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女王様見習いの清楚お嬢様は、○○○の穴を埋めて欲しい  作者: 弥波明希
3章 後輩女子は巻き込まれる

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23/23

23話 お嬢様はとっても不機嫌

「私の手料理を、食べたい……? 一緒に、食卓を囲みながら……」


「ああ、妃奈が家で作ってくれた料理はすごく美味しかった。ひとりで食べているときよりもずっと優しくて、温かくて――その、嬉しかったんだ」


「そ、それは出来たてだからで、だから温かいのは、当然で――」


「それだけじゃない」


「ふぇあ!?」


 俺が一歩踏み出すと、妃奈は潰れたカエルのような声を出す。


「妃奈が居てくれたから、なんだ。食べている時、向かいで妃奈が微笑んでくれたから。誰かと囲む食卓はすごく久しぶりだったから……」


 いつからだろう。ひとりで食べるのが当たり前になったのは。

 母さんの期待に応えられなくて、家の中が冷えていって、そしてバラバラになっていった。


「妃奈は俺に何も押し付けようとはしなかった。……そりゃまぁ、わんちゃんとかいうわけわからん役割はあったけどさ。分からな過ぎて逆に素だったから、それも悪くなかった」


「……素、ですか。生まれついてのわんちゃんだったってことですね」


 聞こえなかったことにした。


「だから、妃奈」


「は、はいっ」


「俺と――」


「まままっ、待ってください!」


 妃奈は慌てたように顔の前で手を振った。


「こんなのもう、あれですよっ! ぷっ、ぷろぽ――みたいなものでっ、一段も二段も飛ばし過ぎです! まだ私達は手を繋いだことすらないわけですし……あぁでも、もっとすごいことをたくさんしてますね……。だ、だけど、まだお付き合いすら――」


 青い瞳が恥ずかしそうに逃げ回る。桜色の唇がワナワナと震え、そのくせ赤く染めた頬は緩みっぱなしだ。

 彼女の声が小さくなっていく。それが「次の言葉を早く聞かせて」と言っているように思えて、俺は言葉を続けた。


「――一緒に、こども食堂のボランティアに行って欲しいんだ」


「…………????」


 絶句。そして地獄のような沈黙。

 勢いそのままに気持ちを伝えた。言葉選びに多少の間違いがあったかもしれない。何か勘違いされていたのも分かっている。

 それでも気持ちを知ってもらうことを、俺は優先した。


「……」


 下がっていく教室の温度に頭を冷やされて、ようやく思った。


 これはまずいぞ、と。


「……あ、えっと、えっとな。ほら、今朝俺が話してた後輩の女の子、赤坂なんだけど。あの子がこども食堂のボランティアを求めてて、妃奈と一緒に行けたら嬉しいなって思ったからさ……」


「…………へぇ、他の女のご機嫌取りですか」


 やばい、綺麗なおでこに皺が寄った。地雷を踏んだらしい。


「そ、それは違う。妃奈は料理をするのが好きって言っただろ? 親以外にふるまう機会がないって言ってたじゃないか。だから子供たちにご飯をふるまうのは良い経験だと思うんだ。自分の好きを探求すれば何か分かることがあるかなって……。あと、俺も妃奈の手料理を食べられたら嬉しいし……」


「凛音君の……」


 妃奈の目がキッと吊り上がる。細い腕が後ろに引かれ――。


「このぽ〇ちんぽんちき、すけこましぃ‼」


「ぐぅっ!」


 掌底直撃。胸に強烈な衝撃が走り、数歩後退した。

 その隙間を妃奈はするりと抜け、肩をいからせながら出口へと歩いていく。


「そんなに私の手料理が食べたいなら、一度だけ口車に乗っかってあげます! それで満足ですかっ!?」


「……ああ、ありがとう。ところで今なんて言ったんだ……? まさか。ぽこち――」


「知りませんよ、ポークビッツ野郎さん!」


 昼休みの終わりを告げるチャイムと共に、妃奈は走って出て行ってしまった。

 罵倒の勉強に下品な洋画と古い邦画でも見たのだろうか……。




 *




「……あの、先輩? これは一体どういう状況なのでしょうか……」


 放課後。妃奈と共に訪れた一年生の教室で呼び出した赤坂は、いつもの元気さを微塵も感じられないげんなりした表情で俺達の前に立った。

 隣に居る妃奈はずっと不機嫌なままだ。一応初対面の赤坂の前ということで表情を取り繕ってはいるが、そこにいつもの柔らかさは感じられない。


「……もしかして私、これから絞められるんですか? 校舎裏でたくさんの女子に囲まれて『黒川先輩に近づくんじゃねぇよ、クソビッチ』って髪を引っ張られたりとか……」


 やけに感情がこもっている。まさか実体験か?


「……なるほど、罵倒と暴力の合わせ技ですか。高度な技術ですね。私にもできるでしょうか……?」


 横から物騒な言葉が聞こえ、赤坂が「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

 妃奈が女王様として変な学習をしないうちに話をつけよう。


「まてまて赤坂、変な勘違いをするなよ。俺たちはこども食堂のボランティアに参加したくて来たんだ。隣に居るのは同級生の真白妃奈。料理が好きだって言うから今回誘ったんだよ」


「真白と申します。いつも『私の凛音君』が、大変お世話になっているみたいですね」


「ヨ、ヨロシクオネシャス――」


 片言の運動部みたいな挨拶を返しながら、赤坂が泣きそうな顔で俺を見る。

 ごめんな、悪気はないはずなんだ。……知らんけど。


 俺が何も言わないでいると、赤坂は唇をきゅうっと閉じ、なにやら覚悟を決めた顔で妃奈と向き直る。

 その姿はまるで魔王に相対する勇者、あるいは小姑に言い返す前の嫁のように勇ましいものだった。


「え、えっと、真白先輩は黒川先輩と仲がいいんですね。こんな美人な方と仲良いなんて知りませんでした。私はまだ黒川先輩と出会ったばかりでして、先輩のこと全然知らないんですよぉ、あはははぁ……」


 あ、だめだ。ゴマすりと言い訳が渋滞してる。


「ふふっ、仲がいいだなんて……。確かにお互いの深いところを知ってますし、名前で呼び合ったりしていますけど」


 しかし効果は抜群だ。赤坂はここがチャンスとばかりに追撃を仕掛けた。


「名前呼びって特別感ありますよね! それで、あの……おふたりはお付き合いして……?」


「まさか、俺が妃奈と付き合ってるわけないだろ。こんな美人が相手だなんて、さすがに釣り合わな――ぐっ……」


 妃奈の右足が、お淑やかに俺の左足を圧し潰した。冗談抜きに痛い。


「確かにお付き合いしていません。ですけど、凛音君は誰よりも私のことを理解してくれる特別な方だと思っています。だからそう言う意味では、恋人よりも、わん――」


「わん?」


「ごほんごほんっ。えっと、恋人よりも特別な存在、かもしれません。……ね、凛音君?」


 妃奈は最高に可愛い笑顔を向けながら、俺の左足をぐりっと踏みにじる。


「ぐぁ……そ、そうだな……」


 妃奈のかかとが俺の指の付け根をねっとりと責めてくる。顔に脂汗が浮かんでくるのを感じながら彼女を見ると、笑いながら目で「逆らうことは許しませんよ、わんちゃん」と語りかけていた。


「……さすがですね、先輩。えへへっ」


 やめろ赤坂、泣きそうな顔で愛想笑いを浮かべるな。俺まで泣いちゃうだろ。


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