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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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27/79

第27話 侵すもの

 大聖堂地下。


 黒い脈が。


 石床の隙間を這っている。


 細い。


 だが。


 確かに。


 生き物のように動いていた。


「…………」


 シルヴァが剣へ手をかける。


 その横。


 ディーンも。


 すでに鞘から半分ほど剣を抜いている。


「クジャ」


 ティナが言った。


「眼は?」


「まだ大丈夫」


「でも使ってないでしょ?」


「うん」


「ならそのまま」


「分かってる」


 ガルドは。


 黒い脈の前へしゃがみ込んだ。


 聖杖。


 石床へ。


 ――ゴン。


 茶金色の光が広がる。


 大地の恩寵。


 黒い脈へ触れた瞬間。


 ビキッ――。


 脈が。


 数本に分かれた。


「逃げた?」


 シルヴァが聞く。


「違う」


 ガルドが低く答える。


「避けた」


「……力が?」


「ああ」


 ディーンが眉を寄せる。


「術式じゃねえな」


「何で?」


「決められた形で動いてねえ」


 ディーンが黒い脈へ剣先を近づける。


「こいつ」


「向こうで誰かが動かしてる」


「遠くから?」


 ティナが聞く。


「多分な」


「できるの?」


「実際やられてんだろ」


「それはそうだけど……」


 その瞬間。


 黒い脈が。


 スッ――。


 一斉に。


 壁の中へ消えた。


「…………」


「消えた」


 クジャが言う。


「いや」


 ガルドが立ち上がる。


「移動した」


「どこ?」


「最深部」


 聖杖を握る手が。


 僅かに強くなる。


「急ぐぞ」


     ◇


 五人は。


 地下深部へ向かって走った。


 石造りの廊下。


 左右。


 封印された扉。


 古い神代文字。


「シルヴァ!」


 ティナが走りながら叫ぶ。


「何!」


「ここ覚えてる!?」


「途中まで!」


「途中まで?」


「俺がいたところより奥は行ったことない!」


「そりゃそうか!」


 クジャが走りながら言う。


「ティナ」


「何!?」


「息上がってる」


「山越えてまだ疲れてるのよ!」


「シルヴァ平気そう」


「こいつがおかしいの!」


「聞こえてる!」


 前。


 ディーンが振り返る。


「喋れるなら余裕あるだろ!」


「ディーンも喋ってる!」


「俺は余裕あんだよ!」


「腹立つ!」


 ガルドだけが。


 一言も喋らず。


 一定の速さで走っていた。


 シルヴァが横へ並ぶ。


「元気だね」


「何がだ」


「年の割に」


「シルヴァ」


 ティナが後ろから叫ぶ。


「今それ言う!?」


「事実」


「お前より長く修練している」


「俺も結構してる」


「地下で暴れていただけだろう」


「…………」


 シルヴァの目が細くなる。


「ガルド」


「何だ」


「今のはちょっと腹立った」


「そうか」


「謝らない?」


「必要を感じない」


「やっぱ嫌い」


「知っている」


 ディーンが笑った。


「仲良くなってんじゃねえか」


「なってない!」


 シルヴァとガルドの声が。


 珍しく重なった。


「…………」


 クジャが言う。


「息合ってる」


「クジャ!」


     ◇


 長い廊下を抜けた先。


 階段。


 さらに地下へ。


 一段。


 一段。


 降りるごとに。


 空気が変わっていく。


 重い。


 冷たい。


 そして。


「……何これ」


 ティナが胸元へ手を置いた。


「気持ち悪い」


「感じるか」


 ガルドが聞く。


「はい」


「オーラとは違う」


「ええ」


 シルヴァも。


 僅かに眉を寄せる。


「昔ここまで来たことないけど」


「嫌な感じする」


「瘴気だ」


 ガルドが答えた。


「これが?」


「まだ薄い」


「封印が正常なら」


「これ以上は漏れない」


 クジャが。


 壁を見る。


「じゃあ」


「今漏れてる?」


「……僅かにな」


 ガルドの顔が険しくなる。


「黒い力が」


「封印へ干渉し始めている」


 ティナが聞く。


「壊されてるってこと?」


「まだだ」


「なら」


「調べられている」


 ディーンが答えた。


「さっきクジャが言った通りだ」


「触って」


「反応見て」


「次の場所へ行く」


「…………」


 シルヴァが剣を抜いた。


「気に入らない」


「珍しいね」


 クジャが言う。


「何が?」


「シルヴァが敵に怒ってる」


「俺いつも怒るよ」


「強い奴いると笑う」


「それは別」


「別なんだ」


「別」


 ティナが呆れたように言う。


「戦闘狂みたいになってるわよ」


「違う」


 ディーンが言う。


「こいつ昔からそうだぞ」


「ディーンまで!」


     ◇


 階段を降りきる。


 そこには。


 巨大な空間が広がっていた。


「…………」


 ティナが息を飲む。


 円形。


 まるで地下に作られた神殿。


 天井は高く。


 無数の巨大な石柱。


 中央。


 直径数十メートルにも及ぶ。


 巨大な封印陣。


 五重。


 十重。


 いくつもの円が重なり。


 その中心には。


 黒い亀裂。


 大地そのものに。


 傷がついている。


「これが……」


「地脈の亀裂だ」


 ガルドが答えた。


 亀裂は。


 ほんの腕一本ほどの幅しかない。


 だが。


 その奥。


 底が見えない。


 赤黒い光。


 ゆっくりと。


 脈打っている。


「近づくな」


 ガルドが言う。


「落ちたら?」


 シルヴァが聞く。


「死ぬ」


「即答」


「もっと悪い可能性もある」


「じゃあ近づかない」


「素直」


 ティナが驚く。


「死ぬって言われたから」


「そこはちゃんとしてるのね……」


 クジャが。


 封印陣を見る。


「黒いの」


「どこ?」


「たくさん」


 まだ。


 眼帯は外していない。


 だが。


 肉眼でも見える。


 石柱。


 床。


 封印文字。


 何本もの黒い脈が。


 地下神殿へ入り込んでいる。


「昨日より」


 ディーンが低く言う。


「明らかに増えてる」


 ガルドも。


 黙って見ていた。


「どこから入ってくる?」


 ティナが聞く。


「地中だ」


「入り口は?」


「一つではない」


「じゃあ塞げない?」


「…………」


 ガルドが聖杖を構える。


「試す」


     ◇


 ――ゴン。


 聖杖。


 地面。


 茶金色の光が。


 巨大な封印陣へ広がった。


「…………!」


 今度は。


 シルヴァにも。


 はっきり見える。


 大地。


 石柱。


 壁。


 すべてが。


 一瞬。


 同じものになったように感じた。


「これ……」


 昔。


 地下牢で。


 何度も自分を押さえつけた力。


 でも。


 規模が違う。


 ガルドの周囲から。


 茶金色の紋様が。


 神殿全体へ。


「《鎮界》」


 ガルドが低く告げた。


 ズン――。


 重圧。


 黒い脈。


 止まる。


「止まった!」


 ティナが言う。


「全部?」


「……いや」


 ディーンが見る。


 一番奥。


 一本だけ。


 黒い脈が。


 動いている。


 ゆっくり。


 しかし。


 確実に。


 大地の恩寵の中を。


 押し進んでくる。


「……強い」


 クジャが呟いた。


 ガルドの眉間に皺が寄る。


 黒い脈。


 一歩。


 さらに。


 一歩。


「おい」


 ディーンが剣を抜く。


「切るぞ」


「待て」


「何でだ」


「今」


 ガルドが。


 黒い脈を見る。


「こちらの力を」


 瞬間。


 ――ドクン!!


 神殿全体。


 黒い脈が。


 一斉に膨らんだ。


「下がれ!」


 ガルドが叫ぶ。


 直後。


 バギィィン!!


 石柱の一本が。


 内部から弾けた。


「――!」


 巨大な石塊。


 ティナたちの頭上。


「ティナ!」


「分かってる!」


 《構装》。


 白いオーラ。


 瞬間。


 巨大な盾。


 ガァン!!


 落下した石塊を受け止める。


「くっ……!」


 ティナの膝が沈む。


「重っ……!」


 シルヴァ。


 踏み込む。


 風。


「飛ばす!」


「人いないからいい!」


「許可出た!」


 風が爆発。


 落石。


 横へ。


 轟音。


「はぁ……!」


 ティナが息を吐く。


「大丈夫?」


 シルヴァが聞く。


「大丈夫」


「腕」


「平気」


「本当?」


「近い!」


「え?」


 シルヴァの顔が。


 ティナのすぐ近く。


 傷を確認しようと覗き込んでいる。


「だから近いって!」


「見えないから」


「見なくていい!」


 クジャが横から言う。


「顔赤い」


「今それ言わない!」


     ◇


「来るぞ!」


 ディーンの声。


 床。


 黒い脈が。


 シルヴァの足元へ。


「――!」


 シルヴァが跳ぶ。


 直後。


 バギン!!


 石床が内部から破裂。


「地面壊せるの!?」


「見りゃ分かるだろ!」


 ディーンが踏み込む。


 剣。


 雷。


「《雷閃》!」


 青白い斬撃。


 黒い脈へ。


 バヂィッ!!


「……!」


 脈が。


 切れた。


「いける!」


 シルヴァが言う。


「切れるけど」


 ディーンが表情を険しくする。


「終わってねえ」


 切れた黒い脈。


 その奥。


 地面の中から。


 また。


 伸びてくる。


「植物みたい」


 クジャが言う。


「根っこ切っても戻る」


「根を探せる?」


 ティナが聞く。


「…………」


 クジャが眼帯へ手をかけた。


 シルヴァが見る。


「無理しない」


「少しだけ」


「痛くなったら終わり」


「うん」


 眼帯。


 外す。


 右眼。


 開く。


「――」


 世界が。


 変わる。


 大地を巡る。


 茶金色。


 ガルドの恩寵。


 青白い雷。


 ディーン。


 風。


 シルヴァ。


 ティナのオーラ。


 そして。


 黒。


「…………!」


 太い。


 今まで。


 見えていたのは。


 枝。


 その下。


 床。


 壁。


 地下。


 さらに。


 聖都の外側から。


 何本もの黒い流れ。


 一本へ。


 集まっている。


「見えた」


「どこ?」


「ここじゃない」


「え?」


 クジャが。


 顔を上げる。


「外」


「聖都の外?」


「もっと」


 右眼。


 痛み。


「……山側」


「距離は?」


「分からない」


「でも」


 クジャが指差す。


「全部」


 黒い流れ。


 地中。


「一つの場所から来てる」


 ディーンの目が鋭くなる。


「本体か」


「多分」


「場所分かる?」


「だいたい」


「よし」


 ディーンが歩き出す。


「行くぞ」


「待て」


 ガルド。


「何だ」


「ここを空けられん」


「お前は残れ」


「そういう話ではない」


 その瞬間。


 黒い脈が。


 クジャへ。


「クジャ!」


 シルヴァが動く。


 風。


 身体を抱えて。


 横へ飛ぶ。


 直後。


 足元。


 爆ぜる。


「……っ」


 二人が転がる。


「大丈夫?」


「うん」


 シルヴァが。


 クジャを抱えたまま聞く。


「眼」


「大丈夫」


「痛い?」


「ちょっと」


「終わり」


「まだ見える」


「終わり」


「でも」


「クジャ」


 シルヴァの声が。


 少し強くなる。


「いいから」


「…………」


 クジャが眼帯を戻した。


「分かった」


「よし」


「…………」


 少し離れたところ。


 ティナが。


 二人を見る。


「…………」


 ディーンがティナを見る。


「どうした」


「何でもないです」


「顔怖いぞ」


「気のせいです!」


 ガルドが。


 黒い脈を押さえながら言う。


「痴話喧嘩なら上でやれ」


「違います!!」


「何の話?」


 シルヴァが聞く。


「あなたは知らなくていい!」


     ◇


 再び。


 黒い脈が動く。


 今度は。


 中心。


 巨大な亀裂へ。


「まずい」


 ガルドの顔が変わる。


「何?」


「そこへ入れさせるな」


「入ったら?」


「封印の内側へ干渉される」


 ディーンが剣を構える。


「じゃあ」


「全部切る」


「待って」


 シルヴァが言った。


「何だ」


「切っても戻る」


「だから何だ」


「クジャが言ってた」


 床。


 地面。


 黒い脈。


「一本の場所から来てる」


「それは分かってる」


「でも今」


 シルヴァが。


 黒い脈を見る。


「こっちに集まってる」


 ディーンが気づく。


「……誘えるか」


「多分」


「何をする気だ」


 ガルドが聞く。


「ガルド」


「何だ」


「封じられる?」


「何を」


「黒いの全部」


「一箇所に集めたら」


 ガルドの目が。


 僅かに細くなる。


「可能性はある」


「じゃあやろう」


「簡単に言うな」


「難しい?」


「非常に」


「なら」


 シルヴァが笑った。


「やる価値ある」


 ディーンが。


 その顔を見る。


「……変わってねえな」


「何が?」


「そこだけはな」


     ◇


「ティナ!」


「何!」


「封印陣の中心守れる?」


「どのくらい!?」


「分かんない!」


「一番困る答え!」


「クジャ!」


「何?」


「黒い脈来た方向教えて!」


「眼使わない?」


「使わない!」


「じゃあ見える範囲」


「それでいい!」


「ディーン!」


「呼ばなくても分かってる!」


 雷。


「細い枝全部切る!」


「うん!」


「お前は?」


 シルヴァが剣を構える。


 風。


「集める!」


「どうやって!」


「風で!」


「説明になってねえ!」


 それでも。


 ディーンは笑った。


「やれ!」


     ◇


 黒い脈。


 四方。


 動く。


「右!」


 クジャ。


 シルヴァ。


 風刃。


 黒い脈の周囲。


 石床だけを切る。


 逃げ道を限定。


「左!」


 ディーン。


 《雷閃》。


 バヂィッ!!


 枝。


 切断。


 黒い流れが。


 一箇所へ。


「来る!」


 ティナ。


 《構装》。


 白い壁。


 中心の亀裂。


 守る。


 ガァン!


 床。


 破裂。


「くっ……!」


「ティナ!」


「平気!」


「本当?」


「今来ないで!」


「分かった!」


「素直!」


 黒い脈。


 集まる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


「まだ!」


 クジャが叫ぶ。


「後ろ!」


 シルヴァが振り返る。


 風。


 剣。


 《風刃》。


 石柱。


 横。


 脈だけ。


 切る。


「今!」


 ディーンが叫ぶ。


「ガルド!」


「分かっている!」


 ガルド。


 両手で。


 聖杖を握る。


 そして。


 地面へ。


 叩き込んだ。


 ――ドンッ!!


 空間。


 震える。


 茶金色。


 爆発するように。


 封印陣へ。


「大地の恩寵――」


 ガルドの声。


 低く。


 響く。


「《封脈》」


 地面。


 盛り上がる。


 黒い脈を。


 左右から。


 挟む。


 逃げようとする。


 黒。


「逃がすな!」


 ディーン。


 雷。


 シルヴァ。


 風。


 ティナ。


 《構装》。


 三方向。


 押し込む。


「――っ!」


 ガルドの額に。


 汗。


「止まれ」


 石床。


 茶金色の線。


 黒い脈へ。


 絡みつく。


「ここから」


 ガルドの眼が。


 鋭くなる。


「先へは行かせん」


 瞬間。


 ――バギィン!!


 黒い脈。


 完全に。


 石の中へ。


 封じ込められた。


 静寂。


「…………」


「…………」


「…………」


 数秒。


 動かない。


「終わった?」


 シルヴァが聞く。


「この区画はな」


 ガルドが息を吐く。


「外からの流入も」


「一時的に遮断した」


「一時的?」


「ああ」


「相手が再び経路を作れば」


 ディーンが剣を鞘へ戻す。


「また来る」


「面倒」


 クジャが言う。


「だな」


 ディーンも頷く。


「お前話分かるな」


「ディーンより」


「何だと」


 シルヴァが笑った。


     ◇


 ティナが。


 壁へ寄りかかる。


「……疲れた」


 シルヴァが近づく。


「腕」


「大丈夫」


「見せて」


「だから近い!」


「怪我開いてない?」


「大丈夫だから!」


 シルヴァがさらに覗こうとする。


「動かないで」


「シルヴァ!」


 ティナの顔。


 赤い。


 クジャが言う。


「やっぱり好き?」


「今その話する!?」


 ディーンが。


 ティナを見る。


 シルヴァを見る。


 またティナ。


「……ああ」


「何ですかその『ああ』!?」


「いや」


「絶対何か分かりましたよね!?」


「何の話?」


 シルヴァだけ。


 本気で分かっていない。


「何でもない!」


 ティナが。


 シルヴァの額を押して離した。


「痛い」


「近いから!」


     ◇


「問題は」


 ガルドが言う。


 空気が。


 再び変わる。


「相手だ」


「クジャ」


 シルヴァが聞く。


「場所」


「だいたいなら」


 クジャが指差す。


 南東。


 正確には。


 聖都の外。


 山腹。


「そこから来てた」


 ディーンが地図を広げる。


「この辺か」


 古い。


 巡礼路から外れた場所。


「……礼拝所」


 ガルドが言った。


「知ってる?」


「ああ」


「百年以上前に放棄された施設がある」


「人はいない?」


「本来は」


「じゃあいるね」


 シルヴァが言う。


「十中八九な」


 ディーンが答える。


「行く?」


「俺は行く」


「俺も」


「私も」


 ティナが言う。


 クジャも。


「行く」


 ガルドが。


 四人を見る。


「私は残る」


 シルヴァが見る。


「封印?」


「ああ」


「今ここを空ける方が危険だ」


「…………」


「不満か」


「いや」


 シルヴァが答える。


「正しいと思う」


 ガルドの目が。


 僅かに変わった。


「そうか」


「何?」


「いや」


「何か言いたそう」


「お前が」


 少し。


 間。


「私の判断を肯定するとは思わなかった」


「全部嫌いなわけじゃない」


「…………」


「人として嫌い」


「シルヴァ!」


 ティナが怒る。


 ディーンが笑う。


「変わんねえなあ」


 ガルドは。


 深く息を吐いた。


「早く行け」


「追い出された」


「お前のせいだ」


     ◇


 その頃。


 聖都郊外。


 放棄された礼拝所。


 地下。


 黒い脈が。


 突然。


 全て止まった。


「…………」


 男が。


 地面から手を離す。


 セイルが見る。


「切断されましたか」


「違う」


「では?」


「封じられた」


「…………」


 男が。


 自分の右手を見る。


「大地の力で」


「完全に?」


「この経路はな」


「なら別の経路を」


「不要だ」


 セイルが僅かに顔を上げる。


「しかし」


「十分見た」


 男は立ち上がった。


「大地の恩寵」


「雷の剣士」


「風の保持者」


「構装を使う女」


 そして。


 一拍。


「眼帯の娘」


「…………」


「こちらの流れを視認した」


「おそらく」


「エルネアでも」


 セイルが答える。


「はい」


「戦闘中、強化個体の流れを正確に見抜きました」


「厄介だな」


「始末しますか」


 男は。


 即答しなかった。


「…………」


「いえ」


 セイルが訂正する。


「まだですか」


「ああ」


「何故でしょう」


「殺せば」


 男は淡々と答える。


「そこで情報が止まる」


「生かしておけば」


「もっと見せる」


「…………」


 セイルが頭を下げる。


「承知しました」


 男が。


 机へ置かれた地図を見る。


 聖都アルセリア。


 大聖堂。


 地下封印。


「それに」


「?」


「こちらも」


 黒い長槍を手に取る。


「そろそろ」


「直接見る必要がある」


 セイルの目が。


 僅かに開く。


「御自ら?」


「ああ」


 黒い軍装。


 長槍。


 赤い瞳。


 男が。


 暗い地下から。


 階段へ向かう。


「セイル」


「は」


「残りの兵を動かせ」


「目的は?」


「聖都を落とすのではない」


 歩みは。


 止まらない。


「確認する」


「何を」


「この大陸が」


 男――


 魔王軍第二軍団長。


 ヴァイラ。


「どれほどの戦力を使えば」


 赤い瞳が。


 静かに細くなる。


「確実に沈むのかを」


 地の底。


 再び。


 黒い脈が。


 ゆっくりと動き始めた。

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