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無職喪女、異世界で居合の魔女となる~とにかく全部斬ればよし。刃こそ最善の解決策~  作者: まんぼうしおから


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7/10

その7・少年、濡れ衣を着せられて

「倒した……?」


「うん、倒した」


「じゃあ俺はいったい何なの」


「何なのって言われても……それはこっちが聞きたい話なわけで……」


 私とレントは、つじつまの合わなさに、顔をつき合わせて首をひねるしかなかった。





 ──話は、半年ほど前にさかのぼる。



 歴史ある国家、リュバール王国。


 私の住まいがある、魔の森。

 その森を有するアッケルンド王国の、東に位置する隣国である。


 当時、その国に私はいた。

 大変な事態になっていたリュバールに。


 古代の遺跡、その奥深くに眠っていた怪物。

 名前すら文献に残されていない、忘れ去られていた化け物。


 長き眠りから目覚めたそいつから放たれる瘴気が、大地をむしばみ、国内各地に深刻な疫病をもたらした。


 リュバールで最も名高い冒険者の一行『白銀の槍』が、遺跡に潜り、怪物退治に挑んだのだが……まさかの敗北。

 一行は壊滅した。


 ならば数で押そうと、今度は血気盛んな兵士の一団が挑戦した。

 一団は壊滅した。


 悲劇的な天丼(お笑いにおける同じボケを繰り返す行為)をかました王国。

 打つ手はもう、ないかと思われた。





「──で、その怪物を見事やっつけたのが、あんただと」


「何を隠そう、その通り」


「俺の知ってる話とは、だいぶ違うな」


「だろうねぇ」


「?」


「……いや、それより、まず先に教えてくれないかな。お前さんの知ってる話とやらを」


「と言ってもな。断片的なものだから詳しい事情はわからないし、どこまで真実かも微妙なんだけど……」


「それでいいから、説明よろ」


「……だいぶ、ざっくりした話になるが……疫病については、大神官の若き息子が天に祈りを捧げて鎮めたとか、そんなことになってる」


「大神官の息子? それって、あの、王都にあるでかい神殿の?」


 レントが頷く。


「七日七晩休みなく祈り続けたとか、曇りでも夜でも、光が天からその息子に差していたとか……よくわからん怪しい話もついてきてる」


「あー……、ありがちだね、そういう嘘くさいの……って怪物は? 遺跡は?」


「そんな話全くないよ。なんなら今が初耳なくらいだ」


「やっぱりか」


 だと思った。


「?」


「ああ、気にせず続けて続けて」


「……何にせよ、疫病は収まった。だから、それで一件落着。終わり良ければ全て良し。世間も納得したし、その話を人づてに聞いた俺も納得した。……ところが、だ」


 レントが語る、その先の話。

 それはこんなものだった。



 生まれつき、異様に高い身体能力や格闘センス、そして恐るべき『腐敗』のスキルを有していたレント。


 窮屈な生活に耐えかね、孤児院を飛び出し、

 一人で旅をしながら腕を磨き、経験を積み、知識を深め、

 冒険者でも目指そうと、とりあえず王都に向かい、

 王都の隅の、治安のよくない裏町で、貧乏だが充実した暮らしをしていた、そんなある日。


 今からだいたい、二ヶ月前。


「疫病をもたらした呪いの子」

「お前を生かしておくなとの、大神官さまからの命令だ」

「悪く思うな、これも任務でな」


 口々にそう言う男どもに、襲われたのだという。


 さっき私が斬った奴らの仲間で間違いないだろう。



「よく今の今まで生き延びられたもんだね」


「そこはまあ、才能と経験、あとスキルのおかげかな。だけど、元はと言えば、こんなスキル持ちの生まれだから狙われたんだろうけどさ」


 痛し痒しか。


「それで、そいつらから断片的に冥土の土産を聞いては、返り討ちにしながら……二ヶ月かけて私の家までやってきたと」


「しつこい奴らだよ。どこまでも追ってきてたまったもんじゃない。だから、あんたに頼んで、大神官の手の届かないところにまで行こうとしたのさ……断られたが」


「だからそれ無理なんだって。蒸し返すのやめてくれないかな」


 どれだけ頼まれようと粘られようと、できないものはできないんだから。


「とにかく、俺の知ってることはこれくらいだ。次はあんたの番だよ」


「私の場合、知ってる話というか、ぶっちゃけ実体験なんだけどね……まあいい。語るとしようか」


 私のターン。

 ダイジェスト気味に何があったかを告白表示にして、ターン終了。



『民衆をいたずらに刺激したくないので、秘密裏に解決したいと依頼された』

『私に白羽の矢を立てたのは伯爵家の当主』

『引き受けた』

『やっつけた。なかなか骨が折れる相手だったが、私の居合には勝てなかった』

『遺跡から出ると、私兵を率いた伯爵がお出迎え』

『魔女なんかに依頼したことを知られたくないらしく、お疲れの私を殺して口封じしようとしてきた』



「それで、どうなったわけ?」


「私がここにこうやっているんだから、どうなったかわかるだろ」


「撃退したんだ、居合で」


 はぁ……と、感嘆の息をレントが漏らす。


「いや、それでもよかったんだけど、疲れてたんでさ。怪物の瘴気対策に持ってきてた壺のフタ開けて、そいつらのほうにブン投げた」


「そんなもの持ち込んでたんだ」


「私は魔女だからね。居合だけに頼らず、特殊な道具とかも活用するよ。ま、この場合は、活用というより、廃棄物の再利用とでも呼ぶべきかな」


 割れる壺。

 その壺から溢れ出る濃い瘴気を浴び、苦しみながら死んでいく伯爵とその私兵たち。

 因果応報とはあのことを言うのだろう。


「その後はさっさとリュバールを離れたよ。どうも、依頼の件は伯爵の独断だったらしくてね、あんたのように刺客に追われることもなかった」

「でも、どうやったのかはわからないが……大神官がそれを知ったんだろう」

「真相はだいたいわかってるとは思うが、私が関わってることは把握してないんじゃないかな。把握してたら、あんたじゃなくて私を疫病の元凶にするはずだ。なんなら伯爵殺しの罪も上乗せして」


 遺跡の怪物は退治されて、疫病が広まることはなくなった。

 その事実を利用して、大神官はそれを息子の手柄にしようと、そう企てたのだ。


「でも、なんで俺なのかな」


 疑問に思うレントだが、私はその疑問についてあらかた想像はついていた。


「おそらく、遺跡のことも怪物のことも、なかったことにしたかったからさ」


 難しい顔をしているレントに、私はそう言った。


「それらを公開したら、何かのはずみで、詳しい真相まで明るみになるかもしれないだろ? ないとは言えないさ。なら隠し通したほうがいい。疫病は大神官の息子が鎮めたことにしてね。あとは、怪物の代わりの元凶を適当にでっち上げて殺せば丸く収まるとか、そういうことで話がまとまったんじゃないかと思うよ」


 一応の下手人を立てるってやつだ。

 酷い話だとは思うけど、よくあることなんだよね。特にこんな時代だと、人権なんて権力者の鼻息ひとつで飛ぶほど薄いし。

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