第五十九話 誓いのドレス
それからさらに一年後、私は白いドレスを着た。
罪状ドレスではない。
ティナが縫った、新しい白いドレスだ。
布は法衣院で織られた。白証布ではない。ただの上質な白布。けれど、裾の内側には細い透明な糸が一本だけ通っている。
証言ではなく、誓いの糸。
ティナは朝から泣きそうだった。
「ルシア様、動かないでください。針目が乱れます」
「もう着ています」
「気持ちの針目が乱れます」
相変わらず針子の表現は難しい。
今日は、私とノアの婚約誓約式だった。
結婚式ではない。
王と証縫官の婚姻には、制度上の調整が多い。王妃になるか、証縫官を続けるか、利害関係の扱いをどうするか。私たちは急がないことを選んだ。
だからまず、婚約。
ただし、王宮の豪華な式ではなく、王立法衣院の庭で行う。
立会人は、王太后、バルテル副院長、マリエ、ティナ、リュシー、リディア、アイリス、そして証言布課の仲間たち。
ダミアンからは手紙が届いた。
『君の誓いの布に、私の罪が混ざらないことを願う。祝福という言葉を使う資格があるか分からないが、君が自分で選んだなら、それでよいと思う』
彼らしい、不器用な手紙だった。
父からも手紙が来た。
まだ審理と補償作業は続いている。彼は祝福と書かず、こう記した。
『あなたが自分で選んだ距離と相手を、私は妨げません』
それで十分だった。
アイリスは領地から駆けつけた。
彼女は私のドレスを見て、泣きそうな顔で言った。
「お姉様、今度の白いドレスは、怖くないね」
「はい」
「似合ってる」
「ありがとうございます」
リュシーは腕を組んで言った。
「泣かないつもりだったけど、無理かも」
「泣き方は気にしなくていいのでは」
「自分で言った言葉を返さないで」
リディアは笑い、マリエは母の針箱を持ってきてくれた。
「奥様も、見ておられます」
私は針箱に触れた。
母の手紙はもう増えない。
でも、寂しくはなかった。
母の宿題は、私の中に残っている。
庭には白い花が飾られていた。
白百合だけではなく、小さな野花も混ざっている。ティナの案だ。白い花にも色々ある、と。
ノアは深青の正装で立っていた。
王冠はない。
今日は王としてではなく、ノアとして立つと決めていた。
それでも、彼の姿を見ると胸が高鳴る。
私はゆっくり歩いた。
断罪会場では、白いドレスで震えていた。
今日は、白いドレスで自分の足で歩いている。
バルテル副院長が誓約文を読み上げた。
「本誓約は、王ノア一世と証縫官ルシア・ベルネットが、互いの自由、職務、責任を尊重し、婚姻に向けた関係を公に確認するものである」
固い。
でも、私たちらしい。
ノアが私を見る。
「ルシア。私は、あなたに私の罪ではないものを背負わせません。あなたの職務を、王冠の都合で曲げません。あなたが謝らなくていい時に謝らずにいられるよう、隣で証言します」
透明な誓いの糸が、ドレスの裾で光った。
私は答える。
「ノア。私は、あなたの傷を王冠に縫い込ませません。あなたが自分の罪ではないものを背負おうとした時、それは違うと証言します。あなたが王である時も、ただのノアである時も、言葉を隠さず、距離を大切にして、共に縫います」
誓いの糸が二本になった。
白い布は罪状を縫わない。
ただ、透明な糸で、二人の言葉を留めた。
ノアが銀の糸巻きを私に差し出す。
私は、母の針箱から一本の針を取り出した。
証言針ではない。
普通の針だ。
二人で、小さな白布に一針ずつ縫う。
針目は完璧ではない。
でも、逃げていない。
式の最後、ノアは私に尋ねた。
「触れても?」
私は笑った。
「はい」
彼は私の手を取った。
優しく、確かに。
私は言った。
「ありがとう」
ごめんなさいではなく。
ありがとう。
その言葉が、白い庭にまっすぐ伸びた。




