第30話 侵入者
聖都アルセリア。
東南区。
十数体の魔物が。
一斉に。
ティナへ殺到する。
「――来る!」
ティナ。
右足。
一歩下げる。
《構装》。
白い光。
盾。
――ガァン!!
「くっ……!」
一体。
二体。
三体。
盾へ。
爪。
牙。
巨体。
連続。
腕が。
軋む。
「ティナ!」
「平気!」
クジャ。
カード。
♠7。
投擲。
魔物の横腹。
斬撃。
「まだ右」
「分かってる!」
ティナ。
盾。
解除。
瞬時に。
剣へ再構築。
「はぁっ!」
横薙ぎ。
白い刃。
魔物の前脚を切る。
だが。
倒れない。
「……やっぱり硬い!」
身体。
黒い脈。
《獣刻》。
痛みさえ。
押し潰している。
遠く。
メルザが。
鉤槍を肩へ乗せたまま。
見ている。
「悪くない」
「……何がよ」
ティナが睨む。
「指揮」
「判断」
「自分が標的になった瞬間」
「市民から離れた」
メルザの目が。
僅かに細くなる。
「戦場慣れしている」
「褒められても嬉しくない」
「褒めてないわ」
「じゃあ何なのよ!」
「確認」
メルザが。
指を動かす。
ティナの肩。
《血標》。
赤い印が。
強く光る。
「――!」
魔物たちの動きが。
さらに速くなる。
「ちょっと!」
「今」
クジャが言う。
「濃くなった」
「印!?」
「うん」
「消せそう?」
「…………」
右眼。
開いている。
赤い線。
ティナ。
メルザ。
魔物。
繋がっている。
「多分」
「多分!?」
「元」
クジャの右眼が。
メルザの鉤槍へ向く。
「槍?」
「違う」
「手」
「……手?」
「能力」
クジャが。
右眼を細める。
「メルザからティナに付けた力」
「なら」
ティナが剣を構える。
「本人倒せば?」
「多分消える」
「また多分!」
「見えるけど説明書は出ない」
「それはそうだけど!」
クジャが。
少しだけ笑う。
「行く?」
「行く!」
二人。
同時。
前へ。
◇
別の大通り。
――ドォォン!!
石畳。
砕ける。
「ハハハッ!」
ドレグ。
巨大な鉄棍。
振り上げる。
「避けてばっかじゃねえか!」
「避けなきゃ街ごと潰れるだろうが!」
ディーン。
《迅雷》。
青白い雷。
右へ。
鉄棍。
落下。
直前。
《加重》。
――ズン!!
衝撃。
周囲の窓。
一斉に割れる。
「おい!」
「何だ!」
「壊すな!」
「戦ってんだぞ!」
「場所選べ!」
「お前が逃げるからだろ!」
「お前が追ってくんだろうが!」
ドレグ。
笑う。
「気に入った!」
「俺は嫌いだ!」
ディーン。
剣。
雷。
《雷閃》。
一直線。
青白い斬撃。
ドレグの胸。
「――おっ!」
鉄棍。
横に構える。
バヂィィッ!!
雷。
鉄棍。
弾ける。
「ぐっ……!」
巨体。
一歩。
後退。
「…………」
ドレグが。
胸元を見る。
焦げ。
浅い斬傷。
そして。
にやり。
「やっぱ強え」
「面倒なのに当たったな……」
ディーンが。
心底嫌そうに呟いた。
「もう一発!」
「来んな!」
◇
南居住区。
「こっちです!」
シルヴァが。
逃げ遅れた老人の手を引く。
「西へ!」
「大通りじゃなくて裏道!」
「は、はい!」
兵士が。
避難民を受け取る。
「助かった!」
「まだ中にいる?」
「この通りは確認した!」
「次は北側だ!」
「分かった!」
シルヴァが。
走り出そうとして。
「…………」
止まる。
地面。
見る。
「また」
足元。
嫌な感覚。
黒い。
何か。
風を流す。
普通なら。
路地。
建物。
空。
自由に抜ける。
だが。
一部だけ。
下へ。
引かれる。
「…………」
シルヴァが。
しゃがむ。
石畳。
指を触れる。
違う。
ガルドではない。
昔。
自分を封じた大地の力は。
風そのものを。
地面へ縫い止めた。
これは。
もっと。
気持ち悪い。
入り込む。
広がる。
中から。
壊す。
「シルヴァ!」
兵士の声。
「何してる!」
「……大聖堂」
「え?」
顔を上げる。
遠く。
巨大な白い尖塔。
「敵」
「あそこ行ってる」
「何で分かる!?」
「分かんないけど」
「分かる」
「どっちだ!?」
シルヴァは。
すでに走り出していた。
◇
大聖堂。
正門。
「ぐっ……!」
「立て!」
「まだ通すな!」
聖職兵。
十数名。
前。
一人。
ヴァイラ。
黒い長槍。
その足元。
石床に。
黒い脈。
「もう一度言う!」
聖職兵の男が。
剣を構える。
「ここより先へは通さん!」
「そうか」
ヴァイラ。
一歩。
「なら」
長槍。
石突き。
床。
「止めてみろ」
コン。
《侵脈》。
黒い線。
石床。
一瞬。
「――散れ!」
兵長が叫ぶ。
直後。
バギィン!!
床が。
内側から隆起。
「うわっ!」
隊列。
分断。
ヴァイラ。
その間を。
歩く。
一人。
右から。
槍。
突き。
ヴァイラ。
長槍。
払う。
柄。
腹。
「がっ……!」
一撃。
倒れる。
左。
二人。
ヴァイラが。
地面へ足を置く。
黒い脈。
壁へ。
侵入。
石壁。
横から。
爆ぜる。
「――!」
二人。
瓦礫に押され。
動きを止める。
「殺さない……?」
兵長が。
気づく。
ヴァイラが見る。
「必要がない」
「何だと」
「私は」
長槍。
肩へ。
「お前たちを殺しに来たのではない」
「なら何を――」
「測りに来た」
「…………」
「この街を」
「この大陸を」
「攻める価値と」
「攻めるために必要な代価を」
兵長の顔が。
強張る。
「貴様……」
「魔王軍」
「第二軍団長」
一歩。
「ヴァイラ」
その名を。
兵長は。
忘れなかった。
◇
大聖堂地下。
「最高司祭!」
階段。
聖職者。
転げるように降りてくる。
「敵指揮官が大聖堂内部へ!」
ガルド。
振り返らない。
聖杖。
封印陣。
茶金色の光。
「名は」
「……!」
「分かったのだろう」
「はい!」
聖職者が。
息を整える。
「魔王軍第二軍団長」
「ヴァイラと名乗りました!」
「ヴァイラ」
ガルドが。
静かに繰り返す。
「第二軍団長……」
地下。
封じた黒い脈。
「こいつの力か」
その瞬間。
――ドクン。
「!」
黒い脈。
僅かに。
震える。
封印したはずの箇所とは。
別方向。
「…………」
ガルドの表情が変わる。
「新しい経路だ」
「え?」
「地上から」
大聖堂そのものへ。
侵入している。
「全員」
ガルドが言う。
「この場を離れろ」
「しかし!」
「邪魔になる」
即答。
「最深部へ通じる扉を閉じろ」
「最高司祭お一人で!?」
「一人ではない」
ガルドが。
聖杖を握る。
「大地がある」
「…………」
「行け」
「……はい!」
◇
大聖堂。
中央礼拝堂。
巨大な神像。
五つの紋章。
ヴァイラが。
歩いている。
足元。
黒い脈。
壁。
柱。
床。
四方へ伸びる。
「…………」
長槍。
床へ。
軽く触れる。
情報。
返ってくる。
空洞。
地下道。
封印壁。
術式。
「深い」
そして。
異常なほど。
強い大地の力。
「なるほど」
目を閉じる。
一本。
経路を選ぶ。
《侵脈》。
送る。
瞬間。
――バギィッ!!
黒い脈。
途中で。
潰れた。
「…………」
ヴァイラが。
薄く目を開く。
「見ているか」
◇
「浅い」
地下。
ガルドが。
聖杖を地面へ突いていた。
茶金色。
黒い脈を。
押し潰す。
「試すなら」
「もう少し工夫しろ」
◇
ヴァイラ。
僅かに。
口元が上がる。
「聞こえはしないか」
別経路。
一本。
二本。
五本。
地中。
壁。
柱。
別々の方向から。
地下へ。
◇
「…………」
ガルド。
目を閉じる。
聖杖。
中央。
《鎮環》。
自分を中心に。
大地。
安定。
五本。
黒い流れ。
近づく。
一つ。
右。
封じる。
二つ。
左。
止める。
三つ。
正面。
縫い付ける。
四つ。
壁。
遮断。
五つ目。
「…………」
ガルドの眉が。
僅かに動く。
来ない。
「囮か」
その瞬間。
背後。
石柱。
内部。
――バギィン!!
「!」
黒い脈。
天井側から。
落ちてくる。
ガルド。
聖杖。
振る。
茶金色。
壁。
衝突。
ズン!!
「……なるほど」
ガルドが。
低く呟く。
「地を通るだけではない」
◇
地上。
ヴァイラが。
目を開く。
「反応した」
大地の恩寵。
やはり。
人間が操っている。
自動術式ではない。
しかも。
「早い」
ヴァイラの赤い瞳。
大聖堂奥。
地下へ続く回廊。
「最高司祭」
小さく。
「お前か」
◇
東南区。
「そこ!」
クジャ。
♣8。
拘束。
魔物。
脚。
止まる。
「ティナ!」
「はい!」
ティナ。
《構装》。
白い剣。
踏み込む。
首元。
一閃。
黒い流れ。
断つ。
魔物。
崩れる。
「あと七!」
「数えたくない!」
「六」
「今一体倒したから!?」
「うん」
ティナが。
息を吐く。
肩。
赤い《血標》。
まだ。
残っている。
「……っ」
右腕。
少し。
震える。
クジャが気づく。
「腕」
「平気」
「シルヴァみたい」
「何が?」
「すぐ平気って言う」
「今は平気なの!」
「じゃあ」
クジャが。
ティナの横へ並ぶ。
「早く女倒そう」
「女って言い方」
「名前知らない」
「確かに」
メルザが。
聞こえていた。
「失礼ね」
「じゃあ名前」
クジャが言う。
「……」
「教えて」
メルザが。
一瞬。
黙る。
「メルザ」
「教えるんだ」
ティナが驚く。
「名前くらい隠す必要ないもの」
鉤槍を構える。
「第二軍団魔獣部隊長」
「メルザ」
ティナの目が。
鋭くなる。
「部隊長」
「ええ」
「じゃあ」
ティナが。
白い剣を構える。
「あなた倒せば」
「この魔物たちも止まる?」
「さあ?」
クジャが言う。
「多分」
「クジャ!」
「今度は私の多分」
「余計怖い!」
メルザが。
小さく笑った。
「面白いわね」
「何が?」
「あなたたち」
「よく言われる」
クジャ。
「私は言われない!」
ティナが突っ込む。
「まとめてだと思う」
「もっと嫌!」
メルザ。
鉤槍。
前へ。
「なら」
赤黒いオーラ。
広がる。
「もう少し」
「見せてもらう」
◇
大通り。
ディーン。
低く。
剣を構える。
ドレグ。
鉄棍。
「行くぞ雷!」
「その呼び方やめろ!」
「名前知らねえ!」
「聞け!」
「何だ!」
「ディーン!」
「分かった!」
「素直だな!」
「お前が言うな!」
ドレグ。
地面。
蹴る。
巨体とは思えない。
速い。
「――!」
鉄棍。
横薙ぎ。
ディーン。
しゃがむ。
頭上。
鉄棍。
通過。
直後。
《加重》。
空気が。
押し潰される。
「っ!」
避けただけなのに。
衝撃。
身体。
横へ飛ぶ。
「ハハッ!」
ドレグ。
追う。
「《雷装》!」
青白い雷。
ディーンの全身。
速度。
一気に上がる。
ドレグ。
振り下ろす。
ディーン。
横へ。
雷。
一閃。
脇腹。
「――ぐっ!」
血。
だが。
ドレグ。
鉄棍を捨てない。
「捕まえた!」
「何?」
左手。
ディーンの腕。
掴む。
瞬間。
《加重》。
「――っ!?」
腕。
急激に。
重くなる。
「お前……!」
「俺が重くできるのは」
ドレグが笑う。
「鉄棍だけじゃねえ!」
ディーンの足元。
石畳。
砕ける。
「沈め!」
◇
大聖堂へ続く中央通り。
シルヴァ。
走る。
風。
《風脚》。
途中。
倒れた兵士。
「……!」
止まる。
「大丈夫!?」
「う……」
腹。
強く打たれている。
血は。
少ない。
「敵は?」
兵士が。
震える指で。
大聖堂を指す。
「黒い……槍……」
「一人?」
「……ああ」
「名前は?」
「ヴァ……」
息。
「ヴァイラ……」
「…………」
シルヴァが。
その名を。
初めて聞く。
「ヴァイラ」
「魔王軍……第二軍団長……」
「!」
セイルの言葉。
『第二軍団は、すでに動いています』
シルヴァの表情が。
変わる。
「軍団長」
兵士が。
シルヴァの腕を掴む。
「行くな……」
「え?」
「あいつは……」
「一人で……」
「…………」
シルヴァが。
大聖堂を見る。
そして。
兵士を。
近くの聖職者へ預ける。
「お願い」
「あなたは!?」
「中に」
「待て!」
シルヴァ。
走り出す。
「一人で行くな!」
声。
背後。
だが。
止まらない。
風。
「一人じゃない」
小さく。
「ガルドがいる」
◇
大聖堂。
地下入口。
巨大な石扉。
ヴァイラが。
その前に立っていた。
茶金色。
封印。
「…………」
触れる。
長槍。
黒い脈。
石扉へ。
侵入。
だが。
入った瞬間。
大地の力が。
食い止める。
「強い」
一点。
さらに。
《侵脈》。
集中。
黒い線。
少しずつ。
茶金色の内側へ。
入り込む。
ギギギギ……。
石扉。
僅かに。
亀裂。
「…………」
ヴァイラの眼。
静か。
「壊せる」
その時。
背後。
風。
「――!」
ヴァイラが振り返る。
剣。
目の前。
黒い長槍。
受ける。
――ガァン!!
風。
礼拝堂。
爆ぜる。
「…………」
「…………」
シルヴァ。
剣。
ヴァイラ。
長槍。
初めて。
二人が。
真正面から。
目を合わせる。
「お前が」
シルヴァが言う。
「ヴァイラ?」
「そうだ」
「第二軍団長?」
「ああ」
「…………」
剣を。
押す。
「セイル」
「死んだよ」
「そうか」
それだけ。
シルヴァの目が。
少し細くなる。
「……それだけ?」
「何を求めている」
「部下でしょ」
「そうだ」
「悲しくないの?」
ヴァイラは。
数秒。
シルヴァを見る。
「悲しめば」
「生き返るのか」
「…………」
「セイルは任務を遂行した」
「私は」
「その結果を無駄にしない」
シルヴァの剣。
僅かに。
震える。
「気に入らない」
「そうか」
ヴァイラ。
長槍。
一気に。
押し返す。
「――っ!」
シルヴァ。
後退。
着地。
「私も」
ヴァイラが。
長槍を構える。
「お前を好く必要はない」
足元。
黒い脈。
「知ればいい」
「何を」
「風の恩寵保持者」
黒。
床。
広がる。
「シルヴァ・ライズ」
シルヴァの目が。
見開く。
「……俺の名前」
「知っている」
「何で」
「調べたからだ」
ヴァイラ。
淡々と。
「この大陸を攻める前に」
「危険なものは」
「全て調べる」
黒い脈。
シルヴァの足元へ。
「知らない力ほど」
石床。
爆ぜる。
「――戦場では厄介だからな」
「っ!」
シルヴァ。
風。
上空。
回避。
ヴァイラ。
見上げる。
「飛べる」
小さく。
「確認済みだ」
「……!」
長槍。
構える。
シルヴァが。
空中で。
剣を握り直した。
「俺たち」
「ずっと」
「調べられてたの?」
「ああ」
「エルネアも?」
「そうだ」
「魔物も?」
「一部は」
シルヴァの顔から。
完全に笑みが消える。
「…………」
「東の砦」
ヴァイラが続ける。
「?」
「そこで使われた魔獣も」
「同じ系統だ」
「――!」
ガルゼム。
あの日。
異常なまでに。
止まらなかった魔物たち。
「お前が」
「全てではない」
ヴァイラが答える。
「だが」
「第二軍団が運用した個体には」
黒い脈が。
ヴァイラの腕から。
長槍へ走る。
「私が手を加えた」
「…………」
シルヴァが。
ゆっくり。
剣を構える。
「じゃあ」
風。
足元。
渦巻く。
「あの砦で」
「死んだ人たちにも」
「お前は関係あるんだ」
「戦争とはそういうものだ」
「まだ戦争始まってない」
「始めるかどうかを」
ヴァイラの赤い瞳。
冷たい。
「決めるために来た」
シルヴァの風が。
一気に強くなる。
「……やっぱり」
「何だ」
「嫌いだ」
「問題ない」
ヴァイラ。
黒い長槍。
構える。
「私も」
「好かれるために」
「ここへ来たわけではない」
地上。
風。
地中。
黒い脈。
二つの力が。
大聖堂の床を挟み。
激突する。
そのさらに下。
ガルドが。
顔を上げた。
「…………」
風。
シルヴァ。
そして。
黒い侵入者。
「来たか」
聖杖を握る。
茶金色。
大地。
静かに。
震え始めた。




