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風葬のシルヴァ  作者: 桜
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24/78

第24話 父

 「……ただいま」


 自分でも。


 どうしてその言葉が出たのか分からなかった。


 二年間。


 一度も帰らなかった家。


 それより前ですら。


 自分にとってここが「帰る場所」だったのは、ずっと昔のことだ。


「…………」


 ゲイルは。


 目の前に立つ息子を見つめていた。


 何かを言おうとして。


 何度か口を開いて。


 結局。


「……ああ」


 それしか出なかった。


「おかえり」


 その声を聞いた瞬間。


 シルヴァの胸の奥が。


 少しだけ痛んだ。


     ◇


「入ってくれ」


 ゲイルが扉を大きく開く。


「二人も」


「あ、お邪魔します」


 ティナが頭を下げた。


「お邪魔します」


 クジャも続く。


 シルヴァは。


 玄関を跨いだところで立ち止まった。


「…………」


 匂い。


 古い木。


 乾いた薬草。


 暖炉。


 全部。


 覚えている。


「変わってない」


「……あまり弄っていないからな」


 ゲイルが答える。


 居間。


 テーブル。


 椅子。


 棚。


 壁に掛かった古い時計。


 そして。


「…………」


 棚の上。


 一つだけ。


 小さな陶器の花瓶が置かれていた。


 白い花。


 シルヴァの視線に気づき。


 ゲイルが言う。


「今日、替えたばかりだ」


「……そう」


 その花を。


 母が好きだったことを。


 シルヴァは覚えていた。


「座ってくれ」


 ゲイルが慌てたように動く。


「茶を――」


「いいよ」


「しかし」


「いいって」


「……そうか」


 また。


 沈黙。


 ティナとクジャが。


 静かに顔を見合わせる。


 普段なら。


 三人いれば、何かしら誰かが喋っている。


 だが。


 今だけは。


 ティナも何を言えばいいか分からなかった。


 ゲイルが二人を見る。


「その……」


「はい?」


「シルヴァの」


 言葉を探す。


「仲間か?」


「はい」


 ティナが答えた。


「一緒に旅をしています」


「そうか」


 ゲイルの顔が。


 僅かに緩んだ。


「こいつが誰かと一緒に帰ってくるとは思わなかった」


「どういう意味?」


 シルヴァが聞く。


「そのままの意味だ」


「俺、普通に友達いるよ」


 クジャが言う。


「私たち友達?」


「違うの?」


「確認」


「今する?」


 ティナが思わず笑った。


「こんな時までいつも通りね」


「何が?」


「そういうところ」


 ゲイルも。


 少しだけ。


 笑った。


 その顔を見て。


 シルヴァが一瞬。


 言葉を失う。


 昔。


 何度も見た顔だった。


     ◇


「腹は減っているか?」


 ゲイルが聞いた。


「減ってる」


 即答。


「あなた昼ご飯食べたでしょ!」


 ティナが振り向く。


「歩いたから」


「まだそんなに歩いてない!」


「家まで来た」


「街の中よ!」


 ゲイルが。


 また少し笑った。


「昔からだ」


「昔からなの!?」


 ティナが驚く。


「よく食べる子だった」


「成長期だから」


「今も?」


「今も」


「まだ成長してる」


「便利な言葉にしない!」


 ゲイルが台所へ向かう。


「簡単なものなら作れる」


「俺も手伝う」


「シルヴァが?」


 ティナが驚く。


「何その反応」


「だって」


「料理くらいできるよ」


「魚焼くくらいでしょ?」


「スープも作れる」


「エマさんに教えてもらったやつ?」


「うん」


 ゲイルの足が。


 少し止まった。


「……エマさん?」


「あ」


 シルヴァが普通に答える。


「二年間、一緒にいた人」


「そうか」


「キャラバンで」


「そうだったのか」


「うん」


 ゲイルは。


 それ以上聞かなかった。


 ただ。


「なら」


 小さく笑う。


「教えてもらったものを食べてみたいな」


「今日は作らないよ」


「何故だ」


「疲れた」


「今の流れ何だったの!?」


 ティナが頭を抱えた。


     ◇


 夕方。


 テーブルには。


 肉と根菜を煮込んだスープ。


 焼いたパン。


 卵。


 山菜。


 簡単な料理が並んでいた。


「…………」


 シルヴァがスープを一口。


 止まる。


「どうしたの?」


 ティナが聞く。


「……同じ」


「何が?」


「昔の味」


 ゲイルが。


 少しだけ目を伏せる。


「エリナに教わったからな」


「…………」


 シルヴァは。


 もう一口。


 食べる。


 母の料理と。


 完全に同じではない。


 でも。


 近い。


 懐かしい。


「美味しい?」


 クジャが聞く。


「うん」


「よかった」


 何故かクジャが頷く。


 シルヴァが見る。


「何でクジャが嬉しそうなの?」


「シルヴァ嬉しそうだから」


「俺?」


「うん」


「…………」


 ティナが少し微笑む。


「よかったじゃない」


「何が?」


「別に」


「二人とも今日変だね」


「あなたに言われたくない!」


     ◇


 食事が進むにつれて。


 最初の硬い空気は。


 少しずつ。


 和らいでいった。


 ゲイルが聞く。


「この二年間は」


「どうしていたんだ?」


「旅してた」


「それは聞いた」


「キャラバンの護衛」


「ずっと?」


「うん」


「どんな人たちだ」


 シルヴァが少し考える。


「ロイド」


「エマ」


「ドラン」


「ルカ」


「ミア」


 名前が。


 次々に出る。


「ロイドはまとめ役」


「エマは料理うまい」


「ドランは剣見てくれて」


「ルカはうるさい」


「ミアも結構うるさい」


「シルヴァ大好きだったけどね」


 ティナが言う。


「そう?」


「ずっとくっついてたじゃない」


「子供?」


 ゲイルが聞く。


「八歳です」


「そうか」


 シルヴァがパンをちぎる。


「今は東方の砦にいる」


「安全なのか?」


「ティナのところだから」


 ゲイルがティナを見る。


「君は軍人なのか?」


「東方防衛隊の隊長をしていました」


「隊長?」


 ゲイルが驚く。


「この年で?」


「十六です」


「シルヴァと同じか」


「はい」


 ゲイルがシルヴァを見る。


「立派な仲間だな」


「うん」


「…………」


 ティナの頬が。


 僅かに赤くなる。


 クジャが見た。


「嬉しそう」


「普通!」


「顔赤い」


「暖炉!」


「今日便利だね」


「クジャ!」


 ゲイルが。


 何となく察したような顔をする。


「……そうか」


「何ですか!?」


「いや」


「絶対何か思いましたよね!?」


「何も」


「今の『そうか』何ですか!」


 シルヴァだけが。


 普通にスープを飲んでいた。


「ティナうるさいよ」


「あなたは少し気づきなさいよ!」


「何に?」


「もういい!」


     ◇


 食器を片づけた後。


 四人は再び。


 居間へ戻った。


 今度は。


 さっきまでの笑い声はなかった。


 シルヴァが。


 ずっと聞かなければならないと思っていたこと。


 でも。


 ずっと聞きたくなかったこと。


「父さん」


「……ああ」


 ゲイルも。


 分かっていたのだろう。


 シルヴァの声を聞いた瞬間。


 背筋を伸ばした。


「聞きたいことある」


「何でも聞け」


「…………」


 シルヴァの手が。


 膝の上で握られる。


「何で」


 一度。


 言葉が止まる。


「俺を閉じ込めるのに」


「賛成したの」


 ティナとクジャは。


 口を挟まない。


 ゲイルも。


 すぐには答えなかった。


「…………」


 長い沈黙。


「覚えていたか」


「忘れるわけないだろ」


「……そうだな」


 ゲイルが。


 両手を組む。


「お前の風が暴走した後」


 ゆっくり。


 話し始める。


「聖都では」


「お前を生かしておくべきではないという声が出た」


 シルヴァの目が。


 僅かに細くなる。


「……知ってる」


「どこまでだ」


「俺が危ないって言われてたくらい」


「そうか」


 ゲイルは。


 一度目を閉じた。


「処刑の話まで出ていた」


「…………」


 ティナの顔が変わった。


 クジャも。


 僅かに目を細める。


 シルヴァだけは。


 何も言わない。


「私は反対した」


 ゲイルが続ける。


「当然だ」


「お前は私の息子だから」


「…………」


「だが」


 拳が強く握られる。


「それだけでは止められなかった」


「じゃあ」


 シルヴァが聞く。


「ガルド?」


 ゲイルの目が上がった。


「ああ」


「最高司祭ガルドが」


「処刑ではなく」


「封印を提案した」


「…………」


 シルヴァの表情は。


 変わらない。


 だが。


 指だけが。


 僅かに動いた。


「地下へ隔離し」


「風を封じ」


「外へ出さない」


「その条件なら」


「命は保証すると」


 シルヴァが。


 低く聞く。


「それで父さんは頷いた?」


「……ああ」


 短い。


 答え。


「頷いた」


「…………」


「お前を生かすためだった」


 シルヴァの目が。


 一瞬だけ鋭くなる。


「それ言えば」


「許すと思ってる?」


「思っていない」


 即答だった。


 シルヴァが止まる。


 ゲイルは。


 正面から。


 息子を見る。


「お前を生かしたかった」


「それは本当だ」


「だが」


 声が少し震える。


「お前を地下へ送ることに同意したのも」


「私だ」


「…………」


「何年も」


「お前をあそこに置いた」


「それも事実だ」


 ゲイルは。


 目を逸らさない。


「私は」


「お前に許してもらえるとは思っていない」


 静かな声。


「…………」


 シルヴァが。


 目を伏せる。


「俺」


「うん」


「父さんが」


 一度。


 息を吸う。


「俺のこと捨てたんだと思ってた」


「…………」


「母さんは来た」


「何回も」


「でも父さんは」


「途中から来なくなった」


 ゲイルの顔が。


 苦しそうに歪んだ。


「それは……」


「何?」


「最初は」


 ゲイルが言う。


「何度も行った」


 シルヴァの眉が動く。


「覚えていないか」


「…………」


「お前は」


 苦く笑う。


「私の顔を見るたび」


『帰れ』


「そう言った」


 シルヴァの中。


 ほんの僅か。


 記憶。


 鉄格子。


 その向こう。


 父。


『シルヴァ』


『帰れ!!』


 風。


 叫び。


「…………」


「覚えてる」


「そうか」


 ゲイルは頷く。


「その度に」


「私は」


「自分が来ることでお前を苦しめていると思った」


「だから来なくなった?」


「ああ」


「…………」


「間違っていた」


 ゲイルが言った。


「今なら分かる」


「お前がどれだけ怒っていても」


「どれだけ嫌われても」


「私は行くべきだった」


 シルヴァが。


 拳を握る。


「母さんは来た」


「……ああ」


「ずっと」


「ああ」


「父さんは来なかった」


「……ああ」


「だから」


 シルヴァの声が。


 ほんの少し震えた。


「捨てられたと思うだろ」


「そうだな」


 ゲイルの声も。


 震えていた。


「そう思わせたのは」


「私だ」


 沈黙。


 長い。


 誰も。


 何も言わない。


     ◇


「ガルドは」


 シルヴァが聞いた。


「昔から、あの力使ってたよね」


「……あの力?」


「俺の風を封じてたやつ」


「ああ」


「今日」


 白嶺山脈で見たもの。


「同じ力を見つけた」


 ゲイルが顔を上げる。


「山で?」


「崩落が止まってた」


「…………」


「クジャが」


 クジャを見る。


「俺の風とか、ティナの光と同じ種類の力だって見た」


 ゲイルの目が。


 ティナへ移った。


「光?」


「…………」


 ティナが一瞬迷う。


 シルヴァが言う。


「後で話す」


「……そうか」


「多分」


 シルヴァが続ける。


「ガルドが使ってたの」


「大地の恩寵だ」


 ゲイルは。


 しばらく黙っていた。


「私は」


「その名前では聞いたことがない」


「ガルドからも?」


「あの方は」


 少し考える。


「自分の力について、ほとんど語らない」


「昔から?」


「ああ」


「ただ」


「?」


「お前の封印区画を作る時」


 ゲイルの表情が険しくなる。


「ガルド自身が地下へ何度も降りていた」


 シルヴァの目が。


 少し細くなる。


「やっぱり」


「床や壁に」


「特殊な封印を刻んでいた」


「…………」


「お前の風が外へ漏れないように」


 シルヴァは。


 自分の右手を見る。


 あの感覚。


 クジャが見た。


 恩寵の残滓。


「……間違いなさそうだね」


 ティナが呟く。


「大地の恩寵」


「うん」


 シルヴァは。


 嬉しそうではなかった。


     ◇


「それから」


 ゲイルが言った。


「大聖堂へ行くつもりなのか?」


「明日」


 シルヴァが答える。


「ガルドに会う」


「…………」


「嫌だけど」


「そうか」


「あとディーン探してる」


「ディーン?」


 ゲイルの反応が変わる。


「知ってるの?」


「知っている」


「レオンと一緒にいた頃」


「何度かここへ来た」


「ここに?」


「お前が旅立つことになった時にな」


 シルヴァが少し驚く。


「何しに?」


「私に文句を言いに」


「ディーンが?」


「ああ」


 ゲイルが苦笑する。


「お前の剣の動きが悪いのは、幼い頃まともに身体を動かせなかったせいだ、と」


「……言いそう」


「かなり怒られた」


「ディーン誰にでも言うね」


 少しだけ。


 空気が和らぐ。


「それで」


 シルヴァが身を乗り出す。


「最近見てない?」


「…………」


 ゲイルが。


 妙な顔をした。


「何?」


「いや」


「何?」


「……三日前だ」


 シルヴァの動きが。


 止まった。


「え?」


「三日前」


「ディーンが聖都に戻っている」


「――!」


 シルヴァが立ち上がった。


「どこ!?」


「落ち着け」


「どこにいる!?」


「シルヴァ!」


 ティナが袖を掴む。


「今から探しに行かない!」


「でも!」


「もう夜!」


「聖都明るいよ!」


「そういう問題じゃない!」


 ゲイルが。


 久しぶりに。


 少し大きく笑った。


 シルヴァが振り向く。


「何?」


「いや」


 ゲイルは。


 どこか懐かしそうに息子を見る。


「変わったようで」


「変わっていないと思ってな」


「どっち?」


「両方だ」


「意味分かんない」


 ティナが言う。


「私、ちょっと分かります」


「ティナまで?」


 クジャも頷く。


「私も」


「何で?」


「分かりやすいから」


「それ最近よく言われる」


     ◇


「ディーンは」


 ゲイルが続けた。


「大聖堂へ向かった」


「ガルドのところ?」


「おそらく」


「何のために?」


「そこまでは知らない」


「ただ」


 ゲイルの表情が。


 再び真剣になる。


「最近、大聖堂の様子がおかしい」


「おかしい?」


 ティナが聞く。


「ああ」


「数日前から警備が増えた」


「地下へ入れる人間も制限されている」


「それに」


 ゲイルが窓の外。


 街の中心にそびえる大聖堂を見る。


「昨日の夜」


「地面が僅かに揺れた」


「地震?」


「違うと思う」


「何で?」


「聖都では」


 ゲイルが言う。


「小さな地震なら珍しくない」


「白嶺山脈の麓だからな」


「だが昨日のものは」


 少し言葉を選ぶ。


「揺れたというより」


「?」


「地下で」


 低く。


「何かが動いたような感覚だった」


 三人の表情が変わった。


 エルネア。


 盗まれた資料。


 古代封印。


 聖都。


 そして。


 魔族たち。


「……偶然?」


 クジャが聞く。


「だったらいいけど」


 ティナが答える。


 シルヴァは。


 大聖堂を見た。


「明日」


「行く」


「うん」


 ティナも頷く。


「ディーンも」


「ガルドも」


「地下の封印も」


 クジャが言う。


「全部あそこ」


「…………」


 シルヴァが。


 少し嫌そうな顔をした。


「やっぱり帰りたい」


「駄目」


「早い」


「言うと思ったから!」


     ◇


 その夜。


 ティナとクジャは。


 ゲイルが用意した二階の客室へ向かった。


「二部屋?」


 ティナが聞く。


「ああ」


「君たち二人で一部屋」


「シルヴァは昔の部屋が残っている」


「……残ってるの?」


 シルヴァが聞く。


「そのままだ」


「…………」


「使いたくなければ客室を――」


「いい」


 シルヴァが答える。


「使う」


「そうか」


     ◇


 二階。


 廊下の奥。


 シルヴァは。


 一人で扉を開けた。


「…………」


 小さな部屋。


 ベッド。


 机。


 棚。


 子供用の木剣。


 昔のまま。


「……これまだあったんだ」


 木剣を取る。


 軽い。


 短い。


 小さい頃。


 勇者でも。


 恩寵でも。


 何でもなかった時。


 ただ。


 剣士になりたいと思って振っていた。


『シルヴァ』


 母の声。


『ご飯よ』


「…………」


 机。


 その上。


 一枚。


 古い布。


 母が縫ったもの。


 シルヴァは。


 ベッドへ座った。


「母さん」


 声は。


 誰にも聞こえない。


「帰ってきたよ」


 返事はない。


 でも。


 今日は。


 昔より。


 少しだけ。


 この家が。


 息苦しくなかった。


     ◇


 同じ頃。


 聖都アルセリア。


 大聖堂。


 地下。


 幾重もの石扉を越えた先。


 巨大な封印陣。


 地面を走る。


 無数の古い紋様。


 その中心に。


 一人の男が立っていた。


 白と土色を基調とした法衣。


 長い聖杖。


 年齢は五十前後。


 厳格な顔。


 聖都アルセリア最高司祭。


 ガルド。


「…………」


 聖杖を。


 地面へ突く。


 ――ゴン。


 茶金色の光。


 地面を走る。


 封印陣。


 その一部。


 黒い。


 細い線。


「……」


 ガルドの目が。


 険しくなる。


 それは。


 この聖都の封印には存在しないはずの力だった。


 外から。


 何かが。


 地中へ。


 入り込んでいる。


「侵入者か」


 背後。


 石壁にもたれていた男が答える。


「多分な」


 黒髪。


 黒い旅装。


 腰の剣。


「面倒なのが来てる」


 ガルドが振り返る。


「ディーン」


「何だ」


「その言葉をお前から聞くと」


「説得力がない」


「どういう意味だ」


「お前自身が面倒だからだ」


「……相変わらず嫌な爺だな」


「お前も相変わらずだ」


 ディーンが壁から身体を起こす。


 そして。


 封印陣を走る。


 黒い線を見る。


「こいつ」


 低く言った。


「俺が山で会った魔族と」


「同じ臭いがする」


 ガルドの瞳が。


 細くなる。


「魔王軍か」


「さあな」


「まだ名前までは吐かなかった」


 ディーンが剣の柄へ手を置く。


「ただ」


 大聖堂の地下。


 さらに深い場所。


「ここを」


「探してるのは間違いない」


 茶金色の光と。


 黒い脈。


 二つの力が。


 地の底で。


 静かにぶつかっていた。

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