第二十話 私があいつであいつが私で③〜神のお告げはほのかに香る〜
【よくわかるあらすじ】
身体が入れ替わった私とマングースのグッさんが、隣の激オコじいさんや悪徳セールスマンに、出会ったぁ〜〜〜。
[連休初日・午前]
私たちは朝の腹ごしらえを終え、今後の予定について話し合った。
「ヘロゥゥピャウ〜キュ……(仕事が始まる前に戻らないと、最悪職を失って野垂れ死んじゃう……)」
「いざとなれば隣のじいさんのタンス預金が有ります」
グッさんが物騒な事を呟く。
「ピャレ〜ンピュイ(次は何を試そうか)」
「地獄車の再現では上手くいきませんでした。とにかく情報が必要なので、たくさんの情報を得られる場所を教えて下さい」
「ピャイムキャリ〜ナ(図書館がいいかもね)」
グッさんが背負うリュックに私はなんとか収まり、早速二人で出掛けることにした。当然ながら路面電車も図書館もペットの持ち込みは禁止なのだ。
「文字を読めるようになりたい」と望むグッさんの為に、道々目につく文字の読みを教えていく事にする。
「あれは何と読むのですか?」
リュックから顔を少し覗かせ彼の指差す先を見た。果物屋「フルーツ・ナンドク」の店先にある札である。
『万寿果』『酢橘』『朱欒』『甘橙』『鰐梨』『彌猴桃』(※)
「キャイクゥイテャエ〜ン(すみません全部読めません……)」
それでも図書館に着く頃には、グッさんはひらがなカタカナ、簡単な漢字をマスターしていた。
(※万寿果=パパイヤ
酢橘=すだち
朱欒=ザボン
甘橙=オレンジ
鰐梨=アボカド
彌猴桃=キウイ)
何とかたどり着いた図書館でグッさんは様々な本を読み漁った。
瞬時に習得した斜め読みで心理学、歴史、経済学、政治学、民俗学、自然科学、芸術、日本文学などあらゆる分野の本を読破していく。
しかし残念ながら求める情報は手に入らなかった。
賢く逞しい彼は周りの人の行動を観察し、教えずとも図書の貸し出し処理まで難なくやってのけた。
私はと言うとずっとリュックの中にいるのが苦しいので、椅子の上でぬいぐるみのフリをしていた。
[連休初日・午後]
グッさん、連続入れ歯強奪犯を捕獲し警察に表彰されそうになる。
図書館の帰り道、近道をする為に大きな公園を横切ると、一角が老人ホームの花見会場となっていた。
老人達と職員が「入れ歯を盗まれた」と騒いでいた。八人分もの入れ歯が盗難にあったらしい。我々は犯人探しに協力する事にした。
グッさんが老人達の話を元に複雑に絡み合った血脈や因縁を一つ一つ解きほぐしていき、最後に意外な犯人を指差して「彼らの入れ歯を盗んだ犯人はあなたですね」と言った時には鳥肌が立った。
ちなみに犯人はある男性入居者の遺産を独り占めしようとしていた孫娘だった。入れ歯盗難は、これから起こるはずだったおどろおどろしい連続見立て殺人事件の序章に過ぎなかったのだ。
私は白いゴムマスクを被って芝の上で逆立ちしている男がいかにも怪しいと思ったが全然違った(彼は哀れにも遺産争いに巻き込まれただけだった)。
警察に「どこかの私立探偵ですか」と素性を聞かれたが、それどころではないので撒いて帰った。
[連休二日目・午後]
元に戻るため様々な実験を行う。
二人同時に微弱な電流を流してみたが、筋肉がほぐれ血行が良くなりコリが緩和されただけだった。
ヨガをやってみたが、冷えが改善され免疫力が高まっただけだった。
古今東西ありとあらゆる呪文を唱えてみたが、摩訶不思議な治癒力により過去の古傷が完全に癒えただけだった。
どれも上手くいかない。ただ健康が増進してゆくばかりである。
その後二人で作戦会議。普段通りの生活の中でいろんな事をどんどん試してみようという結論が出た。その過程で何かヒントが見つかるかもしれない。
[連休二日目・午後]
午前中のあれこれで疲れたので寝てしまう。
しばらくしてドアの開く音で目が覚めた。入って来たのは見たことのない、女子力が超高そうなゆるふわ清楚系の女だった。
「ただいま」
「キュレッ(どなたですか)?」
「グッさんよ〜」
「ピョーキョーピューティーキェンタ〜〜(そんな! 声まで変わって……)」
話を聞くとグッさん、美容室の前をしゃなりしゃなり歩いていたところカットモデルにスカウトされ、いい感じにカットされた上にメイクまで施されてしまったという。もはや特殊メイクであった。
「でも、ヒントになるような話は聞けなかったわ」
すっかりいい女になったグッさんは言葉遣いまで変わり、引き戸を脚で閉める行為など間違ってもしない。
そして彼は謝礼として貰った千円を元手にデイトレードを始めた。
[連休三日目・午前]
グッさん、純文学小説の投稿を始める。
朝起きると、グッさんはスマホをポチポチいじっていた。「考えごとしてたら眠れなかったの」と言う彼は、暇潰しに浮かんだ考えを元に話を作り、せっかくだからと小説サイトに投稿したらしい。
冒頭を読ませてもらう。ある朝目覚めるとマングースになっていた男とその家族の困惑が書かれているが、難解でよく分からなかった。
二人で買い物がてら街をぶらぶらする。収穫無し。
[連休三日目・午後]
グッさんの始めたデイトレードの儲けが早くも三百万に到達した。利益を確定し彼は言う。
「これであなたが職を失っても、しばらくは大丈夫よ」
そして彼の投稿した純文学は、三話投稿の時点でブックマークが三桁の大台に乗った。
「キュンパッピェ(グッさん半端ないって)!」
万策尽きた感があるし、神仏に頼るのも一つの手だと考えた我々は近所の神社にお参りする。お賽銭を納め、早く元に戻れるよう願をかけた。おみくじも引いてみた。結果は「末吉」。
「ピュミョン(なんか微妙だね)……」
「大丈夫、これから運が上向くわ」
グッさん、どっしり構えていて実に頼もしい。
おみくじに記されている神様のお告げはこうだ。
『風吹かば
瑞花咲かせよ
檀香梅
姿なかれど
踊り忘るな』
どういう意味だろう。百人一首では無いようだし、スマホで検索しても出てこない。神社のオリジナルだろうか。
「何だか菅原道真のパクリっぽい歌ね」
「ピャッツッカー(瑞花って何だろう)?」
「雪のことね。でも変だわ。檀香梅は三月から四月にかけて咲くはずよ。雪と季節が合わないわ。あ、そうか! 檀香梅は唐蝋梅の別名でもあるから……こっちは確か冬の花よね……」
博識なグッさんはブツブツと歌の解釈に躍起だが、正直おみくじなんて当たるとは限らないし、慣れない四足歩行で疲れが溜まったので早く帰りたい。彼を促し、おみくじを結び帰宅した。




