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無職喪女、異世界で居合の魔女となる~とにかく全部斬ればよし。刃こそ最善の解決策~  作者: まんぼうしおから


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その2・喪女、来客を迎え入れる

 その日もそうだった。

 変わらない、いつもの日。

 やはりこれといってやることもやりたいこともなく、昨日の再放送みたいな生活を送っていたのだが。


 昼頃。


 ソファーに寝っ転がりながら干し肉とか果物かじってたり酒飲んだりしてたら、客が来た。


 外から、人の気配が漂ってきたのだ。



 驚いた。

 久々に驚いた。


 近隣の村や町の人間なら、誰も近寄りはしないこのヤバい森。

 魔の森。

 様々な種類の魔物が住み着いている、この国でも屈指の危険区域。

 そんな悪名高い森に足を踏みいれ、しかも、この中心部辺りにまで生きたまま来れるなんてただ者じゃない。


 しかも、さらに驚かされたのは。



 そのお客さんが、まだ若い男の子だったということだ。





 客人なんて想像すらしてなかった。


 玄関でしばらく待たせ、その間に、居間に散らばってるものを手早くまとめ、箱に入れるなりして片付けた。

 応急手当てみたいな、その場しのぎの整理整頓。


「……ま、まあ、適当にそこらに座ってよ、うん」


 やれるだけやって落ち着いた私が、そう言って普段からよく使ってる上質な革張りの椅子(どこから取ってきたものか忘れた)に深々と腰を下ろすと、


「それじゃ遠慮なく」


 男の子のほうは、物怖じひとつせず、おもむろに一番近くにある椅子に座った。

 質素な、背もたれがかろうじて付いてる、木の椅子だ。


 男の子は動じていない。

 魔の森に住まう魔女を、私を前にしても、緊張ひとつしていない。


 いい度胸だ。



 そんな肝が座っている男の子が語った素性は、こうだ。


 名前はレント。

 姓はなし。つまり平民や流浪民だ。

 あるいは……奴隷か。


 年は十三歳。

 私が二十五だから、私より一回りも下。

 初めてこの家に来た人間が、こんな年下だとはね。


 黒髪黒目。

 かつての私と同じだ。

 こちらの世界でダラダラしていた頃ではなく、元の世界でダラダラしていた頃の。


 今は違う。

 魔女になったせいなのか、今の私は、銀髪と紅い瞳になっている。

 元々それなりに美人だった顔が、それによって一段階引き立った気がする。気のせいかもしれないが。


 ──それはともかく。

 男の子の容姿について、話を戻そう。


 肌は、日焼けしたように浅黒い。

 顔立ちは……うん、悪くない。

 美少年とまではいかないが、まあまあ整っている。


 見た目だけなら、外で遊びまくって夏休みを満喫してる男子中学生か。


 ただ、眼が違う。


 鋭い。


 この世界は、年齢や見た目にそぐわない実力の持ち主がわりといる。

 スキルや魔法、気や魔力による強化といった要素があるからだ。

 だから、この男の子くらいの年齢でも、普通に魔物と戦ったり、冒険者をやってたり、あるいは……裏稼業に手を染めてる者がいたりする。


 だけど。


 この男の子の目は、それらと同じ──いや、それよりもさらに鋭い。

 一体、どんな経験をしてきたのか。


 しかも、その目つきと同じくらい、興味深いのは、


「丸腰なんだ」


 腰から何も下げていなければ、

 背中に何もしょっておらず、

 腕や足に何も装着もしていない。


 軽装だ。


 持ち物といえば、大きめのリュックと水袋くらいか。


「そうですね、はい」

「ナイフくらいならリュックに入ってますけど、戦闘で使ったりはしませんね」

「苦手なんですよ、武器とか使ったりするの。だから、素手でやってます」


 素手。

 わざわざそう言うってことは、魔法の使い手ではないようだ。

 手袋はつけてるが、その薄さではグローブとしての役割も果たせそうにない。


 これは、ほぼ間違いなく、触って発動するスキルの持ち主ってところで決まりかな。

 殴って発動という線も、なくはないが……。

 どちらにしても、私のこの家まで無傷で来れたんだから、武器無しでもどうにかなるほどのつよつよスキルなんだろう。


 となれば、体術もかなり使えるはずだ。

 この世界にもあるからね、無手で戦うための技術。

 素手じゃないと使えないスキルの持ち主が、まさか素手で戦うやり方を会得してないなんてことは……あるまい。


「だいぶ場数を踏んでそうだね」


「まあ、それなりに。といっても、あなたには全然及ばないでしょうけどね。居合の魔女さん」


「知ってるんだ、私のこと……って、それは愚問か。フフッ」


 我ながらとぼけたことを口にした。

 自分への苦笑が、つい漏れる。


 何も知らず、こんなところに足を運ぶバカはいない。

 よほど好奇心に溢れているか、よほど死にたがってるかだ。


 この男の子は、そのどちらでもないようだ。


「用件は?」


 まどろこしいことは嫌いなので、単刀直入に訊ねる。

 男の子のほうも、見た感じや、喋り方から察するに、回りくどいタイプではなさそうだし、すぐに語ってくれそうだが……どうだろう。


「いきなりですね」


「悪い?」


「いや、話が早いのは助かります。俺……僕は、腹の探り合いとか苦手なんで」


 僕、ときたか。

 そこまで丁寧に喋らなくてもいいのに。


「同感だね。私もそういう会話は嫌いさ」

「あと、一人称は俺でいいよ。あんたみたいな子に僕なんてのは似合わない。喋りも普段通りにどうぞ」

「──で、私に何をして欲しいんだい?」


 私が、そう訊くと。


 レントと名乗った男の子は、ひとつ、長い息をついてから、



「──俺を、あんたの故郷だという、遠い遠い島国まで逃がしてもらえないだろうか」



 と言ったのだった。

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