第十三話
「こ、これは……!!せいなる泉の水をくむ、勇者のこびんですねっ!!」
テオドール様は小瓶を両手で持ち上げて光にかざし、アレックスと一緒に飛び跳ねて大喜びしている。
「ありがとうございます、ノア様。テオくん、本当によかったわね。……でもアレックスが少し困っているから、そのリボンはテオくんが腕に巻きましょうか」
ハンナ様が苦笑しながら、アレックスの前足にぐるぐると巻きつけられていたリボンを解いてあげる。
「お姉さま、乙女のせりふを言ってください!」
「えっ……?こ、こうかしら……?『聖なる泉の導きが、勇者様とともにありますように。……どうか、ご無事で帰ってきてくださいね』」
ハンナ様は少し照れたように頬を染めながら、解いたリボンにそっと唇を寄せ、テオドール様の腕に結び直してあげた。
大満足のテオドール様は、「こびんに、せいなる泉のお水を入れてもらってきます!」とアレックスとともに厨房へ駆け出していった。その後を侍女が慌てて追いかけていく。
「ふふ、騒がしくしてごめんなさいね。……そういえばノア様、今日はお父様が急用で不在にしておりまして、お会いできず申し訳ありません」
「いえ、突然押し掛けたのは僕の方ですから。カルディナ卿によろしくお伝えください」
そうして二人きりになり、僕はそっと胸ポケットから小さく包まれた小箱を取り出した。
「……ハンナ様。実は、ハンナ様にもお土産がありまして。先日、素敵なハンカチをいただいたお礼です」
「まあ、私にまで……?……ありがとうございます、ノア様」
受け取ったハンナ様の、ぱっと華やぐような嬉しそうな笑顔。
(……ああ、この笑顔が、見たかったんだ)
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「いただいたお守りのおかげで、怪我もなく無事に帰ってくることができました」
「……お役に立てたのなら、本当に良かったですわ」
その時、いつの間にか小瓶に水を入れて戻ってきていたテオドール様が、絨毯の上でアレックスに絵本を読み聞かせている声が聞こえてきた。
「そうして勇者はいずみの町の、乙女のもとへとたどりつきました。──『ずっとずっと、ごぶじをいのっておりました……!』『ただいまもどりました、私のかけがえのないあなたのもとへ──』」
──かけがえのないあなた。
つい先ほど交わしたばかりの僕たちの言葉に、勇者と乙女の言葉が重なって脳裏に響く。
微笑ましく弟を見守っていたハンナ様が、ふと、こちらを振り返った。その柔らかく可憐な笑顔に、僕の心臓がうるさいほど跳ね上がる。
勇者物語の結末は──。




