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断罪会場で「ごめんなさい」と謝ったら、王太子の罪状がドレスに刺繍されました ~濡れ衣令嬢の謝罪は、本当の犯人だけを縫い上げる~  作者: 小竹X


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第五十四話 ただの白いドレス

 私の罪状ドレスは、王立法衣院の証拠庫に保管されていた。


 断罪会場で王太子の罪状を縫い、王宮裁定室で黙罪布と対峙した白いドレス。


 今では見学希望が出るほど有名になっている。


 だが、私は長くそれを見に行かなかった。


 必要な時に証拠として出すだけでいいと思っていた。


 けれど、正式任官から一年が過ぎた日、ティナが言った。


「ルシア様。ドレスの手入れをしましょう」


「証拠庫で管理されていますよね」


「管理と手入れは違います。あのドレスは、ルシア様の服でもあります」


 その言葉に、私は少し驚いた。


 罪状ドレス。


 白証布。


 証拠衣。


 私はいつの間にか、あれを自分の服ではなく事件の証拠としてだけ見ていた。


 証拠庫で、ドレスは白い布袋に入っていた。


 広げると、赤い刺繍はまだ残っている。


 王太子ダミアンの罪状。


 ミレーヌ、いえリュシーの罪状。


 ベリル、カイル、父、国王、グラシアン。


 私の人生を変えた文字たち。


 けれど、ドレス自体は、母の布で私が縫った卒業祝賀会用の服だった。


 豪華ではない。


 少し古風で、白く、針目に迷いがある。


 ティナが丁寧に布を点検した。


「黒糸の跡はほとんど落ちています。赤い刺繍は記録として残りますが、布はまだ柔らかい」


「もう着ることはないと思います」


「着なくても、手入れはします」


 彼女はそう言い、袖口のほつれを直した。


 私は隣で見ていたが、やがて針を持った。


「少し、縫ってもいいですか」


 ティナは驚き、それから笑った。


「もちろんです。ただし、王冠よりは簡単ですが、証拠衣ですから慎重に」


 私は袖の内側を少しだけ縫った。


 以前より、針目は安定している。


 まだティナほどではない。


 でも、逃げていない針目だと思う。


 縫いながら、私は断罪会場の自分を思い出した。


 怖くて、反射的に謝った私。


 それを恥ずかしいと思っていた。


 でも今は、あの時の私を責めたくなかった。


 あの私は、できることを必死にしていた。


 謝ることでしか生き延びられないと思っていた。


 その私がいたから、白証布は真実を縫った。


 私は過去の自分に、小さく言った。


「もう大丈夫です」


 白い布は動かなかった。


 証言ではなく、慰めだからだ。


 でも、袖口の布が少し温かくなった気がした。


 手入れが終わると、ティナはドレスをもう一度布袋に戻した。


「いつか、別の白いドレスを縫いましょう」


「別の?」


「罪状ではなく、誓いを縫うドレスです」


 私は顔が熱くなった。


「予定はまだありません」


「練習です」


 ティナはにっこりした。


 最近、周囲は私とノア殿下のことを少しずつ当然のように扱い始めている。


 急かされているわけではない。


 でも、温かく見守られている。


 以前なら、それも申し訳なくなっただろう。


 今は、少し恥ずかしいだけだ。


 ただの白いドレス。


 いつかそれを着る日が来るかもしれない。


 その時、私は何を縫うのだろう。


 罪状ではなく、誓い。


 その言葉を思うと、胸の中に透明な糸が走った。

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