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窓が時々少し震え、音を鳴らす様子に、加賀谷もふと目をやる。
外では、隊員たちが魔導訓練をしていた。その衝撃がここまで伝わってきているのだ。
「……」
連携の取れた飛行や術式に、ついため息のようなものが漏れてしまう。
「……ぇ?」
ふと見上げていた加賀谷の目に写ったのは、中隊長の誰かが敬礼するような仕草。
慌てて、敬礼を返せば、それが見えたのか、向こうも敬礼を解いて、訓練に戻っていった。
「み、見えてるんですね……」
「そりゃ、隊長が見えてるんですから、向こうも見えてますよ」
むしろ、向こうは術式を展開しているのだから、加賀谷以上にはっきり見えていたことだろう。
(とはいえ、建物の中までは普通見てないが……楠葉か、久保辺りか……?)
上空で訓練している時に、窓辺とはいえ、上官が見ているからと敬礼する者はほとんどいない。
気づいたとしても、そのまま訓練を続けることが多いだろうが、やや試すような行動に、我妻も少々呆れたように視線を逸らす。
「……もっと、ちゃんとしないとダメですね」
ぽつりと加賀谷がぽつりと漏らした言葉に、我妻もすぐに視線を戻す。
魔導士の最上位の存在である契約魔導士は、本来、戦いにおいても、指揮においても、トップの存在でなければならない。
たとえ、契約が事故であったとしても、契約魔導士になった以上、その責務から逃れることはできない。
だというのに、基礎的な戦闘についても、書類についても、補佐がいるレベル。
その上、訓練すらも参加できないことがある。
「本当に……」
これでは、また隊員たちから笑われてしまう。
それどころか、他の部隊からも、自分のせいで実力とは異なる評価をされてしまう。
「隊長……そんな、隊長はまだ、いえ、普通に契約魔導士だって、人間なんですから、できないことのひとつやふたつ、ありますよ」
少し前まで、我妻たちが抱いていた契約魔導士の姿は、加賀谷が想像するものと大差ない。
この部隊に配属された隊員以外にも、魔導士全員が、同じ想像を抱いていたことだろう。
戦闘力も、人格も、全てを兼ね備えた完璧な人間。それが、契約魔導士の理想だ。
「ありがとうございます。でも、この前も夏目さんに、釘は刺されてて……」
今は、未成年ということもあり、夏目が裏で手を回して、加賀谷の存在は非公開のものだ。
公式に必要があれば、大隊副隊長として、坪田が代理をしている。
しかし、20歳を迎えたら、少しずつ契約魔導士として顔を出すことも増えていくことになる。
そのため、夏目と楠葉からも、立ち振る舞いについて、覚えろと言われている。
「指揮についてはもう、諦めてるんですけど……」
そっと目を逸らしながら、小さく溢した加賀谷の言葉に、我妻もつい苦笑いになってしまう。
今の発言を聞いたら、夏目や楠葉だけではなく、さすがに坪田も久保も苦言を呈しそうだ。
「最近は、老師だけじゃなくて、ガリーナさんにも怒られるし……」
「そういえば、なんかやたら仲良くなりましたよね。あのロシアの魔導士と」
以前は、一方的に喧嘩を売られているような状態であったこともあり、隊員たちからのガリーナたちの印象は良くない。
しかし、群島型デドリィの一件以来、ガリーナたちから喧嘩を売られるようなことは少なくなった。
それでも、ガリーナの元々の口調なのか、当たりが強いのは相変わらずであり、坪田はいい顔をしていない。
「なんだかんだ、優しいところも多いですし。あとは、これ言ったら怒りそうですけど、ガリーナさんの方が、お手本にしやすいんです。老師より」
楊の方は、物理的にもお手本にならない。という加賀谷の心ない言葉に、我妻も頬が引きつる。
ただの魔導士からすれば、すでに規格外の契約魔導士たちの中での序列など計り知れない。
功績だけで見るなら、終戦の魔導士と呼ばれているマイクであろうが、加賀谷やガリーナの反応からして、楊李の方が戦闘力としては強そうだ。
「楊契約魔導士とは、一種の師弟関係だと聞きましたよ。いいんですか? そんなこと言って」
そもそも、国の最高戦力である契約魔導士と師弟のような関係を結ぶことも、国からすれば一大事と取られそうだ。
当時の政府が、どのような交渉が行ったのかはわからないが、相当な対価とリスクがありそうだ。
「あぁ……師弟関係になると、色々問題があるから、とりあえず、同じ防衛作戦に参加して、懇意になった。ってことになってます」
「わかっちゃいましたけど、書類上の話と現実とのギャップが……」
もはや慣れたものだが、加賀谷の経歴故に、秘匿しなければいけないことも多い。
我妻も、ある程度のことは、部隊に配属になる際に聞いている。だが、それでも、未だに加賀谷の過去に隠されたことは多い。
「ま、まぁ、その……老師は昔から、わりとあんな感じですし……教えてもらうというか、見て、食らって覚えろというか……」
「今のご時世、教育委員会に怒られそうな内容ですな」
「むしろ、魔術とか射撃は、最終的に楠葉さんに教えてもらいましたし」
「そうなんですか?」
意外にも思えたが、訓練の時に時々見せる楠葉と加賀谷の様子は、教官と訓練生と言われれば、しっくりくることがある。
「老師は、面倒だから殴ってしまえ。って人なので」
十分、加賀谷の戦闘スタイルにも影響が出ていそうであることは、我妻も口を閉ざしたのだった。




