「王国陰謀編」第二章「集いし者たち」3-見習いシーフ、初仕事-
日が照りつける中、ロブは、じっとエーデルの北門を見つめていた。
もちろん、怪しまれないように、あくまで自然を装って。
なぜ彼がこんな場所で門を見張っているのか。
その理由は、数日前にギルドから持ち込まれた、彼にとっての初仕事にあった。
依頼内容そのものは、至って簡単なものに思えた。
むろん、まだ見習いであるロブに回ってくる仕事なのだから、最初から難易度の高い依頼であるはずもない。
それでも――初仕事というものは、本人にとっては別格だった。
緊張するなというほうが無理な話である。
依頼内容は、こうだった。
『一人の男に接近し、その素性および目的を調査せよ。期限は一年。より深い調査を必要とするため、怪しまれると思われる連絡等については、本人の判断に委ねる』
ずいぶんと自由度の高い依頼である。
それだけに、初心者向きともいえた。
ただ、ロブにはいくつか腑に落ちない点もあった。
とはいえ、せっかくの初仕事である。
ロブは、快く引き受けた。
――いや。
本当のところを言えば、この仕事を断ってしまえば、次にいつ仕事にありつけるか分からない。
だからこそ、どんな仕事でも受ける覚悟はあった。
そのうえで、内容を見てみれば、思っていたよりもずっと良い仕事だった。
正直なところ、ロブは胸を撫で下ろしていた。
そんなことを考えながら、北門へやってきたロブは、ギルドから教えられた男の特徴を書き留めたメモを、もう一度確認する。
「黒いローブをまとい、魔術師ギルドへの書状を持つ、長髪のハーフエルフ……か」
メモを見つめながら、ロブは小さく呟いた。
「なんだか、特徴だらけの気がするなぁ。ただでさえ人通りの少ない北門だし、見落とすわけはないと思うけど……しっかり見てなきゃな」
そうして待ち続けること、数時間。
ようやく、一人の男が北門へ姿を現した。
男は門の前で立ち止まると、被っていたフードを取り、懐から一通の書状を取り出した。
そして、それを警備兵へ手渡す。
どうやら、内容を確認させているようだった。
ロブは目を細める。
そして、シーフ技能の一つである「遠視」を使い、男の姿をじっくりと確認した。
「……どうやら、姿形はメモの通りだな」
男の長い髪。
黒いローブ。
そして、ハーフエルフ特有の耳。
ロブは確認を終えると、次の目的へ意識を向ける。
「あと確認するのは……あの書状が、本当に魔術師ギルド宛かどうか、か」
ロブは男を追うように、警備兵へと近づいていった。
あくまでも、偶然その場に居合わせた者を装って。
「なあ、今の人、ハーフエルフみたいだったけど、何者なの? 格好からすると、魔術師のようだけど」
「なぜ、貴様に言わねばならんのだ」
警備兵は、いかにも機嫌が悪そうな顔をして、そっけなく答えた。
ロブは一瞬だけ眉をひそめた。
しかし、すぐに表情を緩める。
「ちょっと興味があってね。確かにこの街は異種族が多いほうだけど、ハーフって珍しいだろ?」
そう言いながら、ロブは懐から金貨を一枚取り出し、さりげなく警備兵へ差し出した。
警備兵の目が、一瞬だけ金貨へ向く。
そして――。
周囲をちらちらと見回すと、誰も見ていないことを確認し、素早く自分の服のポケットへ金貨をしまい込んだ。
「そうか……そうだな。確かに珍しいのかもしれんな」
先ほどまでの不機嫌そうな態度は、どこへやら。
警備兵は、急に愛想の良い笑みを浮かべた。
「うむ。確かに魔術師のようであった。詳しくは申せんが、魔術師ギルドへの書状を持っておった」
警備兵は、少し声を落とす。
「どうやら、彼は魔術師ギルドにある、ウィルヒルト魔道学院へ向かったようじゃ」
「へえ……そうなんだ。魔道学院へねえ」
ロブは、何気ない顔で頷いた。
目的地が分かった。
それだけで、初仕事は一歩前へ進んだ。
「ありがとよ、おっちゃん」
軽く手を上げると、ロブは先ほどの魔術師を追って歩き出した。
ただし、急ぐことはしない。
一定の距離を保ち、決して追跡していると思われないように。
見習いとはいえ、シーフなのだ。
――尾行の基本くらいは、心得ている。
ロブは人混みへ紛れるようにして、男の後を追っていった。




