応答せよ
無線機が一斉に反応した。
『応答せよ……こちらジンケ……こちらジンケ……』
「ジンケか!? ジンケ、無事だったのか!? 今どこにいる? こちらスグル、どうぞーー」
「ジンケくん、こちらカホリ、どこにいるの? 何があったの?」
「ヨリコよ。報告したいことがあるわ。どうぞーー」
間が空く。皆、それぞれの場所で、次の言葉を待つ。ジンケから連絡があった。三人が応答した。皆、無線が届く範囲にいる、ということだ。
『オーケー』ジンケの声。『みんな集まろう。僕の家だ。僕の家に来て欲しい。どうぞーー』
「でも」カホリの声。「ジンケくんは? どうやって行くの? だって、まだ……」
『僕は体を取り戻した』
「え?」カホリのみならずヨリコもスグルも聞き返す。
『とにかくだいじょうぶ。来てくれ。以上』
「後で詳しく聞かせろよ! どうぞ」とスグル。
「ヨリコ了解。どうぞ」とヨリコ。
間が空いた。通信は終わったかのように思われた。しかし次の瞬間、無線機から音が割れるほどの声。ほとんど悲鳴の声。
「ちょっと待って!!」カホリだ。「ナオユキは? それにタカシも!!」
静寂。無線機越しでも嫌な空気が伝わる。せわしない心臓の音が多重に聞こえて来そうだ。
「ナオユキ……タカシ……聞こえている?」カホリが問いかける。「聞こえているの? いるなら応答して! ねえ、いるならーー」
「二人はーー」スグルの声が割って入る。「二人……二人は……」
しかし、次の言葉が続かない。電波的ノイズ、いや歯ぎしり? ただならぬ吐息が不安を掻き立てる。
『二人はきっと無事だよ』ジンケが言った。
と、突然それぞれの無線機がおかしな音を拾い始める。時報、ラジオ、テレビ、警察無線、それから日常的な通話まで、理論上拾えるはずのない生活音が彼らの無線機から弾き出された。
どうなってるーー!?
音が、ノイズが、高速で切り替わる。まるで音のスクラップ工場。ついてはロック、クラシック、ポップス、言語、様々な外国語講座……。その全てが正しく聞き取れるわけではなく、そう判断出来る程度。だが、これだけは違った。ほんの一瞬、ノイズとノイズが重なり合う隙間から漏れた音、生々しくも胸をかき乱す周波数、意志を……そう、垂れ流しのノイズなどでは決してない、確かな意志を放つ旧知の声ーー。
《……こちら……ナオユキ……》
「ユキちん!」たまらずスグルが叫ぶ。「無事なのか!? 今どこに!? どうぞ!!」
《……ああ、無事だ……だが、長くは話せない……》
「何があったの!?」カホリが叫ぶ。「どこにいるの!? だいじょうぶーー」
《落ち着け!》ナオユキが怒鳴る。《とにかく無事だ……詳しくはスグルから聞け……こちらは、なんとか調べてみる……》
「調べるって……?」
《もうだめだ……時間がない……心配するな……そっちも気をつけろよ……じゃあ、またなーー》
交信は途切れた。
『みんな』ジンケの声。『とにかく、僕の家に集合だ』
更新は途切れた。各々、今何を言っても、何を訴えても無意味だと悟っていた。〈とにかく、僕の家に集合だ〉これ以外に選ぶ道はない。ナオユキに何かが起きた。それは悲しみであり恐怖だった。同士を想う気持ちがふとした拍子に次は自分の番かもしれないという恐れへと変わる。恥じるような、それでいて切迫した焦り。とにかく、とにかく集まらなければ。そもそも離れ離れになったのが間違いだった。いや、そんなこと自分には判断できない。それを判断できるのはジンケだ。ジンケが戻ってきたのだ。
スグルは研究所を後にした。ガイもハッセも一緒だ。特に彼らに声をかけることはないが、二人は群れからはぐれないようにするかのように無言でついてきた。相変わらず亡霊のようだった。だが深い冷凍状態からゆっくりと人間性を取り戻しているようにも見受けられた。
カホリとヨリコも出発した。昏睡状態を続けるヒカルを残して、乳母であるおばさんに別れを告げて、荒地のトレーラーハウスを出た。
二組とも収穫はあった。本人たちも理解が追いつきそうもない体験。彼らは寒空の下を走った。まるで走ることで肉体が勝手に情報を処理してくれるとでも言うかのように全力で走った。
そしてもう一組、ナオユキとタカシはーー。




