3. 拗らせた恋も恋のうち(ラインハルト視点)
三話目です。
よろしくお願いします。
俺がコレット・ガルディオンと出会ったのは十五歳の時。
陛下が辺境伯領に視察に行くというので、王都の生活に飽き飽きしていた俺は同行を願った。
辺境伯領で出会ったコレットは、父親の譲りの真っ赤な髪と瞳をした綺麗な女の子だった。
綺麗なだけの令嬢なら王都にもいる。辺境の男達に姫と持て囃され甘やかされた、いけ好かない女だと思っていた。
だが、彼女は違った。
その溢れんばかりのバイタリティー、そして何をしでかすか分からない面白い人間として興味を持った。
だけど、コレットは欠片も俺を見てくれない。彼女はヘンリーばかりを見つめている。それを見ているだけで何故か分からないがイライラするんだ。
だから、ヘンリーは絶対に行かないだろうコレットからの誘いに嬉々として参加した。ヘンリーは剣術や体力を使う事は苦手だからな。
一応、俺は王都の騎士団の一員だし、体力はある方だと思う。
思った通り、ヘンリーは彼女からの誘いを殆ど断っていた。何といっても彼女の行動はぶっ飛んでいたから。
彼女は魔獣討伐で前線に立ち、獲物をどんどん仕留めていく。俺も負けずに討伐して行くが、コレットの動きに付いていくのがやっとだった。
討伐が終わり館へ戻ると、コレットは一目散にヘンリーの元へと走って行った。まるで俺なんて見えていない様に。
剣術の訓練では模擬戦をした。最初、彼女は実力の半分くらいしか出していなかったが、それでも負かされる。三歳も年下の女の子に歯が立たないのが悔しくて、何度も何度も立ち向かっていった。
初めて一本取ることが出来た時、彼女は赤い髪を揺らして鮮やかに笑ったのだ。その時に初めてコレットは俺を認識してくれたのだと思う。
…この時に鈍感な俺は、やっと自分の中にある感情の正体に気がついた。
それからもコレットは驚く様な行動をする。グリズリーの巣穴に魔法を撃ち込んで、出てきたグリズリーを捕まえて焼いて食べるだとか。
少しでも俺に興味を持って欲しくて、グリズリーの捌き方を聞いた。彼女は快く教えてくれたが、如何せん血の匂いに気分が悪くなった。
ヘンリーに至っては気絶していた。それが余計に彼女の歓心を引く事になるなんて思わなかったが。
ある時は、領内に盗賊が出たと知れば直ぐ捕縛に走った事もあった。あの時の彼女の魔法は豪快だった。悪人には容赦がない。
そんな楽しい日々も終わり、王都に帰らなくてはならない日が来た。辺境伯領を去る際に『辺境伯領は楽しい所だな』と言ったら嬉しそうに笑ってくれた。
彼女に自分の気持ちを伝えようか迷っていたら、コレットがヘンリーに逆プロポーズをしてしまった。そんなのを見てしまったら、気持ちを伝える事を諦めるしかない…。
あの衝撃の逆プロポーズの後、ヘンリーは『コレット嬢と結婚なんて無理。グリズリーを焼いて食べるなんて…』と零していたから、なら俺がコレットに婚約を申し込んでも問題無いはず。
そう思い、王都に戻って直ぐ陛下にコレットとの婚約を切望した。俺は第二王子だし、王太子である兄の所には子供が二人いる。だから、辺境伯に婿入りしても問題はない。
陛下は俺の気持ちを既に知っていたから、すぐに打診してくれた。だが辺境伯からの返事は芳しくなかった。彼女はヘンリーとの婚約を望んでいると。
ああ……、まだ彼女はヘンリーに心惹かれているのかと悲しくなった。辺境伯領では俺と楽しく過ごしたと思っていたのに。
それでも俺は彼女の心に近づくべく、手紙を送り続けた。幾度となく好意も伝えたし、彼女の誕生日には俺の瞳の色の物を贈った。
彼女からはいつも素っ気ない返事だけが返って来る。手紙の端々にはヘンリーへの思いが綴られていた。ヘンリーなんかより俺を気にしてくれよ。
辺境伯にはコレットが誰とも婚約を結ばない様に圧力を掛けた。辺境伯自身もコレットを手放したくないのか、こちらの要求に従ってくれる。
『コレットの気持ちがヘンリー殿下にある以上、殿下との婚約は認められないが、殿下にもチャンスをやるよ』と言ってくれた。
『コレットが十六歳になったら王都に行かせてやる。一年間猶予をやるから、その間にコレットの心を手に入れやがれ。そうしたら婚約を認めてやる』と。
ならば、コレットの恋を成就出来ない様にしてやろうと思った。我ながら酷い男だな俺は。
ヘンリーに好みの令嬢を紹介してやった。ふわふわの綿菓子みたいな女の子だ。あいつがそう言う子が好きだと知っていたからな。
だから、コレットは最初から範疇外だったんだけど。
早々にヘンリーはその令嬢と婚約を結んだ。これでヘンリーとコレットが結ばれる未来は、ほぼ無くなったとみていいだろう。
だが、四年は長すぎた。俺から手紙を送っても、返ってくる返事は当たり障りのない定型文。彼女から送られてくる手紙には、いつもヘンリーを気遣う事ばかり。そんな事が続き、いつしか送らなくなっていた。
どれだけ好意を伝えても応えてもらえない事が辛くて。彼女への想いを持ち続ける事に疲れ果てて、漸く心の整理が付きそうになった頃にそれは届いた。
辺境伯からの手紙。『間もなくコレットが十六歳の誕生日を迎える。約束通りに娘を王都にやる。期間は一年、その間に娘を落とせなければ諦めろ』と。
そう言えば、そんな約束をしていたなと苦笑が漏れる。今更、俺にどうしろと?漸く諦めがつきそうなのに、また辛い思いをしろと言うのか?
王都で彼女に会ったら、俺はどうするんだろう。自分に問い掛けても答えは出なかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




