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無職喪女、異世界で居合の魔女となる   作者: まんぼうしおから


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8/9

その8・魔女、世直しする

「さて、どうしたものかね」


「……どこまで逃げても、この調子ならどこまでも追ってくるんだろうな。いたちごっこってやつか。だったら……」


 レントの言葉の終わりには、ある意志が込められていた。

 諦めではなく、開き直りのような、後には退かぬという決意が。


「依頼を変更するよ」


「へえ、どんな風に?」


 聞かずともわかってはいるが、あえて。


「──元を断ちたい。根っこから。だから──手を貸してほしい」


「報酬は? 言っとくけど、面白そうってだけでは動かないよ、私」


「これを」


 手元から出してきたのは、大きな魔石だった。


「ほう、これはまた、珍しいサイズのものを持ってるね。ここまでの大きさのは、あまり目にすることがない」


「昔、リュバールを目指してた途中で手に入れたんだ。たまたま、商人の一行がグリフォンに襲われてるところに遭遇してさ。助けてやったら……グリフォンの屍から、こいつが出てきた」


「なるほどね、グリフォンか。私としては、どこで何をやってこれを手に入れようが、そんなこと構わないんだけど……ま、そのレベルの魔物なら、これくらいのを落としても不思議はないな。──いいよ。これで手を打とう」


「それじゃ……」


「ああ、お望み通り、大神官の首を取ろうじゃないの」


 とんでもない無法な行為を、私は口にした。

 国とも密接に関わっている宗教団体、その長の命を奪おうとする計画。まともな人間ならやろうとすら思わないし、思ったとしても実際にやることなど不可能だ。


 しかし私はまともじゃない。

 人間ですらない。

 魔女だ。


 だからやる。


 それに、だ。

 以前にも伯爵の息の根を止めてるんだから、今更、大物を一人殺すのも二人殺すのも、大して変わらないさ。

 なんなら、その息子とやらもついでに斬ってもいいかな。後腐れなく。



 そうと決まれば早かった。



 善は急げ。


 旅で必要になりそうなものを、あらかた空間ポケットにぶちこみ、戸締まりしてから、泥棒食いの魔術を家にかけておく。

 これで、よほどのことがない限り我が家の守りは大丈夫だ。


「レッツゴー!」


 私とレントの二人を乗せた箒は、大空へとロケットのごとく飛び立っていったのであった。









「──というのがこれまでの経緯なんだけど、何か言い残すことはある?」


「ひ、ひいぃっ……」


「それが遺言? だとしたら失望だね。聖職者なら、もっとこう、敵ながら思わず感心してしまうような言葉をのたまうもんじゃないのかい?」


 大神殿における最も神聖なエリア。

 聖霊の間。


 ニヤニヤ笑いながら、追い詰めた獲物に死刑宣告する私。

 絶望し、床にへたりこみ、失禁している壮年の男性。

 四方八方にバラバラになって散らばっている、神殿の暗部に属する連中だったもの。

 私と男性のやり取りを静かに見ているレント。

 いるのは、それだけだった。


 怯えきった男性は、肥えた身体に金糸を織り込んだ豪華な法衣をまとい、太陽神の紋章のペンダントを首からぶら下げている。

 リュバールにおける、聖職者の最高位。


 大神官アウグストだ。


「まさか、こちらから殴り込みをかけるなんて、想像すらしてなかったようだね。手勢があんまいなくて楽だった」


 少しはやるやつがいたが、あくまで、少しに過ぎない。

 一手間か二手間増えたくらいのものであり、記憶に残るほどの優れた手練れなどは、一人もいなかった。


「こ、こんな真似をしてただで済むと──」


「あー、やめなやめな、センスのないありきたりな脅しなんて聞きたくもない。耳が萎れちまうわそんな安い文言聞いたら」


「呪いの子に与する外道め……!」


「外道はあんただろ。ガキに罪をなすりつけて始末しようとするなんざ、神に仕える者がやることじゃ──」



「そこまでだ!」



 男の声。

 若い。私と同じか、少し下か。


 開かれた扉の向こうにいた、純白の剣を持った青年が、一歩、また一歩と、こちらに近づいてくる。


「もしかして、あんたの息子?」


 私がそう訊くと、さっきまでぐったりしかけていたデブ親父が吠えた。


「ユリアン!」

「来るな、逃げろ! 逃げるんだ!」

「こいつは魔女だ! 人間では太刀打ちできない、おぞましい化け物! 呪いの子につき従う悪鬼だ! そんな剣一本ではどうにもできん!」


 必死に言いたい放題だな。

 悪人であっても、実の子は大事か。よその子には刺客を送りつけて消そうとするくせに。

 醜い矛盾だな。


「別に、俺に従ってなんかいないぞ、その姉さん。単に俺に雇われてるだけだ」


「いいから逃げるんだ! 変な気を起こすんじゃない、さっさと逃げろっ!!」


 聞いちゃいねえな。せっかくレントが訂正してやったのに。


「何言ってんだ、父さんを見捨てて逃げられるわけないだろ!?」


「お前だけでも──」


「はいはい、お涙頂戴はその辺で」



 私は──右腕を閃かせた。



「お、おま……」


 大神官の首に、線が入る。


「と、父さん。父さんっ!?」


「おまっ、えっ、だけでっ、もっ」


 その線に沿って、横に、首がずれていき、


「逃げっ……」



ごとんっ



 重いものが、床に落ちた。


「さ、もうこれで未練もなくなっただろうし、逃げたら? 去る者は追わない──」


「ふざけるなぁああああ!!」


 やはりというか、そうなるとは思っていたが。

 激昂して、叫びながら剣を上段に構え、大神官の息子がなんか示現流みたいに駆けてきた。



 その数秒後。


 また、私の右腕が閃いた。

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