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第二十一話 私があいつであいつが私で④〜あの日見た朝焼けの空を僕達はきっと忘れない。〜

【よくわかるあらすじ】 

 あらすじ、か……そんな物もあったわね。

 この歳になるとね、言えない事の一つや二つ誰にだってあんの……あんたもわかるでしょ。

 ほら、あそこでお酌してる美代ちゃん、最近エロティックな魅力が増したと思わない? 新しい情夫が出来たって話よ。相手は誰かって? それがさ、彼女どうしても教えてくれないの。イケナイ関係だって噂よ……。


 秘密がオンナを女にすんの。


(訳:いろいろあった。)




✳︎




 連休最後の夕食を終え、私はお通夜みたいな気分になった。


「ピョーミャイギャン(どうしよう……明日から仕事だ)」


「まだ時間はあるから、きっと大丈夫よ」


 確かに明日の朝までまだ少しあるが、これだけ試行錯誤してもダメだったのだ。それに職場に事情を説明したって、信じてもらえるわけがない。「ついにそこまで……」とか思われて終わりだろう。このまま闇に隠れて生きるしかないのか……?


 グッさんはちゃぶ台に肘をついて考え込んでいる。私も眠れそうにない。時間だけがただ過ぎゆく……。




✳︎




「ねぇ、起きて!」


 肩を揺すられ我にかえる。居眠りをしてしまったらしい。時計の針は午前二時を指している。


「ピャウ(どうしたの)?」


「カズダンスが鍵だと思うの。みて、これ」


 グッさんは昨日引いたおみくじに書いてあった歌をそらんじながら、こちらにノートを差し出した。


『風吹かば

  瑞花(ずいか)咲かせよ

   檀香梅(だんこうばい)

    姿なかれど

     踊り忘るな』


「各句の頭を取って、つなげて読んでみて」


「ピャ、キュ、ラン、ピュ……キュルリーナ(カ、ズ、ダン、ス……あっ)!」


「つまり『カズダンスを踊れ』と神様はおっしゃってるの。ダンスの所から再現すべきだったのよ。歌の内容に意味なんて無かったのね」


 なにそれ……わかりづらい。もっと直接伝えて欲しかった。「カズダンス 踊り狂わば 元通り」とか。


「さっそくやってみるわね」


 グッさんはすっくと立ち上がり、音を立てずにカズダンスを踊り狂い始めた。私に出来るのは、来たるべき時に備えて寝ずに待機する事だけだ。


 ……三時間が経過した。


 未だ、何も起きない。おみくじの件はただの偶然だったのではないか? グッさんはとてつもない忍耐力と持久力でもってダンスを踊り続けている。しかし流石(さすが)の彼も目は虚ろ、額には大粒の汗、荒い呼吸……もう見ていられない!


「もうやめて、グッさん!」


「まだよ、まだ……まだ足りない」


 自らに暗示をかけるがごとく呟きながらステップを踏むグッさん……何て健気(けなげ)なのだろう! こんなに良い子にこれ以上しんどい思いはさせたく無い。


 彼は一介のマングースとして生きるより、人間のまま生きる方が社会貢献度も高そうだ。仕事だって私より要領良くこなすかもしれないし、失業したとしても上手いこと生きていけるだろう。例えばYouTuberデビューし億単位の再生回数を誇る人気者となり、イケメン石油王に求婚され玉の輿に乗るのもまんざら夢ではない気がする。


 私はいない方がいいんだ……私がいなければ、グッさんは未来永劫幸せに過ごせるんだ……。


 私は外へ飛び出した。


「待って‼︎」


 グッさんが追いかけてくる。私は駆け続けた。


 これでいいのだ、私はやがてマングースの脳容量に慣れ、人間だった事すらも忘れて……。その方が幸せになれるだろうと、現代国語の教科書に載っていた「山月記」の虎も言っていた気がする。


 私とグッさんの追いかけっこはしばらく続いた。


「あっ!」


 グッさんが歩道の段差につまずいた。そしてそのまま私に被さり、地獄車状態となって民家の塀に激突し……。


「イタタタ……」


 あまりの痛みにうずくまる。顔を上げて真っ先に目に飛び込んできたのは、朝焼けに染まった可愛らしいマングースの姿だ。と言う事は……。


 私たちは肩で息をしつつ、しっかりと手を握り合った。


 言葉なんて、要らなかった。




✳︎




 出勤途中、いつもとは違う道を私は通った。回収しておきたい物があるからだ。


 アパートから少し歩くと開けた場所に出る。キャベツ畑である。


 畑の端でおじいさんが一人農作業をしている。私はキャベツを指差して彼に話しかけた。


「これはキャベツの葉に光る朝露ですか?」


 これがどうしても言いたかったのである。


「いやいや、それはモンシロチョウの卵だよ。あんた面白いねぇ」


 おじいさんは笑った。彼は私を気に入ったらしく、長い長い世間話を始めた。


 話によるとおじいさんは昔ガラス細工を作る職人だった。ある時弟子と妻が駆け落ちしてしまう。ヤケになった彼は高額の怪しいネックレスを購入するのだが、それ以来万馬券を当てるわ宝くじで一等当選するわ気立の良い二十も年下の美女と再婚するわで人生がずっとフィーバー状態だったと言う。現在はガラス細工を作る傍ら、農業に目覚め遠方の土地を買いキャベツ栽培にハマっているらしい。


 つい最近どこかで聞いたような話だ。私はグッさんに習って「え、そうなんですか!」「すごいですねぇ!」「……それは大変でしたねぇ」の三パターンを巧みに使い分けつつ、表情豊かに手振り付きで相槌を打った。


「考えてみれば俺もお袋も女房にはきつく当たってたからバチが当たったのかもなぁ。でもあんな若造に女房を取られるとは思わなんだ」


「え、そうなんですか!」


「女房が弟子と逃げたあくる日の朝焼け、今でも脳裏に焼き付いてるよ。絶望で、世界も焼けてしまえばいいと思った」


「……それは大変でしたねぇ」


「当時ははらわたが煮えくり返るかと思ったけど、今じゃどこかで幸せに暮らしてればそれでいいと思ってるよ。……ほら、あの犬。この辺を良く散歩してるんだけど、逃げた女房にそっくりでねぇ」


「すごいですねぇ!」


 おじいさんはしゃべり倒し、私は引き時がわからず仕事に二時間も遅れ超叱られた。


 さらに、踊り狂った影響か二日後に重度の筋肉痛に襲われ地獄を見た。


 グッさんは何の変哲もない賢いマングースに戻り、日々のマングース生活を満喫している。


 ちなみに彼の獲得した百以上のブックマークは、私が連載を引き継ぎ次話を投稿した瞬間に全て剥がれた。


 なので次回の三連休前には、カズダンスではなく日舞(にちぶ)を舞おうと思っている。





ありがとうございました。

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