その6・魔女、少年の素性を当てる
「あーあ、庭が汚れちゃったよ」
男たちの上半身と下半身。
男たちの腹の中身。
頭の上半分がない男。少し離れたところに落ちてるその上半分。
私が殺った連中の死体が、転がっている。
見慣れた、
そして見飽きた光景。
ここで自堕落な生活をするようになる前、各地で頻繁に作り出していた光景だ。
ろくでもない人間や邪魔な人間を、刀でスパスパ斬り分けて。
危険な森の中とは思えないほどにのどかな場所だったのが、一気に血生臭くなっている。
嗅ぎ慣れた臭い。
斬り殺された生き物の出す臭い。
初めは気持ち悪くて仕方なかったが、それも、繰り返していけばそのうち気にもならなくなるもので。
慣れたのは臭いや景色だけではない。
殺人という行為そのものにも、だ。
この世界、中世レベルの時代だけあって、治安がそれほど良くはない。
現代よりずっと、悪党やごろつき、法の機能してない場所が多いのだ。
だから自己防衛の機会も多くなる。
殺るか殺られるかの機会が。
そのため、罪悪感とか特に持つこともないまま、居合居合とにかく居合で突き進んでやってくうちに。
すっかり人殺しに慣れてしまったのである。
こちらに非があるとか、どちらにも悲しい事情があるとか。
そんな状況ばかり連なって押し寄せてきてたら、心がポッキリと折れていたかもしれない…………と、思う。
思いたい。
生まれながらに殺しに向いてる性分とか、んなことないだろ私。
「こんなことなら、森の中で始末したらよかったな。そうしたら片付けの手間もはぶけたのに……って今更か。はぁ……」
ため息。
「……凄いね。噂に聞いてた通りだ」
後ろからかけられる声。
それが誰かは言うまでもない。
声のしたほうに向くと、当然だけどレント少年がいた。
「そうだね。自分でも凄いと思うよ」
「ここまでほとんど無傷で来れた奴らを、四人まとめて造作もなく。……世間に広まってる噂が本当だと、わかりすぎるくらいわかったよ」
「ふふん」
そうだろそうだろ。
「少しは知恵の回る奴もいたけどね。ま、その程度の知恵じゃどうにもならないのが私なんだが。こいつらも身をもって思い知ったろ。今頃は地獄で反省会かな」
天国に行けるような事をしてきた奴らじゃないだろうしな、こいつら。
「それにしても……かなり本気のようだね、リュバール王国の連中は」
「!」
初めて。
この男の子の表情が大きく揺らいだ。
「なんで……そうだと?」
「名前」
「名前?」
「そう、名前。こいつと……」
アッシュと呼ばれた男の死体を、軽くつま先で蹴り、
「あと、そいつ」
ビスタと呼ばれた男の死体のほうを、顎でクイッと指し示す。
「この二刀流がアッシュで、そっちの槍持ちがビスタって呼ばれてた。わかってるとは思うが、どちらも本名じゃない」
「だろうね。ヤバい仕事で本名なんか使うはずない」
「なら、偽名ってことになるが……リュバールで汚れ仕事をやってる連中が使う、簡易な、その場限りの偽名がそれだったなってことを思い出してね」
「詳しいんだな」
「そういう世界で生きてきたからね。詳しくならないとやってけない世界さ」
二年足らずでやめたけどな。
物心ついた時からの怠け癖が、だんだんのしかかってきたせいで。
「で、あんたはさ──何者なんだ? こうなった以上、もう私も一蓮托生だよ。仮にも国の暗部に属する者をこんな風にしちまったんだ。知ってはいけないことを知ったのか、やんごとない人物のご落胤なのか、いい加減教えてくれよ」
「わかった…………中で話すよ。ただ、その前に後片付けをしとく」
「後片付け?」
何のことかわからぬ私をよそに、レントがこちらを指差す。
私ではない。
指差しているのは、私の近くの、もっと下──無様に倒れているアッシュの死体にだ。
「おっ……?」
青ざめていた死体が、土気色を通り越して毒々しい色となり、同時に腐れていく。
速い。
自然に分解されて土に還っていく速度じゃない、ありえない異常な速度。
ボコボコと、沸騰するみたいに、崩壊していく。身につけている物まで含めて、全てが腐り果てていくのが止まらない。
ほんの十数秒で、アッシュの死体は衣服や武器も含め、ほとんど地面の染みとなった。
他の死体にも、順番に指差すレント。
最後に、離れたところに落ちていたアッシュの頭の残りを指差して、後片付けとやらは終わった。
「お見事」
パチパチと手を叩き、手際の良さを褒める。
もう刀は持っていない。玄関からレントが出てきたくらいで、鞘と一緒に空間ポケットへしまっておいた。
「……初めてだ。今のこれを褒められたのは」
どこか照れ臭そうに、レントが先に玄関へと向かう。
年相応の、反応だった。
一戦とその後始末も終わり、
また、居間に戻る。
私もレントも、また、さっきと同じ椅子に腰を下ろす。
雑に積み重ねてしまいこんだ私物が、バランスを崩しかけているのか、部屋の扉の開閉による揺れに共鳴したりもしたが、まだ大丈夫のようだ。
そうだ、そうだとも。
まだ倒れるな。
そのまま、私が後からちゃんと片付けるまで、耐えててくれ。
「──お察しの通り、俺はリュバールの人間だ。そして、半年前にリュバールで猛威をふるった疫病の元凶──ってことにされた。呪いの子としてね」
「え?」
「どうかしたのか?」
「半年前の疫病って、あの、あれ? 身体が赤黒くなって、高熱が出て、血を吐くやつ?」
「それだよ。他にないだろ」
「やっぱそうか。だったらさ、それ……あんた関係なくね?」
「なんで?」
「いや、だってさ」
私は、自分の顔を指差し、
「その元凶ってやつ、私が退治したから」
そう言った。
なんともいえない、沈黙。
レントは、時が止まったかのように、硬直していた。




