6. 始まるかも知れない恋も恋のうち
六話目です。
よろしくお願いします。
大量の小型の魔獣を剣で薙ぎ払い、炎の魔法で焼き尽くす。ビッグボアが私に向かって突進してくるが、それを躱し炎の魔法を撃ち込む。
炎は魔獣に直撃したが致命傷を与える程のものでは無かった。魔獣の表面は硬く、剣で斬りつけてもかすり傷程度にしかならない。反対に数の多い小型の魔獣に足を取られ思う様に動けない。
「ちっ、思ったより手こずるわね。どうしたものか…」
ほんの少しの油断が招いた事だった。ビッグボアに斬り掛かり、一歩後に足を引いた所に小さな魔獣がいて、それを踏んづけて思いっきりすっ転んでしまったのだ。
その隙をビッグボアが見逃すはずもなく、私に向かって突進してくる。立ち上がって逃げる事も叶わず、当たる!と思った瞬間。私を庇うように立つ男がいた。
その男はビッグボアの牙を剣で受け止め、風魔法を使ってビッグボアを遠くへ飛ばした。
呆気に取られていた私に男が怒鳴る。
「あんな大物相手に一人で何やってんだ!早く立て!」
「分かってるわよ!」
素早く立ち上がって剣を構える。
「あいつ、すっごく堅いの。剣が通らないわ」
「ああ。あいつの背中側は堅いが、腹なら剣が通る」
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「お前、氷魔法は使えるか?」
「ええ」
「なら、氷魔法でヤツの足を止めろ。その隙に俺は横から剣で攻撃する」
「分かった」
「来るぞ!」
ビッグボアは大きな体を揺すりながら、私達に向かって突っ込んでくる。私は氷魔法を連続してビッグボアの足元に打ち込み動きを止めた。
男は剣に炎の魔法を纏わせて、ビッグボアの腹に突き刺した。
ビッグボアの腹に深々と剣が刺さり、付与されていた炎の魔法によって全身が炎に包まれる。
刹那、男は剣を引き抜き後退する。
ビッグボアは叫び声を一つ上げて地面に倒れ込んだ。もう起き上がって来る気配はない。暫くするとビッグボアの体は崩れ落ち核だけが残った。
「やったの…ね」
「そうだ。さあ、残った小物を片付けちまおう」
「そうね。分かったわ」
ビッグボアさえ倒せば、後は小物ばかりだ。炎の魔法で一掃する。最後に魔獣の核を集めたら依頼完了だ。
私は助けてくれた礼を言おうと男に近付いた。
「さっきは助けてくれてありがとう」
「礼はいい。あんた一人で何て無茶をするんだ。俺が来なければ死んでたかもしれないんだぞ」
「それは全面的に私が悪かったわ。ごめんなさい」
「分かってくれればいい。次からは気を付けろ」
男は剣を鞘に収めると立ち去ろうとする。その背中に声を掛けた。
「ねえ!助けて貰ったお礼に依頼料半分こしない?」
「…いい。要らない」
「じゃあ、ご飯奢らせて?」
「それも要らない」
「そんな事言わないでさあ。行くわよ!」
断る男の腕を掴んで歩き出す。
「お、おい!要らないって言ってるだろ」
「ウチの家訓なの。受けた恩は早目に返せ、利子が増える前に、ってね」
男が吹き出す。
「何だそれ。面白いな」
「でしょ?だからご飯行こ」
「…分かったから腕を離せ」
腕を離し、改めて男を見ると変な男だった。背は高く筋肉質で、依れたシャツとパンツを身に着けている。髪は黒くて顔半分を前髪で隠している変わった人だった。
「私はココ。貴方の名前は?」
「…俺はルイス」
「ルイスね。よろしく」
握手を求めて手を差し出したがスルーされた。
「早く王都に戻るぞ」
そう言って、私を置いてスタスタ歩いて行ってしまうから慌てて後を追いかけた。
「待ってよ。冷たいなあルイスは」
「……」
王都までの道程、ルイスは殆ど話さず私が一方的に、他愛もない話を話し続けていた。
王都に着いて、はたと気付く。昨日、王都に来たばかりで、店も何も知らないんじゃない私?
「ルイス、私お店とか知らないんだ。いいとこ知ってたら、そこへ案内してくれない?行き付けの店とか」
ルイスはため息をついて。
「お前なあ…人誘っておいてそれかよ…」
「ごめんって。ね、お願い」
「…仕方ねえなあ。付いてこいよ。あんま上等な店じゃねえぞ」
「いいよ、いいよ。ありがとう」
ルイスに案内されたのは下町の、ちょっと入り組んだ道の先にある小さな酒場だった。看板には『月夜のカラス亭』って書いてある。
「ここなら、酒も飲めるし飯も食える。ここでいいか?」
「十分、十分。お店入ろ」
扉を開けて中に入ると、四人掛けテーブルが四台とカウンター席が七つの、こじんまりした店だった。掃除が行き届いているのか、清潔感のある店だった。
「ルイス、久しぶりだね。今日は何だい、可愛い子連れちゃってさ。あんたの彼女かい?」
店の女将さんらしい人がルイスに話しかけて来た。
「違うよ。魔獣に襲われてるとこ助けたら飯奢ってくれるって言うから、女将のとこなら間違いないし…」
「そうかい、ありがたいね。女の子さん、あんた名前は?」
「ココです。おじゃまします」
「ウチの料理は評判がいいんだ。たくさん食べてっておくれ」
「はい是非」
「ココ、カウンター席でいいか?」
「どこでもいいよ」
ルイスが指定席の様にカウンター席の隅に座り、その隣の席に私も腰を下ろす。
メニューを渡されてメニュー越しにルイスを見る。顔半分見えないけど結構カッコいいのかも。何か始まりそうな予感…楽しみ。
そう思いながら再びメニューに目を落とした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




