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第十三章 いのり

最終章です。

「え?」と思われる方もいると思いますが・・・

詳しくはあとがきに書くので、そこまでどうぞ、お付き合いくださいませ!



†△▲△▲△▲†




十三章 いのり









‡・†・‡・†・‡・†・‡

 


 いつもいつも、祈っているから。









‡・†・‡・†・‡・†・‡




 あなたはだれ。

 フィリップさまなんでしょう?


 待って。いかないで。あたしのそばにいて?



 前をゆく彼の背を追い、あたしは走った。真っ黒い闇に向かっていく彼を、どうしてもとめたくて。その闇の先にあるものから、どうしても彼を救いたくて。

 やっと見つけたのに。いなくならないでよ。あたしをおいていかないで。


 その濃紺の袖をつかみ、こちらに顔を向けさせる。お願いだから、わかって。

 フィリップさま、わかって。お願いだから――そう言おうとしたけれど、はっと口をつぐむ。

 だってそこにいたのは、彼だけど彼じゃない。たしかにフィリップ王子だと思うのに、彼じゃない。

 緑の瞳じゃ、ない。



 いやだ。だれ。あなたは、だれ?

 緑の瞳はどこ?ねぇ、どこ?




 フィリップ王子をかえして――。









‡・†・‡・†・‡・†・‡


「林檎でも食うかい、お嬢ちゃん」

 目をあけると、ニカッと前歯のない口を見せて笑った男がいた。真っ赤な林檎を片手に、ずいっと差し出して。


 夢……変な夢をみた。

 もう卑屈にならないと、彼にすがりつくのはやめていこうと決めたのに。どうしてこんな夢をみてしまったのだろう。

 いつだって、彼はあたしの心をかき乱す。


「ひどくうなされてたぞぉ。大丈夫かい」

「うん、平気……」

 心配そうに顔をのぞき込むダリーに軽く笑いかけ、起き上がり、辺りを見回す。

 あたしは湿った布団に寝かされていた。船の小部屋のひとつで、ベットとランプしかない小さな部屋だ。こんな部屋が船にはたくさんあって、いつもは好きなところで寝てしまうみんなも、本当に疲れたときはそこで休憩をとる。

「ありがとうな、お嬢ちゃん」

 出し抜けに、ダリーはそう言った。見ると、その小さな目に涙をためている。

「命の恩人さ。本当に、ありがとう」

 ああ、と納得し、あたしは笑った。

「なにを言っているの。特別なことをしたわけじゃないもの」

 そうか。嵐があったんだ。それであたしは、船の端に取り残されたダリーを助けにいったんだ。まるで昔のことのよう。

 それから、なにがあったんだっけ。



「今は……ええっと、よく状況がつかめないわ」

 あのあと、なにがあったんだっけ。あたしはどうやって……嵐は?

「混乱するのも無理ないさ。お嬢ちゃんはこんこんと丸一日中眠ってたんだから」

 いつものニカッとした笑顔に戻って、ダリーは話をつづけた。

「嵐は去ったよ。なんとか船ももちこたえたし、みんな無事さ!快晴の空の下、船は今日も海を走ってる」

 よかった。とりあえず、ほっとする。みんな無事……それがなにより、うれしかった。

 海の上の嵐なんてはじめてだった。あんなに恐ろしいものだったなんて、今でも信じられない。

「……お嬢ちゃん、自分がどうなったか、憶えてないかい」

「あたし?」

 再び心配そうに顔を歪めるダリーを見て、あわてて記憶の糸をたぐりよせる。だいぶ頭も働くようになってきた。

 ダリーを助けて……そしたら滑って綱を放して、あたしだけ取り残されて……船が揺れて……ああ、あたしは海に――。

「――海に落ちた……?」

 口に出してから、ちがうと気がつき頭を振る。

 ちがう、ちがう。落ちてなんかない。だれかが、あたしを引き止めたのよ。



「……だれ」

 顔をあげ、じっとダリーの目を見つめる。この問いに、強い意思を託すかのように。

「あたしを助けてくれたのは、だれなの」

 期待なんて、しちゃだめ。だって答えはわかりきってる。彼なはずはない――フィリップ王子では、なかったもの。

 わかってたのに。



「……あ、あたし、は……それでも……か、彼だと、よかったって……おも、思うの……」

 ぽた、ぽた、と涙が落ちて、白い布団を濡らしていく。だれに言うわけでもなく、ただ声に出して泣く。

「か、彼はもういないって、わ、わかってる……だけど、あたし、を、救って……くれるのは、彼だけだって……彼しか、いないのよ……」

 どれほど、惹かれていたか。身に染みてわかる。いない、もう彼はいないのだと思い知らされれば、そのたびに傷はうずく。

 わりきれるわけ、ない。そんなすぐに、彼を過去の人として、生きていけるはずないじゃない。



「お嬢ちゃん……」

 ダリーの手が、あたしの頭をなでた。ぎこちない手つきだったけれど、とてもあたたかだった。

 ――それでも。

 やはりその手もフィリップ王子のものではない、と思うと、涙はさらに量を増した。









‡・†・‡・†・‡・†・‡


「リアを助けたのは、我らが船長さ!」


 たくさん泣いて元気になったあと、あたしはさっそく外へ出た。みんなは拍手喝采であたしを迎えてくれて、あたたかい声をかけてくれた。

 カインなんて、あたしの髪をぐしゃぐしゃとかきなでて、しまいには「たいした奴だ!」なんて言って高々と抱えた。

 そんなこんなでしばらく過ごし、気持ちも再び落ち着いてきたころ、カインがあたしににこっとしながら、そう言ったのだ。



「船長……って、あの、例の船長?」

 びっくりして尋ねると、カインはさらに笑みを深めて頷いた。

「ああ。船長が自らお嬢ちゃんを助けにいったんだぜ?リア、あんたは幸せ者だなぁ」

 本気で羨ましがっているようなカインに乾いた笑みを返し、あたしはあいまいに頷いた。

 船長が、助けてくれたんだ。お礼、言わなきゃ。


「船長って、どこにいるの?あたし、お礼言ったかよく憶えてないの。助けてもらったときも、意識ははっきりしていなかったし」

「ん〜。あ、船長室だな。船長って呼んでも、きっと気づいちゃくれない……奴にはその気はないからな」

「わかった。ありがとう」

 船長室に行こうと踵をかえす。後ろでさらに、カインが付け加えて叫んだ。

「眼帯をつけた、ひょろっこい男だ――ウィルって呼べば、気づいてくれる」

「ありがとう!」

 カインに言わせれば、きっと大半はひょろっこい男なのではないかと思いながら、足を運ぶ。




 みんなから好かれた船長なのに、船長になる気がない船長……か。










‡・†・‡・†・‡・†・‡



 甲板から出て船のなかに入るまえに、ふと足をとめて、ちらと海に目をやる。

 深く、あたたかな緑の海が顔をのぞかせていた。


 ――フィリップ、王子。あなたはいつだって、あたしの心をかき乱す。

 その海ににっこりと笑いかける。

 ――きっとこれからも、あたしはあなたを忘れられず、ふとした瞬間に泣くのだろう。そうやってあなたを思い出に変えてゆくのだろう。

 息を吸い、小さな声で歌をうたう。彼の好きだと言ってくれた、あの歌を。

 ――あたしはこうやって、生きていくよ。海とともに、広い世界を見ていくよ。



 やっぱり、思うの。あたしは人魚姫になりたい。だって、王子さまにしか恋をしないもの。

 沈黙のなかで、そっと。そっとのせて、そうやって願う。

 あなたの幸せを、強く願う。





 あたしは、強くなるよ。ずっと、輝いて生きてみせるよ。


 緑の海に、祈りを込めて歌いながら。














【終わり】









まずはここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!




*何度も語っているとおり、『サイレント・プレア』は『王国の花名』の外伝みたいなものです。^^

なので、「終わり」というよりは、「つづく」みたいなイメージを自分ではもってます。

もうすこしつづけようかとも考えたのですが、ここで「つづく」雰囲気のまま終わりたいな、と思ったので。




★フィリップ王子について★

本当は、フィリップ王子は血みどろで首をかききって自殺するはずでした(笑

むごーい死に方をして、バッドエンドみたいな切ない恋にしようかと考えていたり……

もともと『王国の花名』で、彼は故人だったので(笑

……その矢先、怖ーい夢をみました。めちゃくちゃ怖かったです(((^_^;)

なんだかフィリップさんを血まみれに出来なくなりました(爆

そこで今回、彼はこんななんとも言えぬ終り方をしました……



☆これから☆

ひとまず、『サイレント・プレア』のうちにここまでもっていきたかったので、今回はここで終わりとさせていただきました。

……が、なんか微妙だろう?という方もいるかもしれないなぁ、と私自身思ってます^^(汗



「船長は?」「リアは?」「フィリップ王子の国は?」・・・などなど。

はい、気になる方は『王国の花名』を読んでみてください。

だいぶ後になると思いますが、リアのその後が読めるはずです(^^)

ここではあえて触れませんね。

まぁ、「当初の予定とはだいぶ変わった」「やっぱり予定は未定なのだなぁ(._.)」とだけ言っておきます☆


詳しくはまた、『王国の花名』のキタルときにて語りたいと思います!




*『サイレント・プレア』は衝動的に設定を思いついたものでしたし、終わり方もだいぶ予定とは変わりましたが、今では満足しています。

新たなフィリップ王子を発見できましたし、海賊たちとリアの絡みは本当に楽しく書けました!



最後に、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

個人的には、書きたいことも書ききろうと思っている『王国の花名』まで読んでいただければ、心残りはありません(苦笑




ここまでお付き合いくださり、本当に本当にありがとうございました!!!



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