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無職喪女、異世界で居合の魔女となる~とにかく全部斬ればよし。刃こそ最善の解決策~  作者: まんぼうしおから


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その4・魔女、とぼける

 外の気配は四つ。

 魔女としての優れた感知能力が、そう教えてくれる。


 出てみると、やっぱり四人いた。



 森の奥の、私の家を中心にして、ある程度、丸く開いているエリア。

 私が切り開き、家を建てた。


 その、切り開かれた場所の端に立ち、森の木々を背にしてこちらを向いている──四人の男。

 全員、覆面や布などで顔を隠しているので、はっきりと性別はわからないが……まあ体格的に男だろうと思う。


 槍とか剣とか、それぞれの得意武器らしいものを持っている。

 防具は……ほとんどない。

 革鎧や、革の胸当て、あとは小手くらいか。

 妥当な装備だ。

 重い武装のまま追跡なんてできるわけないからな。



 男たちは、私が姿を見せると、じわりじわりと寄ってきた。

 武器を構える──とまではいかないが、明らかに警戒している。


 そりゃするわな。


 この森に入ってきたなら、ここに私がいることや、私が一体どこの何者かもわかっているに決まってる。


 魔の森に潜む、居合の魔女。

 何でも斬り伏せて終わらせる魔女。


 その噂や逸話を知ってるのなら、警戒して当たり前だ。


 男たちの中には、怪我をしてる者がいた。

 まくり上げた腕に包帯らしきものを巻いてる男に、破れた衣服に乾いた血がこびりついている男もいる。

 魔物とやり合ったのだろう。

 ここに来るまでに。


 もしかすると、本当は、もっと人数がいたのかもしれない。

 生き残ったのが、この四人というだけで。


「……何かご用かな?」


 あっけらかんと訊ねる。

 さあ、こいつらは、どう答えるのか。


「あんたがあの、剣を使う魔女か……って、聞くまでもないか。こんなところに住んでんだからな」


 左右に一本ずつ剣を下げた男が、数歩こちらに出て、答えを返してきた。

 こいつがリーダー格かな。


 声は意外と若い。二十代くらいの響きだ。


「イカれてる、とでも言いたげだね」


「まあな」


 男が、肩をすくめる。


「八人」


「八人?」


「人数さ。この森に入る前までの、こちらのな。半分がここまで来れなかった。そこそこの腕前の奴らじゃ荷が重かったらしい、この森は」


「それを承知で入ったんだろう? まさか恨み言をぬかすつもりじゃないだろうね」


「いやいや、そんなつもりは」


「……おい、アッシュ」


 残りの男のうち、腕に包帯を巻いた男が、リーダー格の男に声をかけた。


 こちらの声も若い。

 この様子なら、他の二人も似たり寄ったりの年齢なのかもしれない。


「なんだ、ビスタ」


「呑気にくっちゃべってないで、本題に入ったらどうだ」


「それもそうだな。いかんな我ながら。どうも美人を相手にすると、無駄に話を長くしたくて困る」


 ──美人ね。

 言われて悪い気はしないし、それに私は(自分で言うのも何だけど)美人の部類だとは思うが、意味なく長話をさせてしまうほどの美貌ではないとも思うので(自分で言うのも何だけど)、これはお世辞だな。


「子供がいるだろう?」


「いいや。産んだことはまだないんでね」


 処女ではないが、妊娠は未経験だ。



 初体験は大学在籍時に済ませた。

 相手は、冴えない感じの男の子。

 同い年で、同学年。

 小説の話で意気投合して、仲良くなり、なんとなくそういう流れになって、最後までしたのだ。


 そのまま付き合うとかなるかと思って期待感マックスだったのだが、その男の子は、他にも手を出していた。

 驚きだった。

 そして意外だった。

 無害を装って警戒心を抱かせないタイプのハンターだったのである。


 しかし。

 獲物選びでしくじった。

 手を出した子の一人がメンヘラ気質だったらしく、色々揉めたのち、大学構内で後ろから包丁で刺された。

 男の子とメンヘラちゃんは大学からいなくなった。


 私はというと、翌年中退した。



「ハッ、あんたのじゃないよ。浅黒い肌の、十二、三くらいの小僧だ。こちらの地方に逃げてきたらしくてね。全くフットワークが軽い小僧だ。しかも腕もたつ。これまで何人もやられちまってね」


「へえ」


 やっぱり実力者だったか。


「それで、どうしてここに? 臭いでもたどって来たとか?」


「ハハ、いやそんな真似はしてないよ。消去法さ。この一帯には他に目ぼしいものがないんだから、ならここしかないと思ってな」


「ご苦労なことだね。しかし無駄足だよ。そんな子供は来ちゃいない」


「来てない? ホントかい?」


「本当さ。嘘をついてどうする? そんな、どこの誰かも知らないガキをかくまう理由も義理もないのに」


「外で見たりしてもいないのか? 人影を森で見たとかさ」


「それもないな。そもそも、私はここ最近、外出もしてないんでね。引きこもってた。もし、そんなのが森にフラついてたとしても、気づきやしないよ」


「だとしたら妙だなぁ」


 わざとらしく、アッシュと呼ばれたリーダー格の男が首をひねる。


「実はさ、ここまで来る途中に面白いものをいくつか見つけてね」

「魔物の屍だよ」

「どれも、身体の半分が腐れててさ。まともな死に方じゃない。あの小僧の仕業だよ。そんな風にされた仲間を何度も見てきたからな」


 あちゃー。

 レントが返り討ちにした魔物かそれー。


「あんたの可能性もあるかもとは思ったんだが……さっきの話だと、あんた、しばらく引きこもってたんだよな? なら、やったのは一人しかいない。あの小僧だ。だとしたら、どこに行ったのかね……」


 アッシュの視線はもう、私ではなく、私の背後の一軒家に向いている。


「さあ、どこにいるのやら」


 とぼけるが、無駄だろう。

 もう、舌先で丸め込むのはできそうにない。

 こいつも、ビスタと呼ばれた男も、他の二人も武器を構えだした。


「……こうなると、あんたの家くらいしか怪しそうなところは見当たらないんでね。すまんが調べさせてくれないか。素直に承知してくれるなら、額は少ないが、金は出す」


「断ったら?」


「できることなら、やりたくはないが……俺たちに箔がつく。居合の魔女を仕留めたって評判がね」


「ほう」


 強気だね。

 あるんだ、勝算。


 まあ、勝算がなけりゃ、そんな、私を挑発するようなことなんか言わないか。


「……どうするね、魔女の姉さん?」


 どうするも何もない。

 こうなったら、私が出せる答えは、たったひとつだ。



「断る」



 その、拒絶の言葉を皮切りに。


 四人の男たちが、襲いかかってきた。

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