表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

04 茶菓子奪還劇

もし貴方が黒い甲冑姿の騎士が幼い子供を連れ歩いている姿を目撃した場合、勢い余ってコンスタブルに通報してしまうかもしれない。あるいは正義感の強い方なら、その場で子供とその黒騎士を引き離し保護するなり、勇猛果敢に立ち向かうなりするかもしれない。それほど彼らの姿は異様であったし疑わざるおえなかった。何を隠そう当事者である黒騎士本人のガラハッドでさえそう思っていたのだから。昨夜から教会に寝泊まりするようになった死神のアズは齢千歳以上にしてその見た目は七、八歳の幼女と大差なかった。膨大な食事を必要とする彼女は教会に住む条件として食費は自分で稼ぐと宣言。ガラハッド同様に魔族でありながら人間社会で冒険者として生活することを決めた。本人曰くチャーミングポイントは吸い込まれそうなダークパープルの瞳。魂以外の全ての食材をこよなく愛すが特に甘い物とコーヒーは特別らしい。午前中に彼女を連れ役場にギルド加入の手続きをしに行った時、僅かにだが現場が騒然としたが無理もない。冒険者になってしばらく経つとはいえ、街の中でのガラハッドの評価は常に鎧と兜を身に纏う怪しい人間のままで、彼と話をするのは夜の酒場に集まる力自慢か命知らずだけだった。アズの見た目にそぐわないやけに古風な話し方も影響してか、役場の担当者の笑顔は常に引きつり、警備に就くコンスタブル騎士隊は普段より三割増しぐらいには気を張りつめていたのをガラハッドはその肌身で感じとった。役場を出てからクエスト案内所に向かうまでの道中で遠目に見てくる市民の視線やひそひそ声が全て自分たちに向けられているようにさえ感じた。自分の目の前を周囲の視線など全く気にせず意気揚々と歩くこの幼女はその実俺よりずっと年増なんですと叫んで回りたい衝動に駆られるほどだった。奇跡的にも通報されることも事情聴取されることもなくなんとかスムーズにクエスト案内所に着いたガラハッドは一先ずホッと胸を撫で下ろす。

「おはようございます、ガラハッド様。最近は活動時間がお早いですね。…そちらの方は隠し子ですか?」

カウンターの奥のレレが笑顔で挨拶してきた。

「勘弁してくれ。コイツが俺の子供なら今頃大騒ぎだろ。」

「現状お二人の姿を見ますと、お子様じゃない方が問題になりそうですけど。」

「コイツはこう見えても立派な大人だ。こう見えてもな。ついさっき役場でギルド加入の手続きをしてきた。」

ガラハッドが書類を差し出すとレレは受け取りサッと目を通す。そしてアズの姿を書類の情報と紹介するように何度も確認した。

「驚きました。確かに役場から子供のような方が新しく冒険者になるとは伺っていましたが…ようなじゃなくまんま子供じゃないですか。」

「先ほどから黙って聞いておれば人の事を子供子供と愚弄しよって。我は立派な淑女であるぞ。少なくともそなたより長い年月を生きていることも間違いない。」

アズは堪らずカウンターの傍まで寄り抗議の声を上げた。大きく身振りを動かし全身で怒りを表現している。しかし残念なことに子供サイズの彼女の姿はレレの視界だとカウンターの影に隠れ辛うじて怒りに震える手の先がチラリと見えるかといった具合であった。威厳もへったくれもない無意味な癇癪である。哀れに思ったガラハッドが持ってきた椅子の上に上ることによってようやくアズとレレは目線を合わせて会話することができた。

「こほんっ…では改めましてアズリエル様ですね。冒険者ギルドへようこそ。」

「アズでよい。そなたの話はこやつから聞いておる。長ったるいのは抜きでよいぞ。」

「そうでしたか。では諸々カットしましてジョブを決めましょう。」

「それも聞いておるぞ。()()っていうジョブでどうだろう。」

「あいにくそのようなジョブは用意されてないですね。縁起が悪いので。」

「えぇーイカしておろうに。」

「そう言うのは二つ名とかあだ名でお使いになられてください。」

それでも不満気なアズにレレは苦笑いを浮かべた。しかし流石プロと言うべきか。言動のおかしいアズにいちいち突っかからず、的確な情報のみを引き出していく。結局アズは『剣士』職の『アサシン』になった。闇夜に紛れ敵を討つ。火力と敏捷性が高い者がなる職業だとレレは説明していた。表面上では納得していない雰囲気を醸し出していたアズも実際の所満更でもないらしく特にごねることも無く彼女のジョブも決まった。

「ところでお二人でパーティ登録なされますか?」

「パーティ?」

レレの言葉にガラハッドが反応する。そういえば初めて案内所に来た時、パーティとやらの説明も受けていたような。

「それってこのアズと一緒に依頼が受けれるってやつだっけ。」

「おおむねその通りです。パーティを組めば依頼受注の手続きの簡略化やパーティ前提依頼の受注。推薦依頼の増加など様々な恩恵が得られます。勿論パーティ結成後に単独で依頼を受けることも可能です。また報酬振り込め先や素材保管所の単一化による手数料軽減や素材売却時、および併設酒場利用時のポイントの統一化などお得なことが多いですが、いかがいたしましょう。」

あれこれ言われたがいまいちピンとは来ていない。しかしアズを一人で行動させるのは不安だし、モニカから何か言われる可能性も鑑みると返答は一つだった。

「…それじゃとりあえずそのパーティってのにしといてくれ。」

「かしこまりました。代表はガラハッド様でよろしいですか?」

一応アズに確認を取ろうと振り返ると彼女はそんな事には興味ないらしく貰ったばかりのピカピカの冒険者証明徽章をはしゃぎながら眺めていた。

「…それで問題ない。よろしく頼むよ。」

そういうことで晴れて、ガラハッドとアズは人類初の魔族による冒険者パーティを結成することとなった。


「歩き回っていたら腹が減ったのぉ…」

案内所を後にし一先ず教会まで帰っている道中、しょぼくれた顔でお腹を擦りながらアズは呟いた。

「確かにな。シスターのお土産に何か買って帰るか。」

ガラハッドは道を外れ、商店街通りの方に出ると予想通り、昼過ぎという事も相まって飲食の屋台がいくつか並んでいた。その屋台を見た途端アズの顔がほころぶ。さっき、ピカピカの徽章を手にした時と言い、やはりその表情は年相応の少女にしか見えなかった。

「どれか一つだからな。屋台全制覇は自分で稼いだ金でやりな。」

「なんと!?いやまぁしかし、それもそうだ。ここは慎重に選ばなければな。」

自然と歩が速くなっているアズを追いかけガラハッドは商店街を進む。いくつかの店を吟味し行ったり戻ったりを繰り返して最終的にアズが選んだのは甘いクリームを揚げた生地で挟んだお菓子だった。値段はそれなりに高いが人気の品らしく丁度三個だけ残っていた。

「ラッキーだな。店主!ここにある分全て…」

ガラハッドが店主にそう注文したのと全く同タイミングに彼の横から伸びてくる指があった。目元を残して頭から口元までバンダナのようなもので隠した大きく膨らんだスカートを履いた人がいた。確証は持てないがスカートを履いていることだし恐らくは女性だろう。

「なんだそなたもこれが欲しいと申すか?」

彼女は声が出せないのかアズからの問いに身振り手振りだけで答えた。

「参ったな。店主?他に残ってたりしないのか。俺たちはどうしても三つ必要なんだが。」

「申し訳ないんですがここにあるだけになりますね。」

「どっちが速かったとかは?」

「いやー同じぐらいでしたけどね…」

ガラハッドはアズに「どうする?」とアイコンタクトを送る。彼にしてみれば別にここはこの女性に譲って別の店でも良かった。しかしアズはそういう訳にはいかないらしく何か企む悪どい顔をしながらガラハッドに何か耳打ちする。

「ここに残っておるのは三つのみ。でもそなたを含めてこれを欲しがるのは四人。困ったよのー」チラリ

アズがガラハッドに目配せをする。

「うん?所でそなたの背後に落っこちてるあれはなんじゃ?」

アズによる酷く棒読みのバレバレのはったり。しかし女性はそれにまんまとハマってしまった。彼女がアズの指さす方向へ振り向いた瞬間、ガラハッドは手に忍ばせておいたお金を半ば投げつけるように支払うと、残っていた菓子を全てかっさらいアズを抱え走りだした。彼女が呆気に取られているうちに二人の背中はどんどんと遠のいていく。

「あちゃーやられましたな。まぁ私としてはキチンとお金を頂いていますから問題ないのですが。」

店主の全くフォローになっていない、それ言わなくていいだろというセリフが女性の神経を更に逆撫でる。布の間から見える視線には静かな怒りの感情が沸き上がっていた。


「悪いことしたなぁ。」

しばらく走った後、教会近くまでたどり着いた二人はだまし討ちで得た戦利品を抱え話していた。

「何を言うか。世の中早い者勝ち。経過はどうであれ一番最初にゴールテープを切る者こそ勝者じゃ。それでいくと此度は()()を使った我らの勝利。隙を見せたあやつの負けよ。」

「…死神ってのは捻くれてるもんなのか。それともあんたが相当な修羅場を潜り抜けてきたか。」

「おうともよ。我の長い人生経験…聞かせてやっても良いぞ。」

「…遠慮しとく。」

そうこうしている間に教会へと着く。モニカは丁度シャノンの手入れをしていたらしく外に出ていた。

「戻ったぞシスター。ほれ見ろこの徽章を。我もはれて冒険者。『アサシン』というジョブも貰ったぞ。」

「あらそれは良かったですね。ガラハッドさんもお疲れ様です。」

「まるで子供のお守りだったよ。これシスターにお土産。」

「あら…ではお茶にしますか。ちょうどおやつの時間ですし。」

ガラハッドがお菓子の入った袋をモニカに手渡す。その瞬間だった。

突如頭上から細い糸が降ってきて袋に巻き付くと釣りのように上に引っ張り上げた。この場にいる中で唯一シャノンだけが反応して釣り上げられる袋を咥えようとしたが一歩届かず。屋根の上の人影がその袋をキャッチした。

「な、あやつは?!」

それはついさっき店の前で出会い菓子の取り合いをしたあの女性だった。糸も彼女が出しているようだ。彼女は見上げる事しかできないガラハッド達に向かって煽るように指で下瞼を引っ張ると颯爽と屋根を飛び去っていく。

「あんにゃろ、そこそこ高いんだぞあれ。」

「ちょっと待て!」

慌てて追いかけようとするガラハッドをアズが引き留める。

「馬で行った方が速かろう?」


シャノンは賢くそれでいて身体能力も高い。道の太い細い関わらずにスピードを落とさず駆けることができるし、曲がり角に差し掛かれば自ずと最も効率の良い入射角とブレーキを実行する。障害物や通行人に当たることなど万が一にもあり得ない。市民の悲鳴を他所にシャノンの背に乗るガラハッドとアズは益々そのスピードを上げた。

「コンスタブルに見つかったら怒られるだけじゃ済まないだろうな。」

「その時はその時考えれば良い。それよりあれを見よ!」

アズが指さす先にはあの女性がいた。建物の角度的に全体像は見えないが、凄まじいスピードで建物を飛び移っているというのに全く上半身がブレていない。

「おい!!その菓子は我のじゃ!おとなしく返せ!」

アズの声でこちらに気が付いたらしい。彼女は益々建物が並ぶ方へ逃げていく。

「そう簡単に逃がすか!」

ガラハッドも手綱を操り路地へ侵入する。その執念に驚き彼女は目を剥いたが取り乱すことは無く腕をこちらに向けるとその袖の下から再び糸を発射し、ガラハッド達の進行方向上にある樽や木箱に付けるとグイッと引っ張る。

「な!こんの~!!」

ガラハッドとシャノンが道に散乱した残骸を避けるのに必死になっていると

「おい!前を見ろガラハッド!!」

半ば悲鳴に近いアズの叫び声が響いた。なんと前方を塞ぐ遮断機のように長い梯子が倒れようしている。このまま突っ切ると間違いなくガラハッドの体に激突する。しかし止まろうとすればあの女性を見失うしそもそも間に合うかも怪しい。

「くっそ!!首抑えててくれ。」

そう言うが早いか。ガラハッドはアズを小脇に抱えるとシャノンの背から飛び出し、宙に浮かぶ樽を蹴り、壁を走り、バルコニーを伝う。相も変わらず甲冑を着ているとは思えない身のこなしだ。シャノンも倒れた梯子の下を一切のロスなく潜り抜けると上手くスピードを調整し落下してくるガラハッド達を受け止める。ガラハッドの頭もアズが抑えていたおかげで落ちることはなかった。

「お主、なかなかやるのぉ。」

「黙ってないと舌噛むぞ。」

その間にも逃げ続ける女性を目で追い続ける。このままだとジリ貧だ。あんな芸当そう何度もできるわけじゃない。

「!!前方の板は見えるか!」

アズが指さす所には木箱に乗っけられシーソーみたく斜めっている木の板があった。さらにその直上には見るからに重たそうな小麦粉の入った袋が二、三個おあつらえ向きに吊るされているではないか。

「今度は我の番ぞ。」

そう言うとアズは虚空から鎌を取り出し「とうっ!」と掛け声を発しながら飛び込むと、勢いそのままに体ごと高速で回りだし、フリスビーのような動きで袋が吊るされている縄を切り飛ばした。支えが無くなり自由落下する袋が板に到達する直前、板に脚をかけたシャノンはテコの原理で思い切り跳ね上がる板に乗り空中へ射出。その勢いのまま屋根の上に見事に着地して見せた。その衝撃に女性は思わず逃げる足を止める。

「追い詰めたぞ…観念してその袋をこっちに返せ。」

ガラハッドとアズがじりじりと女性に近づく。彼女もそれに呼応するように後ずさりするがいつの間にか縁ギリギリに来ていた。

「おとなしく渡すなら何もしないと約束しよう。」

ガラハッドがそう言うと女性は観念したように目を瞑り、全身の力を抜いた。そしてすぅーとベットに倒れこむように自然に後ろへ倒れていく。

「馬鹿っ?!」

慌てて駆け寄るが時すでに遅し。女性の体は地上へと自由落下していって…ピンと張られた糸に支えられるとターザンの要領で今度は建物と建物の間をスイングして移動していった。

「あいつ何者だよ?!」

ガラハッドはシャノンの背に戻り追いかけようとしたがふと気が付く。

「…人目に付かないようにシャノンの事どうやって地面に降ろそう。」

結局、アズにシャノンを任せ、ガラハッドは一人女性の背中を追った。流石に長時間の追いかけっこでガラハッドにも疲れが見えているがそれは彼女も同じようで、最初程、逃げ足にキレが見えなくなっている。

「この…いい加減、に、しろっって!」

彼女の体がスイングの途中で一番低い位置に来る瞬間を狙いジャンプして彼女の足を掴もうとしたガラハッドは触れる事しか叶わず着地の時に体勢を崩した。しかし彼女も触られたことで感覚が狂ったか、思い切り手を滑らせると、凄いスピードで藁の山に突っ込んでいった。

「はぁはぁはぁ…鬼ごっこは終わりだ。」

息を整えガラハッドは藁山に向き直る。彼の視線の先から、藁を掻き分け彼女が這い出してきた。その視線はしっかりとガラハッドに向けられ、どうやら素直に菓子を渡すつもりは無いように思えた。

「上等じゃねぇか。」

先制攻撃は彼女だった。妨害してきたときと同じように辺りに散乱してる、ぶつけると痛そうな物を糸で引き寄せると遠心力を加えて思い切り投げつけてくる。ガラハッドは向かってくるそれらを冷静に交わし、片手でいなし、思い切り叩き壊した。とガラハッドの右足が突如思い切り後方へ引っ張られうつ伏せに倒れる。どうやら気が付かぬ間に脚に糸を巻き付けていたらしい。間髪入れずガラハッドの頭上からものが降ってくる。それでも冷静さを失わない彼はブレイクダンスのような動きで足の糸を引きちぎりいともたやすく脱出。女性は自分が繰り出す数々の攻撃がまったく通用してない現状に動揺している。ガラハッドは剣を取り出し、女性に剣先が届く距離まで近づいてくる。色んな物を引き寄せてぶつけてみるが効果は無し。万事休すかと彼女が覚悟を決めた時だった。

「何やってるんですか。」

この状況に終止符を打ったのは以外にもモニカだった。

「いきなり走り出すから慌てて追いかけてみたら…。街中で剣振り回したら危ないでしょ!!」

モニカの有無を言わせぬ剣幕に慌ててガラハッドは剣を鞘へ納める。

「貴女も!こちらへきて座りなさい。人の物をいきなり奪い取ってはいけません!!」

モニカの説教は初対面でも容赦ない。まさかこちらにも火の粉が飛んでくるとは思ってもおらず、あわてて彼女もガラハッドに並んで正座に座り、正面から降りかかるモニカの叱責に頭を垂れ耐えるしかなかった。

「シャノンとアズはどこです!。街を全力疾走で駆け回るなんて。」

モニカ強し侮るなかれ。街全体を舞台とした大鬼ごっこはこうして幕を閉じたのである。


「申し訳ありません。うちの二人が…。」

教会に戻ってきて事の顛末を聞いたモニカはただ平謝りしながら女性にお茶を出していた。ガラハッドとアズは菓子を買った時の経緯でさらにモニカにこってり怒られ類を見ない程萎んでいた。女性は自分も頭に血が上ってしまい落ち度があるからそんなに謝らないでほしいと身振り手振りで伝えたがモニカの罪滅ぼし的もてなしは止まらなかった。結局あの菓子もモニカの分を一つ彼女に譲るという形で決着がついた。ひと悶着あったがお目当ての菓子を頬張ることができて彼女は大変ご満悦といった表情を浮かべた。

「本当に大したお詫びもできず…」

モニカのもう何度目かも分からない最敬礼をあわてて彼女は止めながら一枚のチケットを差し出した。

「これは…?人形劇?」

それは人形劇の特別招待チケット。日時は今夜、街の劇場で行われるらしい。彼女はチケットに書かれたベルリオーズという文字を指さすと反対の手で自分の顔を指し示した。

「貴女がベルリオーズ…さん?貴女が今夜人形劇を行うって事?」

モニカが聞くとベルリオーズは頷く。そしてそのチケットを半ば強引にモニカの胸に押し付けた。

「招待してくださるのですか?」

ベルリオーズは今度は頭がもげそうな程大きく高速で頷く。チケットを渡すという事はベルリオーズの数少ないお詫びと感謝を伝える手段の一つだった。

「ぜひ、伺わせていただきます。」

モニカの良い返事を聞いたベルリオーズはニコッと微笑んだ後、教会を去っていった。


糸操り人形。あるいはマリオネットと呼ばれる種類の人形劇がある。天井から糸を垂らし糸の先についている人形を動かすというものだ。薄暗い劇場の中、スポットライトに照らされた舞台上の人形はまるで生きているかのような活き活きとした動きを見せていた。話の内容は皆が良く知る冒険譚。竜に攫われた姫を救う旅に出る勇者のお話。内容は子供向けだが左右から聞こえる音楽や効果音の演奏も相まって凄まじい迫力。特に竜は全長が二メートル近くありその動き一つ一つに呼応するように観客のざわめきや息を飲む音が聞こえた。物語のクライマックス。竜を打倒した勇者が剣を掲げた所で閉じる幕。ガラハッドはあまりの感動にしばらく席を立てず、モニカは周りの観客達と大拍手。アズも興奮冷めやらずという具合にキラキラと瞳を輝かせていた。再び幕が上がりベルリオーズが壇上で挨拶をしている。さっきまでの人形たちの動き全てを彼女一人が操っていたというのだから驚きだ。

「凄い物が見れましたね!」

「凄い人だったんだなぁ…」

壇上で堂々と胸を張り、観客にお辞儀をしているベルリオーズを見ながら、ガラハッド達は感嘆のため息を漏らすばかりであった。


皆が寝静まった夜の街の屋根の上に人影があった。月光浴をする為に上ったわけでも、酔っぱらって登ってしまったわけでもない。その場所が良く見え、よく聞こえ、よく届くからだ。ふと彼女が動き出す。しかし体を支えているのは人間の足ではない。クリノリンの様に腰から生える六本の細く固く黒い脚。カツカツとハイヒールで叩くような甲高く小気味良い足音を響かせながら建物の淵に立つと、なんの躊躇いもなく空中を歩き出した。いやそれは近くでよく目を凝らさないと認識できない程細いだけ。彼女が風に揺られても一切体幹がブレないから尚の事信じがたいが、彼女は建物と建物の間に張られた一本の糸に乗っていた。そうしてランウェイを歩くモデルのような足取りで建物を移ると、ジッとある一方向を見つめる。暗闇も問題なしに見通すことのできる彼女の瞳には夜闇に溶け込んだモニカ達の住まう教会が捉えられていた。

舞台はイタリアはフィレンツェを思い浮かべてください。クエスト案内所は某竜クエストのル〇ーダの酒場。エセ中世です。産業革命前ぐらいの感じ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ