2話 竜人国で甘い物探す
さてさてさーて。なんの計画もなしに飛び出してきたのはいいがここはどこなんだろうか。魔物というか動物もほとんどいない。この森はどこまで広がっているのだろうか。まっ、なるようになるか。
そんな軽い気持ちで僕はただ歩いた。何度夜が来たかなんて考えなかったただ歩いていたんだ。しかし、見えるのは緑、緑、緑。たまに林檎の赤程度。
腹が減った。ここに来てから常日頃そう思っていたが今はマジでヤバい。甘い物がとか考える余裕すらない。いやまて。僕の甘い物への愛はその程度だったのか? いや、違う。そんなはずない!
あれ? これ昨日もいや、その前にもやった気がする。この思考もまたやったと思う。
あー。もうだめ……誰かたす、けて。
視界がぼやける中僕はある影を見つけた。
……尻尾? 大きな尻尾だ。……尻尾!!
飯だ! 僕は気付けばそれに向かっていた。凄く大きな尻尾。ネズミや猫なんて大きさじゃない。木に隠れて全体は見えないけど少なくとも修学旅行で見た鹿くらいはあるんじゃないか!?
届く。もうちょっとで! 僕は尻尾を掴んだ。
「きゃ!」
動物の鳴き声だろうか。直後、掴んだ尻尾が荒れ狂う、ジェットコースターでも経験しないような宙を浮く感覚。直後、背中に衝撃を与えた。地面に投げ捨てられたのか、それとも木に叩きつけられたのかは分からないでも凄く痛い。僕の視界はゆっくりと黒く沈んでいたのだった。
話し声……2人? いや3人だろうか。全員女性だろう。僕はそんなことを考え目を開いた。
「あ、目が覚めた。」
一番最初に目に入った光景はそう呟いた赤髪の女性の顔だった。しかし、違和感があった。頭には角のようなものが生えているではないか。
僕は頭をフルに回転させ状況を整理する。
確か尻尾を見つけて飛びかかり……そこからの記憶がない。てかどうでもいい、それより腹減った。
「大丈夫か? お前。なんでこんなところに……」
「腹減った。飯をくれ。」
相手が何か話しかけてきたが今の僕にはそんな余裕はない。今すぐ何か食べなければ死んでしまいそうなんだ。
「はやく……は、やく。」
赤髪の女性は少し呆れたような目を僕に向ける。
あぁ、だめだ。もうだめだ。ごめんよ、僕死ぬみたいだ。僕の瞼が少し重くなるのを感じる。
「まて! 待て待て。わかった。すぐに持ってくる。メモリー! 飯を作ってくれ! 早急だ。」
ペチ……ペチ。
頬が痛い。なんだ、なんなんだ! やめてくれ。僕は顔を避ける。
「あ、今度こそ目を覚ましたか? 飯、持ってきたぞ。」
僕はほのかに香る料理の香りを嗅ぎつける。思わず飛び上がる。
バギィ!!
何か激しい音が聞こえたが僕にはきっと関係ない。そばの椅子に置いてあった料理を僕はがむしゃらに食い尽くした。
助かった。まだお腹は空いているが、ひとまずは良かった。そういえばさっきの女性にお礼をしなければいけないな。
「すいません。ありがとうございました。」
僕はそう言い振り向くと大変荒れた部屋が広がっていた。なんだ、凄いぐちゃぐちゃな部屋だな。僕はどこで寝ていたんだ? まあいい。お礼の続きを。
「あの〜。」
部屋の状態を眺める赤髪の女性に話しかけた瞬間だった。
「セレナといい、お前といい……また家具を直さなければいけないではないか! 人族だからと生かしておいたのが間違いだった。今すぐにでも殺してやる!」
あれ、なんかこのちょー怒ってる。もしかして……これ僕がやっちゃったのかな?
飛び起きた時の音を思い出す僕、とびかかる女性。僕は咄嗟に頭を下げた。いや、体勢を下げていた。土下座というやつだ。
「ちょっと待ってよ。クルス!」
「なんだ! メモリー、いまこいつを殺すから下がっていなさい。」
「でもその人凄い謝ってるよ?」
頭を上げられない。今上げたらどうなるかなんて分かったもんじゃない。最悪殺されるんだ。でもメモリーという子が助けてくれているらしい。
「何? これが謝る奴の態度か? 恐怖で萎縮してしまったようにしか見えんが?」
土下座浸透してないよ! 萎縮したと思われてるよ! 謝ってると思われてないんだけど!
「土下座ってやつだよ。ほら、アイちゃんが言ってたでしょ?」
あぁ、良かった。どうにかなりそうだ。土下座を知ってる人がいて本当に良かった。危うくマジで死ぬとこだった。
「土下座だと? あっ、そういえば言っていたかもしれないな。これが自分の尊厳を捨てた謝罪というやつか。」
痛い、言葉のナイフが痛いよ。確かにニュアンスとしては合ってるけど、そんな重々しい意味で使ってる現代人、今の日本にほとんどいないからね!?
「顔を上げろ。馬鹿者。その謝罪に免じて許してやる。わざとではないのだろう? だが次はないと思え。」
良かった……助かった。でも腹減った。
「ありがとうございます。それじゃあご飯のおかわりください!」
あっ。口滑った。
「お前、やはり一発殴らせろ。」
怒るクルスさん。その後ろであたふたするメモリーが近づいてくると僕の手から皿を取っていく。
「そ、それじゃあ私はおかわり作ってくるね。」
あ! メモリーさん逃げた! まって。俺も……。
「何逃げようとしてるんだ?」
大きな影、え、壁? あっ、無理だ。これ。
痛い。顔面にドカンと一撃を食らった。でも今僕はメモリーさんの作るおかわりを食っている。ちなみに三杯目だ。
「美味しいです。メモリーさん。」
青い髪を持ち、やはり角を持つ少女はおどおどと頬を赤く染めながら呟いた。
「あ、ありがとうございます。」
照れているな。あまりこう言われるのは少ないのか? あまり外交的ではないのかも。話かけるのは最低限の方がいいかもしれないな。
そんなことを考え、僕はスプーンを口へ運ぶ。
「あらあら、もう仲良くなったの? 良かったわ〜。」
これで仲良くなった判定なのか。
この緑の髪で、やはり角を生やしているいかにもお姉さんといった女性がステラというらしい。何故知ってるのかって? クルスさんが「ステラねぇさん」と言っていたからね。
きっと姉妹なのだろう。髪色も性格も全然違うけどここは異世界だからね。そんなこともあるでしょ。僕はまたスプーンを口へ運んだ。
「本題に入ってもいいかな?」
クルスさんがドンと机を叩き、場を正す。
「それで、あなたは何者なの?」
うん。美味しいね。そろそろなくなってしまうな。
「甘党です。」
「それがお前の名前なのか?」
「違いますよ。甘い物が好きなんです。」
僕は皿の料理をかき集めスプーンを口に運んだ。
「メモリーさん。おかわりいいですか?」
「うん。」
そう言い、メモリーさんは皿を持って行き奥へ消える。
「そういう話をしているのではない。なぜあの森に居たのかと聞いているんだ。」
「う〜ん。パティシエを探してたんですよ。」
「人探しということか?」
「甘い物を作る職人です。」
「なんだ、そのふざけた職業は。」
ふざけた職業だと? 流石に恩人のクルスさんでも言っちゃあいけないことを言いましたよ。
「別におかしくないでしょ。この世界にもパン屋さんや食べ物屋さんはあるでしょ? それが甘くなっただけじゃないですか。それが甘い物になっただけで冒険者と騎士団みたいに種類が分けられてるだけですよ。」
少し間が空く。え? なに? なんか変な空気になっちゃったんだけど……。
それを最初に破ったのはステラねぇさんだった。
「甘い物のお店、いいわねぇ。でも、少なくともこの国にはそんなお店はないわねぇ。」
「え? ケーキも、プリンもないんですか?」
「う〜ん。ケーキって言うのは女王様が作ってくれたから分かるけど、プリンって言うのは分からないわね〜。」
女王様がケーキを? どんな世界だ? それ。いやいや、それよりこの世界にお菓子はないだと? 嫌だー。俺はもう死ぬしかないのか。
「ねぇ、そのケーキってやつメモリーが作れるんじゃない? 前に女王様と一緒に作ったって言ってたし。」
「本当か! ケーキが食べれるのか?!」
僕は机に手を置き立ち上がる。
ギギィ。
その拍子に机が少し軋んだ。クルスが僕を睨みつける。そうだよ。僕はデブなんだ。大人しくしなくては……。
するとそこに丁度よくおかわりを持ってきたメモリーが帰ってくる。どうしよう。僕から話しかけていいものか。お願いクルスさん、ステラさん……。
「ねえ、メモリーちゃん? 前に女王様とケーキって言うの作ってたじゃない? あれね。すごい美味しかったからまた食べたいなぁなんて思うんだけどもう一度作れないかしら?」
ステラさん僕にウィンクを送る。ありがとう! ステラさん!! 僕はこれで救われるんだ!
「無理です。」
その一言が僕をどん底に叩きつける。カツ丼でも食べたい気分だ。
「それはどうしてだ。」
クルスさんが聞きたいことを先に聞いてくれた。
「材料が特殊なんですよ。スポンジ? っていうのと生クリームっていう材料はアイちゃん特製ですし苺も高級品ですから。」
「さっきは言いそびれたが女王様をアイちゃんと呼ぶのはやめろ。彼女はもう普通の竜人ではないんだ。王様なのだぞ?」
「アイちゃんはアイちゃんです。」
クルスさんは小さくため息を吐いた。
「もういい。話を戻すぞ。結局お前はだれなんだ?」
誰? 誰か。僕の名前ってなんだっけ? う〜ん。僕は記憶を探る。自分の名前、自分の名前……。
だめだ。思い出せない。
名前という、自分を証明するものが、脳の引き出しから綺麗さっぱり消えている。
「分からない……。」
あ。つい口に出してしまった。
「分からないだと? 自分の名前が?」
クルスさんは呆れたように席を立ち上がる。
「それじゃあどこから来たの?」
ステラさんの質問には答えられる。
「日本です。」
うん。これは覚えている。母と仲が良かったことも学校でこの体型で愛されていたことも覚えている。そして、部屋に大量に置いてあったお菓子も全て僕は把握している。そういえばアイス机に置きっぱなしだな。お母さん、冷蔵庫にしまっててくれると助かるんだけど。
そうだ。今はクルスさん達と話していたんだった。話に戻らなければ。
しかし、様子が変だ。3人が顔を見合っている。どうかしたのか?
「おい。さっき日本と言ったか?」
クルスさんが声を低くしてそう言った。
「はい。それがどうかしましたか?」
「我ら竜人族には王がいるんだ。さっきも話題に出ていただろう。魔王アイは日本での記憶を持ち生まれてきた存在なんだ。」
魔王が元日本人だと? それは興味深い。
「ふふふ。」
「何を笑っている。」
「見つけた。」
やっとだ。やっと……。
「ステラ姉、メモリー! 警戒しろ。」
3人が僕を囲む。
「やっと甘い物が食える!!」
「魔王はケーキがつくれるんだよな。それなら元パティシエだったかもしれない。早速会いに行こう!!」
クルスさんが尻もちをつく。
「あまりびっくりさせないでくれ。まあ女王様も日本人には深く興味を持っている。兄を探しているみたいでな。会わせることは可能だがあまり粗相のないようにしてくれないか。」
「やった! 私も行っていい? 久しぶりにアイちゃんに会える。」
メモリーがはしゃぐ。
「お前はだめだ。女王様と呼べないだろ。」
「する。女王様呼ぶから。」
食い気味にメモリーがクルスさんも押し切るのを僕は見ていた。
あの子、そんなにもなるんだな。
「私も行くよ〜。」
こうして、僕は竜人の美女3人に囲まれ女王様に会いに行くことになったのだった。
え? 美女3人に囲まれて、まるでハーレムみたいだって?
フッ、甘いな。チョコレート並みに甘いよ、君たち。君たちにとってはご褒美かもしれないが、僕にとっての『真のハーレム』とは、色とりどりのお菓子と甘い香りに360度包まれること。
女の子なんてゴーヤにすら成れていないのだよ。




