止まる。
地下。
静かになる。
「…………」
ガルド。
一度。
大きく息を吐く。
そして。
聖杖を。
地面から抜いた。
シルヴァの目が。
少し大きくなる。
「終わった?」
「応急処置だ」
「動ける?」
「ああ」
ガルドが。
ゆっくり。
こちらへ歩く。
「少なくとも」
聖杖。
ヴァイラへ。
「こいつを叩き出す程度にはな」
ヴァイラが。
ガルドを見る。
「…………」
シルヴァ。
ティナ。
クジャ。
ディーン。
ガルド。
五人。
揃う。
対する。
ヴァイラ。
《魔装》。
黒赤い力は。
少しずつ。
弱まり始めている。
ガルドが言った。
「シルヴァ」
「何?」
「今度は」
「一人でやるな」
少しだけ。
シルヴァが笑った。
「分かってる」
剣。
構える。
「五人で」
「終わらせる」
ヴァイラも。
黒い長槍を。
構え直した。
「来い」
聖都アルセリア。
第二軍団との戦い。
その決着が。
近づいていた。




