11 気になるあの子
それはとある日の昼下がり。ある者は午後の仕事に向け気を引き締めなおし、またある者は昼飯でポッコリ膨らんだお腹を擦りながら惰眠をむさぼる…。そんなかくものどかな時間の流れるなんてことない日常の一角。街にポツンと建つ住人からも半分忘れ去られた古ぼけた教会のその上。今しがた昼の祈りの時間を告げ終わった鐘が鎮座する塔の上でガラハッドが食後の運動とばかりに自身の頭を用いてリフティングしていた時の事だった。モニカに頼まれたのは鐘を鳴らすことと、綺麗に拭き上げる事。今思えばそれらを半ば適当に済ませたガラハットへの天からの罰だったのかもしれない。
「うぇーーー」
今さっきまで蹴っていた頭を体に戻すと、神経がリンクするあれやこれやで急激に目が回り吐き気がする。ふらふらと足元がおぼつかないガラハッドは手探りでどこかに掴まろうとして…
「あれ?」
足を踏み外し落ちた。
いくら死線を首の皮一枚でくぐり抜けてきたガラハッドでも空中に放り出されればどうしようもない。ナギが気づいてくれれば幸いだが、彼女はモニカの買い物に付き合っているから望みは薄いだろう。アズは昼寝中、シャノンは馬だから助けを求めるのは酷だ。つまりガラハッドは落下中に外れた頭を胸で抱えながら「あー叩きつけられたら痛いだろうな。しばらく仕事は休みかなー」と思案することしかできなかった。
しかし現実はガラハッドの想定とは大きく異なった。木の葉のように落ちていくガラハッドに俊敏な動きで近寄り飛びつく影があった。その影は鎧を着たガラハッドを空中でキャッチするとお姫様だっこのまま着地。膝を着き慣性を周りながら相殺した。一瞬、ガラハッドは自分が誰に抱えられているのか分からなかった。彼女の長く垂れ下がった髪が天高く昇る太陽によって顔に影を作っていたからだ。ただガラハッドをそっと地面に降ろし、髪をかき分けながら
「大丈夫ですか?」
と発せられたその声と、目が慣れてはっきりと見えた顔を見て、彼女がガラハッドのよく知る人物であったことに気が付くと同時に、この先何日も引きづる程の驚愕を受けることになる。
「その話本当なのか~?」
酒場でガラハッドからその時の体験の鮮明な説明を聞いていたアズは、あまりの突拍子の無さに眉を顰めた。
「いやマジなんだって。」
「僕もにわかに信じられないな。夢見てたとかじゃないの?」
ナギもアズと全く同じような表情をしている。
「俺だって自分の目を疑ったさ。でもどう思い返してもはっきりとした記憶なんだって。」
自身が奇想天外な話をしているというのは理解している。だからこそ自身の事を助けてくれたその彼女の正体を突き止め、自分でもこの体験に確証を与えたかった。
「だから彼女を尾行すると?」
アズとナギは振り返る。その視線の先にはカウンターの中で今日も笑顔で業務にいそしむレギンレイヴことレレの姿があった。
「尾行じゃない。調査だ。人をストーカーみたいに言うな。」
「どっちも同じようなもんじゃろ。」
三人は頭を寄せ、ヒソヒソと話し込む。その姿は異様で周りの冒険者は明らかに一歩引いた目線を向けていた。
「とにかく、俺は彼女の事が詳しく知りたい。協力してくれないか?」
「僕はいいよ。ガラハッド君の言ってることが本当なら凄い興味がある。」
「我はパスじゃ。」
案外乗り気なナギとは対照的にアズは冷めた視線を二人に向けていた。
「その話が本当だとして、かやつを詳しく知った所でどうするというのじゃ。そんな事をしている暇があれば我は食費稼ぎをせねばならん。」
「ドラゴンテールステーキ…」
ガラハッドのつぶやきにアズの耳がピクリと動く。
「そ、それは存在が希少なヴァリアブルドラゴンの取れたての尻尾を直火でじっくり火を通し、最高級バターと最高級トリュフを合わせたソースをかけるという酒場最高峰メニュー?!。だがたったの百gでガラハッド君の財布は空っぽになるぞ!」
赤字覚悟の交渉。それほどまでにガラハッドはレレの正体を知りたかった。しかしアズの首は動かない。これは彼女の意地だ。金を積まれて自分の発言を曲げるような性根ではないという証明だった。しかし
「…食後にシルクプリンもつけよう。」
「我は何をすればいい?」
折れる時は折れよというのも彼女が生きてきた千円という長い年月が編み出した人生をよく生きるコツの一つだ。結局の所、プライドで腹は膨れないのである。
「僕はシルクプリンだけでいいよ。」
ここに改めて三人の絆が深く結ばれたことを示す熱い握手が交わされたのであった。
「俺は冒険者連中や街の住人、役場の人間とかに話を聞いていく。ナギは彼女の尾行。空を飛べるお前なら俺達より気づかれにくい筈だ。アズは情報を纏め精査する係。気が付いたことがあればどんどん言ってくれ。」
過去に見たことがない程の手際の良さを見せるガラハッドに、そういえば魔王軍で幹部してたんだよな。という事は部下も居たわけだよな。とアズとナギの二人は納得していた。
「レレ君がカウンターの外にいるところを見たことがないんだけど…」
「案内所に住んでるわけがない。ここは年中時間を問わず煩いからな。俺達が気が付いていないだけで必ず自分の家に帰っている筈だ。それに外に出ないというなら、俺があの時、教会で会ったのに理由が着かなくなる。持久戦になるだろうが頼りにしてるぞ。」
「了解!」
「じゃあ俺達も早速聞き込み開始するぞ。」
「準備OKじゃ。」
いつの間に眼鏡を調達し、ブリッジ部分をクイっと押しながらアズは言った。彼女の手にはバインダーとペンが握られていた。
筋肉モリモリ魔法使いレックスの証言。
「レレ?いっつもカウンターの中にいるよな。多分だけどここの案内所の管理も彼女がやってるんじゃないか?まだ空も暗いような時間に微塵も眠そうな顔せず来るもんな。」
町一番の飲んだくれボイトの証言。
「あんな顔してめちゃくちゃ酒強いぜ彼女。前に一度、酒場で開いた宴会に引っ張り出したことがあったが、全員が顔真っ赤にして真っ直ぐ歩くことすらおぼつかないって中、一人平然とした顔で帰っていきやがった。彼女が座ってたテーブルには空ジョッキが三十個程、置いてあったって聞くな。」
気弱な射手リオナの証言。
「以前、チャラチャラした冒険者からのしつこいパーティ勧誘を受けていたことがあるんですけど、その時彼女に助けてもらいました。それはもう綺麗な背負い投げで…。相手の体が投げられた勢いでこの地面にめり込んだんです。ほら、ここだけ板材が綺麗でしょ?」
酒場を任される炎の料理長グラムの証言。
「俺がまだ見習いの時から、彼女は今の仕事をしていたな。言われてみれば見た目とか全然変わってないぜ。俺なんて小皺だったり抜け毛だったりで老いを実感してるっていうのによ。」
若きコンスタブル騎士ロイの証言。
「ここだけの話、俺達コンスタブルはクエスト案内所で起こった諍いやトラブルには一切手出し厳禁っていう暗黙の了解がある。なんでも昔に力を付ける冒険者に仕事を奪われるかもって危惧した当時の署長が適当な罪でっち上げて案内所に強引に立入調査に行ったんだが、十人そこらの騎士団員達が彼女一人で制圧されたって。」
冒険者に憧れる少年クラウスの証言。
「前、あの木に僕のおもちゃが引っ掛かっちゃった時、地面からぴょーんと跳んで取っちゃったんだ。友達のベル君は転びそうになった時に、シュババッ!って来て抱きかかえられたんだって。バターマフィンみたいな甘い匂いがしたって言ってた。」
しがない冒険者ルディの証言。
「レレさんな~。美しいよな…。彼氏とかいるんかな~。俺…あの人を守るために冒険者になったのかもな~。ほらこれ見ろよ。レレさんファンクラブ『カウンターの中の女神』の会員証。ガラハッドも入るか?今なら特性デフォルメレレさん刺しゅう入りの巾着袋が新規入会者先着十名に無償プレゼント!」
「…こやつは昼間だというのに酒が頭に残っとるらしい。」
「残念だがアズ…。コイツの場合あながち正常運転だと言わざる終えない。」
案内所の中から街中。男女年齢問わず色んな人から話を聞いてみると、レレの驚異的な身体能力を想起させる証言こそちらほら出るが彼女の正体、その核心を衝くような話は一切なかった。
「ただ運動ができる人間止まりだとあの高さから鎧を着た俺を受け止めれる腕力の説明がつかないんだよな~。」
ガラハッドはアズが纏めた資料と睨めっこしながらそう呟いた。何日もかけて話を聞いてきた割に、断言できる情報はいつも案内所にいるという事だけだった。
「皆案外彼女に興味ないのぉ。」
「いるのが当たり前みたいになってるからな。いちいち気にすることないんだろ。それこそ彼女に恋するぐらいじゃなきゃ。」
「…じゃあ恋している奴らに話を聞きに行くか?」
「?」
アズは自信満々にある物を手に掴む。それはいつの間にか掠め取っていたルディの例のクラブの会員証だった。
「やっぱお前らなら見込みあると思ってたんだよ。」
ルディが嬉しそうに言う言葉をガラハッドとアズはハイハイと聞き流す。ルディのいうレレのファンクラブは毎夜に案内所から少し離れた拠点に集まって、集会を開くのだという。
「どうにも胡散臭い。生きている中で何度か同じようなカルト教団を見たな。」とアズは内心思っていた。ルディに連れられある一軒の建物に着く。外見はなんてことの無い普通の建物だ。窓が全て布で塞がれ、中が覗けないようになっている事以外は。だがそんな不気味な雰囲気はまだ序の口なのだと中に入った二人は思い知った。
「うげぇ!なんだこれ…」
ガラハッドは言葉を失った。壁一面に張られた精巧に描かれたレレの絵。それらに囲まれ十人そこらの男女がそこにただ黙って鎮座していたのだ。
「いつもはもっと部屋がいっぱいになるぐらいなんだが…今日は新人審査ってことで創設メンバーの方のみに集まってもらった。」
「何、審査だと?タダで入れるんじゃないのかよ?」
「当然だ!」
ガラハッドの疑問にルディに変わって正面にどっしりと構える男が比較的強い口調で言う。
「レレ様のより深い魅力をなんの対価も無しに享受しようなどとは笑止千万。我らは彼女を推すと同時に彼女を護る存在なのである。」
その言葉に他の会員が一斉に深く頷く。どういう状況なのか…ガラハッド達は掴めずにいた。
「…俺たちは会員になろうというよりかは、彼女の…その、秘密?みたいなのを知りたいんだけど…」
「…隠れた魅力ということか?」
「…まぁそれでいいよ。」
「ではとっておきを一つ。」
ガラハッドは生唾を飲んだ。その並々ならぬ雰囲気からは何か重大な事が聞けそうだからだ。しかし
「レレ様は…猫とチョコが好きで。業務中に暇になった時間こっそりと酒場の料理長にお願いして猫型のビターチョコケーキを食べている。」
「…なんだそれ」
呆気に取られたガラハッド達とは対照的に会員の歓声とボルテージは最高潮まで跳ね上がった。
「アズ。やっぱ帰ろう。ここじゃ俺たちの欲しい情報なんて手に入らねぇよ。」
「同感じゃ。」
二人がこっそりと耳打ちで会話する。そこにあの男が再び威厳たっぷりに話しかけた。
「ところで、なぜレレ様の隠れた魅力なんぞ知りたがる…。もしやレレ様の全てを知ろうとする、完璧主義のストーカーではあるまいな?」
「…ストーカーはどっちだよ。」
「レレ様に危害を与える不届き者は我々が成敗してくれる。」
気が付けば出口が塞がれていた。会員が一斉に立ち上がる。
「くっそ!思い込みが激しいな!」
ガラハッドがその場から立ち去ろうとした瞬間、ルディがその腕を掴んだ。
「まだ…審判は終わってない。お前ら聞いたところによると、レレ様の事を聞き込みしてるらしいじゃないか?怪しいなぁ~。」
なにか悪い物に取りつかれているのではないかと疑うほど不気味な雰囲気をルディはまき散らす。気が付くと他の会員もジリジリと滲み寄ってきていた。
「おいおい、こいつはちとマズいんじゃないか?!」
アズの言う通りだ。こんな連中に捕まったら何をされるか分かったもんじゃない。何か気を引くもの…ガラハッドが起死回生の一手を探すため辺りを見渡すと、ある違和感に気が付いた。
「絵!なんで壁に貼られている絵は全て帽子を被っているんだ!」
ガラハッドの叫びに皆の動きがピタリと止まる。
「おかしくないか?見た所プライベートな瞬間も描いているようだが、どんなおめかししても、どんな髪型でも全ての絵が帽子を被っている。」
「…ライラ君!」
「はいっ!」
男にライラと呼ばれた女性が前へ出てきた。
「彼女は専属芸術家のライラ君だ。レレ様への愛が強すぎるあまり、形に残そうと独学でここまで絵の才能を磨いた同志である。ライラ君、彼の問いに対して答えなさい。」
「はい!…と言われましても私が見ている限りでは全ての時間で帽子を被っていたという事実しかお伝え出来ません!」
「風が強い日でも?収穫祭とかのイベント日は?お前ら一切帽子を脱いだ姿を見たことがないっていうのか?」
ガラハッドの問いに思わず会員達は顔を見合わせた。言われていれば一度も帽子を脱いだ姿を見たことがない。
「…今の内だ!」
ガラハッドはアズを乱暴に担ぎ上げると強引に掻き分け外に出る。しばらくは背後から怒号と足音が聞こえてきていたが、それも少す走ると追いかけてこなくなった。
「どうやら…撒いたみたいだな。」
「…強烈なファンを抱えておるみたいだ。レレには同情するな。」
「はぁ…はぁ…。とにかくナギと会って情報を精査してみよう。行動パターンを把握すれば何か分かるかもしれない。」
「これが一日目の様子。夕方頃に案内所を出てこの大通りで軽食とフルーツを購入。のちにこの建物に入った。調べたらここは公務員用の宿舎らしい。その後、夜明けまで出てこなかったから恐らくはここで寝泊まりしている。二日目も同じ。三日目からこの大通りの後にこっちの細道を経由するようになったけど最終的にはこの宿舎に帰ってきている。四日目は更に入り組んだ道を通ってる。明らかに遠回りなんだけどなんでこの道を行ったのかは分からない。問題は今日。今日は大通りに出てくる人が多くてその人込みの中を行かれた。後は分かるでしょ?ここで見失ってしまった僕は先回りでこの宿舎を張り込んでいた。そしたらしばらく経った後、姿を見せてやっぱりこの宿舎に入っていったんだ。」
「…それ尾行を撒こうとされとるんじゃないか?」
「僕の尾行が彼女にバレたと?!屋根よりずっと高い所を飛んでたんだよ?!」
「まぁでも見失ったのは確かだしな…。ただ特段、帰宅風景に変わった様子は無しか…。」
三人は所詮、もっと簡単に事は済むと思っていた。しかし調べれば調べるほど、レレという人物像が遠ざかっているようにすら感じる。
「こうなりゃもうヤケだ!」
ガラハッドが決意を固める。ここまで来たなら最後までとことんやろう。作戦決行は明日だ。
「いいか?俺とアズが地上から。ナギはいつも通り空から彼女を追いかける。そんで例の宿舎とやらに着いたらそこを調査だ。」
「そこまでするか?」
「他にできることはない。とにかくその宿舎とやらを調べてみよう。」
事前に作戦を共有していた三人はその時が来るのを待った。
「お疲れ様です~。」
時は来た。今日の業務を終えたレレが案内所から出るのを見届けた後、アズと共に後を付けるようにして外に出る。屋根の方を見ると、上でスタンバっていたナギとアイコンタクトを交わし尾行が始まった。ナギの大方の調査通り、案内所を出た彼女はその足で真っ直ぐと大通りに進む。人込みをかき分け、なんとか彼女の姿だけは見逃すまいと二人は目を離さないでいた。その状況を上から観察していたここ数日に渡って何度も繰り返された光景に少しの違和感を感じる。歩様がフラフラしているというか、体幹が安定していないというか。人込みを避ける動きにしてはやけに…。と次の瞬間ナギは自分の目を疑った。あり得ないことだが、しかしわずかだが確かに今、彼女と目が合ったのだ。
この高さだ、意図して上を見上げなければ自分の姿に気が付くはずがない。気のせいだったのかレレのその後の仕草にも特段変わった所はない。しかしこの事態は念のため下のガラハット達へ伝えたほうがいいだろう。
「…?。おいガラハッド。ナギが何か伝えようとしておるぞ。」
「ん?何々?…尾行がバレた可能性あり?!」
ハンドジェスチャーでそのことを伝えられたガラハッドはにわかに信じられないという顔でナギに返す。
「ターゲットに変わった様子はないぞ。」
「気のせいかもしれないが目が合った気がした。」
「まだ疑惑の可能性なら作戦に変更は無し。このまま続行するぞ。」
とハンドジェスチャーで会話を続けるガラハッドの腕をアズがクイっと引っ張る。
「ん?どうした?」
その顔は青ざめ唇を噛んでいた。
「見失った…」
「なに?!」
「我は背が小さいからほんの一瞬、人の影に隠れたタイミングで分からなくなってしまった。」
慌ててガラハッドはその旨をナギに伝えた後、背伸びして前方を見渡す。しかし人の数が多すぎてガラハッドでもどこにいるか分からない。あとはナギ頼みだが…
「無念。見つからず。」
ほんの一瞬、三人が目を離したすきにレレの姿は人込みに紛れてしまった。
となれば次に目指すべきところは決まっている。
「ここが例の宿舎。」
ナギの案内でレレが住んでいるという宿舎に来た三人はあたりを見渡した。まだレレの姿は見えない。先回りしてきたか、すでに部屋の中にいるかの二択だろう。彼女の姿を見失ってしまったのは不覚だったが、絶対にその正体を暴くと意気込んだガラハッドに…
「レギンレイヴさん…?そのような方は住人名簿にはありませんね。」
管理人が伝えた言葉は全くの想定外であった。
「いない?そんなはず…」
同様が大きかったのはナギの方だ。ここ数日の尾行で毎度彼女が最終的にはこの建物に入っている所を何度も見ている。絶対的な自信と言ってもよかった。しかしここに来て目の前まで迫っていた影が跡形もなく霧散していった。
「ん?」
管理人の服を今にも掴みかかる勢いで詰め寄る二人を他所にアズは見覚えのある背中が奥の曲がり角を曲がっていくのを見た。
「おい二人とも!」
声を潜め、二人をその曲がり角まで引っ張ると、先を進んでいく背中が見える。まちがいない、レレだ。
「そっちは一般開放スペースです。」
管理人がそう教えてくれた。どうやらレレはここに帰ってきていたのではないらしい。足音を殺し、レレの後ろを追いかける。と彼女がある扉に入った。三人は扉の前まで寄ると、互いに顔を見合わせる。この扉の先に彼女はいる。トラブルはあったが幸運にもここまで来れた。ガラハッドはドアノブに手を掛けると、意を決してその扉を開けた。
部屋に入った三人の目に映ったのはレレの姿ではなく、地面に無造作に置かれた筋トレグッズの数々だった。
「な…なんだこれ。」
「拍子抜けしました?」
辺りをキョロキョロ見渡す三人の背後からレレが声を掛ける。
「もー何事かと思いましたよ…。でも驚きました。お三方もこのジムを利用されてたんですね。」
彼女の話し方ぶりにどうやらここは宿舎についている公共のトレーニング施設で、ガラハッド達もここを利用していると勘違いしたらしい。
「じゃあ…本当にただ鍛えてるだけ?それであんな馬鹿力を?」
「馬鹿力って…。女の子に言う言葉じゃないんじゃないですか?」
頬を膨らませるレレに特段変わった所はない。
「まぁ…結末というのは大抵こんなものじゃな。ほれ帰るぞ二人とも。腹が減った。」
アズに急かされ釈然としないままガラハッドは部屋を出た。一人取り残されたナギは結果がアズの言う通り肩透かしではあったが、楽しかったしまぁいいかと思いながら部屋の出口へと向かう。ふと地面に転がっている鉄アレイが目に留まる。無造作に置かれてるのは危険だから片付けておこうかとそれを掴んだ。
「?!」
なんだこれは!重すぎる。両手で持ち上げようと踏ん張ってみても、地面にくっついているのではないかと思うほどピクリとも動かなかった。
「本当は全部気付いてましたよ。」
突如背後から聞こえる声にナギはギョッとする。肉食動物に気が付かぬ間に後ろに回り込まれていた気分。背中越しに感じるプレッシャーにナギは堪らず冷や汗を垂らした。
「調べられていたことも、ファンクラブの存在も、勿論、貴女方の正体にも…。」
怪しげな笑みを見せながらレレが手を翼のように見立てパタパタとして見せた。ナギは緊張のあまり喉を鳴らす。
「互いに秘密はあることですし、あんまり詮索しすぎるのも…良くないですよね?」
レレが先ほどナギが持とうとして断念した鉄アレイに近づく。持とうとして屈んだ拍子に彼女の帽子が頭からするりと滑り落ちた。ナギは確かに、彼女の頭に二本のらせん模様が入った角が生えているのを見た。
「その角…オーがの…」
とナギが言いかけた所でレレはさっきナギが持ち上げようとして断念した鉄アレイを片手でヒョイと軽々持ち上げると、残った反対の手で口元にシーと指をあてた。ナギがそれに頷くとレレはそっと微笑んだ後にガラハッド達が出ていった扉とは反対側の扉から、音もたてず出ていった。
「ナギ?何をしとる。」
アズの呼び声にハッと我に返ったナギは二人の元に駆ける。レレの秘密を知る者は今の所ナギだけだ。
レギンレイヴって名前から重要人物感丸わかりだよね。




