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08 緊急:魔王軍幹部討伐

 魔族の定義とはなんなのか。まず一概に魔族と言っても様々な種類がいる。ガラハッドのデュラハンやアズの死神は希少な種だが、アズが従えていたゴブリンやナギたちハーピーはそれなりに数が多い。人間との違いは大きく二つある。一つは明確で外見の特徴だ。人間たちが遺伝的特徴に些細な変化を持つのに比べ、魔族はその変化がより大きく分かりやすく出る。デュラハンの首が取り外し可能なのもそうだし、ハーピーの羽、ゴブリンの小人のような骨格。角が生えている種、足が魚のひれになっている種、炎に耐性を持ち、自身の体の一部のように操れる種とその種類は非常に広い。その極端な特徴は二つ目の違いに関係してくる。それは魔力量の多さだ。人間は魔素を魔力に変換した時、心臓にため込む。魔力は血液と混ざり、体中を循環しながら使われていく。対して魔族は焦臓と呼ばれる人間にはない臓器を持っている。その焦臓で魔素を魔力に変換。三焦と呼ばれるパイプを通して体に魔力を循環させる。魔族は人間より魔力に適応した体を持っていると言ってもいい。その大量の魔力が本人の意図しないまま、体の構造を変化させるのだ。補足として時偶に長年の修行の成果や生まれつきの魔力変換の効率で人間にして角が生えるケースもあるらしい。


「いやありえんな。お主の魔力量は魔法を得意とする人間より少し少ない程度じゃ。ピンポイントで探し当てるのは至難じゃろうし、辿ろうとも思わんじゃろう。」

ひょんな事からリゲル達勇者パーティがここら辺に住み着いた魔王軍の幹部を探しにこの街を訪れたことを知ったガラハッドとモニカは彼を宿へと送り届けた後、教会へと戻りその事を仲間達に報告した。もしかしたら勇者が狙っているのは自分かもしれない。そう真剣な顔をして話すガラハッドをアズは小馬鹿にするように軽く一蹴した。

「ただ、お主の持つ魔力の質が他とは違うというのもまた事実。それがもし魔王に関係する魔力なのならば確かにお主と同程度の魔力を感知し始めたのぅ。それもつい最近。」

「じゃあそっちがリゲルさん達が感知しているとおっしゃっていた魔王軍の幹部ということですか?」

「いや、シスター。そう単純な話じゃない。こやつと同程度の魔力量なら、こやつ同様、他の魔法使いや野良魔族に紛れるはずなんじゃ。わざわざ追ってきたりせん。」

「頭ぐりぐりすんな、取れちゃうだろ。」

「我の推測じゃと、その魔王軍の幹部とやらの魔力とこやつの魔力が似ているが故に一人の魔力だと誤認させてしまったのではないかと思っている。それならまぁ、勇者連中が警戒するのも納得はいこう。」

「…私、あんまり魔法とか魔力とか詳しくないんですけど…そんなことあり得るんですか?ここ連日、ガラハッドさんはリゲルさんと欠かさず会っていたんですよ?そこで気が付きそうなものですけど。」

「その幹部とやらが強大な魔力の持ち主という思い込みじゃな。身近に感じる魔力をガラハッドの物と判別できんかったんじゃろ。だが、このカラクリもあちらが気が付くのは時間の問題。勘違いでお前が討伐されるやもしれんな。」

「じゃあどうすりゃいいんだ。」

「選択肢は山ほどある。今から魔力を隠せるように修行するか、思い切って正直に全部話してしまうか。いっそのこと勇者を返り討ちにするのもありかもな~。」

アズが性悪な顔でケタケタ笑う。今出された選択肢どれもが現実味のないものだった。と勢いよく扉が開きナギが翼を折りたたみながら入ってきた。

「どこ行ってたんだ?」

「アズ君に頼まれて偵察。見つけてきたよ。()()()()()()。」

ナギがウインクしながら得意そうに言った。それを待ってましたと言わんばかりにアズが立ち上がる。

「最後の選択肢じゃ。勇者より先に幹部を倒す!」

「…朝飯にしよう。腹が減っては戦はできないだろ。」


 俺の名はスロウ。小さな背と潰れた鼻、針金のように固い髪の毛が特徴の『ドワーフ』と呼ばれる魔族だ。といっても俺の身長は他の種族や人間と同じ程度にはあった。そのせいで俺は同族から仲間外れにされ虐げられてきた。実の親にさえもだ。ドワーフは地中に穴を掘って生活している。蟻んこみたいに。それが俺にはあまりにも小さすぎた。俺が快適に暮らすには地中の拡張工事が必須だが、俺一人の為にそんな事をしてくれる奴なんていない。なぜなら奴らは強欲だからだ。地中から宝石を掘り出し、それを高値で売りつける事を生業とするドワーフは義理人情より損得を優先する。俺は自然と一人になることが多くなった。ドワーフの特異な穴掘りや鉱石加工が俺にはできなかった。幼い頃から疎まれていたから教えてもらえなかったという方が正しい。今の身長ぐらいになった時には地中に潜ることすらできず、無防備にさらけ出されたモグラみたく地上でビクビクと過ごすしかなくなった。だがそんな極限状態で俺は自分の才能を知ることになる。粗暴なドワーフにしては珍しく魔法が使えたのだ。そしてドワーフ特有の能力なのか俺には土の、地面の状態が分かった。固い土、柔らかい土、水をよく吸収する土、火に強い土。俺はこの才能に気が付いた時、蟻のように日の光の届かない地中に潜るようなみじめなドワーフ共の生活と決別することに決めた。俺は堂々と太陽を浴びながらお前らの頭上を歩いてやると。正当な努力や才能はいずれ正当に評価される。ある時から俺は魔王様直々に軍へとスカウトされた。一人で生きていく為に手あたり次第に魔物どもをぶっ倒していったのが理由らしい。魔王様に謁見した時、俺はやっと自分の力を評価してくれる人が現れたと思った。古臭い価値観を押し付けてくるドワーフ共とは違う。俺は次世代の進化したドワーフなんだ。自分で言うのもなんだが俺はかなり仕事ができる方だと思う。結果を残す度に評価が報酬となって俺に与えられた。ある日、急に俺は幹部という役職が与えられた。なんでも前任が引継ぎも無しに急にバックレたらしい。とても考えられないことだ。仕事に対する責任感、なにより魔王様に対する敬意ってもんが無いのか?。俺は二つ返事でそれを了承した。その地に赴き人間共に牽制をかけるのが俺の仕事だ。俺に仲間や部下はいらない。元々一人で生きてきたからだ。この幹部という立ち位置さえ俺にとっては通過点でしかないと思っている。俺は自分の力でもっと高みを目指せる。この世界にスロウという名を轟かせてやる。今日、武装した人間たちが住処の近くへとやってきた。冒険者と名乗っている奴らだ。どうやら近くの街から俺の事を討伐するために来たらしい、ご苦労な事だ。俺の魔力が漏れ出てしまっていたのか。とにもかくにもこいつらを返り討ちにすればその人間の街が俺の存在を知ることになる。そうすれば自ずと牽制になるだろう。都合がいい。どうせ少し力を見せつければ泣いて帰るだけのナヨナヨした連中だろうがどんな奴らだろうか。


街を出てアズが感じるという魔力を辿りしばらく歩いてきた。

「しかしアズ。お前が魔法を使えるとは驚きだな。」

「ん?我は魔法なんぞ使えんぞ。死神の能力で魔力を扱えてるだけじゃ。」

「死神の能力?」

「鎌で魂をほじくりだす力のことよ。なんのトリックも使わず魂なんぞ触れるわけがなかろう。それで言うと、ナギの空を飛ぶのにも魔力の補助があるし、お主の首が取れても問題ないのも魔力のおかげじゃ。」

「…知らなかった。」

「自分の体に興味なさすぎじゃろ。まぁとにかく魔族にとって魔力は才能とか以前の話じゃ。お主も意識するように慣れてきたら見えるようになるかもな。」

「そろそろ二人にも見えてくるよ!」

上空からナギの声がする。木々を潜り抜け広がる視界に飛び込んできたのは明らかに異様な形状をした大地だった。大きくパックリと分かれた谷底の中に尖ったりうねったり渦巻いたりしている岩が並ぶ。明らかに人工的に作られた地形に脚を踏み入れた。

「すげぇな。魔王軍の幹部って。俺こんな芸当できねぇよ。」

「お主も魔王軍幹部だったんじゃろ。なに関心しておる。」

「リゲル達はまだここを見つけていないのか。結構派手にやってるみたいだが。」

「案外、ナギみたいに上から見てみないとどれだけ奇抜で珍妙でも見つからぬ地形というのはある。まぁ時間の問題じゃろうがな。」

アズが止まるよう合図を出し谷底の先を指さす。

「それで隠れているつもりか?」

アズが声を張ると、何も違和感のなかった道の中心からモリモリと人一人分の大きさの土塊が盛り上がってくる。それがボロボロと崩れると中には男が入っていた。

「なぜ気づいた?」

「お主、魔力を全然隠せておらぬではないか。何かのギャグか?笑わせてくれる。」

男の眉がピクリと動く。

「お前ら、俺が誰だか知っているのか?」

「ほぉ、お主、高名な者か?全くの素人かと思ったがのう…ほれ名乗ってみるといい。もしかしたら聞いたことがあるかも。」

「俺の名はスロウ。大地を操るドワーフにして魔王軍幹部だ。」

「…知っておるか?」

「いや、聞いたこともない。」

アズの耳打ちにガラハッドは首を横に振る。どうやらガラハッドが魔王軍を辞めてから入ってきた新入りらしい。にしてはやけに生意気だが。

「あぁースロウ…だっけか?悪いがその名を我らはやっぱり知らん。どうにも人間界ではまだまだひよっ子らしいぞ。」

「まだ平和を楽しんでいるといい。これから色んな所で俺の名を聞くことになる。恐怖の感情と共にな。」

「…それは無いんじゃなかろうか。」

「なに?」

「お主、強そうには見えんもの。」

瞬間、スロウの我慢の栓がはじけ飛ぶ。彼の足元の地面が盛り上がっていく。

「言わせておけばたかが人間風情が!そんなに俺の力知りたいなら生き埋めにしてやるから地中でじっくり味わうといい!」

「結構じゃ。」

アズが手を上げる。その合図を皮切りにナギが音もなく急降下しスロウの背後に立った。

「!いつの間に…!」

「不意打ちだけどゴメンね。」

振られるナギの刀。しかし鈍い音がするのみでその刃がスロウに届くことは無かった。彼は自分の背後に泥の壁を瞬時に形成しナギの刀を受け止めた。

「卑怯だぞ!!」

「戦いに卑怯も何もあるか!…さてじゃあガラハッドよ。後は任せたぞ。我は寝る!」

「えぇ?!怒らせといて人任せとか、何がしたいんだよお前…」

ガラハッドが剣を抜く。

「やるのはお前からか?大層な鎧を着こんでやがるが関係ねえ。お前も地中に埋めてやる。」

言うが早いかスロウが握り拳を前に掲げると呼応するかのように地面から柱がガラハッド目掛けて二本飛び出した。絡み合う蛇のように複雑にうねりながら伸びてくる土の棒をガラハッドは華麗に避けるとその上に着地し一気にスロウへ間合いを詰める。

「甘い!!」

スロウが叫び固く握られた拳を開く。土の柱から無数の棘が飛び出るがそれもあらかじめ察知していたのかガラハッドは飛び上がって躱すと、その勢いのままスロウへと切りかかった。

「ちっ!人間のくせになかなかやるな!」

スロウは腕に土の盾を瞬時に作り出しガラハッドからの斬撃を防いだ。しかしどうやらスロウはガラハッド達の事を人間と勘違いしているようだ。ガラハッドは得意な間合いでスロウに畳みかけるが彼は地面から何本も土塊を出し俊敏なガラハッドのコンビネーションを防いだ。

「得意武器は剣か…」

この間合いでは不利と判断したか、スロウは後方に退く。ガラハッドが追いかけようと地面を踏み込んだが、

「おわぁ?!地面がっ!」

いつの間にかガラハッドの足元は粘土状の泥に変わっていた。踏み込もうとしても足が泥を力なく掻き分けるだけ。それどころか深く入り込んだ足は重い泥にハマり抜けなくなる。どうにか抜け出そうと藻掻くたびに深く沈み込む足をどうにか抜こうと奮闘するガラハッドを目掛けてスロウの攻撃が飛んでくる。

「うっ!重たい!」

間一髪、ナギがガラハッドを持ち上げ回避させることに成功した。

「鎧脱ぎなよ…」

「それは無理だ。これは魔王軍に入った時にお金を貯めて買った思い入れのあるやつだからな。」

「じゃあ、ゴメンだけど落とすよ?」

空中に回避した二人を見てスロウは唖然としていた。

「人間は空を飛ぶこともできるのか…?」

土の中に住むドワーフは外の情報の事を何も知らないことが多い。生息域の異なるハーピィとなればなおさらだ。

「まぁ、空に逃げようたって関係ねぇ。叩き落としてやる!」

スロウは今度はナギに狙いを定める。細く固い棘を何本も空中に勢いよく伸ばした。

「今度はこっち狙いか!」

ナギはそれをひらりひらりと交わしていく。スピードでは断然ナギの方が上だった。

「空ばかり気にしてるとボディががら空きだぜ!」

すかさずガラハッドの追撃が入る。辛うじて直撃は免れた物のスロウに重い打撃が入った。

「ちぃ!寄ってたかりやがって!」

そういうとスロウは地面に手をつくと大きな地震を起こした。地面がひび割れたかと思うと波のように捲りあがりガラハッドを飲み込もうとする。

「シャノン!!」

ガラハッドが呼ぶまでもなく主の危機を察知し駆けてきていたシャノンに飛び乗り飲み込まれる前に駆け抜けた。

「派手にやるね!」

上空からその地形の変化を眺めていたナギは無防備な状態のスロウを見つけると急降下で刀を突き立てた。

「君、発想はいいけど、魔法の練度も、魔力の量も依然未熟。広範囲攻撃は出来るけど、同時攻撃は苦手なタイプとみた。力押しでのし上がってきたパターンだ。」

ナギの攻撃を防ぐためにスロウは土のアーマーを身に着ける。そうするとガラハッドを襲っていた地鳴りが止まった。

「俺に!指導すんじゃねぇ!」

スロウがとびきり長い土の柱をナギに向け発射した。しかしナギが急上昇していくとある高度を超えたタイミングで先端がただの土の粉に戻っていく。

「やっぱり。無制限に伸ばせるわけじゃない。ここが君の魔力量の限界というわけか。」

ナギの言った通り、スロウは地上と空中からの二面性の攻撃に全く対処できていなかった。ガラハッドを迎撃すればナギが。反対にナギばかりに注視しているとガラハッドへの対応に遅れる。よくもこの程度の戦闘技術で魔王軍幹部なんぞになれたものだ。ガラハッドから言わせてみれば、スロウには圧倒的に経験が足りていなかった。

「舐めるんじゃねぇ!」

瞬間、ガラハッドの目前に巨大な土壁が聳え立つ。シャノンが驚いてしまい後ろ足で立ち上がるとガラハッドは背中から転げ落ちてしまった。

「捕まえた!」

尻もちを着くガラハッドの足首を地面から生えた土でできた手ががっしり掴むと凄まじいスピードでスロウの方へと引き寄せられた。

「このっ?!」

なんとか脱出しようと体を起こしたガラハッドだがスロウの方が早かった。スロウの生やした土柱が思い切りガラハッドのどてっぱらに突き刺さる。ガラハッドの胴は頭をその場に残したまま後方に弾きだされた。

「取った!」

スロウは地面を転がるガラハッドの生首を掴むと、自慢げに空を飛ぶナギに見せつける。

「お前の仲間は倒したぞ。あとはお前とあのチビだけだ!」

しかしナギの反応はスロウの期待していたものではなかった。どこか余裕そうに飄々としている。その表情がスロウには不気味に思えた。なぜあいつは動揺しない?仲間の首が千切れ飛んだのだぞ?と。ただその反応もガラハッドの正体を知っていれば当然だった。

「おい!放せよ。人の頭は大切に持てってお母さんに習わなかったのか?」

「うわぁ!」

いきなりしゃべりだしたガラハッドの頭に驚き、スロウは堪らず明後日の方向に頭を投げ飛ばしてしまった。

「だぁー大切に扱えって!物みたいにすんなって!」

転がり続けながらもしゃべり続けるガラハッドの生首にスロウは怯えたような視線を向けた。

「な…なんで…。なんでその状態で喋ってられる?!ってかなんで生きてられる?!」

「いいか未熟者。この世界にはお前の知らないことがいっぱいあるんだ。」

「人間は首が取れても平気…?いや違う。さてはお前も魔族?」

「そうだ。よいしょっと。最近この首回りが緩くなってきた気がするぜ。」

「じゃああの空飛んでんのも?さっきのチビも?なんで魔族のお前らが魔王軍に楯突くんだ?」

「色々あんだよ。それよりいいのか?戦っている最中に話込んじまって。」

ガラハッドの言葉にハッと我に返るスロウ。しかし既に手遅れでナギが腕を取りがっちりと抑えた。彼女の出身地で伝えられる合気道の一種だ。背中に膝をあてしっかりと体重を乗せることで彼女の軽い体重でも容易には抜け出せない。

「ぐぐぅ…」

「会ったばかりの俺が言うのもなんだけどさ。魔王軍辞めて色んな物見てきたら?君知らないこと多すぎるしさ。もったいないぜ。」

「うるさい黙れ!理由はどうあれ魔族のくせに魔王様に楯突くなどと…裏切者め!許さねぇぞ!」

その時だった。また大きな地震が起こる。それも先ほどとは比にならない程。ナギはバランスを保つことができず、一瞬力が緩んだ。

「しまった!」

その機を逃さずスロウは拘束を払いのけると、自身の体を纏うように土を盛り上げていく。まるで巨人の胴体が地面から生えてきたみたいに。

「大層な説教かましてくれたがな、見た所お前ら二人とも近接系。コイツの体には刃なんて通らないし生半可な打撃じゃびくともしないぞ。」


「ゴーレム!!」


堅強な体。どっしりとした体躯。巨大な身長。それがスロウの思うがままに操られる。ゴーレムと名付けられたそれを前にガラハッドとナギは頭を掻いた。

「彼の言う通り、僕の刀じゃ傷一つ付けられないよ。」

「俺だってあんなんに籠城されたらお手上げだ。」

ゴーレムのパンチが唸りを上げてガラハッドに迫る。動きは遅いが破壊力は文句なしで殴られた後には巨大クレーターが出来ていた。

「ははっ!ゴーレムは最強だ!お前らみたいに小せぇ存在じゃ傷一つ付けられない。覚悟しやがれ!」

勝ちを確信したスロウが高らかに笑う。ただ一つ、重要な事を見逃していることに気付かずに。

「我の出番じゃな!」

いつの間にか目を覚ましていたアズが死神の鎌を手にストレッチしていた。彼女はシビアなタイミングと的確に狙いぬく練度を必須とする一撃必殺の技を持っていた。死神特有の魂を抜き取る技。

「陽動せい。」

アズの申しつけにガラハッドとナギが動く。これ見よがしにゴーレムの前で動き回り攻撃を誘発した。

「ちょこまかと!」

スロウの口調から苛立ちが伺える。精細さを欠き、冷静ではなかった。背後に忍び寄るアズの存在に気が付かない程に。

「人型なら分かりやすいわ!」

アズが鎌を一振りした。そのたった一振りがゴーレムの命を断つ。スロウは急に視界に広がった空に動揺を隠せなかった。物理攻撃が効かない、無敵だと思っていたゴーレムが何らかの攻撃でボロボロと崩れ去っていったからだ。

「な、なにをした?」

「死神の力…とでも言うておこうかの。」

地面に放り出されるスロウ。慌てて体勢を立て直し三人を迎撃しようとしたが遅かった。

「先輩ぱーんち!」

ガラハッドの強烈な鉄拳が鈍い音をたて、スロウの顔面にめり込んだ。


「く…殺すなら殺せ。」

縄で縛り上げられ身動きのできないスロウが三人に向かって吐き捨てる。この状況からでも抵抗は出来たが、自慢のゴーレムをああも簡単に倒されてしまった以上、スロウには抵抗する意思も、彼らに勝つビジョンも見いだせなかった。

「殺さねぇよ。どんだけ野蛮だと思われてんだ。」

「首が取れる騎士と死神だもんねぇ。怖がる気持ちも分からなくはないけど。」

「あのなぁ。まぁいいわ。とりあえずスロウって言ったっけ?お前魔王軍辞めろ。そしたら自由にしてやるから。お前が魔王軍幹部ですって面してここら辺に居座られると色々不都合なんだよ。」

「俺は魔王様に認めてもらった身だ。あの方を裏切るぐらいなら潔く死を選ぶ。」

スロウは今にも舌を噛むぞという凄まじい形相で三人を睨む。

「いやマジで。これ先輩からの忠告。魔王軍ってめっちゃブラックだから。魔王がお前にいい顔してるのも人手不足だから囲みたいだけなんだって。」

「…先輩?あんた何者なんだよ?」

「俺はガラハッド。お前の前任の魔王軍幹部。」

「え?!じゃああんたがバックレたっていう…」

スロウは呆気に取られた顔をした。あろうことか自分を倒しに来た人物は元々自分と同じ立場だったのだから。

「お前はまだ若いから。絶対魔王軍なんかで収まるんじゃなくて色んな事知るほうが時間の無駄じゃないって。俺達だって正体隠して人間界で生活してるけど、案外快適だぜ?」

「そうなの…か?」

どうやらガラハッドの経験に基づく有難い助言は少しばかりではあるがスロウの心を溶かしたらしい。同族から仲間外れにされ、他人に認めてもらう事に固執していたが、思い返していれば確かに魔王軍以外の地上の事を何もしらない自分がいた。

「ガラハッド…さん。あんたのことを先輩って呼んでもいいか?」

「は?」

「そうは言っても俺は自分の上に立つ手本が欲しいと思っている。とてもじゃないが自分だけで何かを決断するってのはできねぇ。だから、あんたを手本にするよ。」

「よかったのぅガラハッド。勇者に続きお主を慕ってくれる子が増えたぞ。」

「からかうんじゃねぇアズ!」

「僕は!僕の事も先輩って呼んでも構わないよ。ナギって言うんだけどさ…」

そうして魔王軍幹部討伐は果たされたのであった。


 ガラハッド達からの指示で自身の魔力を隠すことにしたスロウ。アズの予想通り二人分の魔力を感じなくなった勇者パーティは街を発つことにしたらしい。

「しばらくの間、お世話になりました。」

「いえこちらこそ。またいつでも遊びにいらしてください。」

「シスター…勇者に対して遊びに来てねはないだろ。」

「ふふっ。まぁ旅の用事で寄ることがあれば。それにガラハッドさん達が仕事の都合で道中会う可能性もありますしね。」

心なしか少し寂しそうなリゲルにガラハッドは手を差し伸べる。

「まぁなんだ。まだ子供なんだしあんま無茶するなよ。風邪とか気をつけてな。」

リゲルは少し面食らったような顔をした後、笑顔でその手を握った。

 勇者達が去った後、街は驚くほど急激に元の雰囲気を取り戻していった。ガラハッド達も自然と元の背活へ戻っていく。ある日のことだ。

「ガラハッドさん宛てに手紙が来てますよ。」

昨日深夜まで飲んでいた酒が抜けない頭を抱えるガラハッドにモニカが一通の手紙を持ってくる。

「手紙?身に覚えがないな。」

見ると真っ黒い封筒に赤い封蝋がされており差出人の名前は書かれていない。なんだか不気味なオーラを漂わせるその封筒を乱雑に破り、中の手紙の一行目を読んだガラハッドはポトリと手紙を落とした。その顔は見る見るうちに青く染まり驚愕と恐怖が入り混じった引き攣った表情をしている。

「何が書かれてたんですか?」

モニカの問いにガラハッドは喉の奥からなんとか絞り出すように答えた。

「シャルロッテからの手紙だ…。どうしてここが…」

どこか遠くで雷鳴が不穏を告げる鐘の音の如く轟いた。

早くガラハッドがデュラハンだってことをバラしてしまいたい。

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