第四十七話 大司祭の判決
グラシアンの判決日は、王都中が注目した。
多くの人は処刑を望んでいた。
王妃を殺し、四十二人を消し、候補者の名を奪い、王宮で反乱を起こした。罪は重い。怒りは当然だった。
私自身も、彼のしたことを思えば胸が冷える。
それでも、判決は怒りだけで決められない。
大裁定室で、ノア殿下は罪状を読み上げた。
王妃毒殺主導。
胎児殺害。
赦罪制度不正運用。
証人監禁。
名剥奪儀式。
祝賀会冤罪計画への関与。
王宮武力介入。
証拠隠滅未遂。
罪状は長かった。
グラシアンは最後まで顔色を変えなかった。
「神殿は滅びません」
彼は言った。
「人は罪を隠したがる。白い布に怯え、やがてまた黒い布を求めるでしょう。その時、私のしたことが必要だったと分かる」
傍聴席から怒号が上がる。
ノア殿下は木槌を打った。
「静粛に」
判決は、死刑ではなかった。
終身禁錮。
神殿籍剥奪。
赦罪制度被害者補償への全財産没収。
黙罪布に関する知識を、法衣院監視下で記録する義務。
黒糸の製法を隠せば追加処分。
民衆の一部は不満を示した。
だが、ノア殿下は説明した。
「処刑すれば、黙罪布の全容が失われます。被害者の名誉回復と再発防止のため、被告には生きて記録を残させる」
それは、すっきりしない判決だった。
でも、必要な判決だった。
グラシアンは笑った。
「私を生かしておくのですか。後悔しますよ」
「後悔しないよう監視します」
ノア殿下は冷静に返した。
判決後、私はグラシアンと短く対面した。
彼が希望したのではない。法衣院が、白証布への未解明反応について確認する必要があったからだ。
監視付きの小部屋で、グラシアンは私を見た。
「あなたは、自分が勝ったと思っていますか」
「勝ち負けではありません」
「そういう者ほど、勝者の顔をする」
「私は怖いです」
正直に言うと、彼は少しだけ眉を上げた。
「怖い?」
「はい。あなたが言ったように、人はまた黒い布を求めるかもしれません。証言布制度も、悪用されるかもしれません。私自身も、間違えるかもしれません」
「なら、なぜ続ける」
「怖いから、制限を縫いました。一人で背負わない仕組みを作りました。怖くない人に任せる方が、もっと危険です」
グラシアンは黙った。
私は続けた。
「あなたは、人が真実に耐えられないと言いました。でも、あなたは人に真実を選ぶ機会を与えなかった」
「選ばせれば混乱する」
「はい。混乱します」
私は認めた。
「でも、混乱しながらでも選ぶ方が、地下で名前を奪われるよりいい」
グラシアンの目が冷える。
「理想論だ」
「かもしれません」
「いずれ折れる」
「その時は、誰かに証言してもらいます」
私は立ち上がった。
「私は一人で白い布を着ません」
部屋を出る時、グラシアンは初めて何も言い返さなかった。
廊下で、リディアが待っていた。
「会ったの?」
「はい」
「殴りたくならなかった?」
「少し」
「正直でよろしい」
リュシーもいた。
「私は、まだ会わない。会ったら泣かされそうで腹が立つ」
「会わない選択もあります」
「ええ。私が決める」
二人の名前を奪った男は、生きて裁かれ続ける。
その判決は、彼女たちにとってすぐに納得できるものではないだろう。
でも、彼女たちには不満を言う場がある。
それもまた、黒い布のない世界の一部だ。




