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第三十一話 甥と遊ぶ

日曜の午前10時。


私はコタツの中で、食っちゃ寝を思う存分楽しんでいた。


「いやぁ〜冬はやっぱりコタツですなぁグッさん」


「キュイ〜ン」


飼いマングースのグッさんも、目を細めてうたた寝を始める。


『ピンポーン♪』


チャイムが鳴ったが、どうせセールスか何かだろう。無視して買いだめしておいたドラ焼きに手を伸ばす。するとまた、


『ピンポーン♪』


なかなかしつこい。気になった私はドアスコープをのぞいてみた。


……姉だった。見なかったことにしよう。


子どもの頃、私は姉の下僕(げぼく)みたいなものだった。今回もきっと厄介な頼み事を持って来たに違いない。すると……


『ピンポンピンポンピンポンピンポン!』


恐ろしいまでのチャイム連打……。


『ピンポンピンポンピンポンピンポンピポピポピポピポピポピンポワァァ〜〜〜〜ン!』


「ヤツは高橋名人なの⁈」


なおも無視を続けていると、彼女は作戦を変えたのか叫び始めた。


「いるのはわかってんのよこの泥棒猫! 出て来なさいよ! ヒトの家庭をぶっ壊しておいて卑怯者‼︎」


さすがの私もこれは無視できない。急いでドアを開けると、姉はしてやったり、という様子で「ほら、予定も何も無いあんたが留守のはずないじゃん!」とさらに腹の立つことを言う。


言い返そうとした時、隣のじいさんが顔を出した。


「なになに? もしかして修羅場⁈ あんたも隅におけないねぇ!」


姉のせいで妙な誤解をされてしまった。


「違うんです! この人、実の姉なんです!」


「えぇ〜〜〜実のお姉さん⁈ ますます泥沼だねぇ! 後で詳しく‼︎」


じいさんは親指立てて引っ込んだ。今までに見た、どんな笑顔より輝くスマイルであった。


じいさんに腹が立つより先に姉が叫ぶ。


「サトシ、こっち来て挨拶しなさい!」


姉の存在感が大きすぎて今まで視界に入らなかったが、リュックを背負った小さな男の子が目の前に現れペコリと頭を下げる。


「こんにちは、おばさん」


「おばさ……」


初めて呼ばれた。えぇえぇ、そうですよそうですよ……私はとっくに叔母さんであると同時に小母(おば)さんですよ……。


一人感傷に浸っていると、姉は私の横をすり抜けて勝手に部屋に上がり込んでいる。


「こりゃ犬小屋みたいな部屋だわ」


「何しに来たの⁈」


断固抗議するも、涼しい顔で姉は続ける。


「一日だけサトシを預かってくれない? 日曜日で保育園も休みだし旦那も仕事なの! どうしても外せない用事があんのよ!」


サトシとはもちろん姉の息子、つまり私の甥である。前に会ったのは随分と前で、確か彼はまだ羊水にプカプカ浮いていた頃だから、つまりは初対面なのである。


「この子大人しいしほら、昼ごはんも二人分買ってきたから! トイレも一人で出来るから! あんたの好きなチーズ蒸しパンもあるよ、だからよろしく‼︎」


姉は矢継ぎ早にそれだけ言い、「おばちゃんと仲良くしてあげてね」とサトシくんの頭をひと撫でして出て行った。相変わらず嵐のような女である。


私と甥と弁当の入った紙袋がポツンと残された。


「えーと……サトシくん今いくつだっけ?」


「5さいです」


「大きくなったねぇ。よその子は成長が早いって言うけど、ホントだねぇ」


「はい」


「……」


「……」


子どもの扱いに慣れていないので、なんだか所在ない。


「とりあえず、すわりましょうか」


「そうだね」


五歳児に気を遣われてしまった。なかなか賢そうな子である。姉に似なくて本当に良かった、良かった。


二人でコタツに入る。


「えーと、何して遊ぼうかな……今は何が流行ってんの? ベーゴマとかかな……?」


サトシくんは背負っていたリュックをおろし、中から箱を取り出した。


「シャチモンやりましょう」


「シャチモン? あぁシャチモンね、おばさん、ちゃんと知ってるよ。合体して大きくなるのがカッコいいんだよねぇ」


「そういうの、いいですから」


知ったかぶった私の言葉をサラリと流し、彼はコタツの上のドラ焼きを脇によけた。箱から次々とカラフルなカードを出しては並べている。


その間に私はこっそりスマホでシャチモンを調べた。


一介の社畜が役員にまでのし上がっていくRPGゲーム「シャチク・モンスター」から派生したカードゲームで、今若年層で大流行しているらしい。


「ルールは ちゃんと せつめいしますから、だいじょうぶですよ」


カードを並べ終わったサトシくんはそう言って、早速ゲームが始まった。


「まず、ジャンケンします。かったひとが やまふだから いちまい ひきます」


「ヤマフダって何だっけ?」


「そこからですか……」


サトシくんは教え方が上手だった。私はメキメキ上達し、一時間もすると彼と同等の腕前となった。


「ぼくのターン! 『おつぼね の いぶき』! あいての シャチモン すべてを 『どく』じょうたいに!」


「私のターン! 『まどぎわぞく の ぎゃくしゅう』! 相手の幹部シャチモンに50のダメージ!」


このシャチモンカードゲーム、子どもの遊びだと侮っていたが、なかなかどうして奥が深い。


空腹を忘れるくらい熱中しすぎたせいで、昼ご飯をとったのは三時過ぎだった。


その後も勝負は続いた。


「ぼくの ターン! 『きゅうけいしつ の わな』! あいてを いっかいやすみに する!」


「私のターン! 『かたたたき』! 相手のシャチモンどれか一枚をトラッシュさせる!」


実力は拮抗し、勝負は白熱した。


「遅くなってゴメーン!」と姉が戻って来た時、私の128勝129敗となっていた。


「今日はありがとねー! さ、早く帰るよ!」


勝負の途中にも関わらず、姉はサトシくんの腕を取り立たせようとしている。私は姉の足にしがみついた。


「サトシを連れて行かないで! サトシと一緒なら世界を狙える! シャチモンマスターに、私はなる!」


しかし「あんたそれでも社会人か」と一蹴され、サトシくんは「またシャチろうね」と手を振り帰って行ってしまった。


それ以来、大人の経済力を存分に発揮し、レアカード含むシャチモンカード一式を揃え、自分対自分の勝負をやる日々だ。


だがやはり自分以外と戦いたいので、「サトシくん貸して」と姉に度々電話してはウザがられる日々である。


ちなみに隣のじいさんは、私の顔を見る度に星のたくさん入った瞳で「その後どう⁈ 泥沼からは脱出できた?」とか聞いてくるので、「ハスの花は泥沼でこそ美しく花開くのです」とテキトーに答えている。

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