その1・喪女、異世界へ
私の名はトモエ。
漢字で書くと神崎巴。
……といっても、もう漢字なんか使うことは、二度とないのだが。
だって今の私。
異世界にいるからね。
なろうとかでありがちな、剣と魔法とあとスキルのファンタジーなやつ。
ドラゴンやゴブリン、スライムやケルベロスといった魔物や、エルフやドワーフ、ハーピーやリザードマンなといった人間以外の種族も当然いる。
地球には存在してない動植物や鉱物もある。
そして私は魔女でチートスキル持ち。
神さまみたいな存在から、そうしてもらったのだ。
こちらの世界に来るときに。
──二年前。
神さまみたいな存在は、生まれつきの強運で宝くじの一等当てて長い残りの人生を現在進行形で自堕落に過ごしていた私の頭に、直接語りかけてきた。
『命尽きようとしている、異界の魂よ』
『私の声が聞こえるだろうか』
『もしよければ、二度目の人生をこちらの世界で始める気はないか』
びっくりした。
あまりにびっくりして、ベッドの上で、がばりと上体を起き上がらせた。
声が聞こえてきたのもそうだが、まさか死にかけ扱いされるとは思わなかったからだ。
「いや、私まだ生きてるよ。このとおりピンピンしてるし、朝から飲む酒もうまいよ。私も私の肝臓も元気元気」
慌てて言う。
『おかしいな』
『生き物として、死んでいるに等しい状態のはずだが……はて』
声は困惑していた。
私もだ。
社会的には死んでるようなもんだとしても、まさか本当に死んだと見なされたりするとは思わなかった。
『まあよい』
よくはないだろ。
『命が尽きかけてるのと大差ない生き様の、異界の魂よ』
『私の誘いに乗る気はあるか』
ひどいこと言うなこの声。
大差ないて。
「いや、その……」
『不満があるのか? ならば言うがいい』
「二度目の人生って言われても、まだ一度目の途中だし……」
『前世の記憶は繰り越しになるぞ?』
「まあ、それもありがちだからわかっていたけど……もう別人として生きていくのは、ちょっと……」
『未練があるか?』
「うん」
まだ二十三年しか生きてないからね。
異世界には興味がある
あるにはあるが、慣れ親しんだこの身体をポイ捨てするのには、やはり抵抗がある。
八十や九十の婆さんになってたり、寝たきりの重病人ならともかく、私はまだまだ若い。
人生のピークともいえる。
そのピークの時期をゴミみたいな過ごし方してるのは何なんだよと言われたら反論できないが、それは置いといて。
──つまり、もったいない感があるのだ。
中身が七割方残ってる、まだ賞味期限が切れそうにない食べ物を捨ててしまうような。
だからためらっているのだ。
この世界自体には飽きがきてるから、別にいいんだけどね、異世界行くのについては。
『ならば、転生ではなく、転位にするか?』
転位。
それもあるのか。
ベッドの上でグダグダしながら、暇潰しにダラダラ読んでた、いくつかのジャンルの本。
時代小説。漫画。エロ漫画。
そしてなろう系。
このざま(この素晴らしきざまぁに爆笑を)とか、リスタ(Reスタートしまくる異世界人生)とかをよく読んでた。
その、なろうジャンルで、転生と同じくらい人気だったのが転位だった。
どっちも、創作の中だけじゃなくて、実際に起きる出来事だったんだな……。
事実は小説より奇なり、か。
『どうするのだ?』
「あー、それだったら……んじゃそれで。転位でお願いしようかな」
『よろしい。転位にするのだな。だが、そうなると……』
「なになに? なんか不味い?」
『多少、変えねばならん』
「変える?」
不気味なことを言い出したな、この神さまみたいな存在。
何をどう変えるんだよ。
『そちらの存在を、そのままこちらに持っていくわけにはいかん』
『決めごとに反する』
『持っていけるのは魂のみ、それが決まりだからな』
そうなんだ。
それはわかった。
わかったけど、また違う疑問が出てきた。
「……あのさあ」
『どうした?』
「ちょっと疑問なんだけど、なんでそこまでして、私の存在つーか、魂をそっちに持っていきたいの?」
『それはだな、こちらの世界が安定しすぎているからだ』
『安定は停滞を産み、停滞はゆるやかな滅びへと繋がる』
『それゆえ、不完全な、混沌とした世界から、たまに魂を拝借しているのだ』
「はー、そうなんだ」
そうらしい。
それで済むってのがよくわからんけど、そう言うんならそういう原理なんだろう。
否定しようにも、検証のしようがないから、納得するしかない。
『──話を戻すぞ』
『さっき言った通り、汝を汝のまま、そのまま持っていくことはできぬ』
『よって、汝の身体を作り替える』
「作り替える?」
また怖いことを言い出したな。
『肉体の強化と魔力の付与。つまりは、汝の場合だと……』
『……そうだな、人間から、魔女に作り替えることになるか』
「へー、魔女か。面白そう。いかにも異世界って感じがしてさ。魔力があるってことは、当然魔法もあるんだよね?」
『左様』
ますます興味がわいてきた。
でも、ひとつ不安がある。
「作り替える……って、見た目も変わるの? あんまさ、化け物化け物した外見とか嫌なんですけどー?」
『変わらぬ。そのままだ』
『その姿に何かを取捨選択するのではなく、材質そのものを変えるようなものだからな』
「そりゃよかった」
胸を撫で下ろす私だった。
RPGのラスボスみたいな姿とかお断りだからね。
『それと』
『要求を呑んだ、その報酬代わりに、ひとつスキルを授けよう』
「スキル?」
『うむ。こちらの世界の者たちは、大半の者がスキルを有している』
『千差万別、多種多様』
『有してない者もそれなりにいるが……』
『汝の場合は特例として、汝が望む特性のスキルを、確定で持たせてやろう』
「おお、太っ腹」
『どのようなものを望む?』
「んーと、そうだね……」
──というわけで。
当時、時代小説にかぶれていた私は。
思案の末。
鞘に収まった状態から斬撃を放つと、見切れぬ速さで何でも切り裂くことのできるスキル──
『居合』を、貰ったのである。
そして二年が過ぎ。
魔物がひしめく森の奥、そこに建てた一軒家で。
私はベッドの上に寝転がりながら、自堕落な日々を過ごしているってわけ。
なんで、地球にいた時と結局ほとんど変わりませんでしたとさ。
おしまい♪
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