8. スイーツが苦いのも恋のうち
八話目になります。
途中で視点が変わります。
よろしくお願いします。
今日は騎士団の入団試験の日だ。体調はばっちり。絶対受かって騎士団に入り、ラインハルト殿下を叩き伸してやるんだから!
でも殿下を倒して、その後は?王都に留まる理由が無くなる?
「目的を果たしたら辺境に帰るかなぁ…」
「それも良いですよ。辺境に帰りましょう。皆待ってますよ、コレット様のお帰りを」
「セシル…」
心残りと言えば、ルイス…何故か彼の事が気になる。たった一度会っただけの人が。彼の何が気になる?と聞かれれば明確な答えはないんだけど…。
今は騎士団の入団試験の事だけを考えよう。セシルと一緒に王城に向かう。試験は筆記と実技の両方で合格点を出さなくてはいけない。
王城に着き、入団試験を受ける為に騎士団詰所に向かった。セシルにはここで待っていてもらう。
「セシルはここで待ってて」
「はい。頑張ってらして下さい。まあ、コレット様が落ちる事はありえませんが」
「セシルがそう言ってくれるなら安心だよ。行ってくる」
セシルの応援を受けて試験会場に向かう。結果はその日の内に発表され勿論、合格だった。
「当然です!」
「何故セシルが威張ってるのさ。試験受けたの私なのに」
「私達が鍛え上げたコレット様が落ちるなんてありえませんからね。もし、落とされていたら、数日後には騎士団が無くなるどころか、王都が壊滅していましたよ」
「あ〜〜そうだね…」
もし、入団試験に落ちていたら辺境伯領の皆が黙っていなかっただろうな。特にお父様と兄様達が。
「コレット様の合格祝いに、今日は夕食にスイーツが二つ付きますよ」
「ほんと?早く帰ろう!」
無事、入団試験も合格したし、夕食にスイーツ二つだし、私はウキウキしながら屋敷に帰った。
ーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーー
「ラインハルト殿下、昨日の騎士団の入団試験にコレット様は首席で合格したそうですよ。特に実技が満点以上だったとかで、団長達が喜んでいました」
カインが書類を差し出しながら話す。俺は仕事の手を止めずに、カインの言葉を流す。
「そうか…」
「あれ?驚かれないんですか?」
「彼女の実力なら当然だろう」
「コレット様の事を良くご存じで」
「…うるさい。ほらこれが最後の書類だ。今日の執務は終りだな」
「はい。この後にご予定はありません」
「そうか。なら少し出てくる」
「どちらへ?」
「いつもの酒場だ」
「いってらっしゃいませ」
全てを悟った様なカインにムカつく。
「ああ」
『ルイス』になって下町の『月夜のカラス亭』に向かう。コレットが来る保証などどこにもないのに。
彼女と会って、俺はどうしたいんだろうか?
ーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーー
騎士団の入団試験に合格した私は、それをルイスに言いたくて、あの下町の『月夜のカラス亭』で、この前と同じ席に座り彼を待っていた。来るかどうかも分からないのに。
飲んでいたエールが温くなって、今日は駄目かなと思った時ドアベルがからん、と鳴った。
「おや、ルイスいらっしゃい。彼女がお待ちかねだよ」
「彼女?」
ルイスが私の方に視線を向ける。
「やっほールイス、私ココ。覚えてる?」
「なんで居るんだ?」
ルイスはカウンターの隅の席に座る。
「えへへ、ここに来ればルイスに会えると思ってさ」
「何か用か?」
「うん、私ね騎士団の入団試験に合格したの。それをルイスに言いたくて」
「で?」
「でって、それだけよ?」
ルイスは力無くカウンターに突っ伏した。
「暇なのか?お前は」
「失礼ね!忙しい時間の合間を縫ってわざわざ来た私に向かって酷いわ」
「お二人さん、仲が良いのはいいが何か注文しておくれね」
女将さんが苦笑いをしている。申し訳ない。
「じゃあ私はエールの追加と、女将さん何か甘い物ってある?」
「パンケーキのラズベリーソースがけならあるけど」
「じゃあ、それでお願いするわ」
「俺は日替わり定食を頼む」
「あいよ!ありがとね」
私はルイスの方に向き直り話を続ける。
「あ、そうだ。私ルイスにお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「また魔獣狩りを一緒に行ってくれないかな?一人だとこの前みたいな事あるし。私、王都にルイス以外の知り合いいないんだ」
「嫌だ」
「え?即答?なんで?」
「面倒」
「え〜、面倒掛けないからさあ」
「嫌」
「ちゃんとした理由聞かせてよぉ」
「俺は他にも仕事がある。お前の都合に合わせていられない」
「私がルイスの都合に合わせるよ、だから…ね?」
「駄目だ」
「…分かった」
ルイスから完全な拒絶の雰囲気を感じ取った私は口を噤むしかなかった。彼なら、すんなり『はい』って言ってくれると思ってた。
普通、一回会っただけの人間なんて信頼できないよね。でも、なんで私はルイスに拘るんだろう?
二人が無言になった直後に料理が届いた。エールを一気飲みしてパンケーキを食べる。
甘い筈のパンケーキはやけに苦かった。
「女将さん、お金ここ置いとくね。美味しかったよ、ありがとう」
席を立ち、まだ食事を続けているルイスに声を掛けた。
「困らせてごめん。ばいばいルイス」
返事はない。
店を出て、すぐ屋敷に帰る気にもならなくて遠回りして帰った。
コレットの出ていった後の扉をルイスが切なげに見ていたなんて知る事も無く。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




