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第三十二話 スマホ依存脱却法

 最近、スマホ依存がひどい。


 お金も友人も持っていない私は、ほとんどの娯楽を一台のスマホにより与えられている。


 それゆえスマホをいじって過ごすことが多いのだが、だんだんとその時間が増えてきているのである。


 朝起きてスマホ、ご飯のお共にスマホ、信号待ちにもスマホ、休憩時間もスマホ、仕事が終わるとまずスマホ、家に帰ってスマホを開き、スマホ片手に家事を行い、風呂に入るのもそこそこにまたスマホ、休みの日は一日中スマホ、寝るまでスマホ、中途覚醒してスマホ、寝言で「スマホ」、眠れなくてまたまたスマホ、そして気がつけば朝までスマホ……。


 まさにおはようからおやすみまで、そしておやすみからおはようまでも、私はスマホと共にあるのである。


 このままでは仕事や日常生活に支障をきたしてしまうと危惧した私は、依存を断ち切るべく行動を起こすことにした。




 まず試みたのは写経である。


 ネットで調べたところ、近くのお寺で写経体験が出来るとのことだ。早速行ってみた。


 写経会場は老若男女さまざまな人がいたが、何かを断ち切りたい様子の女性の姿が特に多かった。


 私の右隣に座る若い女性はホスト通いから、左隣の中年女性は職場のふたまわり年下の男の子への恋情から逃れたくてここへ来たらしかった。


 私も動機を聞かれたのでスマホを撫でながら「スー君のことが忘れられなくて……」と言うと、彼女たちは「わかるわぁ」という風にうんうんと頷いていた。


 説明を受け合掌して墨をすり、お手本を書き写す。



『摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空』



 普段使わない筆で写さねばならない。慎重に一字一字書いていく。集中、集中……。


『度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空

空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相』



 なかなか良い感じだ。



『不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中

無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法』



 この調子、この調子。



『無ス眼マ界ホ 乃至無意識界ス 無無明亦マ 無無明尽ホ

乃至無老死 ス亦無老死尽 スマ無苦集滅道 無智亦無得スマホ』



 なんだか雲行きが怪しくなってきた。教わった方法で誤字を訂正し、仕切り直しである。


 集中、集中……。無心になり、ただひたすらに文字を書くのだ。


『以無所得故 スマホ菩提薩埵 ス依マ般ホ 若スマ波ホ羅スマホ蜜多故スマホスマホスマホ


心無罣礙 スマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホスマホス……』



 駄目だ。もはや勝手に手が動くのである。私の腕の動きを司る筋肉は、完全にスマホに乗っ取られてしまったらしい。


 つまるところ私は煩悩に負けたのだ。そこで、他の方法を模索することにした。



 次に考えたのは滝行である。ネットサーフィンしていて、これは良さそうだと思ったのだ。冷たい滝に打たれることで頭を冷やし煩悩を捨て去ってしまおう。


 何事も形から入るタイプである私は、(もちろんネットで)白装束を購入し滝行に臨んだ。


 スマホのナビを頼りにたどり着いた近所の秘境の滝は無人であった。思う存分滝行が出来る。


 白装束に着替え、まずは滝の前で気合を入れる。


「スマッホォォォーーーー!!!」


 滝に入り水に打たれると、冷たい水で体が引き締まる思いがする。


 だが次第に脳内に湧き上がってくるのは、やはりスマホのことである。


 スマホのことは考えるな、スマホのことだけは考えるな!!


 しかしそう念じれば念じるほど、浮かぶのは何千何万のスマホなのであった。


 せめてスマホとは関係のない……例えば衆議院解散総選挙のことを考えるんだ!


 衆議院解散総選挙、衆議院解散総選挙……。


 思えば私は衆議院解散総選挙について、衆議院が解散して総選挙するということ以外に何も知らないのである。


 知らないことは是非とも調べねばならぬ。私は白装束の懐からスマホを取り出した。


 こんなこともあろうかと、ネット通販でスマホ用防水ビニールを購入しておいた自分を褒めてやりたい。


 衆議院解散総選挙を検索し、わかったようなわからなかったような気分になり、思わずスマホをいじってしまったことを大いに反省した。


 衆議院解散総選挙が駄目なら、今度は舟木一夫(ふなきかずお)について考えてみよう。


 しかし私は彼が祖父母とだいたい同じ世代の歌手だということ以外、何も知らなかった。


 知らないことは是非とも調べねばならぬ。私はまた懐からおもむろにスマホを取り出し、彼について検索した。


 舟木一夫の誕生日が私の父と同じだと知れたのは、なかなかの収穫であった。


 次に彼の数々の名曲を試聴した。聴いているうちに体が徐々に冷え、赤い夕日が秘境の滝を真っ赤に染める頃に彼の代表曲「高校三年生」を熱唱していると、私の体と精神が離れ離れになるくらい冷たくなってしまったので、スマホと共に滝行を終えた。


 このようにして、滝行による依存脱却も失敗に終わったのである。


 私はまたも煩悩に完敗したのだ。




 こうなれば最終手段である。スマホと物理的に距離を置くのだ。


 私はアパート裏の空き地にショベルで穴を掘り、スマホを地中深くに埋めた。


 数時間かけて穴を掘った疲れから風呂に入った後はすぐに寝てしまい、翌日晴れやかな気分で起床したのである。


 大成功だ! ついに私はスマホ依存を克服したのだ!!


 昨晩風呂に入ったはずなのに、何故か体中泥だらけでツタが絡まり手には多数の豆ができ爪の中には土が詰まって上半身全体に酷い筋肉痛と痣があるのだが、そんなことはどうだって良い。


 私は枕元に手を伸ばした。


 一刻も早くこの脱却法を全世界に向けて発信しなければならない。スマホ依存で困っている人々に是非とも役立ててもらおう。それが私の役目なのだ!


 そんな使命感いっぱいに、今私はこの文章を打っている。



ありがとうございました。

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