↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴明を継ぐ人  作者: 桃田産


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/13

第12話 残された謎

 翌朝、晴明たちは更なる情報を求め、最初に遺体が発見された山へ向かった。


「うーん、特に変なところはないですね」


 遺体があった場所を捜索するが、草木が生い茂る平凡な景色があるだけだった。


「もう少し範囲を広げてみましょうか」


 なぜ怪異は最初にこの場所に現れたのか。晴明は思考を巡らせながら、地面を見回して歩いた。

 おにぎりを食べて昼休憩を済ませても、一行はまだ山にいた。


「もう何もないのではないですか?」

「……」


 重成が尋ねても、晴明は探索をやめなかった。

 探索をしていた他の武人たちの顔にも疲れが見え始めた頃、晴明が洞穴の前で足を止めた。


「これは……」


 晴明は地面に膝をつき、小ぶりの岩を確認していた。


「なんだ?」


 朝景が横から顔を覗かせる。


「結界の陣があります」

「ということは、陰陽師がいたということか?」

「そうですね……」

「なら、陰陽寮を確認すれば分かるんじゃないか?」


 朝景の問いに、晴明は首を横に振った。


「陰陽師が全員、陰陽寮に所属しているわけではありません。世の中には、個人で活動している者もいます」

「そうなのか?」

「はい。陰陽寮だけで国中の怪異を祓うことは不可能ですから」


 晴明は陣をじっと見つめた後、洞穴の中へ足を踏み入れた。

 中は人の手によって広げられたようで、壁には削った跡が残っていた。



「なんだこれは……!?」


 洞穴の中には、大きな檻があった。

 地面には何かを消したような跡があり、血なまぐさい臭いもどこからか漂ってくる。

 晴明は地面の跡を確認する。


「何のための陣なのか、流石に分かりませんね。擦って消したみたいですから、持ち主が痕跡を消そうとしたのかもしれません」


 さらに、晴明は隅に置かれていた甕(かめ)の蓋を開けた。


「血ですね」

「血!? 人間のか?」


 朝景の背に、ぞわっと悪寒が走った。


「それは分かりません。動物の可能性もありますが……」


 晴明は灰の中に残っていた物を手に持ち、首を横に振った。


「多分これは、人骨ですね。甕の中のものも、人間の血でしょう」


 朝景たちはあまりのおぞましさに顔をしかめた。


「この檻にも、結界の札が張られていたみたいです。破れているところを見ると、中のものを逃がしたのか、逃げ出したかのどちらかでしょう」


 さらに、晴明は檻の中にも自ら入り、地面に落ちていた物を確認した。


「こっちの人骨は燃やされていませんね」

「晴明……、少しは躊躇してくれ」


 あまりにも淡々と捜査をする晴明に、朝景が声を上げた。


「いえ、多分急いで調べた方がいいと思います」

「なぜだ?」


 晴明は檻の中に落ちていた羽根を拾い上げた。


「ここに落ちている羽根は、一般的な鳥と比べても大きいです」

「あの怪異のものか……?」

「可能性は高いですね」


 晴明は羽根を落とすと、先ほどの骨を手に取った。


「骨に歯形がついています。これだけの人骨が積み上がっているということは……。もしかしたら、ここはあの怪異の住処なのかもしれません」

「!!」


 突然の晴明の告白に、洞穴の中に緊張が走った。


「なら、悠長にしていないで、逃げたほうがいいのではないですか?」


 重成の指摘に、晴明は首を横に振った。


「どうせ戻ってくると分かっているなら、ここで捕まえましょう」


 晴明は檻の中に線を引き、結界の陣を描く。

 

「気配でばれるかもしれないので、みなさんは外に出ていてください」

「……本当に大丈夫なのか?」


 心配そうな朝景に、晴明は力強く頷いた。



 朝景たちが草むらで様子を伺っていると、あの怪異が戻ってきた。

 人を抱えているのが見えて、息をのむ。既に絶命しているかどうかは、ここからは見えなかった。

 助けに行きたかったが、今行けば晴明が危険に陥る可能性があった。


「……」


 朝景たちが心配しながら待っていると、どんっ!と激しい音が響いた。

 しばらく様子を伺っていたが、それ以上物音は聞こえてこなかった。


「晴明!!」


 朝景たちが慌てて洞穴の中に入ると、晴明が服についた土ぼこりを払っていた。


「倒せたのか?」

「ええ。結界のお陰で、簡単に祓えました」

「ですが……」


 晴明は地面に倒れている人に近づき、首元に手を当てた。


「死んでいるのか?」


 晴明は頷いた。

 その遺体は、食事処の女将だった。

 

「……」

 

 朝景は静かに手を合わせ、彼女の死を悼んだ。


 


 晴明たちは女将の遺体の件も併せて、季房に報告した。


「分かりました。こちらの方で遺族に伝えておきます」

「よろしくお願いします」

「そんな恐ろしいものがあったなんて……、知りませんでした」

 

 季房はやはり、洞穴のことを知らなかったようだ。


「詳しい調査をする必要がありますので、くれぐれも誰も近づかないようにしてください」

「かしこまりました」


 季房との話が終わると、晴明たちは都に戻るために急いだ。


「結局あの怪異はなんだったんだ?」


 朝景はずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

 晴明はしばらく悩んだ後、口を開いた。


「多分、人の手で生まれたものでしょう」

「なんのために」

「……それは私にも分かりません」

「……」


 問題は、怪異は祓えたけれど、実験を行った人物を特定できなかったことだ。


「とりあえず、帝に報告します」

「ああ、そうだな」


 現状、晴明にも朝景にも、これ以上できることはなかった。


 

 一週間かけて都に戻った晴明と朝景は、帝の御前に報告に上がった。


「怪異の討伐は終わりました」

「ご苦労だった」

「ありがとうございます。ですが、近くに実験場があり、あの怪異は何者かによって作られた可能性があります」

「作られただと?」

「はい。危険なものですので、引き続き調査が必要です」

「……そうか。なら、調査の方は、他の陰陽師に任せろ」

「畏まりました」

「報告が終わったなら、下がれ」


 晴明たちは静かに帝の御前を後にした。


「えらくあっさりだったな」

「……」


 晴明も朝景と同じ意見だったが、帝の考えに意見を言える立場になかった。とりあえず、他の者に調査を頼まなければいけないので、帰宅する前に陰陽寮へ寄る必要があった。


「おや、帰ってきていたんだね」


 晴明たちはぴたりと止まり、後ろを振り返った。

 そこには、にこにこと微笑む朝良の姿があった。

 晴明はすぐに頭を下げた。


「兄上……」

「朝景も無事に帰ってきてよかったよ」


 朝景は朝良の意図が読めず、困惑した表情を浮かべた。


 朝良は朝景を気にせず、未だ頭を下げたままの晴明に視線を向けた。一歩朝良が晴明に近づくと、晴明の足が半歩後ろに下がった。


「君は私が苦手かい?」

「いえ」


 朝良の問いに、晴明はすかさず否定した。


「……」

「……」


 無言が続く中、朝良は晴明の肩に手を置き、耳元に顔を近づけた。

 朝景の体がぴくりと反応するが、第一皇子の邪魔をすることはできない。

 

「いつか、私のことも助けてくれ」

「……」


 小さな声は、晴明にしか届かなかった。

 

 ぱっと体を離した朝良は、にっこりと微笑んだ。


「それじゃあ、またね」


 そう言って、朝良は去っていった。


「何を言われたんだ?」

「いえ……、特には」


 そう言いながら、晴明は額に滲んだ汗を手で拭った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。