第五十七話 二年目の王位会議
二年目の春、王位継承会議が開かれた。
この二年で、王国は完全に安定したわけではない。
神殿改革はまだ続いている。赦罪帳簿の調査は終わらない。貴族院には証言布制度を嫌う者も残っている。領地ごとの不正も次々に見つかる。
それでも、黒い布で隠す時代には戻らなかった。
王冠には白い証言布が縫われている。
王位候補は三名。
摂政ノア殿下。
王太后の遠縁にあたる若い公爵。
そして、継承権停止中のダミアン殿下については、候補ではなく、将来的な復権可能性を審査する対象として扱われた。
ダミアン殿下は、復権を辞退した。
離宮から送られた書面には、こうあった。
『私は王冠を求める前に、自分の罪の記録を終える必要がある。現時点で王位を望むことは、再び傷を王冠に縫い込むことになる』
その言葉を読んだ時、私はしばらく黙った。
彼は変わった。
完全に許せるわけではない。
でも、少なくとも王冠を傷の包帯にすることはやめた。
会議は長かった。
若い公爵は善良だが、経験が足りない。ノア殿下は経験も支持もあるが、本人が王位に積極的ではない。
最終的に、ノア殿下は王位を受けることを表明した。
ただし、条件付きで。
「私は王になります。ただし、王冠は終身の所有物ではなく、法に基づく職務として戴きます。王位放棄手続き、王権監査、証言布発動条件を王位宣誓に組み込みます」
貴族院はまたざわめいた。
王位を職務と言い切る王候補は、珍しいのだろう。
でも、この国には必要だった。
王冠を神聖な沈黙ではなく、責任ある職務に戻す。
ノア殿下は私を見なかった。
公の場だからだ。
でも、私は知っていた。
彼は自分を罰するためではなく、必要な職務として王位を受ける。
その判断ができるまで、二年待った。
会議後、王宮の庭で短く会った。
「決めました」
ノア殿下は言った。
「はい」
「王になります」
「はい」
「あなたに、王妃になってほしいとは今は言いません」
私は少し驚いた。
彼は続けた。
「あなたの職務、自由、選択を、王冠の都合で急がせたくない。私は王になりますが、あなたとの関係は、別の布として縫いたい」
胸が温かくなる。
この人は本当に、距離を大切にしてくれる。
「私は、ノア殿下が王になっても、証縫官を続けます」
「はい」
「王に対する裁定が必要な時は、私は利害関係者として外れます」
「はい」
「でも、私的には、あなたのそばにいたいと思っています」
ノア殿下の目が揺れた。
「その言葉を、私はかなり長く待っていました」
「急がないとおっしゃったので」
「急がないとは言いましたが、嬉しくないわけではありません」
私は笑った。
王になる人と、証縫官である私。
関係は複雑になるだろう。
でも、複雑なら、丁寧に縫えばいい。
そのための針と布を、私たちはもう持っている。




