第四十三話 新しい王冠の条件
次の王を決める会議は、三日続いた。
貴族院、臨時評議会、王太后、法務院、そして各地の有力領主。
皆、口では国の安定を言う。
だが、その安定の意味は人によって違った。
ある者は、ノア殿下の即位を求めた。
ある者は、ダミアン殿下の継承権停止を一時的なものにし、摂政を置くべきだと言った。
ある者は、王太后の遠縁から新王を迎えるべきだと主張した。
ある者は、この混乱を機に貴族院の権限を拡大しようとした。
王冠が空くと、人はその下に自分の糸を通そうとする。
私は証縫官として、会議の証言布を管理した。
会議中に虚偽が出ると、布が淡く赤く光る。ただし、政治的意見は虚偽とは違う。そこが難しい。
「我が領は王家に忠実です」
ある領主がそう言い、布が赤く光った。
実際には、彼の領は王太子派へ資金を流していた。
「私は国の安定のみを望みます」
別の貴族が言うと、布は半分だけ光った。
安定も望んでいるが、自家の昇進も望んでいるらしい。
政治の布は、複雑だ。
ノア殿下は三日目の夕方、ようやく自分の条件を提示した。
「私が王位を受ける場合、三つの改革を即位条件とします」
会議室が静まる。
「第一に、白証布および証言布の制度化。王、貴族、神殿を含む公的裁定で、証拠布による記録保全を義務づける」
貴族たちがざわめく。
「第二に、神殿の赦罪権停止。寄進による罪の軽減を禁止し、過去の赦罪帳簿を全件調査する」
神殿代表の顔が青くなる。
「第三に、王冠から黙罪布を完全に排除し、王冠そのものに証言布を縫い込む。王が重大な虚偽を述べた場合、王冠が沈黙させるのではなく、記録するように」
会議室が騒然となった。
王冠が王の嘘を記録する。
それは、王権を縛る制度だ。
貴族院議長が言った。
「それでは王の威厳が損なわれます」
ノア殿下は答えた。
「嘘を記録されることで損なわれる威厳なら、最初から威厳ではありません」
痛烈だった。
私は証言布の前で、少し笑いそうになる。
議論は激しかった。
しかし、王妃毒殺と黙罪布の件が明らかになった直後だ。公然と反対すれば、罪を隠したいと見られる。民衆も改革を求めている。
三つの条件は、修正を経て承認された。
ただし、ノア殿下は即位ではなく、まず二年間の王国摂政となることを選んだ。
理由は、王位継承法を整備し、ダミアン殿下を含む王族の処分を確定させるまで、恒久的な即位は避けるべきだから。
それが表向きの理由。
本音は、王冠を急いで被りたくないのだろう。
でも、それは逃げではない。
王冠を罰として受け取らないための時間だ。
会議後、ノア殿下は私のところへ来た。
「摂政になることになりました」
「おめでとうございます、でよいのでしょうか」
「私にも分かりません」
彼は少し疲れていた。
「法衣院長は兼任ですか」
「一時的にバルテル副院長へ実務を移します。ただ、証言布制度の設計には関わります」
「書類が増えますね」
「増えます」
「スープも増やしますか」
ノア殿下は小さく笑った。
「お願いします」
その返答が、以前より少し柔らかい。
王冠の条件が決まり、国は少しずつ新しい形へ動き始めた。
ただし、新しい王冠には、新しい敵も生まれる。
その夜、法衣院の門に黒い紙が貼られた。
白い布の女が王を操る。
証言布は新たな黙罪布である。
ルシア・ベルネットを裁け。
罪を隠す側は、次の攻撃先を私に定めた。




