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デドリィの本格的な活動が再開してから、約半年。
すっかり、加賀谷たちも水上フロートでの生活に慣れてきていた。
『――でね、これが作ったやつ』
保育園で作ったという折り紙を見せようと、画面に近づけるも、近づけすぎて、逆に見えない。
だが、ひとまず「うまい」と褒めてやれば、すぐに画面が明るくなった。
『でしょー!!』
「メダルか?」
離れたおかげで、ようやく見えた息子の手に握られている、折り紙のメダル。
『そうだよ! 帰ってきたら、パパにあげるやつ!』
「お? パパにくれるのか? そりゃ、帰るのが楽しみになるな」
『デドリィ、いっぱい倒したで賞!』
「なんてこった……そんな名誉な賞に内定しているなんて……これほどうれしいことはありません!!」
大袈裟に、カメラに向かって姿勢を正せば、画面の向こう側で、息子たちが楽し気に笑う。
通話時間に目をやれば、息子たちの後ろで様子を見ていた妻も、同じことを思ったのか、息子たちを抱きかかえるように、画面の前に座った。
『ちょっとママにも、パパと話させてねぇ』
『いいよー』
慣れたように返事をする息子は、妻の膝から立ち上がると、妻の後ろに立つ。
きっと、順番待ちの気持ちなのだろう。
我妻も息子の様子に、妻と同じように、笑みを溢してしまう。
「すまんな。子供たちの事、全部、任せきりにして……」
『構わないよ。貴方と結婚した時から、覚悟してたことだし』
少しだけ、諦めたような呆れたような表情をする妻に、我妻も少しばかり表情が強張る。
『憧れの人なんでしょ? いつも言ってたじゃない』
機密事項のため、今の所属について、詳細な話は伝えていない。
ただ、魔導士として、デドリィせん滅作戦に参加しているということだけ。
だが、きっと普段の様子から、命の恩人である契約魔導士の部隊に関わっていることは、バレているのだろう。
『私も感謝してるのよ。その人がいなかったら、陽さんは、いなかったんだもの』
「ありがとうな」
本当に、自分にはもったいない女性だ。
我妻は、その後も時間いっぱいまで、家族と話をすると、通話を切った。
「戻りました」
「あ、おかえりなさい」
執務室に戻れば、書類に向き合っている加賀谷が、笑顔で迎えてくれたが、その眉がすぐに下がっていく。
「何かありました?」
齢8にして、契約魔導士になった加賀谷は、まともな訓練や教育を受けていない。
それこそ、書類仕事は、相当苦手な部類に当たるらしく、そのほとんどを日野を含めた、中隊長たちが担っている。
「いや、その……この書類が……」
「はい」
大抵のものが、加賀谷の印鑑が必要なだけになっているが、目は通しているらしく、こうしてわからないことを聞いてくることは多い。
我妻も慣れたように、加賀谷の差し出してきた書類に視線を落としては、表情をひきつらせた。
そこには、久保の文字で『差し戻し』と付箋が貼られている。
「魔力充填マガジンのレポートですか……」
技術顧問である紀陽からの、より詳細なレポートの提出依頼だった。
以前、群島型デドリィとの戦闘の際、部隊全体が魔力充填マガジンを使用した。
その使用感についてのレポートを求められ、提出はしたが、相変わらず紀陽からは、より詳細な状況を依頼されているようだ。
「うわ……しかも、追加で実験の依頼も来てるじゃないですか」
その上、追加での実験依頼。
紀陽を嫌っている坪田や久保でなくても、これは許可できない。
我妻が、困ったように頭をかきながら、その実験内容について読み込んでいけば、どんどん頭痛がしてくるようだった。
「すみません……紀陽さんの案件、ほとんど任せてしまって……」
「隊長が謝らないでください。元はといえば、坪田大尉と久保に行かせると、喧嘩が収まらないのが悪いんですから」
もちろん、我妻も、紀陽の無茶苦茶で失礼な態度を好んではいないが、坪田や久保に対応させるよりマシである自覚はあった。
「それこそ、隊長こそ、体は大丈夫ですか?」
群島型デドリィとの戦闘時の怪我もそうだが、戦線復帰後からも、相変わらず、遊撃隊として飛び回っている。
その上、つい最近、アメリカの大統領を含めた複数の国の重役たちが、ユニリッドの本部で会議を行った。
その警備に、契約魔導士たちが召集された。
存在が機密事項に近い加賀谷にとって、その召集は、体力というより精神的に疲労が蓄積するものだ。
「なんで、こんな戦闘真っ只中に、大統領も来るんですかねぇ? 海上なんで、デドリィがどこから現れたっておかしくないっていうのに」
「まぁ、半分くらいは、マイクさんの足って話ですから」
「はい? マイクって、終戦の?」
「はい」
それは聞いていない話だが、頷く加賀谷は、困ったように話を続けた。
「なんでも、老師が、娘さんを連れてきて……あ、いや、ちゃんと、娘さんは魔導士として志願してるみたいなんですが」
全てを聞く前に、この後の言葉に想像がついてしまった。
「それに怒って、マイクさんもこちらに来たそうなんですが……」
「大統領のチャーター機でやってきたと」
ハリウッド映画か。と、つい溢してしまうが、現実に起こっていたことであるから、嫌になる。
「まぁ、大事にならなくてよかったですよね……」
いつものように、困ったように言葉を漏らしている加賀谷に、つい頷きかけるが、違和感に頷きそうになる頭が止まる。
「……隊長? その含みのある”大事”っていうのは……?」
不思議と、その会議の際に発令された『高波警報』が頭に過る。
嫌な予感以外しない。
「会議後に、老師とマイクさんが喧嘩したみたいで」
楊の息子である、劉から、加賀谷に個人的に、危険になったら止めに入ってくれと、連絡が来ていたらしい。
これだと見せられたメール画面に、当時、加賀谷から相談された坪田と同じ表情になってしまう。
「何してんです……!? 本当に……!!」
各国の最高戦力が、規則無視して、私闘を繰り広げるなんて。
それどころか、周りに被害を起こしているとは。
「私も、あまり強くは言えないんですが……」
加賀谷も、我妻と同じように、楊とマイクに、文句を言いたかったが、加賀谷自身、ガリーナと似たようなことしていた。
しかも、ふたりよりも早く。
「隊長のアレは、喧嘩では……!! あ、いや、まぁ……書類上は近いものでしたね」
命令無視による、戦闘中断に、契約魔導士揃って負傷。
事実だけを文字に起こされてしまえば、楊とマイクと、似たようなものだ。
「もはや、若気の至りですらないですね」
上層部への報告は、年齢による技術及び精神面の未熟さも大いに関係するとされていたが、年長者の方がひどい理由だ。
「まぁ、そういう人が多いんでしょうね……契約魔導士って」
顔を逸らしながら、そう呟く加賀谷も、多少の自覚はあるのだろう。
「ご迷惑おかけします……」
どうやら、直す気はないらしいが。




