第五話
白い陶器のカップや、茶葉の山。色鮮やかな巻布。ハンナ様が自ら案内してくださり、商会の中を見てまわった。たくさんの商品に囲まれ、どこか異国の香りが漂うこの空間に、胸が躍る。
「見たことのない隣国の商品ばかりです。この粒は…?ルドゥー産…隣国辺境の領地の一つですね。果実の実、ヘーゼルと書いてある……榛の実ですね。殻付きだとこんな見た目をしているのか……」
「さすが、隣国のことに詳しいわね」
「一つ提案があるのだけれど」
ハンナ様がすっと表情を引き締めて、切り出す。
「……ここで働いてみない?」
「え……?」
予想もしていなかった言葉に、思考が停止する。
カルディナ商会は、王都でも有名な大きな商会だ。僕みたいな家督も継げない男爵家の次男で、学園でも目立たない人間が足を踏み入れていい場所じゃない。
「私なんかが、ここで……?いえ、でも……ただの学生ですし、実務の経験もありません。何より、私なんかがお役に立てるとは……」
自信のなさから視線を落とす。
すると、そっと僕の手の上に、温かい体温が重ねられた。
「……!」
驚いて顔を上げると、ハンナ様がすぐ近くで、包み込むような笑みを浮かべて僕を見つめていた。
握られた彼女の手は小さく柔らかいのに、どこか力強くて、冷え切っていた僕の手を優しく包み込んでくれる。
「お役に立てないなんて言わせないわ。さっきの資料の解読だって、その豊富な知識だって、誰にでも真似できることじゃないのよ。……私はね、真面目で語学に長けたノア様の力を買っているの」
まっすぐな瞳で、僕の価値を肯定してくれる言葉。彼女にとっては、期待する優秀な学生に対する励ましなのかもしれない。けれど、誰にも必要とされていないと思い込んでいた、僕の胸に…温かいものがこみ上げる。
「あと1年学園に通われるでしょう?学業に差し障りのない程度で構わないわ。まずは週末などに、貴方の力を貸してくれないかしら」
重ねられた手から伝わる体温と、必要とされているという事実。それが、僕の背中を優しく押してくれる。
僕は小さく息を吸い込むと、彼女の手をそっと握り返した。
「やってみたいです。ぜひ、働かせてください」




