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気が付くと寝取られ小説の主人公に転生していたので、運命にあらがいます  作者: 古林こりん


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秘されていたこと


「うちの精鋭の一隊で賊どもから凛を助け出す。並行して残りの者どもでこの屋敷に火をかけ、わが御坊家の滅びを偽装することになる。

 不律、お前はこの手紙を持ち、そこに書かれた名前の家に保護を頼むと良い」

 

 座敷から再びでてきた侃郎は俺に向かって書簡を差し出しながら改めて告げた。庭ではその準備が進められている。


「義父上。俺も、行かせてください」


「足手まといになるだけだ」


「なんでもします!」


 にべもなく切り捨てる侃郎に俺は食い下がった。


 おそらく小説のなかの「僕」は、男爵家の戦力外とみなされた、あるいは一家の信用を得られなかったことで、身分を隠して(さらに年齢も一、二歳おさな目に偽って)孤児院へと送られたのだろう。


 いまは別の分岐にあって孤児院に直接送られるのではないが、侃郎は俺を信頼のおけるどこかの家に送るつもりらしい。


 俺の覚悟について御坊家からの信用がいまひとつ足りない、ということなのか。このまま小説とは異なるものの類似の寝取られストーリーのフラグが立ってはたまらない。


 侃郎はため息をついて、改めて俺に向かい合った。


「不律。これから我々は爵位も御坊の名前も捨てることになる。凛の救出の成否にかかわらず、勇者と敵対した我々はこの国から消えてなくなるのだ。

 勇者に見つかれば、我々は人類の裏切り者と罵られ追討を受けるかもしれない。これからどんな苦難があるかわからん我々の道に、お前までつきあう必要はない」


「凛姉は俺の許嫁なんですよ! 俺が助けに行かなくてどうするんですか!」 


 被せるように叫んだ俺の勢いに侃郎は一瞬言葉を飲み黙る。


「行かせましょう。侃郎」


 ふたりの様子を横で見ていた優が、静かに声をかけた。


「しかし……」


「いま、凛の置かれている現実は生易しいものではないからです。実際に現実を見させて、不律に凛と本当に添い遂げられるのか改めて問いましょう。

 それに先程、不律は万一の際には凛の最後の救いを引き受けると約束してくれました。だから、行かせてやりましょう」


 一人娘を失うかもしれぬ覚悟を決めた目を向ける優を、侃郎はしばらくの間見つめていた。


「そうか……不律。ならばすぐに支度をしてきなさい。お前は何も持たなくて良いが、刀だけは持て」


「ッ! 有難うございます!」


「礼を言うのは早い。生涯忘れられない現実をお前は直視することになるのだからな……約束を忘れるなよ」


   *


 突入隊は少人数だった。


 賽助、大助、勘助の使用人たちと魔術師ふたり。そして俺。リーダーは賽助。たしかに俺は体術を彼らに学んでいたが、こういう非常の時に起用する者たちなのだろうか。いぶかしく聞いた。


「賽助たちで大丈夫なんですか?」


「安心していい。お前には表の顔しか知らせていなかったが、彼らは隠密としても優秀な者たちだ」


 え、賽助たちって、秘密工作員なの? いきなりの暴露にびっくりしてしまい、俺は動揺を隠せない。


「家兵たちは?」


「今回は要らん。秘密裏に裏から入り込むのだからな。……そうだな。ちょっと座れ」


 屋敷のものたちが準備を進めている間、「少し説明をしておこう」と侃郎に言われて、広縁の端に腰かける彼のすぐ横に座った。

 

「これは秘すべきことで、お前も聞いてしまったら抜け出せないことになるが、当家は以前、卯城伯爵家の暗部を務めていた」


 さりげなく語られた言葉に俺は衝撃を受けた。そんな内容は小説のなかでは出てこない。確かに御坊家は妙に体術や剣術の訓練が充実していたが、そんな裏事情があったなんて……。


「驚いたようだな?」


「はい、卯城家の執事補佐の家ではなかったんですね」


「それは表向きの話だ。男爵家のわりに使用人の数が多いとは思わなかったか? 今はかつての稼業を利用した流通で稼いでいるが、それもまた表向きの話だ。実際に儲けてはいるがな。この辺りについてはいづれ詳しく教えてやろう。……しかし、さすがにこんな突発的な討ち入りは対策できていなかった。屈辱ものだな」


 悔しそうに当主は言う。


「暗部は当主に絶対忠誠な存在かと思ってました」


「当家は、もともと王家から伯爵家へ寄子として付けられた家なのだ。

 伯爵家は将軍職を出すこの国一の軍事貴族だ。その直属の暗部として我々御坊家は働いていたが、筋としては我々は王家から伯爵家に貸し与えられていた存在だ。当主交代のたびに、当主と直接の主従契約を結ぶ。

 だから、伯爵家からも大きな問題もなく離れることができた。そこには王家の意思も介在していたからだ。 

 勇者が伯爵家の当主を傀儡に堕としたときに、我々は離れることにした。

 その過程を一部始終を間近く見て、アレスのよこしまな意図で我々が使われたら、この国に災厄をもたらすと判断した。それは、王家にも報告している」


「そのことは、アレスは知っているのですか?」


「アレスは我々のことを執事補佐の一族としてしか認識してないはずだ。有紗さまは魔法契約によって我々の存在について口外することはできない。

 それに伯爵家から去るときにも、有紗さまの記憶に呪的な介入をして、我々の仕事について思い出しづらくもさせてもらった。

 よほど具体的にアレスが詳細を聞き出さない限り、伯爵家に暗部がいたことを認識することすらできないはずだ」


 暗部は当主の記憶であっても操作するという話になんとも応えられず、「それは良かったです」とだけ俺は言う。


「当家が出ていったあと、伯爵家にまともな暗部はいない。

 アレスは外聞をはばかる都合の悪い仕事については、アレスの本保護国の闇ギルドから連れてきている者どもに当たらせていることを確認しているが、今回の押し入りに高い階位の者はいない。先ほどの密偵にもそれは確認させている。手元の者たちで十分対応できるはずだ。それでも賽助には不測の事態があればすぐに引き下がるよう伝えてある」


「それにしても、そんな大事を俺に語ってしまって良かったのですか?」


 普段からにこりともしない侃郎は少しだけ眉を緩ませ、周りを見渡した。多くの使用人が慌ただしく立ち働き、屋敷を片付け荷造りをしているのが見える。


「どのみち、今回の討ち入りとあわせて、我々はここを引き払う。ここでお前は我々とは別の道に逃げることを選ばなかった。そうであれば、すぐに知ることになる話だ」。そう言うと、ふたたび俺に顔を戻して続けた。


「お前はずっと凛の側で支えるのだろう?」



お読みいただき有難うございました。

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