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06 勇ある者との邂逅

「…三人パーティになった訳だけどさ。このパーティってバランス悪くない?」

ガラハッドがシャノンの背の上でぼやく。

「ん?みんな真っ黒だからかい?」

彼の頭上で翼を羽ばたかせるナギが答えた。

「違うじゃろ。女二人に対して男一人だから気まずいんじゃろ?男の子よの~。大人しくハーレムに興じておけばよかろう。」

ガラハッドの膝の上に座るアズがにんまりと笑いながら言った。

「ちげぇよ。明らかに足りない要素がこのパーティにはあるだろ。ガキが自惚れるな。」

「なぁ!我!千歳以上!少なくともお主より年上!体形で判断するな!年長者を敬え!無礼者め!」

「じゃあその年長者に問おう。俺たちはあいつをどうやって倒す?」

ガラハッドが指を指す。半透明で不定形。表面に感覚器官など存在せず動いた後にはぬめぬめした粘液が残る。中心部に球体が赤く光っている。俗にスライムと呼ばれる魔物が彼らの目の前を横断していった。

「それが分かればとっくに帰っているのじゃがの~。」

アズがお手上げという風にため息を吐いた。三人が受注した任務はキングスライムの討伐。近頃何故か急激に増殖しているスライム。その集合体がキングスライムだ。スライムの倒し方は非常にシンプルで中心部に見えるコアを破壊すれば奴らは自分の体を維持できなくなる。しかし前回のグガランナの件もそうだが、ガラハッド達が戦うにはあまりにも大きすぎた。ゲル状の体は彼らの斬撃攻撃をいともたやすく受け止めいなす。物を投げてもコアに到達する前に勢いが殺される。それをなんどか繰り返すうちに、三人ではどうしようもないことに気が付いた。このパーティは三人全員が剣士職という超脳筋近接パーティであったのだ。世間一般にスライムの倒し方は内部に直接魔法を叩きこむことだ。ガラハッド達は街を出る前にそれに気が付くべきだった。彼らが何度も攻撃を繰り返した為か、今現在のスライムは触手を伸ばし何彼構わず周囲を攻撃しまくっていた。木々はなぎ倒され岩は砕かれる。とても手に負える状況ではなくなってしまった。

「どうにかせいガラハッド。元()()()()()なんじゃろ?凄腕の魔術師とか知り合いにおらんのか。」

「いるにはいるが…引きこもりだから出てこないと思うし、そいつ苦手なんだよな。」

「なんじゃ。じゃあお主自身の力は?元()()()()()だったんじゃから。」

「悪いが俺は腕っぷしだけで成り上がったんだ。」

「なんじゃ、元()()()()()も大したことないのぉ。」

「お前…さっきからバカにしてる?」

「いんや。カッコいいと思うぞ?元()()()()()。」

「なぁ…じゃれついてるとこ悪いんだが…」

ガラハッドとアズが互いの頬を引っ張り合っているのを脇目にナギが指さす。

「こっちに近づいてきてるというか…跳んできてるよ?」

そう言うとナギは早々に上空へと逃げた。残されたガラハッド達を覆う巨大な黒い影。なんとあのスライムが巨体をそのままに二人目掛けて降ってきた。あんな巨体にのしかかられたら一溜まりもない。

「おい?!マジかよ!」

ガラハッドは慌ててシャノンを走らす。すんでの所でボディプレスは回避したがそこには巨大なクレーターが出来ていた。

「おーい多分そいつ二人の事狙ってるから気を付けてねー!」

「そんな事言う前にお前も地面降りてきて戦え!!ってうわぁ!」

ナギの言う通り、スライムが何本も触手を伸ばしこちらを襲ってきた。

「切り落とせアズっ!」

「すでにやっておるわ!!」

必死にシャノンを駆るガラハッドと鎌を振り迫る触手を切っていくアズ。しかしだんだんと押されてきている。ナギはその様子を上空で観察しあることに気が付いた。

「コアの周りが薄くなってる?」

スライムは攻撃に自分の体を使っているからその分コアの防御が疎かになっているのだ。

「ガラハッド君!そのまま囮になってくれ。僕に考えがある!」

「あぁ!?長くはもたねぇぞ!」

そう言いつつガラハッドはスライムの攻撃を引き付けていく。スライムがガラハッドに釣られ体を伸ばしていく度に少しづづコアの姿がはっきりと見えてくる。

「いけるか?」

「おい?!まだか!」

ガラハッドの焦った声が響くと同時にナギはスライムの体目掛けて急降下した。刀を握りその(きっさき)をコアに向ける。スライムはガラハッドに夢中だ、仮にナギに気が付いてもこのスピードなら反応する間すらない…筈だった。

「っ?!」

ナギは完全に不意を突いた。少なくとも彼女自身はそう思っていた。しかしゲル状で目や鼻など付いていないスライムには当然前や後ろという概念もない。つまり()()()()()()()()のだ。彼女の鋒がスライムのコアを包むわずかに残されたスライムの体に触れた瞬間、突如として投網の様にナギの体に襲い掛かった。網の目が大きかったが故に何とか捕らえられる前に上空へと緊急避難する。罠だったのか?しかし目の前のコア以外何も入っていない体を見るにそういった知性は到底感じられない。

「畳みかけるぞ!」

そんなことは露知らず、依然として防御の薄くなっているコアに今度はアズの鎌が迫る。三方位からの攻撃。普通の生き物なら到底対処できないだろう。だがこのスライムは一味違った。

「ごぼっ⁉(なんじゃ?!)」

スライムは攻撃に割いていた自身のリソースを急速に引き戻すことで安易に間合いに入り込んだアズをそのまま飲み込んでしまった。

「捕まっちまったぞあいつ…息できてるのか?。」

スライムの体は言わばゼリーのような状態だ。粘性が高く満足に体を動かすこともままならない。アズは酸素を求め藻掻いた。

「助け出さないとマズくないか?」

「そうなんだが、今の奴は全方位自動迎撃マシーンだ。うかつに近づいたらアズ君と同じ目に合う。もはや近接職じゃ太刀打ちできないだろうね。」

「どーっすんだよ!アズこっち見てる!あいついきなり引きずり込まれたからもう息がもたねぇんだ!」

「どうしよっかっっっ!」

言い終わらぬうちにナギの体がガラハッドの視界から消えた。

「あ…」

敵の前で呑気に作戦会議をしていたらこうなる。二人も気が付かぬうちにスライムは触手を足元まで伸ばしていた。さしものナギも足をがっつり絡め捕られればどんなに羽ばたいても無意味だ。

とぷんっと無情な音と共にナギもスライムの体に取り込まれた。その姿は琥珀に閉じ込められた虫のようでどこか美しささえ感じた。

「やべぇ!どうするよ。」

せっかく三人パーティになったのにいきなり孤立の大ピンチ。一人残されたガラハッドに残された道は二つ。自殺行為の突撃か、クズ行為の見捨て逃亡か。

「いや、シスターに顔向けできねぇ。」

ガラハッドは突撃を選択した。迫る触手をシャノンのジャンプで交わし剣を鞘から取り出す。そうしてシャノンの背からスライム目掛けて跳んだ。冒険者人生は短かったが案外活躍できた方ではないだろうか。

「うぉぉぉぉ!!!」

ガラハッドの振り上げた剣がスライムの体を切りつけるその瞬間だった。

「スパークブレード!!」

「フレイムノヴァ!!」

まだ幼さの残る男女の叫び声と共にスライムを縦一線に切り裂く雷と内部から炸裂する火球が襲った。

「うわぁ!あぶっ!」

その衝撃に空中にいたガラハッドは弾き飛ばされる。地面を転がる中で辛うじて視界に捉えたのは、四方に弾けるスライムの体とガラハッド同様に地面に投げ出された二人の姿だった。

「大丈夫か?騎士さん…いや違う、お前さん冒険者か。」

先ほどの叫び声とは違う余裕のある大人の声の女性にガラハッドは受け止められた。

「痛てて…あぁなんとか俺は。」

アズたちも粘々の粘液まみれでえづいてはいるがどうやら大事には至らなかったらしい。

「すまない、助かった。…君たちは?」

そこに先ほど雷を剣に纏いスライムに切りかかっていた少年が寄ってくる。彼の胸元には見たことの無い徽章が付いていた。

「僕の名はリゲル。ジョブ『魔法剣士』にしてこのパーティと魔王討伐の旅をしている者です。」

リゲルと名乗る少年はまだ幼気な見た目をしているというのに芯のこもった口ぶりでそう自己紹介する。

「彼女はスピカ。『魔法使い』で僕の幼馴染です。人見知りで口がちょっと悪いけど良い子です。」

「ちょっと、私は口悪くなんてないわよ。」

スピカと呼ばれた女の子はリゲルの背の裏に隠れるとガラハッドに軽く会釈した後にリゲルの頬をつねりながら文句を言っていた。

「それで彼女はアンタレスさんです。ジョブは『盗賊』。頼りになるお姉さんです。」

褐色肌に銀髪。先ほどをガラハッドを支えたアンタレスが「よっ!」と手をあげ返事する。おそらく彼女がこのパーティの保護者の立ち位置だろう。年齢もリゲルたちよりガラハッドの方が近そうだった。

「さっき魔王討伐の旅って言ってたけど。」

「えぇ。僕たちは国王様直々に認められた唯一の公式勇者パーティになります。」

「あの…」

ここで地面に横たわっているナギがか細い声を出す。

「なんだよ?」

「悪いんだけど早めに回収してもらえるかな?いつまでも地面に転がされてるのは体裁が悪いから。」

「普通に立てよ。」

「羽に粘液が付いて重たくなって満足に動けないんだ。アズ君も。このベトベトすっごく重たい。」

アズの方を見ると彼女は渾身の力を振り絞ってグッドサインを出しアズの意見に同意した。

「仕方ねぇな。」

ガラハッドは二人を抱えるとシャノンの背に荷物の様に横たわせる。二人から滴り落ちるべたついた粘液にシャノンも不快そうに顔をしかめた。帰ったらシャンプーしてやらないといけない。

「本来ならお礼すべきなんだろうけどこの再起不能になった仲間二人を早めに回収しないといけないから、悪いんだけど街に帰るわ。」

「いえいえ、人助けこそが勇者の仕事です。お礼なんて考えなくて結構ですよ。」

ガラハッドはその言葉に甘え、リゲル達に見送られながらその場を去った。

「あの方向だと次に私たちが行く街と同じなんじゃない?」

「そうかもねスピカ。用事を済ませたら僕たちも街に入ろうか。久しぶりにベッドで眠りたいし。」

「何か気になるなあのパーティ。」

「…?どうしたんですかアンタレスさん。」

「いや…触った時変な感じがしたんだよね。もしかしたらまた会うかもだし、気にしてみてみてもいいかもしれないね。」


「ふいぃー」

「ちょっと女神像様の前でお酒は控えてください。飲まれるなら居住スペースでお願いします。」

「あ、悪い。でも参拝者なんて来ないだろ?」

「そんなの分からないじゃないですか。それに神聖な場で清められていない物を口にすることが問題なんです。」

シャノンのシャンプーを済ませ、自身も体を流しやっと一息吐いたガラハッドにモニカが口をとがらせる。ガラハッドは素直にその要望を聞き、開けようと手にした酒瓶を仕舞った。

「…なんか外が騒がしくないか?」

ガラハッドが聞き耳を立てると、街の大通りの方が何やらガヤガヤしていた。

「今日この街に勇者様がお越しになるそうですよ。」

「勇者…」

「えぇ、魔王討伐の為、国王がお認めになった唯一の冒険者パーティ。品行方正、勇猛果敢、不撓不屈。これまでの旅路でも多くの人を助け、街を救い、悪を断ったと聞いております。ガラハッドさんも知っておいでですか?」

「うん。さっき会った。」

「えぇ?!」

「クエストの最中に助けてもらったんだ。そういやお礼できてねぇな。」

「そうでしたか。でも勇者様は街の住人全員からのもてなしに囲まれておいででしょうし…会って話をするのは困難でしょうね。勇者様もこんな貧相な教会に用事などないでしょうし。」

「勇者ってのは人気者なんだな。」

「人間界の英雄ですからね。知ってますか勇者の剣。あれは力の神が直々に加護を付与した選ばれし者のみが振れる剣だそうです。」

「神様にも選ばれたって事か。まだ子供なのに立派だな。」

「子供?勇者は立派な青年だと…」

「いや…まだ十歳そこらぐらいかと…なんかガヤガヤが近づいてきてないか?」

ガラハッドも言ったとおりだった。バタンと扉が開けられた瞬間、大量の人が流れ込んできた。

「うわっぁ!危ないシスター!手を!」

一瞬で身動きが取れなくなる。その人込みの中心にガラハッドの見知った顔があった。

「あれ?!さっきの冒険者さん?」

「勇者!なんでここに?」

人にもみくちゃにされながらも偶然の再会に驚く二人。

「ちょっと教会に用事があったんですけど…街の人に囲まれてしまって…」

「シスター!!勇者さんが貴女に用事だと!!」

「え!?なんか言いましたか?」

「駄目だ。やかましすぎる!」

「なんの騒ぎじゃこれは?!」

奥からアズとナギが様子を見に顔を出してきた。

「いい所に!こいつらを外に出す!手を貸せ!」


モニカの訴えとガラハッド達の腕力でなんとか民衆を外に追いやることに成功したが…

「うぅ…掃除したばかりなのに…こんなに散らかってしまって…」

「泣かないでモニカ君。僕とアズ君も手伝うから。」

ナギに肩を支えられながらメソメソと頬を濡らすモニカにリゲルは気まずそうな顔をしていた。

「すみません…僕たちのせいで…」

「まぁしょうがねぇよ…」

「それにしても貴方達が教会にいるとは驚きました。」

「うん…まぁ。居候ってやつだ。俺の名はガラハッド。お礼はおろか名乗ってすらなかったな。」

ガラハッドとリゲルは改めて挨拶の握手を交わす。

「ところで教会に用事って?」

「あぁ!実はこちらを。」

そう言ってリゲルが取り出したのは酷く汚れ年季の入った手のひらサイズの鍵だった。鍵にしては大きいようにも感じるそれをリゲルが机の上に置くと何かを感じ取ったかモニカがガラハッドの肩越しから覗き込んでくる。

「この鍵は…」

「やはり聖職者の方なら分かりますか。今回こちらを訪れました訳はこの鍵の解呪をお願いしたく…」

モニカが神妙な面持ちでその鍵を見つめる。そういうのに全く疎いガラハッドさえもその鍵が普通とは違うオーラを発しているのが分かった。

リゲルが言うにはこの鍵は古代の遺跡を開く鍵だそうだ。その遺跡の中には強力な魔導書があるらしくリゲル達はそれを欲しがった。しかし鍵に強力な呪いがかかっておりこのままでは使うことができない。これまでもいくつかの教会を周ってみたものの、解呪に成功した人間は未だいなかったそうだ。その為、リゲル達はこの世界で最も有力な宗派である大陸正教会の総本山を一先ずの目的地とし、その道中にある教会にダメ元で解呪の依頼をしているという事だった。

「…解呪自体は簡単にできると思います。」

モニカが呟く。

「そうですよね…無理を言って申し訳…ってえぇ!?」

リゲル達勇者パーティはモニカの発言に目を丸くした。

「簡単にって!これまでの街の十二人もの聖職者が口をそろえて無理だと言ったのよ?それをこんな小さい教会を任されたまだ若い貴女が?!」

スピカが驚きのあまり漏らした失言をリゲルが諫めた。

「でもにわかには信じられないね。正直なところお前さんは私が見てきた聖職者の中でも若い方だし特別な力を持っているとも思えない。大抵凄腕の聖職者って言うのは皺だらけでいくつもの修羅場を超えてきましたっていう老人がやるもんさ。お前さんは大きな町の教会じゃまだ見習いと言ってもいい年齢じゃないか。」

アンタレスのいう事はごもっともだった。出会ってだいぶ経つガラハッドでさえ、勇者パーティが驚くほどの力をモニカが持っているとは思えなかった。

「私は事実を申するまでです。神の名に誓って、見栄の為に自信の実力を偽るなどという事は絶対にいたしません。()()()()は簡単です。」

「そうですよね…。すみませんシスターモニカ。とんだ無礼な態度を取ってしまって。早速ではありますが解呪の方、お願いしてもよろしいでしょうか。」

モニカはリゲルからのお願いに静かに頷くと、胸の前で両手を強く握り目を閉じる。ボソボソと消え入りそうな声で何かを呟き始めるがガラハッドには何と言っているのか見当もつかない。とそのうちに彼女を囲むように無数の光の粒子が筒の様に湧き始めた。どこからか風が吹き彼女のフードを激しく揺らす。教会内の窓や扉がビリビリと揺れ蝋燭の灯が次から次へと消えていった。

「出てくる…」

彼女がそう呟いた瞬間だった。鍵からに膿のように黒いドロリとしたものが滲み出てきた。それが止まる気配は無く絞り出されるように出てくると、その瞬間から意思がある様に一人でに固まりだす。足、腰、胴、腕、首とその黒い物が形を成していき、鍵から何も染み出なくなった時には一人の人間の体になっていた。出来上がった顔は目が大きく見開かれ口は耳まで裂けている。鋭い牙と尖った耳、そして長く伸びた二本の角を持っていた。

「正しく悪魔って様相だな…」

ガラハッドが呟く。

「あれが呪いの正体です。」

モニカは平然とした様子でリゲル達にそう伝えた。

「あの力に打ち勝つのは私にはできないので鍵から追い出させました。」

呪いと呼ばれたそれは威嚇するように歯をむき出す。いつの間にか手にはサーベルが握られていた。

「ようはこの悪魔を倒せばいいんですね!」

そう言うが早いかリゲルが剣を抜く。

「ここは街の中だ。近くに一般人もいる。派手な魔法は使っちゃだめだ。」

「分かっていますよアンタレスさん。」

途端にリゲルの剣にまばゆい閃光とバチバチと電気が走った。

「かっけぇな…魔法剣士。」

「覚悟ぉ!」

勇者が呪いに飛びかかる。その電気を纏う剣を悪魔に目掛けて振る。その姿を見ていたガラハッドはある一つの感想を持った。

剣の振り方は下手だな…

決して素人ではない。ただ目線や間合い、踏み込みなどは到底強者と言えるものではなかった。事実、呪いからの反撃に少しづつ体勢が押されていくのが目に見えて分かる。

「くっ!」

「ガーネットボール!!」

苦戦するリゲルへの援護であろうスピカが発射した火球が呪いに向かって飛んでいく。しかし

「っ!効いてない!」

威力が弱いのだろう。呪いが手で軽く払うと火球は跡形もなく霧散してしまった。

「出力さえ出せればっ!」

アンタレスがもどかしそうに唇を噛む。確か彼女は『盗賊』と言っていた。こういうタイマン的な

戦闘は苦手なのだろう。そして彼女が言う通り、リゲルとスピカが力を押さえながらぎこちなく戦っているのもよく分かる。

「ぐはっ!くそっっ」

リゲルの体が力任せに弾き飛ばされる。呪いが扉の方に歩き始めた。

「外に出るつもりか!」

しかしリゲルの体には傷が見え、すでに膝を地面に着いていた。スピカも息を激しくきらしている。この二人では力不足なのは明白だった。

「外に出さないでください!!」

モニカの叫び声に呼応するように呪いの前にガラハッドが立ちふさがった。呪いは小馬鹿にするようにケタケタと笑う。

「いいね。そうやって今のうちに笑っておいた方がいい。」

ガラハッドの不適な笑みに呪いは怪訝な顔をする。彼が剣を抜いた瞬間、空気が変わったのをリゲルとアンタレスは気づいた。

「今際の際だ。笑いながら散ってけ。」

結果でいうとガラハッドの圧勝だった。明らかに調子に乗っていた呪いがようやく状況に気が付き、冷や汗を掻く頃にはもうその体を保っていられない程のダメージを負っており、藻掻くようにうめき声を上げながら風に吹かれた灰みたく消えていった。

「最初からガラハッドさんが倒しちゃえばよろしかったのでは?」

モニカが頬を膨らませながら言う。

「いや…活躍の場を取っちゃうのはマズいかなって。」

そんな呑気な会話をしている二人を勇者一行は呆然と見ているしかなかった。


「…鍵の解呪、ありがとうございました。なんとお礼をすればよいか。」

「いいのです。神に仕える者としての責務を果たしたまでですから。」

「しかし、我々は勇者でありながらなんのお力添えも出来ず…」

「いいんじゃないか?俺達のパーティもあんたらに助けられた訳だし。冒険者の世界は助け合いだろ。」「そうなのですか?」

「いや知らん適当に言った。」

モニカとガラハッドのコントのようなやり取りに思わずリゲル達は吹き出してしまう。

「あんなにお強いのに着飾らないお方なんですね。」

「うん?まぁ適材適所ってやつでしょだから。」

「そう言う事なので、うちの者が勇者様に助けられたようですしこれでおあいこという事で。」

「…寛大なお心感謝いたします、シスターモニカ。」

「あぁ、宿に戻られるなら裏口の方がよろしいかと。」

モニカが正面の扉に目をやると、人の重みで今にも決壊間近の扉がそこにはあった。

「…ではお言葉に甘えて。」

そうして勇者達は教会を後にした。

「ガラハッドさんの言う通り、未だ未熟な子供でしたね。数々の噂からすっかり成熟した人間だとばかり。」

「性格はうちのチビ死神とかと比べるとよっぽど大人だけどな。まぁイメージが先行しすぎているだけで本当はまだ大人の庇護下にいないといけない子供なのかもな。…さて」

ガラハッドがため息交じりに教会内を見渡す。解呪中もせっせと掃除に徹してくれたナギ達のおかげである程度綺麗にはなったが…元の状態にまで戻すのは骨折れそうだ。

首が取れる設定を組み込もうとするとテンポが悪くなってしまうし、くどいような気がして難しい。

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