5. 憎まれ口も恋のうち
五話目です。
よろしくお願いします。
城の中に入って行ったヘンリー殿下の背中をいつまでも見つめていた。いつの間に戻ってきたのか、セシルに声を掛けられてハッとした。
「コレット様、大丈夫ですか?」
「セシル…父様の言った通りだった。ヘンリー殿下は私と婚約してなかったし、約束なんて覚えてもいなかった…」
「コレット様…この先どうされますか?」
「どうって?」
「辺境へ帰られるのか、王都に留まられるのかと言うことです」
父様は、一年でヘンリー殿下の気持ちを手に入れて来いと言った。でも婚約者がいて、あんなに仲睦まじい二人に割り込む事なんてできない。
このまま、ヘンリー殿下とマリエッタ嬢を見続けるのも辛い。
「セシル、私どうしたら…」
私が悩んでいると声を掛けてくる男がいた。
「おや、赤髪の山猿令嬢じゃないか」
聞き覚えのある声だった。声のした方に向くと、ラインハルト殿下に似た人が侍従を連れて立っていた。四年前より背が高くなっている。
ただ私に向けてくる視線に棘があったから確信が持てなかった。
「ラインハルト殿下…ですか?」
「暫く会わない内に記憶力も無くしてしまったのか?」
ラインハルト殿下って、こんな嫌味な人だっただろうか?
「長い間会わなかったから分からなかっただけです。お久しぶりです殿下」
「こんな所で何をしている。泣いているのか?」
「泣いてなんかいません!」
「ふっ、大凡ヘンリーとマリエッタ嬢に会ったのだろう?君はヘンリーに懸想していたんだったね。彼らは仲睦まじい婚約者同士だっただろう?残念だったな」
嘲笑混じりの言葉にムカつく。
(なっなんなの?ラインハルト殿下に悪い印象は持っていなかったけど、この殿下は明らかに嫌いだ)
「懸想なんてしていません!少し憧れていただけです」
「どうでも良いさ。山猿はさっさと辺境に帰りたまえ」
私が殿下に反論しようとした時、侍従から声が掛かる。
「殿下、急ぎませんと会議に間に合わなくなります」
「ああ、分かった」
侍従に促されて歩き掛けた殿下は振り返って。
「山猿は山が似合いだよ」
ラインハルト殿下は、そう言い捨てて去っていく。完全に姿が見えなくなってからセシルに愚痴る。
「何なのあの人!辺境に来た時はあんな嫌味な人じゃなかったわ。私に恨みでもあるの?赤髪の山猿って何なのよーーーっ!」
(恨みならあるでしょうね…あれだけコレット様に袖にされて来たのだから。可愛さ余って憎さ百倍ってとこでしょうね。でも、お陰でコレット様が元気になったから感謝するわ)
セシルの呟きはコレットには聞こえなかった。
「それでコレット様、どうされますか?帰郷か残留か」
「残るに決まってるでしょ!さっさと帰れですって?騎士団に入って今度こそ、完璧に打ちのめしてやるわ!」
「そうですか。分かりました」
「だから、騎士団へ申し込み書を出しに行くわよ!」
騎士団詰所に申し込み書を提出し、怒りが収まらないまま屋敷に戻って来た。
「セシル、今日は久しぶりに魔獣か害獣討伐に行ってくるわ」
「では私もお供いたします」
「ううん、今日は一人で行かせて。でないとセシルが危ないから」
そう、今日は本気で暴れたい。ラインハルト殿下のせいで怒りが溜まりに溜まりまくっているから、戦闘に夢中になると周りに配慮が出来ないのだ。セシルがいると巻き込んでしまう可能性がある。
「分かりました。お気を付けてお出掛け下さい」
こう言う時の私は本当に危ないから、セシルも止めない。
私は、こう見えてギルドに登録している冒険者なのだ。冒険者をやっている事は家族に内緒にしているから、いつも魔法薬で髪の色を変えてから出掛ける。
さくっと討伐してストレス発散しよう。
ギルドに着いて、掲示板で仕事を探す。小さな依頼が殆どで今日は不発かな?と思った時、受付嬢が新しい依頼を掲示板に貼った。
『急募、ナール平原付近で大量の魔獣が発生。至急討伐されたし。依頼料は銀貨三十枚。カヤック村村長』
(銀貨三十枚かあ…。魔獣の大きさや規模が分からないけど、魔獣討伐にこの金額は安いわね。きっと誰も引き受けないわ。私一人で受けられるなら好都合だし)
私は掲示板から依頼書を剥がし、受付に持って行く。
「この依頼を受けたいんだけど」
「ナール平原の魔獣討伐ですね。依頼料が安いですけど大丈夫ですか?」
「うん、これがいいんだ」
「では、冒険者カードを提示して下さい」
カードを取り出し受付嬢に差し出す。
「A級冒険者ココ様ですね。確認出来ました。依頼完了の証明に魔獣の核をお持ち下さい」
「分かった。ありがとう」
「いってらっしゃいませ」
依頼書を片手にギルドを出る。ナール平原まで歩いて一時間くらいだろうか?
「村長に話を聞かなきゃ、ナール平原は広いから魔獣のいる所が分からないものね」
王都を出てカヤック村に向かう。村長から話を聞くと『ナール平原の真ん中にある、小さな湖の辺りに小型の魔獣が数十体いる』との事だった。
湖の周りに数十体の小型の魔獣は確かにいた。だが、その中心に大型の魔獣が一体鎮座しているのだ。
「へー、小さい魔獣じゃ物足りないと思ってたんだ。あの大きいのはビッグボアかな?ストレス発散にお誂向きのがいるじゃない」
少しウキウキしながら武器を構える。
「それじゃあ行っきますか!」
久々の魔獣討伐に腕が鳴る。炎の魔法を全面に展開しながら魔獣の群れに突っ込んでいった。
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