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断罪会場で「ごめんなさい」と謝ったら、王太子の罪状がドレスに刺繍されました ~濡れ衣令嬢の謝罪は、本当の犯人だけを縫い上げる~  作者: 小竹X


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第三十二話 中央広場の裁定台

 公開裁定の日、王都中央広場には人が溢れていた。


 前回ここに来た時、リュシーはミレーヌ・ラザールとして潔白の祈りを行った。涙で罪を移そうとし、私を悪者にしようとした。


 今日は、その同じ場所に裁定台が組まれている。


 広場中央には三つの席。


 一つは臨時評議会。一つは証人席。一つは被告席。


 被告席には、グラシアン、ヘルガ、司祭オルド、王太子側近カイル、侍従ベリル、そしてベルネット伯爵が並ぶ。国王陛下は別席で王権停止中の証人兼被告として扱われる。ダミアン殿下も王太子としてではなく、被告証人として出席する。


 その区別だけで、法務官たちは何度も議論したらしい。


 法は細かい。


 でも、その細かさが、怒りだけで誰かを処刑することを防ぐ。


 私は白いドレスを着て、肩に母の予備布をかけた。胸元には赤い罪状、裾には透明な証言糸の跡。灰色の証縫官見習いの前掛けもつけている。


 貴族令嬢としては、たぶんおかしな格好だ。


 でも、今の私にはこの服が一番しっくりくる。


 ノア殿下は裁定台の左に立っている。


 王族としてではなく、王立法衣院長として。


 彼がこちらを見る。


 大丈夫か、と目が聞いている。


 私は小さくうなずいた。


 大丈夫ではない。


 怖い。


 でも、立てる。


 広場のざわめきが収まり、バルテル副院長が開廷を宣言した。


「本裁定は、王妃エレナ毒殺事件、赦罪制度不正運用、祝賀会毒殺未遂冤罪事件、王宮武力介入事件について、証拠および証言を公開確認するものである」


 長い正式名称だ。


 けれど、その一つ一つが必要だった。


 最初に提示されたのは、赦罪帳簿。


 貴族名、寄進額、謝罪状を書かされた者の名。読み上げられるたび、広場からざわめきが起きる。


 ある商家の息子が、貴族の馬車事故の罪を背負わされていた。


 ある侍女が、主人の横領の罪を認めさせられていた。


 ある薬草係が、王妃の死の不備を背負わされていた。


 大きな罪だけではない。


 小さな不正、小さな押しつけ、小さな沈黙が、帳簿にはびっしり詰まっていた。


 民衆の怒りは、だんだん形を変えた。


 最初は「神殿が悪い」という単純な怒り。


 次に「貴族が金で罪を買っていた」という怒り。


 そして最後に、「自分たちの家族も巻き込まれていたかもしれない」という恐怖。


 リディアが証言台に運ばれた。


 彼女は白布を肩にかけ、十年の監禁を語った。


 声はかすれていたが、広場の端まで届いた。


「私は五番目の候補でした。名前を奪われ、罪を移す器にされる訓練を受けました。逆らったため、赦しの間に閉じ込められました」


 彼女の白布に赤い文字が浮かぶ。


 リディア・フォル証言、真実。


 群衆から悲鳴が上がる。


 次にリュシーが立つ。


 彼女は白い聖衣ではなく、法衣院が用意した薄灰色の服を着ていた。本名布を胸に縫いつけている。


「私は、ミレーヌ・ラザールとして育てられました。泣き方、許す言葉、罪悪感を引き出す祈りを教えられました。祝賀会でルシア様に罪を着せる計画にも加わりました」


 広場がざわめく。


 罵声も飛んだ。


 リュシーは震えたが、逃げなかった。


「これは私の罪です。そして、私がそう作られたことも、神殿の罪です」


 白布が縫う。


 リュシー・アンベル証言、真実。祝賀会事件関与、本人認識あり。神殿による名前剥奪および罪移し訓練、真実。


 彼女は私を見た。


 私はうなずいた。


 謝罪を消さず、罪を正しい場所へ置く。


 次にマリエが証言した。


 王妃付き侍女として、祝福の杯、白百合、王妃の妊娠、四十二通の謝罪状を語る。


 広場の空気は重くなった。


 王妃が身ごもっていた事実は、民衆に大きな衝撃を与えた。


 生まれなかった王子か王女。


 その存在が初めて公の場に置かれる。


 王太后は立ち上がり、娘を見捨てた罪を証言した。


 王家の中から出た証言に、貴族たちは顔色を変えた。


 国王陛下は最後に立った。


 王冠はない。


 その姿は、昨日より小さく見えた。


「私は、王妃エレナの告発阻止を大司祭グラシアンへ求めた。死の可能性を認識しながら、知らないふりをした。死後、赦罪帳簿と謝罪状の処理を黙認した」


 広場から怒号が上がる。


 国王陛下は目を閉じたが、逃げなかった。


 白布が縫う。


 国王アルヴェール三世証言、真実。


 次にダミアン殿下が立った。


 彼は王太子の正装ではなく、簡素な黒い服を着ていた。


「私は祝賀会で、ルシア・ベルネットに毒殺未遂の罪を着せる計画を知り、止めなかった。婚約破棄と聖女候補との婚姻のために、彼女を修道院へ送るつもりだった」


 群衆から罵声が飛ぶ。


 ダミアン殿下は一度だけ肩を震わせたが、続けた。


「これは私の罪です」


 白布は動かなかった。


 彼自身の罪として置かれた。


「十三年前、私は母に花束を届けました。毒のことは知りませんでした。記憶は封じられていました」


 赤い文字が浮かぶ。


 十三年前の黒糸袋運搬、認識なし。責任能力なし。


 民衆のざわめきが複雑になる。


 王太子は加害者であり、被害者でもある。


 簡単に憎むには、真実は複雑すぎる。


 でも、複雑だから隠していいわけではない。


 最後に、私が証言台に立った。


 広場が静かになる。


 私は白いドレスの裾を持ち、息を吸った。


「私は、断罪会場で自分の罪ではないものに謝りました。その時、白いドレスが真犯人の罪状を縫いました」


 胸元の赤い文字が光る。


「私はずっと、謝れば場が収まると思っていました。でも、謝罪で隠された罪は、消えません。別の誰かを傷つけます」


 群衆の顔が見える。


 怒り、不安、同情、疑い。


 全部あっていい。


「私は、私の罪ではないことで謝りません。そして、他の人に押しつけられた罪も、正しい場所へ戻すことを証言します」


 白い布に透明な糸が走る。


 証縫官見習いルシア・ベルネット、公開証言成立。


 その瞬間、広場の端から声が上がった。


「じゃあ、俺の兄の謝罪状はどこだ!」


 続いて別の声。


「うちの母も修道院へ送られた!」


「帳簿を全部公開しろ!」


 怒りが波になる。


 公開裁定は終わりではなかった。


 本当の再建は、ここから始まるのだ。

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