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第二十二話 朝顔観察日記

 植物を育てることにした。


 身近に緑があると心の癒しになるだろうし、何かを育てる行為は生活に充実感をもたらしてくれそうだ。


 私の住むアパートは南向きで日当たりだけは最高に良い。特に真夏は日差しにより、これでもか! というくらい部屋の温度が上昇する。緑のカーテンは日差しを防いでくれ、電気代の節約にもつながるだろう。良いことずくめだ。


 何より植物は決して裏切らない。悪態をつくこともなければ、えこ贔屓(ひいき)もしない。機嫌によって態度も変えないし、昼前になって大した用もないのに「今日は半休取ります(そしてパチスロ行きます)」とか突然宣言することもない。(これまでに一体何があったのかは察して下さい。)


 近所のホームセンターには園芸コーナーがある。ぶらぶらと苗木や花の間を歩いていると「見切り品」とラベルの貼られたカゴを見つけた。いくつかの苗が並べて入れられている。


 その中に、見覚えのある苗を見つけた。思わず手に取ってまじまじと観察してみる。高さが十数センチの苗で、双葉の上から出ている葉はハートに近い形で毛が生えている。プラスチックの鉢に植物名は記されておらず、ただ「50円」と値段が示されているだけだ。


 きっと朝顔だ。小学生の頃に学校で育てた記憶がある。懐かしくなり、丁寧に育ててたくさんの花を咲かせてもらおうとプランターや土と一緒に購入した。




⭐︎朝顔観察日記⭐︎


4月某日


 買って来た苗をプランターに移しかえると、殺風景だったベランダが少し華やぐ。絶対に枯らさないぞと決意を新たにし、最初の水遣りを行った。




4月某日


 今日は暑くなるらしいので、朝から念入りに水遣りする。葉が増えてきた。表面を撫でると、密集した毛がザラザラとして気持ち良い。一日中でも撫でていたいくらいだ。気付くと本当に日が暮れていた。




4月某日


 つるが伸び出す。葉も大きくなってきた。急いでネットを買いに行き、ベランダに設置。思う存分ネットに絡みつき、思う存分光合成を行って下さいね、朝顔ちゃん。ブツブツ言いながら作業をしていると、洗濯物を干していた隣のじいさんに「あんた大丈夫⁈」と心配された。私はいつだって正気である。




5月某日


 凄い勢いで伸びる。一日で数センチは伸びているのではないか。「第二次性徴期の男子かよ!」とツッコみながらチョンと突くと、朝顔は気持ちよさそうに葉を震わせた。




5月某日


 下の方の葉に異変が現れる。表面が粉をまぶしたように白く変色しているのだ。調べると、どうも「うどんこ病」と言うカビが原因の植物の病気らしい。重曹を使ってうどん粉病撃退スプレーを作り散布する。うちの朝顔ちゃんに悪さをする奴は、手うちにしてくれよう! うどんだけに! 上手い‼︎




5月某日


 うどんこ病はなんとか抑えられた。が、今後も注意は必要である。見えざる敵と戦っているのは、人類だけではないのであった。




6月某日


 多数の葉がベランダを覆い尽くすほどに成長した。よく観察すると、葉の付け根につるとは異なる物を発見する。つぼみである。何色の花が咲くのか、とても楽しみだ。




6月某日


 ついに最初の花が咲いた! 私は花を前にして猛烈に感動していた。なんと、咲いたのは黄色の花だったのだ。


 学生時代、生物の教師にこう聞いたことがある。「黄色い朝顔は色素の関係で存在しない。だから『幻の花』と呼ばれている」と。おそらくどこかの天才が血の滲む様な研究の末に作り出したのだろう。まさかこんなに早く、幻の朝顔の苗が見切り品として売られる時代が来ようとは……!


 それにしても花が私の知っている朝顔とは少し違うようだ。星の形をしており花びらに縮れがある。きっと研究の過程で形が変化しただけであって、これも立派な朝顔なのだろう。




6月某日


 つぼみが次々と付き、花が咲き乱れとても綺麗だ。見とれていると花が二種類あるのに気付く。花びらの付け根に細長い膨らみがある物と無い物だ。雄花と雌花だろう。私の知る朝顔とは何もかもが違っていて実に興味深い。




7月某日


 雌花の根元の膨らみがどんどん伸びて、細長い果物みたいになった。食べられるのだろうか? ぶらぶらと風に揺れる様を見ていると食欲をそそられたので、もぎって食べてみた。ジューシーで懐かしい味、強いて言えばスイカの薄緑色の部分のような味がする。美味い。マヨネーズに合いそうだ。




7月某日


 実がさらに三本も出来ていた。せっかくなので様々な食べ方でいただく。サラダにして良し、漬けて良し、海苔巻きの具にして良し、何ともオールマイティーかつ無限大のポテンシャルを秘めた素晴らしい実なのであった。




7月某日


 朝顔は連日たわわに実り続け、一人では食べきれないので隣のじいさんにお裾分けすることにした。じいさんは「おお、こりゃあありがたい。僕はモロキューが大好物でねぇ」と喜んでいた。さすが年の功、食べ方を良くご存知のようだ。


「モロキュー」と言うものが何なのか気になったので、明日あたり調べて作ってみようと思っている。

本物のアサガオは有毒です。決して食べないで下さい。

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