第10話 都外の旅路
本来なら牛車で移動する身分だが、帝に命令された仕事とはいえ、あまり晴明が都を離れることは望ましくなかった。
そのため、全員が馬に乗って移動していた。
しばらくして、都から出たところで、盗賊の一味が現れた。
「金目のものを置いていけ!」
都の外へ出れば、朝廷の目も行き届きにくくなる。
盗賊に遭う可能性も考え、陰兵衛府の者たちは初めから警戒していたのだろう。
突然現れた盗賊にも、慌てることなく対応していった。
「はぁっ!」
「うぐっ!!」
やはり重成は、皇族の護衛を担当しているだけあって相当な腕の持ち主だった。敵と対峙しては、圧倒的な力で切り捨てていく。
朝景の弓の腕前も、なかなかなものだった。一本も外すことなく、敵に命中させていった。
「……」
晴明は一人、物陰に身を隠していた。
武人のように、集団で戦う訓練は受けたことがない。
一人で戦うことは得意だが、味方と連携して上手く立ち振る舞える自信はなかった。情けないが、味方の気を散らせないためにも、隠れているのが一番だった。
「くそっ!」
晴明は背後に気配を感じて、横に転んだ。風を切る音が聞こえ、男が刀を振り下ろしているのが見えた。
「くそっ! ちょこまかしやがって」
男が近づいてきたため、晴明は呪符を投げた。
「前後駈除!」
「うわっ!」
男が吹っ飛び、木に当たって気絶した。しかし、騒ぎを聞かれて、他の盗賊にも居場所がばれてしまった。
「おいっ! ここにもいやがるぞ!」
晴明は駆け出し、追ってきた男の隙を伺った。
「待ちやがれ!」
晴明がどうやって対応しようか悩んでいると、背後で「ぎゃぁああ!」という叫び声が聞こえた。後ろを振り返ると、男の足に矢が刺さっていた。
「大丈夫か!? 晴明!」
朝景が駆けつけた。
「はい……。大丈夫です。ありがとうございます」
晴明は息を整えながら頷いた。
朝景は男に駆け寄ると、頭に拳を叩き込んだ。男が倒れると、手早く縄で縛った。他の盗賊たちも縛られ、一か所にまとめられる。
一部の者が報告に戻り、残りの者たちがそのまま目的地の町に向かうことになった。
「少し休憩するか?」
朝景が晴明に気づかわし気に、声をかけた。
「いえ、大丈夫です。……急ぎましょう」
晴明は少しだけ顔を青褪めさせていたが、気丈に答えた。
人が切られる様子を見るのは気分のいいものではないが、晴明とて、盗賊が出ることは予想していた。
「それより、弓は誰から習ったものなんですか?」
「ああ……」
晴明が話題を変えようとしていたので、朝景はそれに乗ることにした。
「一応、教えてくれる人はいたが……。狩猟をしていて、自然と鍛えられたのだ」
動く獣を射抜いていたのなら、人間を的にするのも問題ないだろう。晴明は納得して、頷いた。
「他にどんなことをなさっていたのですか?」
晴明からは純粋な疑問が感じられた。
大伴家の時とは違い、朝景は自然と地方での暮らしについて口にすることができた。
「そうだな、同年代の子はいなかったから、いつも遊ぶのは重成とだった。近所の川に出て魚を採ったり、自分たちで育てた野菜を食べたり……」
朝景は幼い日のことを思い出した。
初めは目新しいことを楽しんでいたが、大きくなるにつれて、自分が地方に追いやられたことを悟っていった。しかし、朝廷で燻っているだけの現状を思えば、随分自由で楽しい時間を過ごしていたのだと思う。
人は、過ぎて初めて、大切なことに気づくのだ。誰かが言ったその言葉を、朝景も身に染みて感じていた。
「……」
「楽しそうですね」
朝景が物思いに耽っていると、晴明の声がした。はっと気づいて隣を見る。
晴明は優しい顔で、朝景の話を聞いていた。
「あぁ、そうだな……。とても楽しい時間だったよ」
朝景も微笑み、頷いた。




