10. 始まりそうな予感も恋のうち
十話目です。
よろしくお願いします。
慌ててパンケーキを飲み込んで、お金をカウンターの上に置く。
「ごちそうさま!女将さん、お金ここ置いとくよ!」
すぐさま立ち上がり、何も聞こえなかった振りをして店を出ようとしたら腕を掴まれた。
「そんなに慌てて帰らなくてもいいじゃないか、ココ」
「え?あ、ルイス来てたんだ。ゴメン気付かなかった。もう食べ終わったから帰るんだよ。別に慌ててなんて…」
「なら、座れよ。何か奢ってやるから」
「いいよ、もうお腹いっぱいだし」
「いいから座れって」
腕を掴まれたまま、ルイスがいつも座っている席の隣に座らされた。
「女将、俺には定食を。こいつにはエールを頼む」
「ありがとうよ!」
何も言わない私にルイスの方から話しかけて来た。
「この前は悪かったな。お前の頼みを聞いてやれなくて」
「いいよ。ルイスだって都合があるだろうし」
居心地が悪くて直ぐこの場から消え去りたい…。
「あれから考えたんだけど、月に一、二回なら魔獣討伐に付き合ってやれるかなと思ってさ」
「…ホントに?」
「ああ、俺の仕事の空いてる日になるけどな。お前、騎士団に入ったんだろ?休み取れんのか?」
「う〜ん、二、三日前とかだと厳しいけど一週間前とかなら休み取れると思う」
「そっか。なら来週の金の曜日に休み取っとけ」
「来週の金の曜日ね。分かったわ。それで待ち合わせはどうするの?」
「ギルドに朝八時だ。ギルドに魔獣討伐の依頼があれば金も稼げて一石二鳥だしな」
「分かった。ありがとう」
単純なんだろうな私、ルイスが一緒に出掛けてくれるって言うだけで気分が浮き上がる。早々に辺境に帰ろうと思ってた気持ちは霧散した。
届いたエールを一気飲みして。
「女将さん!エールお代わり!」
「あいよ!」
「お、おい飲みす過ぎるなよ。俺、お前んち知らねえんだからよ」
「大丈夫、大丈夫」
それから小一時間、ルイスに喋り倒してしまった。
店の前でルイスとは別れる。この前とは違いウキウキ気分で帰ったら、案の定セシルのお小言が待っていた。
来週の金の曜日の休み申請を出しとかなきゃ。ルイスと魔獣討伐に出掛けられると思うと嬉しくて仕方なかった。
入団して一週間と少し。騎士団の仕事は新人には大した事はさせて貰えず、大型の魔獣も出没する事もなく、他の隊の団員と街の治安維持や王宮の警備に務めた。
やっぱり動き足りない。早く金の曜日にならないかなあ。
まあ休暇申請の時に、ラインハルト殿下から嫌味をぶつけられてイラッとしたけどね。別に良いじゃない、新人でも公休日以外に休み取ったってさ、ねぇ?
今日は待ちに待った金の曜日。夕べは楽しみすぎて眠れなかった。
「コレット様、今日は仕事を休んで、どちらへお出掛けですか?王都に知り合いの方はいらっしゃらないはずですが」
「こ、この前、知り合った冒険者の人と魔獣討伐に行ってくるよ」
「男、ですか?若い?」
「そっ、そんなんじゃないって。辺境じゃないから動き足りなくて…ね?」
「…まあ、分かりました。帰宅時間さえ守って下されば煩く言いません。お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「うん、行ってくる」
セシルの探るような視線から逃げるように屋敷から飛び出した。
ギルドで待っていると時間通りにルイスが現れる。
「おはよ!ルイス」
「早いな。いつから待ってたんだ?」
「う〜んと、一時間位前?」
「どんだけ、魔獣討伐行きたいんだよお前は」
ルイスに額をつんってされた。
「へへっ」
「それだけ早く来てたんなら掲示板ぐらい確認してるんだよな?」
「うん、これとかどうかな?」
一枚の依頼書を差し出す。ギルドに来て早々、掲示板で見付けた依頼だ。中型魔獣の討伐依頼で報酬も中々、ただ場所が少し遠い。でも他の冒険者達に取られたくないから確保していた。
「まあこれならいいか。受付に受諾申請しないとな」
「うん、行ってくる」
私はダッシュで受け付けに申請に行った。
依頼の魔獣が出没するのは王都から少し離れた所だ。徒歩はキツい、どうしようか思案していたら、ルイスが一頭の馬を連れて来た。
「これで行くぞ。徒歩じゃ今日中に帰って来れない」
「ルイス、馬なんて乗れるの?」
「乗れなきゃ連れて来ないよ」
ルイスが馬に乗って手を差し出してくれる。手を掴むと軽々と引き上げられ、ルイスの後に座った。
「ほら、しっかり掴まっていろ」
「う、うん」
おずおずとルイスの腰に腕を回す。
いくら領地の軍の男達に囲まれて育ったとは言え、こんなに密着した事なんてない。心臓がドキドキと激しい。
「行くぞ」
ルイスは私が抱きついていても、何事も無いように馬を走らせていた。時折、ルイスから流れてくる柑橘系の香りにドキドキが加速する。
一時間位、馬を走らせた所が目的地だ。到着し馬から降りる。久しぶりの馬でお尻が痛い。
ルイスは近くの木に馬を繋いでいた。
「大丈夫か?時間が無いから急いで走らせたからな」
「大丈夫、久しぶりの馬だったから、ちょっとお尻が痛いだけ」
「じゃあ、お待ちかねの魔獣討伐に行くか」
「うん!」
胸のドキドキが止まらない。これは戦いの前の高揚感だと思いたい…。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




