1話 異世界で甘い物探す
僕は極度の甘党だ。それはお菓子の値段で親を泣かすほどだった。
そんな僕は気付けば緑に囲まれていた。
「な、なんだ。ここ。」
僕は、まるでアマゾンの奥地のような森の中に座っていた。
だが僕は気にしない。さて、お菓子食べよ。手を口に運ぶ。
ガジッ!
歯と歯が触れる。
あれ? おかしいな。お菓子だけに。
いやいや、言ってる場合じゃない。
お菓子がない!!
そうだ!! 僕の部屋にあった大量のお菓子は!?
僕は手の届く葉をめくったり、穴を掘ってみたりして自室を探す。
ない。
僕は初めて事の深刻さを理解する。
お菓子が
……ない!
何処だよ! ここ!!
部屋に返せや! せめてお菓子だけでも返せや!!
だめか。
あぁ。やばい。体痒くなってきた。禁断症状だ。早く、早く甘いものを取らなければ!!
はっ! あれは!!
周囲を見渡し僕の目に映ったのは林檎のような真っ赤な丸い果物だった。
林檎! お菓子ほどではないが、多少は甘いはずだ。あれ、食いたい!
僕はパン食い競争のように林檎に飛びつく——ことは出来なかった。
重い腰が上がらない。そうだ、僕はデブだった。
でも僕はこのキュートな体型嫌いじゃないよ。これのおかげで学校でも愛されキャラやってるし。でも今だけは嫌いになりそう。
さて、今こそこの重い腰を上げる時のようだな。おいしょ。いやまあ、立ち上がることくらいは難なくできますよ。じゃなきゃ学校も通えんでしょ。
問題はここからだ。立ち上がってもあの林檎と思われる果物までは相当な距離がある。当然ジャンプなんかじゃ届きようもない。なら、木登り? まずこの体型じゃできないし能力があってもこの体重じゃ枝が持たない。
うーん。
はて、まずここはどこなんだ? 僕はいつも通り自室でお菓子を食べていたはずなのだが。
まさか、本当にアマゾンに瞬間移動を!?
なんて馬鹿な話があるわけがなく、にわかには信じられないが、異世界と考える方が合点がいく。
いや、普通ならアマゾンだよ? でも、一瞬でこんな森の中にって考えるとやっぱ異世界、または夢と見た。
あっ、夢の可能性も低いか。歯がぶつかった時痛かったし。
てか、そんなんで本当に夢か判断できるのか? まあいい。早く林檎を。
ここが異世界なら、魔法が使えるのでは? あの枝を燃やして林檎を落として見せる!
僕は枝に手を伸ばし、ある魔法を唱えるのだった。
「メラ!」
何も起こらない。
……誰も見てないよな? 二度とやらん。まじでやらん。
あ〜。まじあれどうやって取ろう。
しょうがない。諦めよう。こんな大きな森の中だ。低い場所に林檎が生ってる場所もあるかもしれない。
見当たる限りでは結構生ってるし少し歩けば届く場所にあるだろ。
そう決意し僕は歩いた。数十歩も行かない頃だろう。さっきまでは死角だった場所に一つ、僕でも届きそうな場所にその果物を見つける。
うっし。やっぱりな。あんな場所で長々やってたのが馬鹿らしい。
あぁ。もう限界だ。早く食べなければ!! 僕は走りそれを鷲掴み、口へ放り込んだ。
……おぇ。くそ不味い。色、形は完全な林檎なのに味はゴーヤの苦さを濃くした味だ。僕は苦いのが嫌いなんだ! ふざけるなよ! あぁ、もう無理。甘いのが食べたいよぉ。
目がショボショボしてきた。こうなったら樹液でもなんでも絶対に甘いものを補給してやるよ!
僕はひたすら色んなものに食らいついた。
木を齧った。
苦い。
葉を噛みちぎった。
苦い。
地面を舐めた。
苦い。
「中学のときに箸を忘れたときにしゃぶった割り箸の方が味する。」
僕はかじるのに疲れとぼとぼと森の中を歩いていた。
あっつ〜、まじ死ぬ。蒸し暑い森の中で僕は蒸しパンになる気分だった。
甘いものはないし動物もいない。おまけに暑いときた。まじで死ぬど。
すると、突然顔の前を何か小さなものが横切った。
「うわっ。なんだ?」
視線を向けるとそれは蜂だった。
「蜂だ!!」
蜂蜜! ハニカム! 僕の勝ちだ!! さあ蜂さん! お家へ案内して貰おうか。
こうして、僕は蜂の後を追った。しつこく、まるで金魚の糞のごとく付いて行った。
夕暮れ時、僕はやっとそれを見つけた。
「あれが、蜂の巣?」
追った蜂が入っていたのは崖に作られた洞窟だった。しかし、洞窟の側面には大量のハニカムがびっしりと詰められていた。しかもそこには熊ほどの女王蜂がいるではないか。正直、僕は燃えたね。
だってあれほどの大量なハニカムを見ちゃったんだよ? 僕は絶対にあれが欲しい!
でも、気難しそうだな。あの人。まあやってみるか。
僕は丸腰のまま女王蜂の元まで歩いていく。もしかしたら分けてくれるかもしれないしね。そう話し合いをしよう。
「こんにちは。あの早速本題に入るんですがそのハニカムください!」
僕は精一杯、頭を下げる。本当は全部欲しいけどこれは交渉だからね。どうかな?
僕は頭を恐る恐る上げチラリと女王蜂を見る。すると鉄パイプまでとはいかないほどの針が向けられているではないか。
「えー、やっぱりだめ? 全くケチだな。そんなにあるんだから少しくらい分けてくれてもいいじゃん!」
あれ、どうしたのかな。蜂さんたちが集まってきちゃった。
女王蜂が雄叫びのような声を上げる。その瞬間周囲に集まった小さな蜂たちが女王蜂とともに襲いかかっている。
「残念だけど君たちの攻撃は効かないよ。なんてったって僕にはこのキュートなボデェ(体)があるからね。針が通らないんじゃないかな?」
無数の蜂たちが手や足を刺しまくる。少し痒いな。まるで蚊に刺された程度だ。
「やっぱりね。思った通りだ。君たちじゃ僕には敵わない。さあ、僕にハニカムを少し分けてくれるだけでいい。荒事にはしたくないからね。」
キシィイ!! 女王蜂が唸る。
あら? 怒らせちゃった。
瞬間、鉄パイプほどの針が僕を狙う。
「ち、ちょっとそれは、無理かも?」
凄い速度で突進してくる女王蜂。ジェット機のような音だった。
さっきまで居た場所の地面は抉れていた。僕のしゃがむ判断があとちょっとでも遅かったならきっと彼女のタックルで死んでいただろうね。流石僕、体力測定の反復横跳びでクラスビリじゃなかっただけある。
「先に仕掛けていたのはそっちだからね。」
しょうがない。ハニカムのため、荒事にもなるか。一度避けられたんだ。もう君の攻撃は当たらない。なんなら僕から攻めてしまうからね!
僕は女王蜂へ向かって走る。気持ちがいい、今なら世界的な陸上競技選手も追い越してしまいそうだ。気付けば僕はもう女王蜂との距離はほとんどなく力が湧いてくる。
さあ、僕の会心の一撃を食らいな!
振り落とす拳。それは女王蜂の腹を難なく貫いた。
ふっ。僕はやりきった。さあ、コバエどもめ! 女王は消えたぞ! 早くどこかに消えろ!! このハニカムは全部僕のものだぞ!!
こうして僕は大量のハニカムと蜂蜜を手にしたのだった。
危なかったな。でも良かった。結果的に蜂蜜が手に入ったからね。さっそく頂こうか。
「う〜ん! 甘い。」
僕はめちゃくちゃ感動している。
でもいつもお菓子で感じる甘さはない。異世界産だからか? でもなんだろう。この舌に残るフローラルな風味。僕、こっちの方が好きかも。
何日も何日も僕はそれだけを食べて空腹を抑えていた。
それから数日
う〜ん。まだ大量に残ってはいるのだが、腹に溜まらない。どうすればいいだろう。この数日、僕は周囲を探検した、だけど一向に肉がない。僕は甘いものが一番好きだけどそれだけじゃ生きていけないことをよく知ってる。それに飽きてはいないけどバリエーションが少ないとも感じる。
そうだ! 料理をしよう。
いいアイデアでしょ。これでも母と一緒にフレンチトーストを作るくらいには料理ができるんだ。
料理というのは調和だ。蜂蜜だけでは駄目それは料理とは言わない。だから今は苦い林檎を入れる。これでバランスが取れた。
そして葉っぱだ。健康にいいからね。
そして最後に蜂蜜。最初に使っただろって? 隠し味だよ。念のための保険だ。完璧なインスピレーション。
あとは適当に火でも使おう。料理には欠かせない。
できた。『僕特製・蜂蜜の蜂蜜ぶっかけ林檎』
いや、大変だったんだからね? ボウルのような石を見つけるのも、火起こしだって全然成功しなかったんだから。さあ、苦労の結晶だ。さぞ美味しい林檎に変貌を遂げたことだろう!
僕は林檎を頬張った。
不味い……。なんだこれ。先に蜂蜜の甘みが来るせいでただでさえ苦いゴーヤの味が更に苦く感じる。
無理。食べれない。僕は林檎を放り投げた。
せっかく頑張ったのに結果がこれとはね。
そうだよ。僕は料理が出来なかったじゃないか。
確かに母とフレンチトーストを作ったことはある。
だが、いつも途中で飽きて、すぐにつまみ食いをするだけのただの肉塊と成り果てたんだった。
――そう、僕には料理の技術なんて最初からなかったんだ。
でも、甘い物が食べたいだけなのに。
う〜ん。そうだ! パティシエを探そう。僕がこうしてここにいるんだ。パティシエも同じようになってるかもしれない。それにこの世界にもパティシエはいるかもしれないからね。
そうと決まればここを出ていく準備をしなければ!
残ったハニカムや蜂蜜は名残惜しいけど、あとはアリさんにあげるとするよ。
さあ、これから冒険の始まりだ〜!!




