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03 近づいてくる死神の足音

ここまでのおさらいをしよう。

名前の響きのみに釣られ魔王軍に就職し、幹部にまで上り詰めた物の中間管理職特有の仕事量の多さと、イメージの相違に離職し人間の街へとやってきた頭が自由自在に取り外し可能なデュラハンであるガラハッド。計画性の無さから危機的金欠に直面するものの、心優しい聖職者モニカとであい何とか初日を乗り越えたガラハッドはなんやかんやありながらも晴れて冒険者ギルドへの加入を果たす事となった。彼と共に街へやってきた愛馬のシャノンとの再会も叶い、寝床も手に入れたガラハッドは

「よっしゃーまだまだいけるぞー!!」

ベロベロに酔っぱらっていた。彼が冒険者として依頼をこなす為に利用するクエスト案内所には酒場が併設されている。クエスト出発前の腹ごしらえによし。パーティメンバーの勧誘によし。クエスト後の打ち上げによし。と連日、昼夜問わず大賑わいの場だ。ある程度生活レベルに余裕が持てるようになれば羽目を外しだすのは人間の性と言うもので、酒におぼれる友と不健康な生活リズムを手に入れたガラハッドは、もっぱら酒臭い息を吐き散らしながら、空がしおさらいをしよう。

名前の響きのみに釣られ魔王軍に就職し、幹部にまで上り詰めた物の中間管理職特有の仕事量の多さと、イメージの相違に離職し人間の街へとやってきた頭が自由自在に取り外し可能なデュラハンであるガラハッド。計画性の無さから危機的金欠に直面するものの、心優しい聖職者モニカとであい何とか初日を乗り越えたガラハッドはなんやかんやありながらも晴れて冒険者ギルドへの加入を果たす事となった。彼と共に街へやってきた愛馬のシャノンとの再会も叶い、寝床も手に入れたガラハッドは

「よっしゃーまだまだいけるぞー!!」

ベロベロに酔っぱらっていた。彼が冒険者として依頼をこなす為に利用するクエスト案内所には酒場が併設されている。クエスト出発前の腹ごしらえによし。パーティメンバーの勧誘によし。クエスト後の打ち上げによし。と連日、昼夜問わず大賑わいの場だ。ある程度生活レベルに余裕が持てるようになれば羽目を外しだすのは人間の性と言うもので、酒におぼれる友と不健康な生活リズムを手に入れたガラハッドは、もっぱら酒臭い息を吐き散らしながら、空が白み始めた頃に教会に戻ってくる生活がほぼ日課となった。そうなると彼を住まわせているモニカの不満が溜まってくる。元々高潔な心持ちで信仰活動をしていたモニカは品行方正を地で行くような人間であったが為、ガラハッドの自堕落でふしだらな生活に文句を言いたくなる気持ちもわかる。さらに加えて彼の愛馬であるシャノンの世話は全てモニカが行っていた。

「職が見つかったのは良いことですけど…仮にも教会で寝泊まりするのであればもっときちんとしてほしいですよね。」

あくる日の昼下がり。モニカは腕まくりをし汗水たらしながらシャノンの体に着く石鹸の泡を落としていた。シャノンはそんなモニカの愚痴に共感するようにぶるるっと鼻を鳴らす。彼女たちは同じ女の子という事も相まってか相性が良かった。ガラハッドがどんちゃん騒ぎをしている裏で夜駆けに行ったり、日用品の買い物の荷物運びとしてシャノンが付きあったりと仲睦まじい様子を見せた。三日に一回のシャンプーなど王族の乗用馬かシャノンぐらいだろう。彼女の渾身的なお世話も相まってシャノンの毛並みは月明かりに照らされる小川の様に滑らかな黒を維持していた。

そんな二人の少女の不満などいざしらずガラハッドは今日も酒場にいた。

「あ~三角遺跡のゴブリン軍団だぁ~?」

「あぁ…最近ヤバいらしいぞ。」

ガラハッドに冒険者の男が大ジョッキ片手に話しかけてきた。

「聞いた話だがあそこらへんを通る道沿いを縄張りにしていて旅人や商人を襲ってるらしい。」

「つってもゴブリンだろ?あの緑っぽい肌にベビーコーンみてぇな小さい角生やしたチビじゃねぇか。」

「そうなんだけどよ、皆ボコボコにされて帰ってくるっていうぜ。」

「殺されてはないんだな。」

「クエストボードに討伐の依頼書が張り出されるのも時間の問題かもな。まぁ俺にかかれば…大したことはねぇだろうが。」

「はっ!強気だないいぞー!!」

「俺の!筋肉の!前に!敵なーーーーし!!」

酒が回ってきたのか声が大きくなる。

「お?なんだなんだ」その声に釣られ虫みたいにアホな男連中が集まってきた。

「俺の筋肉の方が…イカしてるぜ!」

「おめぇのは見せ筋だろ。実用的なのはこういうボディだ。」

「なまっちょろいな。俺は筋肉に加えこの胸に刻まれた大きな傷!ドラゴンの戦った時のやつだよ。」

「ちげぇよあれはドラゴンじゃなくてデカいだけのトカゲだったじゃねぇか。」

いつの間にか筋肉を見せつけ合うボディビル会場と化した酒場からは夜が更けても喧噪が止むことはなかった。


「ううぅ…」

次の日の朝、街を闊歩するシャノンの背に横たわりガラハッドは唸っていた。。ズキズキと痛む頭に白く染まる肌、尋常じゃない二日酔いがガラハッドの体を襲う。デュラハンでも二日酔いになるものなのかと疑問も浮かぶが、今のガラハッドにそんな事を考える余裕もなく、天から降り注ぐギラついた日光に目を細めていた。本来ならまだ寝ている時間なのだが、モニカの不満を代弁するかのようにいきり立ったシャノンに頭を揺さぶられ強引にたたき起こされたのだ。自身の背の主人のことなどまったく目もくれずシャノンは意気揚々と歩を進め、クエスト案内所の前に着くと乱暴にガラハッドを地面へと落とした。

「ちょっとは優しくしてくれよ~」

情けない声を漏らすガラハッドを立たせ背中を頭でぐいぐいと案内所へ押し込む。

「あら…おはようございます、ガラハッド様。…体調大丈夫ですか?」

カウンターの中からレレが顔を出す。早い時間にガラハッドが顔を見せるのは久々だ。昨夜の喧噪と打って変わって落ち着いた雰囲気の案内所にはガラハッドが普段顔を合わせることの少ない丁寧な暮らしをしている冒険者がいた。酒に溺れることのない和やかな笑みを浮かべ交流している。

「アルコールが抜けない。頭がズキズキする。」

「それは…今日はお休みになられては?」

「いや…最近遊び過ぎてあれが…」

ガラハッドが目線を入口の方に向けるとシャノンが扉の隙間から鋭い眼光でこちらを睨みつけていた。「いつまでも呑んだくれていないでたまにはちゃんと仕事をしろ」と言いたげだ。

「あぁ…なるほど。」

苦笑いを浮かべるレレを尻目にクエストボードを覗くと一枚の依頼書が目に付く。内容は商工会が出す荷馬車の護衛。その道なりにどこかで聞いた名前があった。

「三角遺跡?」

「あぁ、この街をでて西へ続く道沿いにある古代都市の遺跡群ですね。」

「ここって例のゴブリン達が出没するっていうあの?」

モヤがかかったような脳みその中身を掻き分け昨夜聞いた話を思い出す。

「ガラハッド様もご存じでしたか。最近被害が甚大ですので商工会も護衛を付けることにしたのです。」

「こういうのってコンスタブルとかの行政がやるもんじゃないの?」

「国王直下の組織は依頼料が割高ですから。」

報酬の欄にはそれなりの額が書き込まれているがこれでも安い方なのか。

「それではその依頼受けますか?」

「んーそうする。ゴブリンとか余裕だろ。」

ガラハッドは未だ痛む頭を擦りながら言った。その後の苦労も知らぬまま


「貴方がガラハッドさんですね。」

後日、街の入り口で護衛対象のキャラバン隊と合流したガラハッドは依頼主に手を差し伸べられた。

「あぁ、どうも。」

「お噂はかねがね。どうも街の中でも指折りの冒険者だと聞いております。」

「はぁ。」

ガラハッドはあいまいな返事を返す。それもそのはずで彼が冒険者になってからまだ日は経っておらず達成した依頼もそう多くは無かったからだ。

「御謙遜なさらないで。レレさんから相当な実力だと。いやーガラハッドさんがいてくれて本当に良かった。」

そう満足そうに依頼主は一方的に話し、満足したころには出発の時間になっていた。ガラハッドは釈然としないまま先頭の荷馬車に乗り込む。

「お前、得物の手入れとかしてるか?」

道中話しかけてきたこいつはルディ。ガラハッドの呑み友だ。彼以外にもガラハッド達を含めて五人の冒険者が護衛についていた。

「得物の手入れ?」

「そのごっつい剣だよ。ゴブリン達に出会ったら戦闘は避けられないからな。しっかり見ておいた方がいいぜ。」

そう語るルディの右腕には装着型の機械式弓(クロスボウ)が付いていた。歯車やバネが複雑に組み込まれており金属部分は顔が映りこむほどピカピカに磨き上げられていた。ルディはガラハッドにそのクロスボウを自慢したいらしくチラチラと顔色を伺いながら視界の端っこに忍ばせてくる。

「あー…そのクロスボウはどうしたんだ?」

「あ?あー!?これ?これねー。いやー俺も冒険者としてそれなりに依頼をこなすようになってきたわけじゃん?だからね買っちゃったんですよ。やっぱり?命を懸ける職に就いている者として?装備に金は出し惜しみできないと言いますか?まぁこれもある意味投資と言いますか?」

ワザとらしくベラベラ語りだすルディに乗っかった手前「ウザい」の一言が言い出しづらいガラハッドはここからの道中、彼の話を聞き流しながら外の風景に心を落ち着かせることに決めた。

三角遺跡は街を出て丘を一つ越えると見えてくる。何らかの理由で滅んだ古代の都市の残骸らしいが詳しい事は分かってはいない。ただ石造りの明らかにオーバーテクノロジーだろと突っ込みたくなる大きな三角錐の建物が特徴的でいつしか三角遺跡などと呼ばれるようになった。遺跡に入ってからしばらくしていきなりガラハッド達の乗る荷馬車が止まる。

「なんかあったのか?一旦降りるぞ。」

まだ口が止まらないルディの頭を引っ叩き荷馬車を降りると眼前に大きな石の柱が倒れている。

「これじゃあ進めないぞ。」

「迂回する道は?」

「他の道は細すぎて荷馬車じゃ通れない。昨日の下見の段階では余裕で通れたんだが。」

そう頭を抱える御者を横目にガラハッドに嫌な予感が走った。ルディも同じことを考えていたようで互いに顔を見合わせる。

「こんなおあつらえ向きな障害物…こんな所で止まったら狙ってくださいって言ってるようなもの…」

そう言い終わらないうちに何処からか弓矢が飛んできて荷馬車の幌に刺さった。

「ほら予想通り。」

「ニンゲン、ニモツ、オイテケ、オイテケ。」

周囲の遺跡の影からぞろぞろとゴブリン達が飛び出してくる。手には棍棒や弓を持っており薄気味悪い視線で物色するようにこちらを睨みつけた。

「こいつらが例の…。」

口からよだれを垂らし片言で話すその姿から理性など微塵も感じない。しかし罠に嵌められたガラハッド達は完全に囲まれてしまった。両者がにらみ合う中、ルディの動きが速かった。彼のクロスボウから放たれた矢がゴブリンの足元に当たると突如として着弾地点から煙が巻き上がった。どうやら矢に何か細工をしてあるらしい。

「おい何やってるガラハッド!」

次の矢を装填しながらルディは矢に感心しているガラハッドを叱責した。周りを見るとルディの攻撃を皮切りに護衛の冒険者とゴブリン達の戦闘が始まっている。ガラハッドも向かってくるゴブリン達に応戦し始めた。予想通りと言うべきかゴブリン達の戦闘力は大したものではない。身長が腰ほどしかないゴブリン達はパワーもスピードも冒険者に遠く及ばなかった。手ごたえの無い戦闘にガラハッドは拍子抜けする。あれほど騒いでいたゴブリン軍団とはなんだったのか。しばらくすると勝てないと察したのかゴブリン達が一斉に引き始めた。

「見ろよこれ。」

冒険者の一人が倒れた柱を指さす。ガラハッドが裏に回り込んでみるとなんとそれは木で作られたハリボテだったのだ。

「おい、ゴブリン達を追いかけるぞ。」

遠距離武器のくせに一番血気盛んなルディがガラハッドを急かす。

「依頼内容は荷馬車の護衛だ。逃げるゴブリンなんて放っておけ。」

冒険者の一人が荷馬車の傍に残り興奮冷めやらぬルディに進言した。どうやら他の冒険者も同意見らしい。

「ゴブリン軍団は街を騒がせてたんだ。ここで討伐しておいて損はないだろ?弱っている今がチャンスじゃないか。」

そう言い結局、ゴブリンを追いかけたルディにガラハッドは呆れながらも付いていくことにする。ルディの安否とは別にガラハッドには少し気になることがあった。しばらくゴブリン達が残していった痕跡を追っていると何やら大きめの窪みに辿り着いた。その中には先ほどまで戦っていた慢心状態のゴブリン達が集まっており何かを話していた。

「どうするんだ、ルディ。ここからちくちくお前の武器で狙撃するか?」

上から覗き込んでいたガラハッドがルディに言う。

「いや、それは男らしくねぇ。」

ルディはそう言うと突然立ち上がり窪みの縁に脚をかけた。

「やっぱ勇敢に戦ってこその勝利だろ。」

「いや…何のための武器だよ。」

ガラハッドの視線が彼のクロスボウに向けられる。

「冒険者ルディ。百体のゴブリン軍団に正面から立ち向かい撃退した英雄。明日の新聞の大見出しはこれで持ち切りだ。男たちからは尊敬の、女たちからは熱狂の視線を浴びる事間違いなし。」

「百体もいねぇし。そんな上手く…っておい。マジかよ。」

ガラハッドのツッコミがルディに届く前に彼は底に向かって飛び降りた。

立ち上る土埃、ゴブリン達の面食らった表情、絵に描いてほしい程、完璧な三点着地。

「決まった!!」ルディは上がりかけた口角を隠し澄ました顔でゴブリンの方に鋭い視線を向ける。

「え、あぁ、あぁ…。オイカケテキタ。コイツ!」

カッコつけながら体勢を直すルディの横にサラッとガラハッドも着地した。

「さぁ、ゴブリン軍団よ!!ここまで起こした数々の愚行、悔いるがいい!!。」

子供向けの物語の主役にでもなったつもりかルディはイタいセリフを吐きながら撃つ気満々といった様子でクロスボウの標準をゴブリンに向けた。

ゴブリン達の額に汗が流れる。にらみ合いが続き両者の間に騎士の決闘のような緊張感が高まる。

「この名を地獄でも覚えていろ!!俺はさすらいの冒険者!ルディィィィ!!」

仰々しい名乗りと共に引かれた引き金はクロスボウの複雑な機械構造を始動させ超高速で歯車が回り、バネは戻り、矢が発射さ……

れなかった。

「あれ?」

ルディはカチカチと乾いた音のなる引き金を何度も引く。しかしピンと張られた弦が弾ける様子はない。

その場にいた全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。一同、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。あまりにも肩透かし。どうしようもなくあっけない。最高潮まで高められた緊張感も相まって物足りなささえ感じるほどであった。

ルディのクロスボウを覗くと、歯車が一つ不自然にズレ嚙み合っていない。それは下から突き上げられたかのようにぴょこんと飛び出ており…

「着地の衝撃でクロスボウ壊れちゃった。」

ルディの白目を向きながらガラハッドにそう報告してきた。

彼のクロスボウは高級な懐中時計のような繊細なつくりをしていた。ちょっとの衝撃や砂、小石といったゴミによって簡単に使い物にならなくなる。そして残念なことにそれを短時間で直す技量もクロスボウに変わる第二の武器もルディは持ち合わせていなかった。

ゴツンッ!!

鈍い音と共にルディの頭に棍棒が振り下ろされる。彼は悲鳴を上げる間もなく直立のまま倒れこみ気絶した。いつの間にか背後に回り込んでいたゴブリンの強烈な一撃。ガラハッドはそこでようやく正気に戻った。

「こいつ!!明日の新聞は大馬鹿者、ゴブリンのアジトで散るだ!!」

とっさに間合いを取り剣をとろうと腰に手を伸ばす。さすがのゴブリン達もガラハッドのその雰囲気に押されてか簡単には飛び込んでこない。ただ囲まれているのは変わらない。相手は遠距離武器も持っており街のチンピラみたくステゴロで簡単に突破できそうにはなかった。ってかさっきからずっと手が宙をきる。見ないで物を取ろうとする時、焦ってたりすると思ったより上手く行かない時あるがこんなにか?と思って腰に目をやると。

ない。ないない。ないのである。ガラハッドの剣が鞘ごと、本来あるべき所についてない。腰あてにしっかり固定してあるから外れることなんて万一にもあり得ない。ガラハッドが視線を前に向けると、先ほどルディをぶん殴ったゴブリンが抱えている。なるほど後ろに回った時により危険度が高い剣をくすめたのか。

「手癖悪いな…返しやがれ。」

そう言った所で素直に返すゴブリンではない。そもそも本来ゴブリンと言うものは武器や金品をくすめるのを得意とする。ガラハッド達に気付かれず背後に回り、剣を掠め取るなんて造作もないこと。

「ちっ。話だけ聞いて帰ってやろうかと思ったのに。」

ガラハッドはルディ程愚かではない。戦闘慣れしているし万が一にも備えてある。また馬上で戦う事を得意とするガラハッドに剣だといささかリーチが短い。その為ガラハッドが選んだもう一つの武器は

「ちょっとお灸を据えてやる。」

鞭だった。空気を切り裂き砂埃を上げ音すらも遅れる。彼が得意とする二つ目の武器は飛びかかってきた ゴブリン達をあっという間に地面に打倒していく。ものの数分後…

「返せこのやろ。」

積み上げられた気絶したゴブリン達の山から自身の剣を引っ張り出すガラハッドの姿があった。

「おい、お前。聞きたいことがある。なんでお前らは商人襲うなんて非効率的な事してまで食料品集めるようになった?。せいぜい盗りやすい金品を掏るのがお前らの特異だろ?それをこんな人目の付く所にアジトなんて構えて。」

山の最下層の辛うじて意識を保つゴブリンにガラハッドが聞く。

「ソレハ、アルヒ、イキナリ」

「その聞き取りづらい片言止めろ。普通に喋れるだろ。どういうキャラ付けだ。」

そう言いながらガラハッドはヒョイと自身の頭を持ち上げる。

「な、デュラハン!じゃああんた魔族?!」

ゴブリンは驚いたように目を見開く。そして同族だと分かったからか急に流暢に話だした。

「なんで魔族のあんたが人間と行動を?人間は魔族に容赦ないって。」

「俺のことはいいから。それよりなんで食料品なんだ。お前らなら自給自足で生活できるだろ?近くの森の中に食料品いっぱいあるじゃねぇか。」

「それは、ある日いきなりあいつが俺達のアジトにやってきて食料品を食い尽くすようになって。」

「あいつ?」

「そうだ。それであいつが人間の荷馬車襲う方が効率的だって。作戦たてるようになって。」

「ちょっと待ってくれあいつって誰だ。」

「とにかくもう人間は襲わない。約束するよあんたに…誓って…」

そこまで言うとゴブリンは力尽きたかのように気絶してしまった。

「なんで勿体ぶった?!あいつって誰だよ!」

ガラハッドの叫びが窪みの中で木霊した。

気絶したルディを背に荷馬車へと戻ってきたガラハッドはそこで衝撃的な光景を目にする。

「な…何があった!?」

なんと荷馬車の護衛の為に残っていた冒険者達と商人が軒並み地面に倒れていたのだ。どうやら死んではいないらしく外傷も見当たらない。その姿はまるで眠っているようだった。

「う…うん…」

まだ辛うじて意識の残る冒険者がいる。ガラハッドは彼の傍に寄って何があったのか聞きだそうとした。「子供…幼い。女の子…」

冒険者はそう呟き一つの荷馬車の方を指さすとまた力尽きたかの様に目を閉じた。

「なんでみんな気絶する直前に意味深な事を呟くんだ…」

そう言いながら指さされた荷馬車を見ると幌が微かに動いている。中に誰かいる。直感で悟ったガラハッドが剣の柄に手をやり慎重に近づく。足音を殺し幌の端を掴むと思い切り持ち上げた。

「あ?女の子?」

中には食料品に囲まれながらそれらを食す女の子がちょこんと座っていた。さっき冒険者が言っていた女の子とは彼女の事だろう。黒いショートボブに黒いフード付きの外套。これまた黒い真ん丸の瞳でガラハッドを見つめていた。

「どこから来たんだ?」

ガラハッドの質問に帰ってくるのは沈黙だけ。この状況でも食べ物を口元へ運ぶのを止めないその胆力にガラハッドの方が気圧される。まぁおおかた街を出る前に荷台に潜り込んだ迷子か何かだろう。ガラハッドが背中を背中を向けた時、

「おっと。」僅かに躓いて首を落としそうになった。女の子の方を確認すると気づいていなかったのかキョトンとした顔をしていた。

ガラハッドは眠っている商人を叩き起こすと自分たちだけ街に戻るために一台荷馬車を借りることにした。女の子が本当に迷子なら捜している親がいるはずだと踏んだからだ。気絶した他の冒険者を荷台に詰め込み見送った後、ガラハッドと少女の二人は来た道を戻っていった。

「ただいまー。」

街へ着いた時、気づいたら少女は荷台から姿を消していた。荷台には何の痕跡も残っておらず手がかりも無し。一応役場に迷子の報告をした後にガラハッドは帰途へとついた。ガラハッドが教会へ戻ってきたとき、モニカが丁度食事を作っていた。

「おかえりなさい。お疲れ様です。」

モニカに手渡された飲み物を飲み干しガラハッドは愚痴を溢す。

「噂になってたゴブリン達と戦ってきたけど…大したことなかったよ。それにしてもゴブリン達が言ってた()()()って誰の事だったんだろう。」

ガラハッドがそう悩んでいると

「ところで、その子はどちら様で?」

モニカがガラハッドの背後を指さす。

「え?あれ?いつの間に?!」

彼女が指さす所には街に着いた時に姿を消していた少女がそこに立っていた。

「どこ行ってたんだよ。さっき役場で迷子の話してきたばっかだよ。」

ガラハッドの訴えを無視して少女はいきなりエプロン姿のモニカに抱き着く。

「あら?甘えたさん。迷子なんですかこの子?」

「三角遺跡の所で、いつの間にか荷馬車の中にいて。役場に預けてくる。」

ガラハッドが少女の腕を掴んで引きはがそうとするが少女はそれを拒みモニカをがっつり挟んで離さない。

「うーん。とりあえずご飯でも食べてく?」

困った顔をしたモニカが少女にそう聞くと少女は目を輝かせて頭を大きく縦に振った。

「ほらそれじゃガラハッドさんも。」

モニカに促されて結局その日は三人で食卓を囲むこととなった。

「凄い食べるな?!」

少女の食欲は凄まじかった。出された物をペロリと食べると鍋の中も完食。心優しいモニカが譲った物も完食。それどころか食器や皿までも食べてしまいそうな勢いだった。

「今まであまり食べてこなかったのかしら。」

「そういう次元じゃない気が…」

その食いっぷりに疑問を抱きつつももう時間も遅いという事でその日は眠り、明日少女を役場に迷子として連れていくことで落ち着いた。事件はみんなが深い眠りの中に入った頃に起こった。

「んん…なんの音?」

モニカは異音で目が覚めた。時間も遅いというのにどこからかガチャガチャと音がする。気が付くと隣で眠っていた少女の姿も無くなっている。まさか泥棒か?盗むものなど何もないしがない教会だが可能性はゼロではない。モニカはランタンを手に音の正体を確認しに行くことにした。暗い教会内は子供の頃から暮らしているモニカでさえも不気味に感じる。ランタンの心もとない灯りを頼りに音の発生源に近づいていくとどうやらそれは地下の食糧庫からだった。地下に続く階段は月明かりも届かぬ暗がりで灯りがないとまともに降りる事すらもままならない。体温を一度ずつ下げる冷たい風を浴びながら慎重に降りていく。やがて突き当りに着くとそこに()()はいた。

「あれ?こんな所で何をしてるの?」

床一面に広げられた食べ物の残骸の中にあの女の子が座っている。奇しくもそれはガラハッドが初めて女の子に会った時と全く同じ構図であった。

「…見つかってしまったか。」

酷く冷たく達観した声色が少女の口から発せられた。異様な雰囲気にモニカは思わずたじろぎランタンを足元に落とす。床に飛び散った灯が、少女の顔を下から妖しく照らした。

「貴女…何者?」

「私の名はアズリエル。見てくれは幼子だがこれでも立派な()()だ。」

アズリエルと名乗る少女はジッとモニカを見つめながらゆっくり立ち上がった。どこからか凍えるような風が吹き、偶然にも彼女のフードが手も使わずにすっぽりと目元を隠す。彼女が右手を空中に差し出すと身の丈に合わぬ巨大な鎌が虚空から姿を現し彼女の片手に馴染むように収まった。

「あっ、あ…」

モニカの顔は恐怖にひきつき腰は抜け逃げることはおろか、声を出す事すらもままならない。得物を追い詰めた猛獣がその首元に牙を突き立てるみたく鎌を軽々と振り上げアズリエルはモニカに滲み寄る。

もうここまでか…。モニカが目を強くつむった時だった。

「まてぇーい!!」

モニカの耳元を高速でガラハッドの声が通り過ぎていく。

「ぼへぇっ!」

ガラハッドの首はアズリエルの腹部に直撃し、彼女はあまりの痛さに膝を折り悶絶した。モニカの背後から首を失ったガラハッドの胴体が頭部を拾い上げると剣先をアズリエルの首元に向けた。

「お前…やはりデュラハンか。なぜ魔族が人間の街に…。」

「現状お互い様だろ。何の目的で潜り込んだ。こんな子供に化けて騙すような真似しやがって。」

「化けて?くくっ。そうかそなたらには化けているように見えるか。」

アズリエルはそう呟くと口元が緩みだし、やがて笑いが抑えきれないといった様子で高らかに笑い出した。その異質な姿にさしものガラハッドでも尻込みし固唾を飲んでその光景を見ていた。

「確かにこの姿を用いてそなたらの慈愛の心を利用したことは認めよう。しかし騙そうとしたわけではない。」

「…何が言いたい?」

「何を隠そう我は、純粋にこの姿なのだ!!」

何をそんなに胸を張っていう事か。ガラハッドは呆気にとられる。

「…んじゃあお前は子供の死神ってことか?」

「いや、我は少なくとも千年は生きておるぞ。」

「ここでピースサインしたら二歳みたいになっちゃうから。ってか魔王より年上じゃねぇか。」

「なっ!人をババァ呼ばわりするか。」

「そこまで言ってねぇよ。魔王にも失礼だろうが。」

「あのー…」

とここでガラハッドの背後からモニカが声を上げる。

「アズリエルさん…でしたっけ?」

「その名は仰々しいから一番最初限定。アズでよいぞ。」

「じゃあアズさん…。結局貴女の目的は何なのですか?」

「目的?そんなもの腹が減っているだけぞ。」

「空腹?あんなに食ったのにか?」

「うむ。我を長年苦しめる飢えの理由。そんなに気になるなら聞かせてしんぜよう。」


「そもそも死神の主食は生き物の魂だ。我々はこの鎌で肉体から器用に魂だけをほじくりだし食べる事ができる。食べた魂の分だけ死神としての格が上がるし、身体も成長する。ただ我はその魂の味がどうも好かん。冷たい癖に味は淡白で触感もモチュモチュしてる。牛の内臓を生で食べているような感覚ぞ。それ故、我は魂を食らうことをある時から止めたのだ。しかし普通の食事は旨いのはいいんだが死神にとってはエネルギー効率が悪い。当然ながら身体の成長も見込めない。故に我はこのような姿のまま、今日も食料を求め彷徨い歩くというわけよ。」


「…ようは好き嫌いしてたら子供のままで成長止まっちゃって?普通の食事じゃ満腹になることも難しいってわけか?」

「んまぁそういうことだな。」

「思わせぶりな言い方する割には子供みたいな理由だな。」

ガラハッドは堪らず剣を鞘へと納める。思ったより無害そうだしなにより子供の見た目に剣を突き立てる構図は心象に悪かった。

「しかし参った。ゴブリン共を上手く使役し食事を安定化させていたがそなたのせいでそれも無くなった。ならばと思い潜り込んだがこう見つかってしまっては…明日からはまた飢えに悶える日々。」

アズは袖で顔を覆いその隙間からこれ見よがしにチラチラとモニカに視線を送った。

「え?!無理ですよ。死神なんて、異教徒どころか異宗派の崇拝対象みたいな存在じゃないですか。死神信仰の教義もありますし。教会に住まわせてるなんてことが正教会本部、ましてや大司教様にでも知られたら…教会は取り潰し。私も神職の資格を取り上げられてしまいます。」

「…その前に魔族を二人、魔物を一頭かくまってる時点で王様からなにか言われそうだけどな。」

「そんな殺生な事を申すのか。飢え死にを待つばかりの幼子を神職の身でありながら見捨てるとそなたは申すのか?」

「中身は推定千歳だろ。」

ガラハッドのツッコミなど意に返さずアズは目に涙を浮かべモニカの顔を見上げる。モニカはその表情に太刀打ちできぬようであった。

「でもこいつ多分食費バカみたいにかかるよ。そしたらこの教会はまた貧乏生活に逆戻りかも。」

「おいデュラハン!さっきからうるさいぞ。お前には優しやというものが…ちょっと待て、そなた仕事をしておると言っていたのぉ。」

「うん?あぁ冒険者っていうやつだ。」

「冒険者…。我も腹さえ満たされていれば腕っぷしにそれなりの心得がある。どうだ食費ぐらいは自分で稼ごう。余裕ができれば家賃も…どうだ?」

「お金の問題というわけでは…」

「な?お願いじゃ。この通り。本当に。言いつけは守る。お手伝いもする。絶対に迷惑はかけません。どうか。お願いします。」

「必至過ぎて口調変わってるし…」

死神から土下座をされるという前代未聞の状況。ましてや子供の姿で額を地面に擦りつける光景はモニカの高潔な心に小さくない罪悪感といたたまれなさを植え付けるには十分だった。

「…分かりましたよ。」

「本当か?!」

「その代わり、絶対に死神であることは隠しとしてください。ガラハッドさん以上に。」

「おおなんと寛大なシスター。この恩は永遠に忘れぬ。そうと決まれば早速金を稼がねば。おいデュラハン!その冒険者とやらの仕事を我に紹介せぇ。」

「もう夜遅いからなるとしたら明日だな。ところで聞くが、アズとやら。お前金は持っているのか?」

「な?!紹介料というわけか。流石魔族やり口が汚い。このシスターを見習え。」

「ちげぇよ。お前も魔族だろ。ったくいいか?冒険者になるのにも金が要るんだよ。」

「なんだと?!人間の金なぞ持っておらんぞ。こんなことならゴブリン達が集めていた金品をくすねておくんだった。」

「まぁだと思ったよ。」

「…デュラハン!この通りだ。必ず返すから金を貸してくれぇ!」

「だから子供の姿で土下座すんなって。最初からそのつもりだから。」

こうしてロリババア系大食漢死神のアズリエルこと『アズ』が仲間となった。

急募 戦闘描写のスピード感を維持したまま、説明口調にならず表現する方法

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